●内弁慶な彼女
◆今回はタバサに輪をかけて恥ずかしがり屋という設定のモブ魔女が主役のSSになります。
お話の内容上、時系列的に少し後の話になりますが、魔女という集団の性格上、このようなディスコミュニケーションな方も一定数いますよ――という紹介も兼ねたお話となっております。
ホント、どうしてこんなことになっちゃったのか。
頭を抱えるアタシの目の前には、ダンボールの中、緩衝材に包まれた裸のショタが横たわっていた。
さて、なにがどうしてアタシがこんな状況に陥っているのかというと――、
ことの発端は工房長の命令でアメリカンなイロモノ連中が運び込また一ヶ月ほど前に遡る。
曰く、そのイロモノ連中はアメリカで工房を襲ったり、アタシら魔女の仕事を邪魔してた連中らしく、相手側の情報を引き出す為にって、佐藤先輩となんか最近よく見かけるやんちゃ系女子? が捕まえたそいつらを引き取ってきたって話だったんだけど。
どうも、そいつ等が思ったよりもヤバイ相手だったみたいで、イロモノ連中を引き取ってから何日かたって、アタシ達の工房が影の狼を操る超能力者に壊滅状態に追い込まれちゃったんだ。
とはいっても、建物なんかの被害は別として、アタシ達から被害はほとんど出なかったし、襲ってきた相手も工房長がどっかから引っ張ってきてくれた助っ人の力でどうにかなったんだけど――、
問題があったのは助けられた後だった。
助けられた後に工房長の補佐役の片割れ、脳筋魔女の小練杏が、私達を助けてくれた助っ人に『自分達がやられたのは力不足だから修業をつけてくれ――』って言い出したらしいのよ。
まあ、小練も向こうで姉がそのイロモノ連中にボロボロにされちゃったらしく、悔しいって思う気持ちもわからなくはないんだけど。
なんで、それにアタシまで巻き込まれなきゃなんないのさ。
しかも、それで連れて行かれたのがどこかよくわからない荒野のど真ん中っていう超展開。
で、そこへの移動も『森の道』みたいな魔法を使って移動しているってことで、そこがどこかすらわからないから逃げるに逃げられない場所ってきたものよ。
更に、そこで始まった強制的な修行ってのが、また鬼ハードな内容で――、
無駄に魔力の回復が早いそこでひたすら魔法の練習をさせられたかと思ったら、何百年に一度に出るか出ないかってレベルの魔獣が次々と現れるVRゲームもどき――っていうかこっちが正当進化?――でひたすら戦闘訓練。
最後にどっかのゲームモンスターみたいな相手との実戦をしろだなんて、もう苦行レベルの修行だったのよね。
正直、何度心が折れそうになったことか――、
てゆうか、実際バッキバキに折られちゃったんだけど。
けど、そのおかげ(?)で、アタシも『いまなら支部長すらも倒せるんじゃね』ってくらい強くなったかな。
いや、それは調子に乗りすぎか?
というか、言い出しっぺの小練なんかはアタシよりも激しい訓練を受けてたみたいだから、その実力も当然ぶっちぎったものになるのよね。
そりゃ文句も言えないってなものよ。
とまあ、そんなこんなで長いものには巻かれろ精神を発動して、地獄のような修行に最後まで耐えた結果、ムチがあるなら当然アメもある。
うん、ホント、アメがあってよかったよね。
長い――といっても二週間ほどだったんだけど――修行を完遂したご褒美として、今回このくっそハードな修行を付けてくれた地味校生――じゃなくて、どこぞの万屋の店長が、また、あのイロモノ集団が襲ってきても大丈夫なようにって、アタシ達専用装備を作ってくれるって言ってくれたのよ。
しかも、原価ギリギリの格安で――、
って、金取るんかーい。
なんて、思わずツッコミが出そうになったんだけど。
考えてもみればアタシの場合、作ってもらうのは人形で、
人形っていうのは職人が丹精込めて手作業で作るもんだから、実際作るってなるとべらぼうに高くなっちゃうのね。
それが原価ギリギリの値段でってなるとかなりお得。
てゆうか、アタシはいいけど、杖とか箒とか鈍器系使ってるヤツ、ざまぁって感じよね。
まあ、そっちはそっちでなんか変形機能とか魔力タンク的なものをつけてもらえるらしいんだけど。
とにかく、修行終わりにアタシ専用の装備を作ってくれるってんで、後は帰るだけってなったタイミングで、みんな個別に店長と作る装備品についての打ち合わせをする時間をくれるってことになったらしいんだけど――、
実はアタシって、その、口下手なんだよね。
ってなわけで、その時の会話がこちら――、
ちなみにアタシの方はほぼ心の声、聞こえてないから大丈夫よね。
「それでですが、斎藤さんはどのような人形をお求めですか?」
チッ、無駄に爽やかに笑いやがって地味メンのくせにぃ。
「なにか具体的なイメージがないのなら、サンプルから選んでみましょうか」
いや、オタク全開なアニメの設定資料みたいなロボットのカタログを見せてられても困るから。
「もしかしてリアルな人形の方がよかったですか、だったら本の後半を見てみてください」
そういうことなら最初からこっちのページを開いて見せてよね。
「それで、なにか良さそうなデザインはありましたか」
てゆうか近いから――、もしかしてアタシの体とか狙ってる?
