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フレア達の精魔接続

 乙女の重要事項――もとい、雪上移動に使う、特殊な重力魔法の実験を終えて店内に戻ってくると、カウンターにはすでに完成した万華鏡が置いてあった。

 どうやら、僕達が実験をしている間にソニアが作って持ってきてくれたみたいだ。


「これが注文した万華鏡か」


「試しに使ってみても」


「どうぞ」


「普通に綺麗ね」


「特に危険はないみたい」


 と、ただ魔力で動くだけの万華鏡の動作確認など、ものの数分で終了。

 実際にニナちゃんが使ってみて、なにか気になること箇所があったら、その時はまた作り直すと約束。

 今しがたテストした重力魔法の精算に加えて、

 大雪に備え、スコップ、粉ミルク、オムツの購入を済ませれば後は帰るだけ――、

 となったこのタイミングで、さっき後回しにしたお願いを切り出してみる。


「そういえば最近、新しくスクナや精霊に関連する魔法を作りましたので、変える前にみなさんにも試していただきたいのですが」


「ふむ、聞こうか」


 そう、それは人と精霊の力を合わせる精魔接続の実験だ。

 ソニアからの要望もあり、フレアさん達にもこちらを試してもらおうと、話の流れからサラリと頼んでみたところ、フレアさんとしても、万屋(ウチ)が開発した新しい技術には興味があるのだろう。

 というよりも、それが精霊に関わるものだとしたら乗らないわけがないと、計算通りに、フレアさんもこの提案にやや身を乗り出す形で聞く体勢に入ってくれたみたいなので、僕は自前のインベントリから、精霊合身あらため精魔接続の魔法式を展開。


「この魔方陣(・・・)を使って精霊と力を合わせることができるんですよ」


「そ、それは、もしやソルレイトとの協力が可能になるということか?」


「これまでスクナでしか実験をしていませんが、おそらく可能かと」


 むしろ、それを確かめて欲しくてこの話を持ちかけているのである。

 ちなみに、聖剣など精霊が宿った武器などの実験は、エクスカリバーさんやマリィさんの持つ風牙、あとはトワさんのメルビレイなどがその候補に上げられるのだが、

 精魔接続に重要な精霊との親密度を考えた場合、フレアさんが一番だと、ソニアからの指名もあって、フレアさんに白羽の矢が立ったというわけだ。


 そして、この実験に参加してくれたのなら、今から実験をしてもらう精魔接続の魔法式と陽だまりの剣(ソルレイト)の特別メンテナンスと、この週末に玲さんの様子を見に来た環さんが置いていってくれた、名古屋コーチンの卵で作ったプリンを報酬に出すと、餌をチラつかせたところで、「おおっ」と唸るフレアさんの声をかき消すように女性陣が色めきだち。

 すぐに実験という流れになるかと思いきや、ここでティマさんが真剣な顔で手の平を前に出して、


「待って、この精魔接続って魔法、聖剣でやるのは始めてなんでしょ。

 だったら私達から試した方がいいんじゃない」


 さすが恋する乙女は心配性だ。

 ティマさんとしては、始めての試みであるフレアさんと陽だまりの剣(ソルレイト)との精魔接続をイキナリやるのは心配だからと、先ずは自分達が試したいと、それぞれのメモリーカードに魔法式をダウンロード。


 ちなみに、ティマさんは以前スクナガチャの沼に嵌り、複数のスクナと契約しているのだが、今回はミニ飛竜型スクナのファリオンと精魔接続を行うようで、


「そういえばメルはどうしよう。

 ほら、メルのビートってあれでしょ」


 メルさんのスクナと言うと、ヴリトラのような小さな黒蛇型スクナ のビートだったね。

 メルさんの境遇とその外見から、ヴリトラとの関係が疑われるが、ビートの能力は煙幕のような黒い雲を生み出すだけというもので、正直、それだけだったら、特段問題はないように思えるのだが、

 ただ、こちらも何かあったら困るということで、


「とりあえず私とポーリで試してみて、

 その後、メルとフレアにはベルにスキャンしてもらったりして、一人づつやってもらうってのはどうかしら?」


「そうですね」


 と、おおよその流れが決まったところで、ティマさんとポーリさんにそれぞれのスクナとの精魔接続をしてもらうのだが、


「なんていうか、あんまりパワーアップしたようには思えないわね」


「ティマさんの場合、ファリオンの特技が直接攻撃系ですから」


 そう、ティマさんのスクナの特技は〈マテリアルバイト〉という属性を帯びた噛みつき攻撃をするというものである。

 だから、ティマさんにそれをそのまま当て嵌めるのは難しく。

 ただ、ティマさんならそれを自分の召喚獣に付与できるのではないかと、

 たとえそれが出来なくとも、ファリオンと魔力を接続することによって、より多くの魔法が使えるようになるからと、

 試してみてもらったところ、マテリアルバイトの付与はあっけなく成功。

 しかし、それはあくまで牙に属性を付与できる特技だけに、使用できる召喚獣にも制限があるようで、ティマさんはマテリアルバイトの付与が唯一成功した風の狼を撫でながら、一緒に精魔接続を使ったポーリさんを見て、


