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●修行の総仕上げ※

◆感想の方、読ませていただいているのですが、なかなか返せずに申し訳ありません。

 そろそろ章代わりということで、執筆の方がバタバタしておりまして、

 いま暫くは現在の状況が続くような状態であります。

 魔女達がアヴァロン=エラへやって来て約二週間――、

 里に戻るのを前に修行の総仕上げとして未知のディストピアに挑むことになった。


 万屋の店長・間宮虎助に誘われ、魔女達が降り立ったのは周りを切り立った山に囲まれた雪深い盆地。

 深い雪で地面が覆われている所為で移動することもままならない場所であるが、魔法の箒の扱いに慣れた魔女達ならばと虎助は考えたのだ。

 ただ、このディストピアが選ばれた理由はそれだけではなく。


 雪原に降りた魔女達がそれぞれ用意した魔法の箒に跨り、雪面から一メートルほど浮かび上がる。

 と、ここで正面の山から駆け降てくるのは銀の巨狼。

 あれが今回、魔女達が戦う相手――シルバリオンだ。


 そう、これこそがもう一つの理由。

 群狼という狼をあやつる超能力者にトラウマを持つ魔女・小練杏にそのトラウマを克服してもらおうと、虎助はあえてこのディストピアをチョイスしたのだ。

 よって、杏は先日まで付けていた精神を安定させる魔法が付与されていたチョーカーを今日は外しており。

 相手の姿に大きく目を見開いたものの、気を落ち着かせるように深い呼吸を一つ。

 その表情を冷たいものにすると、得物である魔樹の木刀をスラリと抜き放ち、その刀身に魔力をまとわせる。


 ちなみに今回、虎助がこの場にいるのは、あくまで魔女達の修行の成果を見る為なので、シルバリオンの攻略に挑む魔女達の実績獲得に影響を与えてしまわないようにと、魔女達が戦闘の準備をする中、後方へと下がって、見学の体制に入る。


 さて、そんな虎助の一方で、シルバリオンと対峙する魔女達は衝突を前に強化系の魔法をかけていき。

 ここでシルバリオンが大きく息を吸い、魔力を乗せた遠吠えを放つ。


 これは相手の出鼻を挫く威嚇行為。

 しかし、この手の魔獣が開幕で威圧をかけてくることはよくあることだ。

 と、ディストピアやティル・ナ・ノーグなどでの戦闘経験から、それを知っていた魔女達は、雪原の空気を切り裂くシルバリオンの遠吠えに、素早く耳を抑え、それと同時に全身に魔力をまとわせ、その影響を和らげると、遠吠えの余韻に浸るシルバリオンに色とりどりの魔弾を放っていく。


 と、それを追いかけるように飛び出しゆく杏を始めとした近接戦闘に優れた魔女達だ。

 しかし、ここで計算外の事態が発生する。

 シルバリオンに着弾した魔法が、銀色に輝く毛皮の上を舐めるように奔り、跳ね返ってきたのだ。


「魔法反射!?」


 跳ね返された杏達に襲いかかる。

 しかし、それはあくまで無軌道に反射された魔法だ。


「皆、ダメージは大したことない。体勢を立て直せ」


 被弾した数は大したことないと、杏の声ですぐに持ち直し、杏達は再び攻撃の体勢に入り。

 そんな前衛陣の一方で、シルバリオンから離れること五十メートル程の位置で念話を使い、周囲の魔女達と連携を図るのは計良未来。

 小練杏と共に極東支部の代表・望月静流を支える魔女の一人である。


 彼女はゲーム大会――もといエリュシオ(ストラテジー系)ン(仮)(魔法アプリ)を使った修行にて、蒼空を手に入れた後輩魔女に、空から戦場を把握するように指示を出しつつも、相棒であるスクナのセレナを召喚。その特技である魔砲攻撃を放ってもらい、その結果を確認した上で、


