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●山羊頭の異形・クロムローヘッド

 ◆今回はとあるエルフの里から万屋に転がり込んだ研究者・サイネリアの視点のお話となっております。

 アヴァロン=エラにある工房の外壁に寄り添うようにひっそりと据え置かれるトレーラーハウス。

 そんなトレーラーハウスの中でくせっ毛のエルフ・サイネリアは、今日も相棒である公爵令嬢アビーと一緒に自分達の研究に邁進していた。


 そこに鳴り響くアラーム音。

 二人は顔を上げ、音の発生源である魔法窓(ウィンドウ)を手元に引き寄せ、覗き込み。


「銀騎士が所定のポイントに到着したみたいだね」


エネルギー(魔素)の残量はどれくらい?」


「八割以上残ってるね。省エネ設定しておいたから戦闘には問題ないと思うよ」


「だったら、そのまま行こうか」


 さて、彼女達がなにをしようとしているのかというと、以前虎助に相談したディストピアのような魔導書を作る為の素材集め。

 今回はその中核となる魔法生物の核を入手を目論見、アビーの出身世界に銀騎士を送っていた。

 そして、現地に暮らすアビーの妹、侯爵令嬢であるセリーヌが集めてくれた情報を精査して、狙い定めたのはクロムローヘッドという名前の魔法生物だった。


 ちなみに、このクロムローヘッドは、とある邪神を崇拝していた集団が醜悪な儀式を行った結果、偶然生み出してしまった魔法生物らしく。

 誕生から数十年たった今もなお、儀式が行われたという都市の外れに留まっているそうだ。


 と、サイネリアとアビーは銀騎士の操作をマニュアルに変更。

 周囲にモニターや仮想操作球を展開しつつも、標的の情報を情報をおさらい。


「とりあえず蒼空を放って現場を確認しようか」


「こっちはシステムの立ち上げだね」


 役割分担で準備するのは猛禽類型ゴーレムの蒼空だ。


「じゃあ、上から見てくるね」


 準備が整ったところで蒼空を空に放ち、周辺の状況確認に努める。


 ちなみに現在サイネリアが操る銀騎士がいるのは、かつてフレア達が身を寄せていたルベリオン王国の隣国にあった(・・・)城郭都市の城壁の上。

 この城郭都市はクロムローヘッドの誕生とともに滅びていた。


 空に放たれた蒼空が廃墟と化した城郭都市の上空を旋回し、事前情報からあたりをつけて都市の北部を調査する。

 と、程なく標的のクロムローヘッドは見つかる。


 クロムローヘッドがいたのは情報の通り、かつて邪神崇拝の集団が拠点としていた館跡地だった。

 ただ、そこはすでに一部の石壁しか残っておらず。

 館跡に立つクロムローヘッドは、一見すると廃墟をさまよう上位アンデッド、魔王パキートの居城にいるゴーレム・バフォメットを骨にしたような姿をしていた。


 しかし、このクロムローヘッドはあくまで魔法儀式に使われた魔導器の集合体――、

 と、そんなクロムローヘッドの姿を確認したのはいいのだが、


「セリーヌから聞いてた通り、近くに面倒な相手がいるようだ」


「影蜥蜴、たしかに銀騎士にとってはちょっと厄介な相手だね」


 影蜥蜴――、

 それは影そのものが爬虫類のように変化した魔法生物で、闇属性の魔術儀式を行った場所に生まれるとして知られた存在なのだが、

 この影蜥蜴には、動くものに取り付き、その魔力を吸収するという厄介な性質があって、


「ただ、銀騎士にはそこまで影響はないんじゃない?