「戦闘用ですからね。もう少ししっかりしたものがいいんでしょうか」
これだから男子高校生って生き物は――、
「だとしたらサイズが気になるとかですか?」
サイズが気になるですと、まさかアタシが隠れ巨乳だってことがバレたとか?
「もしかして、これをベースにいろいろ弄りたいんですか」
弄るって、もしかしてチョクに来る系?
「となると、ビジュアル面でモデルになるようなサンプルが必要になりますか」
ちょっ、やめて、アタシ押しに弱いタイプだから。
「だったら芸能人をモデルにするとかがいいでしょうか」
というかアタシ、男らしい男の人が苦手っていうか、そういう経験ないから、ホント、そういうの困るんですけどぉ。
なんて具合で、あーでもない、こーでもないとまあ、心の声とは裏腹に、手元の魔法窓でいろいろと人形の要望を出してたんだけど。
店長の声かけに誘導されたのかしら。
ほんのちょっと――、
そう、ほんのちょっとだけ個人的な妄想が入っちゃってたのかもしれないわね。
「成程、この漫画キャラをベースに王子様っぽくですね」
そんな話の流れから、ここで思わず頷いちまったのが運の尽き?
「では、そのように作らせていただきます」
アタシの後ろにも何人かの魔女が控えてたっていうのがアタシを焦らせたのかしら。
あれよあれよと注文が確定しちゃったみたいで、
店を出てから慌てたところで後の祭り。
そして今日、魔女宅で届けられたのが目の前のこれってワケなんだけど。
本当にもうなんなのよコレって感じ。
たしかに、これはこれでとてもいいものなんだけど、趣味過ぎるっていうかなんていうか。
そもそもアタシからは殆ど喋ってないのに、なんでこんなになっちゃってんのよ。
いや、店長の話を無視して妄想に入っちゃったアタシが悪いっちゃ悪いんだけど。
なんて、いつまでも一人芝居をしてても仕方がないか。
現実を見よう現実を――、
「でも、本当にこれ、絶対外に出せない代物よね」
人形本体のスペックはかなり高そうなんだけど、見た目がもうあからさまにソレとしか思えないんだものね。
うん、これは最終兵器。
最終兵器で決定ね。
アタシは細部までリアルに少年を模したその人形を抱き上げながら、自分に何度もそう言い聞かせ。
プライベートで使うぶんには全く問題がないと、前々から準備してあった小さな短パン執事服をいそいそとクローゼットの奥から取り出した。
◆少年型自動人形……購入者の熱いパトスを受けてデザインされた自動人形。購入者が無意識の内に書き上げた設計図をもとに作られており、製作者であるソニアにして『勉強させてもらった』という人形に仕上がっている。
◆ちなみに、今回話に出てきた『魔女宅』は例のアレのようなもので、魔女独自の配送システムで、表向きの仕事にもりようしていたりするという設定となっております。
◆そして、今章はこれにて終了。
次回、水曜日分の投稿からは新章となります。




