精霊合身いろいろ
◆新章です。
ようやく体調回復してきたと思いきや鼻がムズムズしてきました。
「これがその魔法式です」
「立体魔法陣かよ。なんかカッケーじゃん」
「雰囲気がありますわね」
いつもの放課後、僕が工房側の訓練場にみんなを集めてなにをしようとしているかというと、精霊合身の実験だ。
先日、ソニアとの実験の後、アビーさんとサイネリアさんにも協力を願って、精霊合身の魔法式をブラッシュアップ。
特に不具合がないことから、その魔法名を精霊合身と改め、常連のみなさんを巻き込んで実験を行うことになったのである。
ちなみに、魔法名を改めたのは、その効果がすでに精霊合身とは言い難い状況になっていたからだ。
まあ、これはソニアがいろいろと安全性を図った結果なのだが、
この魔法を作るきっかけとなった八百比丘尼の調査を進めていく中で、今後、まさに精霊合身と呼べるような魔法が見つかる可能性があるかもしれないと、そうした場合に別の魔法と差別化を図るという観点から名前を変えたというわけである。
と、そんな精魔接続の魔法式のお披露目が終わったところで、まず誰がそれを試すかということになるのだが、
「私がやりますの」
「……やる」
ここで名乗りを上げたのはマリィさんと魔王様。
僕としては、まず最初は元春で様子を見て、その後、みなさんにと考えていたのだが、
元春がいつものように様子見に回って、お二人がやる気満々とあらばやむを得ないだろう。
そもそも『精魔接続の魔法式には緊急時の停止機能も組み込まれているから』と、ソニアからのお墨付きもあるということで、結局トップバッターはマリィさんと魔王様のお二人に務めてもらうこととなり。
すぐに各自のインベントリやメモリーカードに精魔接続の魔法式をダウンロード。
「スクナを召喚して一緒に使えば良いのですね」
「はい」
マリィさんがアーサーを胸元に、魔王様はシュトラを頭に乗せたまま、精魔接続の魔法式を発動させると、マリィさんが黄金のオーラに包まれて、魔王様はその周囲のチリを浮かせる状態になり。
「なんか二人共、強キャラ感がすげーな」
「そうですね」
と、元春の声に応えるのは次郎君。
次郎くんは文化祭が終わって、ここ数日、アイドルのライブに行ったりと忙しくしていたのだが、ライブが多い年末に備え、今日はチケット代やらホテル代を稼ぐべく、こちらにやって来ているのだ。
「そんで、こっからどうなるんだ?」
首をかしげる元春に、マリィさんと魔王様からの問いかける視線。
それに僕が、人と精霊――お互いの力を補完しあう精魔接続の仕様を噛み砕いて伝えると、
うん、マリィさんなら当然そうしますよね。
マリィさんは天高く手を掲げ、高らかにこう宣言する。
「〈魔剣創造〉ですの。いでよエクスカリバー」
その声を受けて、マリィさんが掲げた手の中に現れる黄金の剣。
ただ、その剣は少し大振りなナイフくらいの大きさでしかなく。
マリィさんはそれを目の前にキョトンとした表情を浮かべると。
「私、エクスカリバー様そのものを想定していたのですが」
「アーサーは原始精霊ですから」
アーサーは見た目や態度こそしっかりしているものの、まだまだ生まれたての原始精霊だ。
相棒であるマリィさんの魔力、アーサー自身が抱える潜在的な魔力はかなり大きなものなのだが、その本人が未熟な為、使える力は小さなものでしかなく、結果的にその能力も控えめになってしまったのではないかと、さり気に遠隔でこちらの様子を見ているソニアの見解も合わせてそう伝えたところ。
マリィさんの胸元にいたアーサーがガクリと膝を落とし、それによって生み出された軟肉の波紋に元春がいやらしい顔を浮かべるも、しかし、幸いにもご本人様にはそんないやらしい視線に気付かれなかったようである。
マリィさんは落ち込むアーサーに慈しむような眼差しを向け。
「これから力をつければよいのですわ」
励ますようにそう言うと、アーサーが忠誠を誓うかのように膝をついて頭を垂れてと、主従(?)の絆を伺わせる場面が展開されて、
ここでマリィさんがアーサーを包み込むように手を置いたことで、元春の興味が溢れ出しそうなマリィさんの胸元から外れたようだ。
ようやく周囲から――特に玲さんから――の自分に向けられる視線に気付いて、
「ち、ちな、マオっちの方はどうなん?」
取り繕うように水を向けると、魔王様が「……ん」とその小さな手の平にごくごく薄い闇色のオーラをともす。
それはシュトラの特技である〈重力撃〉。
その効果はオーラで触れた対象の荷重を増やすというものであるが、問題はその効果の程であり。
ただ、シュトラも精霊としてはまだまだ赤ちゃんであることを考えると、威力はかなり抑えられたものになるのではと予想してみたのだが、魔王様自身が規格外の魔力持ちであることを考えると油断できない。
なので――、
「僕が受けてみましょうか」
ここは僕がと実験台に名乗りを上げるのだが、それに魔王様は首を左右に振って、
「……こっちを使う」
足元に落ちている小石を拾い上げる。
どうやら安全を考えて、これに〈重力撃〉を使い、その効果を確かめようというらしい。
