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根回しの重要性と魔獣調査

 それは例の暗黒街の件を白盾の乙女のみなさんに報告した翌日のこと、

 いつものように、日中の狩りで得た魔獣などの素材を売りに来たフレアさんが、真面目な顔で聞いてくるのは、その白盾の乙女のみなさん関連のことだった。


「虎助、なにか大変なことになっているらしいじゃないか」


「もしかして例の暗黒街のことですか?」


「ああ、キングから聞いてな」


 どうやら魔王城(パキートさん宅)の警備を担当するキングさんを通じて、白盾の乙女のみなさんと同等の情報がフレアさん達にも伝わっているみたいだ。

 まあ、この件に関しては、見方によってはパキートさんの威を借る悪質な行いの可能性があるということで、パキートさんの配下筆頭であるエドガーさんからも、なにか協力できることがないかというお声がかかっていたりもするのだが、


「いまのところ特にこれといったことはありませんね。

 まだセリーヌさんが確認に動いている段階のようですから」


「セリーヌっていうとアビーの妹だったっけ?

 たしかに、公爵家が動くっていうなら私達の出番なんてないわよね」


 個人個人の戦力でいうなら、フレアさん達はその世界でもずば抜けた力を有しているだろう。

 しかし、ことが人間組織――、

 それも貴族などが絡むような案件ともなれば、こちらから乗り込んで『ハイ、おしまい』と収めることは難しく。

 相手組織の規模やその後ろ盾にもよるのだが、後々の影響などを考えて、乗り込む前にしっかりとした調査と根回しが重要で、

 セリーヌさんによると、その準備に少なくとも一ヶ月以上の時間が必要となるらしく。


「まずは組織の大きさと、どのくらい地位の人間がどれだけ関わっているのか、その下調べから始めないとならないらしいんですよ」


「たしかに、そういうことなら、すぐに動くのは難しいですね」


 これに悩ましげにするのはポーリさんだ。

 ポーリさんはもともと教会という大きな組織の中にいただけに、上流階級の人間の断罪に準備が重要なことをよくわかっているのだろう。

 ただ、フレアさんからしてみると、現時点ですでに一般市民に被害が出ていることから、すぐにでもなんとかしたいという想いが強いようで。


「これから起こる犯罪については、オールード侯爵の根回しで、いくつかの組織が動いてくれるそうですから、かなりの部分で防げるかと」


「そうか――」


 残念ながら、すでに起きてしまった事件はなかなかどうすることもできないが、その前段階となる被害ができるだけ少なくなるように、

 特に白盾の乙女の皆さんが被害に合いそうになった誘拐案件などについては、未然に防ぐことができる体制を整えているとのことで、その話にはフレアさんもほっと一安心といったようであるが、それでもそのすべてを防ぐのは難しく。


「フレアさん達も周りでなにかあったら、ご協力をお願いします」


「任された」


「とはいっても、あんな辺鄙な場所でそういうシーンに出くわすことは少ないでしょうけどね」


 現在フレアさんが拠点としているのは、空白地帯と呼ばれる魔獣が多く住まう森の中、

 そんな場所では連れ去り事件が発生することはほぼ皆無であって、


「砦は?」


「たしかに、あの人達はこの件に関係しているのかもしれませんね」


 メルさんが口にした砦というのは、この森に来た当時、追い返した兵士達がアジトにしていた砦のことだと思われる。

 結局、あの時、あそこにいた兵士達がなにをしていたのかはわからなかったが、国と国とをつなぐ街道と、そう離れていない砦の位置関係を考えるのなら、あの砦にいた兵士が今回の件に加担していたという可能性もなくはなく。


