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依頼された贈り物

 ◆今回のお話は前回の前日譚ようなお話になります。

 それはアメリカで政府交渉官と魔女の会談が儲けられる数日前のことだった。

 僕と玲さんがカウンター横の応対スペースで唸っていると、そこにマリィさんがお店にやってきて、


「二人とも難しい顔をしてどうなさいましたの?」


「それがハイエストの問題を巡って、アメリカの方で魔女のみなさんと国との話し合いが持たれるようで、交渉材料になりそうなものがあれば是非譲って欲しいという相談が寄せられまして、いま玲さんに手伝ってもらって何がいいかを相談しているところなんです」


 ちなみに、依頼主は北米支部の工房長であるジョージアさんだ。

 なんか、物凄い報酬と妙にかしこまったお願いをされては、しっかりしたものを考えなければならないだろう。


「他国での交渉ですの?」


「なんか凄いことになってるよね。海外ドラマみたい」


 うん、玲さんの言わんとすることもわからないでもない。

 実際、魔女の皆さんがおかれた状況を考えると、まさにドラマのような状況なのだから。


「てゆうか、わたし思ったんだけど、ハイエストだっけ?

 敵の中で強い人がいっぱい捕まっちゃったみたいだし、魔女のみんなもパワーアップしてるんだから、別に話し合いとかよくなくない?」


「それはそうかもしれないんですが、国からの要請ですから」


「まあ、それもそっか」


 魔女は独立組織である為、その要請を受ける必要はないが、その国での生活を考えるのなら、政府の声掛けを無碍にはできない。


「なにより魔女のみなさんからも国に頼みたいこともありますしね」


「頼みたいことといいますと?」


「実は最近、ハイエストの側に工房を土地をお金で奪い取ろうという動きがあるようでして」


「土地の接収――、

 いえ、買収ですの」


「そんなのありって感じよね」


 本来なら、人里離れた魔女の工房を秘密裏に占拠した上で法的にも自分達の土地に――というのがハイエストの狙いだったようだが、その力づくが魔女の皆さんの頑張りによって防がれて、正規の方法(?)でちょっかいをかけてきているっていうのが、いまの状況なのだ。


 ちなみに、そんな方法が取れるなら、どうしてわざわざ工房などに襲撃をかけるなんてことをしているのかというと、それは下手に買収なんかをした場合、法廷の場に引き摺り出され、今まで影に隠れていた組織の情報が、公のものになってしまうことを警戒したのではないかというのが魔女の皆さんの見解である。


 しかし、暴力的な手段の反撃よりも法的手段の反撃をより警戒するなんて、さすがは訴訟大国アメリカだ。


「でも、なんていうか妙に生々しい展開よねコレ。

 わたし、もっと伝説の地を巡ってバトルしまくってるとか、そういうのを想像してた」


「わかりますの」


 玲さんの言葉にムギュッと腕組みで深く頷くマリィさん。

 マリィさんも普段からバトル漫画を愛読しているだけに、そういうシチュエーションがお好みなようだ。


 ただ、いま玲さんが例に上げたような展開もなくなったわけではなく。


「しかし、そういうことでしたら、こちらから情報提供をするだけでも、それなりに交渉材料になるのではありませんの。

 捕らえた者やその後の調査で敵の目的などが判明したと聞いていますけど」


 たしかに、ハイエスト関連の情報を一番持っているのは魔女の皆さんではある。

 ただ、それも――、


「捕まえたハイエストのメンバーは既に政府側に引き渡してしまいましたし、

 なにかハイエストの先手が取れるような独自の情報があればいいんですけど、そちらはまだ調査中でして」


 東京に出張に行っていた静流さんや義姉さんに佐藤さん、各地の魔女さん達にも手伝ってもらって、いま、ハイエストが調査していた八百比丘尼関連の情報を集めているのだが、八百比丘尼の情報は日本中に残っているようで、それら情報をまとめるだけでも一苦労であるのだ。

