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魔王の城の影でうごめくもの

◆今回のお話は前半が少し時間が巻き戻っています。

 具体的には文化祭前くらいです。

「お待ちしておりました。あちらの拠点はいかがです」


「快適以外のなにものでもないわね」


「エアーマットの存在が偉大っす」


 放課後の万屋で僕が話しているのは白盾の乙女の皆さんだ。

 実は彼女達はすでにご自分達の世界へと拠点を戻している。

 いつまでもアヴァロン=エラに入り浸りになっていると、失踪しただのなんだのとあちら側で騒ぎになるかもしれないからと、魔王城周りの問題から、間接的(ゴーレム越し)にではあるが繋がりのあるリーヒルさんやフレアさん達を間に挟んで、パキートさんにお伺いを立て、遺跡内の一部に彼女の仮住まいを作る許可をいただいたのだ。


 ちなみに、この改築はパキートさん達が遺跡に戻ることを前提に、以前から進められている遺跡の地下に作っている拡張空間。

 そこに、白盾の乙女の皆さんの利便性などを考慮に入れて、もともとあった遺跡と外をつなぐ隠し通路の一部を改造。

 新たに作った出入り口にもなっている風穴内に魔砲的なカモフラージュを施したボックスルームを設置して、彼女達にはそこを拠点に活動してもらっていたりする。


「それで本日呼ばれたのはどのような要件なのでしょう」


 訊ねてくるのは白盾の乙女のリーダーであるエレオノールさん。

 お風呂上がりということで全身鎧姿ではなく軽装で、いつもよりも柔らかな印象だ。


「実は前に皆さんの協力で捕まえた不良冒険者の方で動きがあったので、ちょっと確認してもらいたいんです」


「了解しました」


 それは以前、白盾の乙女のみなさんを(かどわ)かし、売ろうとした集団のこと、

 その背後関係を探るべく、いつものアレとスカラベを付けて、しばらく放置していたのだが、この度、彼等がそれらしき相手と接触したという情報が入ったので、白盾の乙女のみなさんに面通しやらなにやらと、確認をお願いしたいとお越し願ったわけであるが、


「知らない顔ね」


 映像を見たみなさんの反応は微妙なもので、


「どこで接触したとかわかりますか」


「待ってくださいね。

 ……ここですね」


 ちなみに、場所は大まかに、アビーさんの故郷であるオールード公爵領から南東におよそ五十キロ――、

 ベルタ王国南部の国境の付近になるようで、

 そんな場所柄、もともとそちらで活動しており、土地勘のあるだろう彼女達になにか心当たりはないか、詳しく場所を説明しつつ訊ねてみるも、白盾の乙女のみなさんの反応はイマイチで、


「う~ん、どこっすかここ?」


「心当たりがあるとすれば、マティアス様がおられることくらいでしょうか」


「マティアス様というと、アビーさんのお兄さんでしたか?」


 それは数ヶ月前のこと、実家の乗っ取りを画策して、辺境に送られたというオールード公爵家次男のことだ。


「彼はいまそこに?」


「はい。

 爵位簒奪を狙ったということで、魔の森に面する前線の兵をしていると思われます」


 そんな状況なら策謀を巡らせるような余裕はないか。


「となると、今回の件とは関係ありませんか?」


「おそらくは――、

 かの地の領主様の性格を考えますと、それが許されるとも思えません」


 エレオノールさんが言うには、その地の領主は代々魔獣の驚異から母国を守るという使命から、質実剛健を地でゆく者が選ばれるそうで、そんな領収様の管理下に置かれた人間が、なにか陰謀めいたことを画策することは難しいのではないかというのが正直なところのようだ。