「これは、もう一度、あの砦を確認した方がいいですか」


「少し範囲を広げて周辺も調べた方がいいかもしれん」


「あっちはまだ回ってないところもあるもんね」


 フレアさん達が暮らす森の規模は青木ヶ原の樹海よりも広く。

 日々そこで狩りを行う彼等でも、実はその一割も把握していないのが現状で、それが森の外縁部なら尚更のことであり。


「ただ、いまは時期的に遠出をするのは難しんじゃないですか」


「たしかにそうなのよね」


「暖かい時期なら、あの砦を中心に探索もできたのだがな」


 季節はそろそろ冬本番。

 フレアさん達が拠点とする森で雪が積もったという報告はないが、チラチラとなら雪が降ったという話は聞いている。

 移動中に大雪にみまわれる可能性を考えるのなら、拠点からあまり遠く離れてしまうことはあまり得策ではなく。


「やれるところからやりましょうか」


「そうですね。あちらの調査は空振りの可能性が高いですから」


 最初に言ったように、いまフレアさんが暮らす森は、人になにかするというのには不向きな土地なのだ。

 先に触れた国と国とを移動する人間を襲うという状況も、時期的な状況を合わせて考えると、あまり現実的な話ではなく。


「それに遠方の調査ならリスレムを増やしても構いませんし」


「そうだな。頼めるか」


「はい」


 リスレムなら、もしフレアさんの側で必要がなくなったとしても他に需要はある。

 ただ、雪などの影響を考慮するなら、また別の探索ゴーレムを作る必要があるのかもしれないと、そんなことを考えていて、ふと気になったのは――、


「そういえば、あれから冬の支度の方は順調ですか」


「はい。

 ただ、少々気になることがありまして――」


「気になること、ですか?」


「うむ、遺跡に魔獣が出るようになったのだ」


 ポーリさんの言葉にフレアさん思い出したという遺跡というのは、みなさんが万屋に繋がるゲートのある魔王城への転移に使っている遺跡のことのようだ。


「ですが、あの遺跡に魔獣なんて、以前からいませんでした?」


 あの遺跡は崩れている部分が多く。

 その隙間から、野生の獣や魔獣が遺跡の中に入ってくるなんてことは前からのことであったことだ。

 いまさら遺跡の中に魔獣がいたとしても特に不思議はないのではと、聞き返す僕にフレアさんが言うには、


「そうだな。

 今までもあの遺跡で魔獣とあったことはある。

 しかし、最近になってその数が急激に増えているとなれば話は別だ」


 成程、最近になって急にとなると、それは気になるね。

 ただ、これも時期的なことを考えるのなら――、


「あの遺跡が森の獣達の冬眠場所とかなっているのでは?」


「その可能性は高い」


 そう言って頷くのはメルさんだ。


「そうなると、なにか結界でも設置した方がいいでしょうか」


 フレアさん達の生活の為、ゲート周辺には、ネズレムなどを含め、いろいろな警戒装置を配置している。

 しかし、それ以外の部分に関しては半分放置状態で、

 遺跡内の魔獣の数があまりに増えるのならば、遺跡内の防衛体制を少し見直してもいいと、僕がそんな提案したところ、それにティマさんがなにか気になることでもあるのか、やや顔をしかめ。


「それなんだけど、もし遺跡でなにかするなら、その前にパキートに知らせた方がいいんじゃない。

 前に自分で調査がしたいようなことを言ってたから」


「ああ――」


 もともとパキートさんは、遺跡に住み着いてまでその研究をしていたような人である。

 彼は以前から、拠点近くの遺跡も調査したいとの希望を出していて、その調査自体は、こちらが提供したネズレムなどを使って行っていたと思うのだが、

 いざ、その遺跡に人の手が入るとなれば、その前に自分で見て回りたいと言い出すのは、考えられなくもない話であり。


「しかし、そうなりますと、こっちでも調べたいって人が出そうですね」


「調べたい人?」


オーナー(ソニア)やアビーさんになりますか」


 いま話題に上がった遺跡の調査はこちらでも行っている。

 ただ、それがパキートさんとの合同ともなると、ソニアも興味を惹かれるだろうし、場合によっては他の二人も調査に加わりたいと言い出すかもしれない。

 いや、むしろ、その遺跡に魔獣なんかが冬眠のために集まっているのだとしたら、魔獣の研究が専門のアビーさんなんかは、調査に加わりたいと言い出しかねないと僕が言うと、これにポーリさんが、


「しかし、オーナーはともかく、アビーは例の件で忙しいのでは?」


 たしかに、基本的に自由人のソニアはともかく、先の暗黒街の話題から、アビーさんがいろいろと忙しくしていると思われるかもしれないのだが、


「例の問題に関しては、ほぼセリーヌさんや公爵に丸投げなので、特に問題はないかと」


「そうなのですか?」


 実際、忙しくしているのは現地にいる公爵家の方々で、


「アビーさんも最後の突入だけちょっと顔を出したいって言ってましたけど」


「突入だけというのはどういうことだ?」


「それなんですけど、実はその暗黒街で開催されるオークションに希少な魔獣の素材なんかが出されているらしく。

 あと闘技場で使われる魔獣の方も気になっているようで」


 本人は希少な魔獣の保護が目的などと言っているものの、突入のどさくさにまぎれて、目ぼしい素材をちょろまかしてしまおうというのが本音のようだ。


「なので、もし遺跡の調査を行うのなら、こちらからも参加したいと言い出す人がいるかもしれません。

 まあ、直接調査に行くってことはないと思いますが」


「えっと、直接行かないってのは――、

 ああ、ネズレムとかを使うのね」


 正確には、しっかりと調査をする為、それ専用のゴーレムを新しく作って、送り込む形になると思うのだが、ティマさんはクエスチョンマークを浮かべる途中、自分でそれに気づいたみたいだ。


「それで調査をするなら、やっぱりすぐになりますか」


「それはちょっとわからないかな。

 調査がどうのこうのってのは、前に聞いた話だし、

 パキートさんが動くとなると、レニやエドガーがいろいろと細かいから」


 聞いたところによると、もともとパキートさんが魔王と呼ばれるようになった頃は、まだ従者がエドガーさんしかいなくて、彼自身も相当腕が立つそうだが、やはり部下であるエドガーさん達からしてみると、パキートさんにはなるべく戦いの場に立って欲しくないようで。


「とにかく、家に帰って聞いてみるわ」


「詳細が決まったのなら、こちらから連絡しよう」


「お願いします」

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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