 そう説明すると、これにマリィさんは頷きながらも。


「ならば、敵の上位兵とも戦えるくらいの装備を用意するのはいかがでしょう」


「それはわたしも考えたんだけど、虎助が乗り気じゃないんだよね」


「他国の政府に武器のようなものを送るのは、さすがにマズイんじゃないかと思いまして」


 まあ、もともと武器の販売にはあまり乗り気ではないのだが、それが地球の他の国への軍隊に繋がるような相手に送るとなると、特に配慮しなければいけないわけで、

 ただ、例えば防具や魔法薬などを出してもいいかもしれないけど、それも性能によっては面倒の種になりかねないことを考えると、安易にも決められないわけで、


「もういっそのこと浄化とか、適当に浄化とか灯火とか、簡単な便利魔法を教えちゃうとか?」


 それはそれで一つの手であるとは思うのだが、


「問題はそれを渡したとして、魔素の薄い地球ではあまり意味がないってことですかね」


「そういえば、あっちだと魔法を使うのが難しいんだっけ?」


「技術を教えたところで覚えられなければ、あまり意味がありませんものね」


 そう、地球で魔法をおぼえようとなると、それこそパワースポットのような場所でもなければ、魔法を発動させることすら難しく。

 魔力の回復量も考えると、魔法をしっかり使えるようになるまで数年――、

 いや、数十年単位の訓練が必要となってしまうとマリィさんの言う通りであり。

 ただ、それならそれで――、


「パワースポットの在り処を教えるってのはどうですかね」


「どういうこと?」


「アメリカ国内のパワースポットの場所をいくつかリークするんです。

 それを教えればさっきの提案も意味が出てきますし、なによりハイエストの狙いも逸れるんじゃないですか」


「つまり相手国も戦いの当事者にしてしまおうということですの」


 魔女のみなさんとアメリカの一部隊、

 母さんも関わった日本での戦いを考えると、どちらが狙いやすいかなど火を見るよりも明らかだ。


「だけどパワースポットなんてそうそう見つからないんじゃない?」


「それがそうでもないんですよ」


 そもそも魔女のみなさんが管理しているパワースポットなんて、アメリカ国内でもほんの一部に過ぎないのだ。

 だから、ちゃんと探せば、まだ手付かずのパワースポットを見つけられる可能性はあるわけで、


「待って、じゃあ、ハイエストの連中はなんで魔女のみんなを狙ってきてるの」


「それは、パワースポットだけ手に入れても、しっかり有効活用するのが難しいからでしょうね」


 一口にパワースポットといっても、管理された場所とそれ以外の場所では利用できる魔力の幅がかなり違ってくる。

 そして、ハイエストが狙っているのは、おそらく人の手によって管理が行き届いたパワースポットで、


「でも、それなら場所を教えただけだと意味がないんじゃない」


「はい。

 なので、パワースポットの魔力を、ある程度つかえるようになるものをこっちで用意するんです」


 と、ここまで説明すれば、玲さんも納得してくれたかな。


「だけど、それはそれで危ないんじゃない。

 ハイエストも狙ってるんだし、なんかパワースポットのすんごい使い方があるんじゃないの」


 たしかに、たかが一つのパワースポットでも、ハイエストが敵味方に犠牲を出しながらも、その奪取を目論んでいるとあらば、なにか思わぬ使い道があるのかもしれない。

 だとするなら、ここはもしものことを考えて、なにか安全策が必要か。


「これはオーナー(ソニア)に相談する必要がありそうですね。

 どっちにしても、ものを作らないと始まりませんし、オーナー(ソニア)なら、なにかいい方法を知っていると思うんです」


「そうですわね」


「じゃあ、ちょっと工房の方にいってきます」


 ということで、僕は二人にそう言い残すとすぐに工房地下のソニアの研究室に向かい。

 このことをソニアに相談したところ。


「ふぅん、パワースポットを交渉にか、面白いことを考えたね」


