●魔女の帰還と輸送実験
◆短めです。
「ありがとうございました」
そう言って頭を下げるのは魔女のみなさんだ。
さて、こうして彼女達が丁寧な挨拶してくれているのは、修行を終えてこれから里に戻るからである。
ちなみに、彼女たちがここから地元に戻るために必要な簡易ゲートの設置およびそにあの輸送は、義姉さんと佐藤さんにオーダーメイドで新しい服をプレゼントするということで手を打ってもらった。
そんな義姉さんと佐藤さんから、ちょうど今日のお昼頃、現地に到着したと連絡があったので、こうして魔女の皆さんをゲートにお連れしたというわけだ。
「では、こちらをお願いします」
と、ゲートを前に僕がマジックバッグから取り出すのは、桜にサボテン、マンドレイクにしっかりした苗木と数点の植木鉢。
それを魔女のみなさんに渡していく。
これがなんなのかというと、玲さんの転移実験の一環だ。
それは二週間ほど前のこと、
魔女のみなさんがこのアヴァロン=エラに訓練に来られたすぐの頃、
僕と静流さん、小練さんと計良さんの三人で魔女の里の防衛計画を相談し合う機会があったのだが、その会談の中で魔女の里の近辺に世界樹を植えてもらうお願いをして、今回そのついでに、特定の世界へ、どんな由来の植物が、どう移動するのかと、そんな検証も一気にやってしまおうと、この大荷物となったわけである。
ということで、魔女のみなさんにはさっそく大荷物と共に転移をしてもらい。
さて、『その結果やいかに――』となるのだが、
魔女のみなさんが帰った少し後、場所を移して工房の地下。
窓一つない秘密の実験室でソニアがその実験結果の検証をしていた。
「桜のミニ盆栽とマジックバッグの中身が成功で、他は全滅だね」
「やっぱりそのままじゃ駄目ってことかな」
「だね。玲を転移させる方法の本命は当初の予定通りになるかな」
「だったら、魔女さんのところはそのまま場所を選定して植えてもらう?」
「ガルダシア城の中庭でもいけたみたいだからね。
その後どうなるのかはわからないけど」
「いったん根付いちゃえば滅多なことはないんじゃなかった?」
これは世界樹の出どころであるアイルさんやサイネリアさんの里からの情報で、
魔王様に賢者様と、先行して世界樹の植樹してきた世界の実験結果でもあるのだが、
「そのデータはあくまでしっかりと条件を整った場所での生育だから、まだなんとも言えないかな」
たしかに、地球の場合、他の世界に比べて極端に魔素が薄いから、たとえそこがパワースポットであったとしても、他のデータの結果がそのまま当てはまるとはいえないのか。
「だったら、他にも植樹を試してもらった方がいいってことになるかな」
「玲の安全を考えるとバックアップがあった方がいいだろうしね」
そうなると、他に世界樹を受けてくれそうな候補として――、
「加藤さんのところとかはどうかな?」
事前に相談しなければならないけど、加藤さんのところなら敷地もかなり広いし、地脈とかも通っていそうだ。
だから、もし世界樹を植えるのに都合がいい場所があれば、移植させてもらったらいいんじゃないかと言う僕にソニアは、
「あそこか――、通信でチラッと見ただけだから、詳しいデータは無いんだよね」
まあ、あの時、そにあはスリープ状態だったから仕方がないか。
「だったら、魔女の里から蒼空でも飛ばしてもらう?
そにあの体はまだ向こうにあるみたいだし」
「お願いするよ」
ということで、ここで義姉さんに――、
ではなく、佐藤さんに連絡をとって、その背後から義姉さんからの茶々を入れられながらも、後で蒼空を取りに来てもらう約束を取り付ける。
ちなみに、この蒼空に関しては、少し前に訓練の賞品として、修行にやってきた魔女さんの一人に渡してある為、地球でも人の手による魔力のチャージで無理なく使えるような仕様のものが作られている。
と、そんな話の流れから、思い出したことが一つ。
「そういえば、アメリカの魔女さん達が蒼空を欲しがってたみたいだよ」
「例の超能力者対策?」
「それもあるけど、純粋に偵察が出来るゴーレムが欲しいみたい」
「僕は別に構わないけど、いいの?」
ソニアが心配するのは、蒼空は使いようによっては有用な兵器となるからだろう。
ただ、その心配は地球とあらば話は別で、
これは自分の出身地域を優遇しているというわけではなく。
そもそも蒼空などの飛行型ゴーレムなんかは、お客様は限定しているものの他の地域にも卸している上に――、
「いいんじゃない。
だって地球にはドローンなんてものがあるからね」
そう、地球には蒼空にも負けない(?)偵察機器のドローンが存在するのだ。
しかし、だったらどうして魔女の皆さんはわざわざ蒼空を手に入れたいのかというと、それは蒼空がドローンのように大きな飛行音が出ず、技術的に扱いやすいというのが一つの理由であり。
なにより研究者気質のある魔女のみなさんからすると、新しいものは『試してみたい』『調べたい』という欲求があるようで、
「虎助がいいんなら、僕も超能力者のことは気になるからね」
「そうなの?」
「ああいうワンオフな魔法は珍しいからね。
それが一箇所に集まってるっていうなら調べない手はないでしょ」
ソニアによると、普通に魔法が存在するような世界でも超能力のような力は珍しいという。
そして、そんな能力者が一箇所に集まっているハイエストのデータが得られるということは、ソニアにとってもありがたいことのようだ。
「うまく敵のアジトを見つけられて潜入できたらデータとか取れそうだからね」
しかし、そういうことなら――、
「僕とそにあが連れて行かれた基地も調べておいた方がよかったりするかな」
「ああ、あそこも調べたいよね」
ただ、場所がアメリカの軍事施設となると、迂闊に探るようなことをしないの方がいいだろう。
と、後々の面倒を考えると、こちらの調査は見送ることにして、
しかし、一応なにかあった時のため、いつでも対応できるようにと付近に中継機の設置をしておくことになった。
ちなみに、今回のような調査の場合、日本からアメリカの距離的な問題があるが、それをどの様に解決しているのかというと、これは単純に、義父さんや義姉さん、世界各地に散らばる魔女のみなさんに中継機を送って、その通信網を広げているのだけである。
ロシアからアラスカ経由なら、なんとか中継魔力波が届くからね。
とはいえ、この中継機はインターネットにも繋げることが出来るので、たとえ中継魔力波の範囲圏外だったとしても、そこがインターネットに繋がっている環境なら、世界中のどこでも念話通信を使うことが可能となっている。
ただ、その場合、各々にネット接続料が必要になる上に、通信のデータ量もそれに合わせたものになってしまうのだが――、
「じゃあ、とりあえず、その辺の話をジョージアさんとでも詰めてみるよ」
「任せた」
◆お忘れの方も多いかと思いますが、最後に出てきた『ジョージア』というのはアメリカの魔女のトップだったりします。




