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VR試着と在庫処分

◆春頃からのバタバタが続いていまして、タイトルにメモを付けたままでした。

 申し訳ございません。

 それはそろそろ師走の足音が聞こえてきたある日のこと、

 僕がいつものように魔剣の整備をしていると、ゲートから光の柱が立ち上り、十分程して久しぶりのお客様がお店に顔を出す。


「いらっしゃいませ、お久しぶりですマリオさん。

 こちらに来るまで時間がかかったようですが、ゲートのところでなにかありましたか?」


「こっちに来る前にちょっとドジっちゃってね」


 そう言って頭を掻くマリオさんに僕は「そうですか」とカウンターの上を綺麗に拭き。


「今日もいつものでよろしいでしょうか」


「そうだね。いつもの分は払っておこうかな」


 マリオさんが金貨を数枚、カウンターの上においたところで、これも毎度のやり取りか、彼は店内を軽く見回し。


「何か新しい商品はあるかな」


「そうですね。

 季節柄、いつもの素材を使った冬の防寒具などを用意していますけど――、

 そういえばマリオさんは貴族との取り引きがあるんでしたよね」


「一応ね」


「でしたら、こういった商品はいかがです」


 と、ベル君に目配せをして、持ってきてもらったのは赤い付箋が貼り付けられたジュエリーボックス。

 カウンターの上にドンと置かれたそれを開くと、マリオさんはその中身を覗き込み。


「赤い金属を使った宝飾品?

 アダマンタイト――じゃないよね」


「さすがにアダマンタイトではないですよ」


 アダマンタイトは硬く、加工が非常に難しい金属だ。

 時間をかければアクセサリなどの細かい装飾品を作ることも出来ないわけではないのだが、凝ったものを作ろうとなると、エレイン君でも数日の時間を取られてしまう上に、魔法金属を使ったアクセサリに求められる各種付与などのことを考えると、ミスリルやムーングロウなどを使った方が効果が高い。

 だから、アダマンタイト特有の色味など、特段の考慮がなければ前者で作るアクセサリーの方が全てにおいて優れており、アダマンタイトをそれに使うことはほぼないのだ。


「だったら、これはなんていう金属なの?

 こんな色味の金属見たことないんだけど」


「これはカルキノスの甲羅を混ぜたものですね」


「カルキノス?」


「モルドレッド――ゲートの前のゴーレムよりも大きな蟹の巨獣なんですけど、ご存知ありませんか」


「ちょっと心当たりにないかな」


 そう言って首をひねるマリオさんに、僕は自前の魔法窓(ウィンドウ)から実物の映像を見せながら。


「実は最近このカルキノスが転移してきまして、

 こちらに修行をしに来ていたお客様が腕試しに戦って、討伐したんですよ。

 これはその時に買い取った素材をなにかに使えないかと作ったものなんですけど」


「……へぇ、そうなんだ」


 そう、これは玲さんやナタリアさん、小練さんに計良さんなどが中心となって戦った蟹型巨獣カルキノスの甲殻を触媒にした魔法合金。

 そのままだと重かったり使い辛かったそれを、どうにか売り物にできないものかと、いろいろ試した結果、細く鋼線にしたものにビーズなどと編み込みワイヤーアクセサリーが一番作りやすいと、こうして商品化に漕ぎ着けたのだ。