「それで、いま言ったみたいな魔導器は用意できる?」


「任せて」


 音はしないものの、ドンと聞こえんばかりに勢いよく胸を叩いたソニアは、さっそく大量の魔法窓(ウィンドウ)を展開、魔導器の設計に取り掛かってくれるのだが、


「だけど、これっくらいのアイテムなら、魔女のみんなにも作れそうだけど」


「それなんだけど、パワースポット関連の魔導器を一から作る技術はもう無いみたいなんだよ」


 これは魔女のみなさんがアヴァロン=エラで修行をしていた時、何の気なしに聞いた話なのだが、

 現在、魔女の皆さんが利用している工房は、魔女狩り以前の魔女の力が全盛だった頃に作られたものを修理したり、移転させたり、組み合わせたりして、なんとか現状維持をしている状態で、工房を一から作る技術は失われているのだそうだ。


「だったら、そっちの教本みたいなもの作っちゃった方がいいってことかな?」


「それはいいかもだだけど――、

 ただ、大丈夫かな」


 これはさっきの玲さんが心配していたことにも通じる話なんだけど、魔女のみなさんは研究意欲が高く、自分の欲求に正直な人が多い。

 そんな中で技術が進めば、いつか馬鹿なことをやらかしてしまう人が出てしまうのではないかと心配する僕に、ソニアが言うのは、


「ボクが伝えるのはあくまで基本だから、そこまで変なことにならないんじゃない?

 それにさ、いまの地球の魔素濃度なら、そこまで大袈裟なことにはならないと思うよ」


 たしかに、考えてもみれば、地球の魔素濃度はパワースポットを使って、ようやく他の世界の基準値に届くくらいのものである。

 だとするなら、たとえばエクスカリバーさんの世界であったような魔力による大爆発とか、そんな状況にはならないのか。


「じゃあ、ソニアが言った教本作りは別に進めるとして、

 パワースポットの方だけど……」


「とりあえず、こんな感じの地脈制御装置はどうかな」


 と、ソニアが見せてくるのは十字架に輪っかがついたような魔導器だ。

 添えられた解説によると、これを地面に突き刺すことで、その土地の地下を流れる魔素を組み上げ、純粋な魔導エネルギーとして利用できるようになるらしい。


「とはいっても、過剰に魔素を組み上げると、地脈の流れ自体が変わっちゃうかもだから、聖剣の技術を応用して、これに精霊が宿るように細工して、ある程度の管理をそっちでやってもらえるようにしよっか」


 成程、パワースポットの管理に精霊が関わるとなれば、誰がそこを管理するにしても変に使われる危険性も少ないか。


 ただ、気になるのはその魔導器の形である。


「十字架だと、なんか宗教問題とかが出てきそうじゃない」


「それはあるかもだね」


 例えば、そのシンボルマークを巡って、ここが自分達の聖地だなどと言い出す人とか出てきそうだ。


「だったらオーソドックスに杭――じゃなくて、世界樹を使った杖にした方がわかりやすいかな。

 もしかすると転移に使えるかもだし」


 場所がアメリカとなると、それはそれで問題になるかもしれないが、転移関連に関しては保険は多い方がいいか。

 ただ、それならなそれで、


「魔女のみなさんに世界樹の苗木なんかを配るのが簡単じゃない」


「それも一つの手っていうか、やってもいいんだけど、それだと技術の方がね」


 世界樹の場合、枯れてしまえばお終いだ。

 それに、世界樹が地球の環境にどこまで適応できるかもわからない。

 だとするなら、世界樹任せじゃなくて、自分達の手でそういった魔導器を作り出せる技術を持っていた方が確実だというわけか。


「だからもし世界樹そのものが欲しいなら、あっちで増やす研究をしてもらうとして、

 とりあえず杖をつくちゃおうかな」


「じゃあ、そんな感じで頼んだよ」


「了解」

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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