『属性を乗せない魔弾は通るみたい。それ以外はゴーレムや人形を使ってみんなを守ってぇ』


 最初の失敗と今の実験から読み取れた情報を念話で共有。

 各魔女の役割分担をざっと振り分けていく。


 ちなみにこの間、シルバリオンも悠長に待っているハズもなく。

 マイクロバスクラスの巨体とは思えない素早さで、直接攻撃を加えようとした杏達前衛陣と、そのフォローに入ったゴーレム達を着実にその牙の餌食としていた。


 とはいえ、ここはディストピアの中である。

 たとえ一度やられたとしても、僅かなペナルティタイムの後の復活が可能であり。

 これだけ大人数での挑戦となると、ゲームで言うところのゾンビアタックよろしく、無謀な攻めと復活を繰り返すことが出来るのだが、

 ただ、あまりにそれを繰り返してしまうと、実績の獲得が難しくなってしまう。

 なので、杏達は出来る限り被害を抑えつつ、シルバリオンを討伐しなければならず。


 ただ、今のところやられていないのは、前衛陣では杏くらいだが、後衛陣は未来の的確な指示おかげで、数名に留められていて、

 しかし、復活できるのは倒された人間とその持ち物だけで、ゴーレムや人形を操る魔女本人がやられなければ守りが徐々に減っていくだけだ。

 と、シルバリオンがそんな事実に気付いたのかはわからないが、

 遠距離攻撃をメインにする魔女達の周りから護衛の数が減ったとみるやいなや、シルバリオンはその隊列に突っ込み、蹂躙劇を繰り広げる。


 これに怒りを燃やしたのは杏だった。

 ここ数日の修行で、杏の精神力はかなり向上したものの、やはり自分の目の前で仲間が噛み殺されてしまうとなれば黙っていられないようだ。

 いまもまた一人、犠牲になった後輩の名を叫び、シルバリオンに飛びかかってゆく杏。

 しかし、工夫もなにもない突貫などシルバリオンには意味がない。

 まるで羽虫を払うかの如く、シルバリオンが横に薙いだ銀色の尻尾が杏を捉え、雪原を転がるハメになる。


 ただ、殴られたことで逆に冷静さを取り戻したか。

 杏は弾き飛ばされる途中で空歩を発動し、空中でなんとか体勢を立て直すと、今度はバカ正直に突っ込まず、孤立した仲間を庇うように反対側から距離を詰めていく。


 ただ、先の一撃でその華奢な体に受けたダメージは思いのほか大きかったみたいだ。

 明らかに動きが鈍くなった杏にそれは野生の本能か。

 ある意味で狙い通りにシルバリオンが反転、杏に襲いかかる。


 一方、杏もそんなシルバリオンの動きに、少しでも抵抗をと考えたのか、盾役としての能力に優れるスクナ・月海を呼び出すのだが、シルバリオンの勢いは止められない。

 杏は月海ごとシルバリオンにバクリと食いつかれ、光粒を周囲に撒き散らして霧散。


 そして、魔女達の中心であった杏がやられたことによって戦線が崩れてゆくことに――、


 まず、弾き飛ばされた杏を助けようと集まってきた近接系の魔女達が、シルバリオンが放った氷柱(つらら)の散弾により半壊。

 生き残った数名も魔法の箒から落とされたとならば、どうしようもない。

 深く柔らかな新雪に足を取られている内にその牙の餌食となり。

 後は未来達の蹂躙を待つだけかと思いきや――、

 ここで先にやられていた魔女達がリスポーン。

 護衛のゴーレムや人形と共に戻ってきたことでなんとか全滅を免れて。

 その間に杏も復活。

 戦線に加わったことでなんとか持ち直し。

 その後、何度か小さなピンチを乗り越えつつも一進一退の攻防が続き。


「ひゃっ!!」


 シルバリオンのアギトを前に、気弱そうな魔女の小さな悲鳴にその人形が反応。

 飛び出したボーイッシュなビスクドールの攻撃が、大きく開いたシルバリオンの口内を傷つける。


 その痛みにシルバリオンが「ぎゃん」と飛び退いたその着地を、狙いすましたかのように飛び込んできた杏が愛用の木刀でその左目を貫く。


 と、ここがチャンスと他の魔女達にゴーレム、人形にスクナと、攻撃できる者は全て攻撃に回り、シルバリオンを一気に追い詰めていき。