というよりも、拾った時点で既にその効果が発揮されたのかな。
「……重くなった」
「マジで」
魔王様からその小石を受け取ると見た目以上に重かったのか、元春の口から「うぉう」とちょっと情けない声がこぼれ。
僕もどれくらい重いのか興味があると、その小石を受け取ったところ、
「これは確かに――」
これは本来の二倍程度の重さがあるんじゃなかろうか。
と、僕と元春がそんな検証をしていると、ここで次郎君が、
「では、僕達も試していきましょうか」
「仕方ないわね」
スクナカードを取り出して精魔接続。
それに玲さんがヤレヤレと続き。
この二人が精魔接続をしてしまったとなれば、残るは元春ただ一人。
「元春はどうするの?」
「それなんだけど、俺の場合、どのスクナと合身したらいいと思う?」
元春にはライカ・フーカ・ヒメカと、三人のスクナがいる。
元春は精霊合身で出来ること、そして三人の能力を考えて、誰と精魔接続をすればいいのかと、少し悩んでいたようだが。
「わかりやすいのはフーカじゃない」
ライカは〈乳液噴射〉、ヒメカは〈陰陽〉とちょっと問題がありそうな特技を持っている。
だから、ここは無難に風の力を持っているフーカがいいんじゃないかとアドバイスをしたところ。
元春もそれには納得だったのか、ポケットの中から三枚のカードを取り出し、その中の一枚をドロー。
「出てこいフーカ」
無駄に気合の入った声と共に召喚されたのは小悪魔風スクナのフーカ。
そして――、
「じゃ、行くぜ」
フーカが宙を舞って元春の手元から横にずれると同時に、元春が精魔接続の魔法式を呼び出し、号令に合わせて二人がその立体的な魔法式に魔力を注入。
二人の魔力が魔法式全体に行き渡ったところで、ライムグリーンのオーラが二人を包み込み、逆巻く風をまとった元春とフーカが爆誕する。
「おおっ、なんかかっこよくね」
たしかに見た目だけならマリィさんや魔王様にも負けていないかも。
と、見た目の感想は程々にするとして、
「とりあえずフーカの特技を試そうか」
「よっしゃ行くぜ。パーフェクトおっぱい」
また、なにを言い出すんだとばかりの掛け声の直後、元春の胸元が大きく膨らみ。
「「「「「なにそれ?」」」」」
「ふっ、これが噂の巨乳防御だ」
「「「「「ちょっと、そんなおふざけ精霊に頼んでも大丈夫なの?」」」」」
自信満々の元春に、他意が存分にありそうな玲さんが口を尖らせるも、なんだかんだで楽しんでいるからいいんじゃないだろうか。
そもそもフーカも元春の願いに引き寄せられ、スクナカードに宿った精霊なのだから、フーカが変わり者であることは間違いなくて、本人が納得しているならと玲さんも納得してくれたのか。
「「「「「それよりも、わたしのこれ、成功してるの?」」」」」
「成功してますよ」
「だな」
「「「「「特に変わったとこはないと思うんだけど?」」」」」
「僕達には玲さんの声が反響しているように聞こえるんですが」
「ですわね」
実はこれ、次郎君にもいえることなのだが、精霊合身した後で、ほぼ見た目がほぼ変わっていないからと本人達は自分の変化に気付いていないようなのだ。
しかし、玲さんの声は町内放送のように、微妙にズレ重なって聞こえてきていて、
「「「「「そんなに」」」」」
声を発した時点で気付きそうなものなのだが、意外と本人には影響がないのかもしれない。
「ちなみに、その状態なら〈輪唱〉が自然と使えるんじゃないんでしょうか」
「連続魔法とかそういう感じか」
僕と元春の会話を聞いて、玲さんもそっち系の人なのだろうか、ちょっと嬉しそうにしながらも。
「「「「「わかったやってみる。じゃあ〈光杭〉」」」」」
魔法名を発した瞬間、撃ち出される五本のレーザー。
と、思いの外、派手になってしまったその魔法に元春がヒュウと口笛を吹き。
「強くね」
「……かっこいい」
「かなり威力ですね」
「「「「「でも、魔力がごっそり減った感じがしたんだけど」」」」」
まあ、一瞬で五発分の〈光杭〉を撃ったんだから、その消費量はお察しというものである。
そして、この状態を維持するにはしっかりクロッケとの連携を取り、魔力のやり取りを配分しなければ地球では上手く使えないと、そんな話をしながらも玲さんが接続を解除。
「てか、次郎はなにやってるん?」
元春が視線を向ける先には珍しく派手に転ぶ次郎君の姿があって、
「これは玲さんと同じく、ユイたんの特技がパッシブで働いているのでしょうね」
「えっと――、
ああ、もしかして〈ドジっ子〉か?」
立ち上がりながらメガネの位置を直す次郎君に、元春が少し迷いながらもそう応え。
「なにそれ?」
「僕のユイたんが持つ特技ですね。
効果は読んで字の如しのものですよ」
「それって特技って呼んでいいものなの」
と、玲さんのこの一言で少し落ち込んでしまうユイたん。
しかし、持ち前の〈元気〉によってすぐに復活。
ちなみに、〈ドジっ子〉が特技なのかという議論に関しては――、
実はこの〈ドジっ子〉にはドジによって自体を好転させる効果があるのでは?
