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クラフトコーラ

 いつもの放課後、いつもの万屋――、

 今日は部活の会議があった為、少し遅れて店に顔を出した元春が雑誌片手にカウンターをくぐる中、カウンターの片隅に置いてあったいくつかの瓶を見つけ聞いてくる。


「なんだコレ?

 コーラの原液って新商品か?」


「新商品といえば新商品だね。

 実はこれ、静流さんからのいただきものでね。

 ダンボール一箱分もらったから、せっかくだからお店の方にも置いておこうと思って」


「ふ~ん」


「ちなみに、これ、魔女のみなさんの自作なんだよ」


 当然といえば当然だろうけど、魔女さん達にも表向きの仕事があって、

 このコーラの原液――、

 つまりクラフトコーラに関しては新規事業ってことらしい。

 曰く、以前クラフトコーラが話題になった際に、一部の魔女さん達の間でその開発がブームになって、今更ではあるのだが、魔女のみなさんが多く住む道の駅で一般に販売しようということになったみたいだ。


 ちなみに、群狼(ウルフラク)が攻めてきた時、静流さんが工房にいなかったのは、これが原因というわけではなく、佐藤さんと義姉さんが捕まえたハイエストの戦闘員の処遇をどうするのかという相談をする為だったという。


「しっかし、魔女のコーラって、ヤバい成分が入ってるとか有りそうだよなあ」


 まったく元春としては冗談のつもりだろうけど、失礼なことを――、

 と、そんな元春の声に応えるのは玲さんで、


「そういう話もあったわね。

 でも、あれってデマでしょ」


「それがそうでもないらしいんすよ。

 初期のコーラにはコカが使われてたみたいっすから」


「嘘っ!? 都市伝説じゃなかったの」


 元春が言うと嘘っぽく聞こえるのだが、かつてコーラという飲み物は、鬱状態を改善する薬扱いのものだったらしく、当時は今では考えられないような材料が使われていたという。


 ちなみに、僕がどうしてそんなことを知っているのかというと、一時期元春が『女子にモテるにはトーク力』と雑学を調べるのに嵌り、それを僕も聞かされていたからだったりする。


「ただ、いまのコーラは合成甘味料なんかをベースに、スパイスやハーブ、柑橘系果実の各種フレーバーに添加物、後はカラメルなんかで作られているみたいですけどね」


「ふーん、コーラって意外と普通の材料で作れるんだ」


「特にご当地コーラなんて呼ばれてるものは、料理に使われるスパイスやハーブ、柑橘類そのものから作られているようなので試しに作ってみます?」


「えっと、そういうのって自分で作れるものなの?」


「これを届けてくれた魔女さんのお話によると、作るだけなら意外と簡単にできるみたいですよ」


 まあ、それが商品になるようなものとなると、また話は違ってくるだろうけど。

 いかにもコーラっぽいシロップを作るだけなら一般人でも作ることが出来るという。


「だったら作ってみようぜ。面白そうだし」


 ということで、自作クラフトコーラ作りが決まった訳だが、さすがに各種材料を揃えるとなると、その日だけでは無理そうなので、実際に作るのは週末ということになり。

 次の日曜日――、


「またいろいろと買い込んできたみたいね」


「スパイスやハーブは売り物にもなりますし、魔法を使えば面倒な手間も短縮できますから」


 結構な量と種類のハーブやスパイスを買い込んできたものの、こちらならその処分もそんなに難しくなく、魔法や錬金術などを使えば、残った分も売り物として加工できなくもないのだ。


 ということで、いつものメンバーに、ちょうど休みということで玲さんに会いに来ていた環さんも加えて、オリジナルクラフトコーラの製作に入るのだが、作る前にいくつかの注意点をあげていこう。


「まず調べてみたところ、素人はスパイスやハーブなど、味の基本となるものを三種類くらいに絞るのがいいみたいです」


 本格的なものになると十種類以上の材料を混ぜるそうなのだが、そこはプロの技、

 素人が創作料理よろしく、最初から沢山の材料を使って作ってしまうと、大抵が雑味の多い味になり、美味しいコーラはなかなか作れないということで、最初は種類を限定するのがいいみたいだ。


 ちなみに、今回用意した材料は、駅前の量販店で手に入れられるスパイスやハーブ各種を中心に、レモンやすだち、かぼすやゆずなどと、料理にかけて使うような酸味の強い果実を集めてみた。