「ちなみに、そのカルキノスとはディストピアでも戦えるようになったんですけど、マリオさんはディストピアには潜らないんでしたっけ?」


「僕の場合、戦闘は回避するものだからね。

 それにあそこはソロだと厳しいんでしょ」


「たしかにそうですね。

 そういった方にも入ってもらえるようなディストピアがあればいいんですけど――」


 僕が前々からの懸案に唸っていると、ここでマリオさんが気を取り直すように。


「それよりも、このアクセサリーのことを聞きたいんだけど」


「構いませんよ。

 とはいっても、詳細についてはこちらを見ていただければわかっていただけるかと」


 と、僕が軽くジュエリーボックスをノックすると、それぞれのアクセサリーの上に、その詳細な鑑定結果が浮かび上がり。


「えっと――、効果はどれも一緒なんだね。

 ただ、これはどれを買ったらいいものやら、

 こういうのって基本、女性がつけるものでしょ」


 それは僕も思うところである。

 しかし、


「それなら、いいものがありますよ」


 ここで僕が起動させるのはとある魔法アプリ。

 すると、カウンターに置かれたジュエリーボックスの隣に、豪華なドレスを着た小さなマネキンの立体映像が浮かび上り。


「これは?」


「どんなファッションがいいのか、見た目で試せる魔法ってところですかね」


 それは所謂バーチャル試着というものだ。


「お相手の写真などがあれば投影できるんですけど」


 僕からの問いかけに肩を竦めるようにするマリオさん。

 そうなるとだ。


「とりあえず、こちらでいろいろ試していただければ」


 と、僕がバーチャルなマネキンのまま、衣装を変えたり、アクセサリーを付け変えてみたりとしていると。


「成程、これはアクセサリだけじゃなくてドレスも売り物なのかい。

 種類が色々あるようだけど、こっちは貴族婦人や令嬢が着るものではないような」


「それはメイドさん専用の服ですね。

 他にも実験的に作ったものがいつくかありまして、マリオさんならお安く譲りますよ」


 それは以前、スノーリズさん達、ユリス様に仕えるメイドのみなさんがガルダシアにやってきた際に作った、メイド服の試作品の余りもの。

 あと、ミストさんを始めとした魔王様の拠点に暮らす女性陣が、アニメなどからインスピレーションを受け、作ったいいものの、使い所が難しく、売れ残ってしまった服もある。

 それら衣装には実験的にいろいろな魔法効果が付与されており、このバーチャル試着にデータとして入れていたのだが、マリオさんはこれに興味を持ってくれたみたいだ。


「しかし種類が多いね」


「ちなみに、メイド服は勿論、これら衣装は性能の方もなかなかのものですよ。

 ここにある服は店頭で売っているインナーと同じ素材のもので、他に浄化機能にちょっとしたサイズ調整機能、あと各種耐性がついていますから、よろしければこちらも是非に」


 腕組みをするマリオさんに僕は表示されているマネキンの頭部をタップ。

 すると、それぞれの衣装にどのような魔法が付与されているかなどの情報が四角いフキダシで表示され。


「これは浄化系に特化したドレスで、かなり強い毒や呪詛に対抗できるようになってるみたいですね」


 例えばと、幾つかのアピールポイントを説明すると、それにマリオさんが背中を丸め。


「それにしては過剰過ぎるような」


「貴族は恨まれていたりしますから、『こういう付与が出来ますよ』というものをいくつか見本として作ったんです」


 簡単な耐性なら、それにあった耐性を持つ素材を糸に加工して、裏地に縫い込むだけでいい。

 それが貴族などに献上する衣服ならあって困るものではないと、アムクラブのみなさんからの意見を参考に、安価にできるものをメインに、貴族家に納入されるだろうメイド服などに付与してみたのだ。


 そして、それ以外にもいろいろと、幾つかの掘り出し物をプレゼンした結果、特に魔王様の拠点のみなさんが趣味や技術向上の為に作ったものの売れ残ってしまった衣装など、まとめ買ってくれるなら割り引くと提案したのが功を奏したか、マリオさんはお金が許す限り購入してくれるようで、


「まったく商売上手な人だよ、君は――、

 自前の財布も使うことになっちゃったじゃない」


「毎度有難うございます。

 ですが、もういい時間ですけど、そのまま帰られるんですか?」


 お金を使い切ってしまっては宿泊施設も利用できないと訊ねてみると、マリオさんは振り返り、すっかり暗くなった外の景色を目にして、


「そういえばもう夜だったね。

 ずっと暗い場所にいると時間間隔がなくなっちゃうよ」


「でしたら魔法窓(ウィンドウ)の時刻通知機能を使ってみてはどうです」


「なにそれ」


魔法窓(ウィンドウ)の時計機能で使える設定なんですけど」


 と、これも実際に魔法窓(ウィンドウ)を開いて使い方を指南したところ、マリオさんはその有用性に感心してくれたのだが、


「だけど、これって戦闘中とか出てきたら邪魔じゃない」


「その辺りは設定を工夫すればそこまで気にならないかと」


 たとえば、活動を始める時や休憩に入る際に使う探知魔法など、特定の場面で使う魔法と連動させて時刻を表示させるとか、他にもアラームなどは鳴らさずに、時刻が過ぎた際にウィンドウ(ウィンドウ)の方にお知らせを入れる設定とか、いろいろやりようはある。


 と、その辺りの設定を軽くレクチャーしている間にベル君による精算が終わったみたいだ。

 マリオさんは渡された幾つかのアタッシュケースをマジックバッグの中に仕舞い。


「ありがとう。じゃあ、また来るよ」


 一言言って店を出ていくのだった。


   ◆


「ただいま」


「おかえり、彼等はどうだった?」


「どうなんだろうね。こっちを試す意図があったといえばあるような」


「歯切れが悪いなあ」


「怪しいと思えばどんなことでも怪しく見えるし、絶対にって確信はなかなか持てないから」


「まったく、君がそんなでどうするんだい」


「そんなこといったって、彼は最低限、下位竜種を退ける力を持っているんだからさ」


「腕っぷしの強さとそういった能力は関係ないでしょ」


「たしかに無くは無いんだけど、あの少年を見てそれが言えるかい?」


「それは、そうかもだけど」


「それにあそこに集まる戦力は異常だよ。

 ちょろっとやってきた戦力が巨獣を倒すとか、まったくどうなってるんだか」


「なにそれ?」


「よくわかんないけど、三週間くらい前に、あのゲートの前に飾ってあるゴーレムよりも大きなカニの魔獣が転移してきたらしくて、それをあそこに来てた客が倒したんだってさ」


「軽く言ってるけど、それって状況によってはマズくない?」


「まあね。本当まいったよ。嫌なことも聞かれちゃったし」


「嫌なこと?」


「どうしてディストピアに入らないかって」


「ああ、その質問は困るよね」


「だから、もう世間話をするだけでも大変さ」


「そりゃご苦労様」


「うんうん、それで、そのご苦労の結果がこれね」


「えっと、いつものはわかるけど、こっちの大量の服はなに?」


「オススメだって」


「オススメねぇ。

 変な魔法とかかかってないだろうね」


「そこはこっちに帰って来れてるんだから、大丈夫だって思いたいよ」


「しかし、ドレスはいいとして、メイド服に水着って、君はボクに何をさせようとしてるのさ」


「変なことは考えてないよ。

 それ、いろいろ施策した中の残りらしくて、すごく安かったからまとめて買い取ったんだ」


「……」


「いやいや本当に」


「まあ、ボクが着るか着ないかは後で考えるとして、この辺はあの子が好きそうだよね」


「たしかに、それでその彼女からの連絡は?」


「相変わらずだね。

 あえてしないのか、できないのか。

 ま、あの子がいまなにをしてるのかは知らないけど、こっちのやることは変わらないでしょ」


「そうだね」

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