「だけど、悪いやつってのはどこにでもいるわよ。

 それに場所が魔の森の近くってことは男にしても女にしても需要はあるんじゃない」


「たしかに――」


 こちらもお風呂上がりで、いつもの魔法使いらしい姿ではなくラフな格好のリーサさんだ。

 たしかに、彼女が言うように、そこが国防の拠点、しかも魔獣の脅威度が高い場所なら、いい意味でも悪い意味でも人的需要は多そうだ。


「だとするなら調査は続けた方がよさそうですね」


「そうですね。

 なにか協力できることがあれば、遠慮なく仰って下さい」



 そんな話があって数週間――、

 その間に、文化祭があったり、母さんの関連で東京遠征があったりと、僕自身、その調査に関わることはあまりなかったのだが、エレイン君達をメインに綿密な追跡調査が行われ、いろいろとその背後関係が明らかになってきたということで、本日あらためて白盾の乙女の皆さんに調査の報告することになったのだが、

 とりあえず、わかりやすくこの映像を見てもらうことにしよう。


「これは――」


「ある地下施設内部の様子です」


 そこで行われるのは醜悪な人間達による怒号と金貨が飛び交う欲望の宴。


「禁制の魔法薬に人身売買――」


「あるハズのない美術品に名のある武器や防具」


「見たまま暗黒街といった感じですね」


「私達も捕まっていたらここに連れていかれてたのね」


「ウチ等の場合、闘技場の方なんじゃないっすか」


「どちらにしてもロクなことにはならなかっただろうな」


「ここで訓練をしておいてよかったですね」


 さて、いくつか目を覆いたくなるような映像を見てもらい、落ち着いたところで本題に入ろうか。


「それで調べていく内に、ことが思いの外大きくなってしまったのでどうしたらいいかと思いまして」


「「ああ――」」「たしかにそうですよね」


 パキートさんのお宅周辺での怪しい動き、そして、白盾の乙女の皆さんの安全を考えて調査していたのだが、ことがここまで大きくなってしまうと、僕達の手に余るというか、そもそも手出ししていいものなのかといった状況なのだ。


「それともう一つ、この会場ですか?

 作りがいま皆さんが間借りしておられる魔王城と似ているのが気になっていまして」


「それって――」


 不自然な建物の構造に使われる建材など、幾つかの共通点から、この建物が暗黒街の住人が作り上げたものではなく、もともとパキートさんが暮らしていた遺跡(魔王城)や、現在パキートさんがお住まいになっている森の中にある遺跡と、関連があるのではとの報告が上がってきているのだ。


 すると、それを聞いたエレオノールさんは――、

 いや、エレオノールさんからしてみれば、どちらかというと施設の報告ではなく、そこで行われている非人道的な行いが問題なのだろう。


「とにかくギルドに報告を――」


 すぐにでも飛び出して行きそうな勢いで立ち上がるも、それにリーサさんが冷静な声で、


「報告するにしてもどこにするかが問題でしょ」


「あっ――」


「そうなんですよね。

 映像を見るに有力者も関わっているようですし、どこに訴えでたらいいものかとそんな感じで」


 報告先によっては情報が握り潰されることにもなりかねないし、場合によっては白盾の乙女のみなさんも危うい立場に立たされてしまうかもしれない。


 ただ、そこが僕達の知る遺跡と同じような場所となると、パキートさんの暮らし、そして僕達の活動にも影響が及ぶ可能性がある可能性にも繋がるので放ってはおけないと、エレオノールさんに落ち着いてもらったところで、改めていろいろとアイデアを出してもらった結果、

 少し前に上がった人物の関連から、とりあえず、白盾の乙女のみなさんも関係があり、更にアビーさんがいれば話が通しやすいと思われるオールード公爵家に相談をすることに決まる。


 まあ、彼等なら、ある程度、人柄も知ってはいるし、前回の事件から、こちらの事情もある程度は理解してくれ、裏切りの可能性はほぼないだろうと、面倒がるアビーさんをなんとか説き伏せて――というか、その暗黒街で取引される禁制の品や希少な素材の資料を見せたらやる気満々になって――協力を願い、まずは事の次第をその妹であられるセリーヌさんに報告。

 後は公爵家からの返事待ちということでその日は解散となった。


 はてさて、これでどうなるのか。

 最悪、銀騎士を送り込んで壊滅してしまうって手も出来なくはないのだけれど。

 やっぱり、その世界、その地域の問題は当事者に任せるのが筋というものだろう。

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