 さて、それら材料紹介したところで早速コーラの原液を作る為の材料選びに入るのだが、


「俺はちょっと大人のコーラを目指すぜ」


 元春が選んだのはシナモンにクローブ、唐辛子の三種類。

 それにレモンで爽やかさを加えてと、量さえ間違えなければ悪くないチョイスなんじゃないかな。


「……これ」


 次に魔王様は、バニラにオールスパイスに八角と甘い香りがするスパイスをメインに、オレンジを入れることにしたみたいだ。

 ハッキリとした味が好みの魔王様らしい選択だ。


「こんなところでしょうか」


 そして、マリィさんがチョイスしたのは、ショウガにサンショウ、ゆずをあわせた和風なものだった。

 材料からしてちょっと個性的な味わいになりそうだけど、変なものは入れてないし、失敗はないと思う。


 さて、最後に玲さんと環さんがどうするかなんだけど、


「わたしは味見でいいかな。変なのが出来る未来しか見えないし」


「そうね。あまりたくさん作っても飲めなくなりそうだから」


 考えてもみると、二人とも料理をするのは冷凍食品やレトルトばかりで、他はエレイン君にお任せだった。

 それに、このどこか慌てたような反応を考えると、二人はあまり料理が得意じゃないのかもしれない。


 だとするなら、無理に作ってもらうのは忍びないと、玲さん姉妹には味見役に回ってもらって、それ以外のみんなで各種用意したものを潰したり切ったりと下拵え。

 それぞれに用意した鍋の中に水と砂糖、切ったり、砕いたり、絞ったりと下準備をした材料を投入して中火で煮立たせていく。


 一方、それと並行するようにコーラらしい色のもとになるカラメルシロップを作ろうか。

 これはグラニュー糖に少量の水を加えて火にかけて、煮立たせ色が変わったところに水を入れることで作ることが出来る。


 と、言葉にしてしまうと簡単そうに聞こえるが、このカルメラ作りは水を入れるタイミングがちょっと難しかったりするのでここは僕がと、しっかり料理動画などで予習して、なんとか失敗なくカルメラを作り、後はこの二つを混ぜ合わせればコーラ原液が出来上がる。


 本来なら、ここから一晩くらい冷蔵庫で寝かせて味をなじませるみたいなのだが、そこは錬金術で短縮だ。

 しっかり混ぜ合わせたシロップを錬金釜に注ぎ、浸透と抽出の魔法を軽くかければいいだろう。


 そうして完成した三人分の原液(シロップ)をコップに四分の一ほど入れ、そこに冷やした強炭酸水を注げば自作のコーラの完成である。


「誰のから味見しましょうか」


「そりゃ、元春のからでしょ」


「おほっ、玲っちそんなに楽しみだったん?」


「じゃなくて、後で口直しが必要になるでしょ」


「辛辣~」


 うん、たしかに玲さんの発言はちょっと辛口なのかもしれないけれど、ペッパー系の飲み物は好みが分かれるからね。


 ということで、玲さん意見を採用して、今回は珍しく元春がトップバッターとなって、自作コーラの味見をすることになるのだが、ここは、まず僕が毒味(・・)をするべきだろうな。

 ということで、僕が率先して元春のコーラを一口飲んでみたところ、特に問題なかったので、皆さんにも飲んでもらおう。


「別に不味くはないわね」


「……ピリ辛?」


「たしかに舌に少々刺激はありますが、普通に飲めるものになっていますの」


 総じて言うなら可もなく不可もなくといったところか。

 そんな中途半端な結果に、元春が「マイガッ」とオーバーに頭を抱えたところで、


「次はどれにします」


(わたくし)のものをお願いしますの」


 ビシッと手を上げたマリィさんのコーラを味見してみることになったのだが、実際に味見をした感想がこちら。


「これってアレだよな。ジンジャーエール」


「色はコーラなのにね」


「けど、わたし、こっちの方が好きかも」


「……おいし」


 たしかに使った材料を考えるとジンジャーエールになりそうだね。

 コーラとしては微妙な結果だったけど、魔王様から美味しいとの評価が出たところで魔王様作のコーラの味見に移る。


「ん、こいつもなんかどっかで飲んだことがあるような」


「そう? 私は普通に美味しいってだけだけど」


「どことなく、万屋(こちら)回復薬(ポーション)に味が似ているよう気がしますの」


「それですマリィさん。

 これって、ちょっとエナジードリンクに味が似てない?」


「ああ、たしかに緑の爪のヤツに味が似てんな」


「へぇ、あれってこういう味なんだ」


 僕と元春の会話を聞いて玲さんが感心したような声を漏らすと、


「てか、玲っち、エナドリ飲んだことねーの」


「だって、わたしまだ十代だし」


「いやいや、あんなのジュースと同じよ」


 元春はこう言うけど、僕としては玲さんの考えの方がしっくりくるかな。


「しっかし、味がそんななら、もしかしてこれワンチャン、ポーションとかになったりしてね?」


 たしかに、その可能性はあるかもしれない。

 と、〈金龍の眼〉を使って今のんだ魔王様のコーラを鑑定してみると。


「効果は低いけど回復薬(ポーション)になっちゃってるね」


 元春が想像したように、それは効果のある飲み物になってしまっていたようだ。

 ただ、炭酸水でわったからかな。その効果はかなり低いようで、


「だったら、俺等が作ったコーラにもなんか効果がついてたりするん?」


「待って、いま調べてみるから」


 自分が作ったコーラの原液を押し付けてくる元春に、僕は落ち着くように言い聞かせながらも、どうせだからとマリィさんが作ったコーラも合わせて鑑定を行ってみたところ。


「えと、マリィさんのコーラが自己治癒力の強化で、元春の方が耐寒付与になってるね」


「どっちも微妙な感じ?」


「そう、適当に作ってそれなら、十分過ぎる効果でしょう」


 これは環さんの言う通りかな。


「なにより、この味ならば多少回復力が落ちても人気が出そうです」


 マリィさんのこのリアクション、これはコッペ村でも売り出すことを考えているのだろうか。

 たしかに、これから寒い時期、耐寒付与のドリンクはいい名物になりそうだ。


「で、結局どれが一番なん?」


「個人的にはマリィのが好きな味ね」


「私はマオちゃんのかな」


 ここで玲さん環さんと安室姉妹がそれぞれに好きなコーラを選ぶのだが、


「ただ、コーラっぽいのはあんたのなのよね」


「マジで」


「うん、売れ残り必死のパチモンコーラみたい」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「パチモン」に笑った 昔、良く使ってた言葉だったので。
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