 ただ、ここでシルバリオンが激昂――、

 全身から流れ出した血を凍りつかせ。

 両前足に背中、脇腹から生やした赤い氷の刃を武器に魔女を切り裂いてゆく。


 しかし、ここで先ほどの失敗からか。

 杏は仲間がやられるのを見ても――、

 いや、いま残っている仲間を少しでも助ける為にというべきか。

 暴発しそうになる体を無理やり抑え、シルバリオンの凶刃を受け流し、時間を稼ぐことに集中する。


 すると、シルバリオンの凶刃に倒れた仲間の魔女が少しづつ復活し、戦闘に加わる人数も徐々に増えていき。

 その一方で、シルバリオンの動きが急速に鈍っていく。


 どうやら、この赤い氷の刃をまとった状態はシルバリオンにとって消耗が大きい姿のようである。

 ほどんどの魔女が戻ってくる頃にはシルバリオンの息も絶え絶えで、もう抵抗するのがやっとの状態だった。


 しかし、杏は油断しない。

 弱ったところで相手は格上、油断をすれば一撃でやられてしまうのだ。

 堅実に――、着実に――、シルバリオンを追い詰めてゆき。

 仲間のフォローを受けながらも、シルバリオンの左側面に飛び出す赤い氷の刃をすべて叩き折ったタイミングで、先に潰した死角に入り込み、延髄への一刺しを決めたところで決着か。

 杏がその愛刀をシルバリオンの延髄から引き抜くと、その巨体から光の粒が溢れ出し、世界(ディストピア)そのものも揺らいで消えて、


 雪原から一転、博物館のような室内へと変わった景色に魔女達が呆然とする中、虎助は拍手をしながら魔女一同の前に立ち。


「おめでとうございます。まずはステイタスのチェックをしてしまいましょうか」


 勝利に対する称賛も程々に、待ち構えていたエレインがステイタスカードを配布。

 実績を得られたかのチェックに入るのだが、


「どうでした?」


「出ていませんね」


「そうですか、頑張っていたとは思うんですけど」


 ただ、これは予想できたことだった。

 なにしろ、シルバリオンとの戦いで一番堅実に戦った未来ですら十回もの復活を繰り返していたのだ。

 他の魔女達は、その二倍三倍が当たり前となると、実績の獲得は絶望的で、

 唯一可能性があったのは、戦いの中で精神的な成長を見せ、最後にシルバリオンを追い詰めた杏くらいなものであったのだが、それもないとなると――、


「相手が相手でしたので仕方ありませんね」


 なによりこの二週間の修行で強くなったとはいえ、他の世界基準で考えると魔女達の実力はまだまだで、ようやく中位魔法を一つ、無詠唱で放てるようになったくらいなのだ。

 ゆえに、シルバリオンは遥かに格上の相手で、それをぶっつけ本番で倒せただけでも行幸といえるだろう。

 そしてなにより――、


「小練さんも普通に戦えてましたし、他のみなさんもしっかり自分の役割は果たしていましたからね」


 特に全体の指揮をしていた未来などはしっかり指揮の役割をしていたと、

 虎助が未来を始めとした魔女達の評価を順々に上げていって、全員にちょっとしたアドバイスを送ったところで咳払い。


「これで修行はお終いですね」


 そう一言、今回の修行を締めくくろうとした虎助だったが、

 ここで杏がビシッと姿勢を正し。


「ありがとうございました」


 はじめから決めていたのだろうか、杏が頭を下げると、それに習って他の魔女達も『ありがとうございました』と頭を下げる。

 ただ、虎助からしてみると彼女達は年上なので、あまり大袈裟に感謝されても居心地が悪いと、


「では、約束していた。合格のお祝いの打ち合わせでもしていきましょうか」


 ディストピアに入る前に話してあった『ご褒美』を引き合いに逃げを打つのだった。

◆今回、初登場のスクナ※


 月海(小練杏のスクナ・クラゲ型)……〈再生〉〈浮遊〉

 セレナ(計良未来のスクナ・魔法少女型)……〈ドラグーン〉←魔法少女的な武器(弓)

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