というのが今のところの見解で、
「ドジもあるけど、歌っていれば凄いから」
それは、ここまでユイたんを観察する中で発見したことであるのだが、ユイたんは次郎君の献身的な指導によってか、歌ったり踊ったりする時には〈ドジっ子〉を発動することはなく、むしろ周囲に〈元気〉をばら撒くことが出来るようになっていたのだ。
つまり、次郎君もそれと同じことがいえるのではないかと、精魔接続を果たした次郎君に試してみてもらったところ。
「なんていうか凄いね」
「ですの」「……ん」
それはまさにアイドルステージの完全再現か。
ただ、それをしているのが、一見すると真面目そうなメガネ男子の次郎君となると、元ネタを知っている玲さんからしてみたら得も言われぬものがあるようだ。
「でもよ。これって次郎なら普通にできなくね?」
「そうなの?」
文化祭で次郎君のクラスのステージは、次郎君みずからが監修、その演技指導を行っていた。
なので次郎君にも同じことが出来ないハズもなく。
「ただ、元気の効果は感じるよ」
「たしかに、この歌を聞いてるだけで元気が湧いてくる感じがするかも」
実際になんらかの効果があるなら、それはまさに特技が発動しているわけで、
「しかし、地球のみなさんは歌や踊りが上手なのですね」
「みんな!?」
ここでマリィさんが何気なくこぼした感想に驚くのは玲さんだ。
「虎助も元春も上手ですわよ」
「本当に?」
すがるように聞いてくる玲さんだったが、
「僕は普通だと思うんですけど」
中学の頃、元春に女子に誘われた時の為とかいって、歌が上手くなる方法を調べるのとか、カラオケ通いにも突き合わされたこともあって、僕も歌を歌うテクニックはそれなりに持っているつもりである。
そして、どこか必死さを滲ませる玲さんの態度が元春の何かを刺激したのだろう。
「もしかして玲っちって音痴」
「はっ!? はぁぁぁ、音痴じゃないのよ。そんなワケないじゃない。
ただちょっと歌うのが苦手っていうか、なんていうか――、
でも音痴じゃないから、本当に」
「じゃ、カラオケでもしましょうよ。虎助」
「ちょっ――」
「……カラオケ、やりたい」
事情はよくわからないが、魔王様にねだられては嫌とはいえない。
ということで、精魔接続のデータを一通り取り終えたところで、以前、ここでの小遣い稼ぎを目論んで元春が持ち込んだカラオケセットを引っ張り出してきて、カラオケ大会が開催されることに。
ちなみに、玲さんは音痴ではなく、ただ歌っている時の声がいわゆるアニメ声になるタイプのようだった。
「玲っちすげー」
「可愛いですの」
「……ん、いい」
「だから、歌いたくなかったのよ」
◆普段はそうでもないのに、歌声だけが妙にアニメ声の人っていませんか?
その逆もまた然り。
◆精魔接続……特殊な魔法陣を利用した魔力の接続。
文字通り精霊との合身を成す精霊合身系の魔法を安全に執り行う為、複数人での合体魔法などの方式を参考に構築した魔法陣。
メリットは精霊の魔力も協力次第では利用できること。
ただ、親密度が高くないと難しい。
デメリットはスクナなど独立する精霊とわかれて行動できないこと。
そして、魔力が無尽蔵に回復するアヴァロン=エラではあまり使用する必要がないこと。
基本的な使い方としては緊急時の魔力タンクと、前述の通り、魔力のキャパシティや属性の得手不得手により、一人では使えないような魔法を行使する為。