「ポーリのは派手でいいわね」


「天使みたい」


 メルさんの言う通り、ポーリさんとそのスクナ・シャルルとの精霊合身は、背中に光る羽根、頭の上に輪っかと、まさに天使のような姿だった。


 ちなみに、その大本であると思われるシャルルの特技〈天使の羽〉の効果はというと、


「魔力を放出することで少し浮かぶことが出来るようですね」


「シャルルの力を考えると耐久力が上がってるんじゃないでしょうか」


 見た目からすると地味な力ではあるものの、なかなか有用な効果である。


「けど、こうやってみるとメルも大丈夫なのかしら」


 ここまでの傾向を見る限り、精魔接続によってもたらされる力は、ベースとなる人と精霊、双方が持つ力から逸脱するものではない。

 だから、メルさんとビートの精魔接続もそこまで派手なものにはならないんじゃないかと、密かにこの実験に参加していたソニアからも『これは大丈夫なんじゃないかな』というお墨付きもあって、フレアさんと陽だまりの剣(ソルレイト)との実験を前に、ベル君のスキャンを発動し、メルさんとビートとで精魔接続を試してもらうことになったのだが、


「これは凄いな――」


「相性がいいとこうなるのね」


「ヴリトラのそれとはまた別物ですが、使いどころによってはかなり強力な力になりそうですね」


 みなさんが口々に言う、メルさんとビートの精魔接続がどうなったかというと――、

 ヴリトラのような黒靄を纏う――と、そこまではいい。

 ただ、どうも合身した本人であるメルさんがおっしゃるには、それに毒の属性を付与できるようで、実際に毒の付与を試してもらったところ、かつて僕達が戦ったヴリトラにはまったく及ばないものの、黒雲龍として名を馳せた(らしい)、ヴリトラと同じような能力を使うことが出来。


 ただ、毒性そのものは僕にはまったく影響がないレベルで、フレアさんが受けても少し体調が悪くなる程度のものでしかなかったのだが、それはそれで使いよう。

 メルさんの申告によると、全体の魔力消費はかなり大きいとのことであるが、それもビートとの精魔接続でそこまで問題にならないだろうということで、

 例えば、大勢に囲まれた時にこれを使えば、短時間発動させるだけでもかなり役に立つんじゃないかと、そんな話をしながらも――、


「新しい特技をおぼえれば、その運用も、また変わってくるかと思いますが」


「そう考えると私達は反省すべき点が多いわね」


「シャルル達の成長という点ではあまり考えていませんでしたね」


 ティマさんとポーリさんにはなにか思うところがあったのだろうか。

 自分達にも反省すべき点があるということで女性陣の検証は終了。

 本命であるフレアさんに精魔接続を試してもらうことになるのだが、


「それで俺はどうすればいいのだ。ソルレイトはスクナのように動けないが」


 フレアさんの言うように、陽だまりの剣(ソルレイト)はあくまで精霊が宿っただけのただの剣だ。

 エクスカリバーさんのように自立して動く域にはまだ達していないので、自分からなにかすることは不可能で、

 ただ、精霊合身に必要なのは、人間と精霊、それぞれの魔力であり、その魔力を誰が出すのかは問題ではなく。


「魔法式をこう胸の前に出して、右手と左手で魔力を込めるというのはどうでしょう」


「では、そのようにやってみよう」


 フレアさんはすっかり慣れた手付きで魔法窓(ウィンドウ)を呼び出し。

 精霊合身の魔法式を自分の目の前に展開させると、それを両手で挟み込むようにして魔力を放出。

 すると、フレアさんの周囲にキラキラとした光の粒が舞い踊り始め。


「「「素敵です」」」


 三人が見惚れるのも当然だね。

 無駄にキラキラとした光を纏うフレアさんの姿はまさに勇者――、

 というよりも、少女漫画のヒーローのようだと、元春が見たら発狂しそうなその見た目はともかくとして。


「それで、なにか変化はありましたか」


「これは――、

 なにか新しい力が使えそうだな」


 それは直感的なものだろうか。

 フレアさんが自分の感覚に身を任せるように魔力を込めた瞬間、金色という派手な色ながら、シンプルな美を持つ陽だまりの剣(ソルレイト)の刀身から輝く炎が溢れ出し。

 その炎を見たポーリさんがポツリと。


「あれは聖炎?」


 聖炎というと、火と光の属性が合わさった複合属性だったかな。

 フレアさんの得意属性が陽だまりの剣に影響したって感じだろうか。

 しかし、そんな聖炎も放出されたのは、ほんの数秒で――、


「消えてしまったな」


「魔力が尽きてしまったとかではないですよね」


「特に減ったという感覚はないな」


 そもそもそんな状態だとしたらフレアさんが立っていられるのもおかしいし、なにより、このアヴァロン=エラの魔素濃度を考えると魔力切れというのはあり得ない。

 そうなると、個人で保有できる魔力の許容量の問題という可能性がまず思い浮かぶが、

 それでも、ものの数秒で魔力が切れてしまうことはあまり考えられない。

 だとするなら、本当に聖炎はどうして消えてしまったのかと、そんな疑問に答えたのはソニアだった。


『ちょっといいかな。気になってモニターしてたんだけど、フレア君の炎が消えたのは、どうもマントが影響しているみたいなんだよね』


 そして、それを受けたフレアさんの返事であるが、


「精霊様にもらったマントか……」


 大袈裟にマントを翻して、その端を握る。

 そういえば、子供の頃、泉に住んでる精霊にもらったって話だったっけ。


「でしたら、マントを外すという選択肢は――」


「ありえんな」


 ですよね。

 そうなると、他に解決策としては――、


「まあ、要は俺が使いこなせるようになればいいというわけだな」


 話が早くて助かる。


「ならば努力あるのみだな」

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