 しっかり対策も施されてるし」


「とはいえ、何匹もにまとわりつかれると面倒だし、数を減らした方が安全でしょ」


「たしかに」


 サイネリアはアビーの考えに頷き、操る銀騎士にライフル型の魔法銃の準備をさせる。


 ちなみに、このライフルは、今回の狩りの為、万屋で用意してもらった本物の殺傷力を持った特注品だ。

 サイネリアはそのライフルを銀騎士に構えさせ、ライフルに取り付けられたスコープから送られてくる映像を元に狙いを定め、トリガーを引く。


 すると、銃口から発射されたのは氷の弾丸――、

 いや、氷の杭と呼んだ方がしっくりくるか。

 かろうじて手の平に乗るであろうサイズのどんぐり型の氷塊が音を超えて飛んでいき。


「ヒット」


 影蜥蜴に突き刺さると、影蜥蜴はその氷の杭が刺さった箇所から風船のように弾けて消える。

 ちなみに、これは銀騎士が放った氷の杭の効果ではなく、影蜥蜴が影の皮と魔素によってのみ構成される魔法生物だからこその結果である。


「ゲームで練習した甲斐があったって感じかな?」


「リアルだと命中には他の要員が大きく関わるみたいだけど、おおよそシュミレーション通りにできたんじゃない」


「素材の回収は後でするとしてこのまま狙撃を続けてもいいのかな?」


 スナイパーは一発撃ったら即移動――というのはよく聞く話だ。

 しかし、それはあくまで相手が狙撃の弾道から相手の位置を察知、反撃をしてくることを前提としたもので、


「いまのところ相手に動きは無いからいいんじゃない。

 というか、むしろ向こうから来てくれたら簡単なんだけど」


 今回の状況では、ターゲットのクロムローヘッドの周囲に影蜥蜴という面倒な魔法生物がいる為、むしろ相手にはこちらを見付けて突撃して欲しいというのが正直なところだった。

 しかし、残念ながらクロムローヘッドはそれに乗ってきてくれないようだ。

 なので、サイネリアは周囲の影蜥蜴の動きをしっかりと見極めながら狙撃を繰り返し。


「とりあえず見える範囲の影蜥蜴は倒したけど――」


「隠れるところはまだいっぱいあるし、影蜥蜴の能力を考えるとまだ潜んでそうだよね」


 影が生物のようになっている影蜥蜴は影の中に潜む能力を有している。

 故に、その体面積を覆えるくらいの影があれば、その場に溶け込むことが可能であって、見える周囲の影の面積から、ゆうに百匹以上は隠れるスペースがあるとなると、まだ表に出てきていない影蜥蜴が多数いることが予想できるのだ。

 ただ、このままマゴマゴしていても状況はあまり変わらない。


「仕方ない、このまま行くよ。

 アビー、フォローをよろしく」


「任せて」


 サイネリアはアビーと声を掛け合い、銀騎士の武器を接近戦用のものに変更。

 タイミングを合わせて突撃をかける。


「と、まずは一撃」


 時に影の中や物陰から飛びかかってくる影蜥蜴を時に斬り散らしながら、ボロボロになった建物の屋根を疾走。

 取りこぼした影蜥蜴をそのままくっつけながらも一直線にクロムローヘットの下へ。

 銀騎士の視界(カメラ)でクロムローヘッドの姿を捉えると、走る速度を更にあげて、姿勢を制御するプログラムのフォローを受けつつ、敵の目前でロールターン。

 クロムローヘッドの背後を取り、思いっきり武器を振り抜く。

 ちなみに、いま銀騎士が装備するのはアダマンタイト製の手斧である。

 遠心力が乗った一撃が死神のようなクロムローヘッドの背中を横に薙ぐ。

 クロムローヘッドの上半身と下半身が真っ二つに斬り払われる。

 ふつうの相手ならここで勝負は決したも当然だが、相手は魔法生物だ。


「聞いてた通り再生能力持ちだね」


「核があるパターンかな」


 そう、クロムローヘッドには再生能力が備わっていた。


「――と、こっちも団体さんで出てきたね」


 クロムローヘッドがビデオを逆再生するように半分になった体を再生する一方、周囲の影から現れるのは影蜥蜴。

 突貫の時に邪魔をしてきたがそれは気の早い個体だったようだ。

 さっきとは比べ物にならない数の影蜥蜴が、廃墟に落ちる影の中から浮上するように現れれて一斉に飛びかかってくる。

 この統率が取れたような影蜥蜴の動きにアビーがふと呟く。


「これってクロムローが操ってる?」


「どうかな。単純に餌が飛び込んできたからとか」


「だったらなんでクロムローは襲われないんだろう」


「たしかに、それは不思議だね」


 影蜥蜴の目的は餌となる魔力を得ることである。

 操られていないのだとしたら魔法生物であるクロムローヘッドもその攻撃対象になるのではないか。

 そんなアビーの疑問は尤もなものである。


「考えられるとしたら、この影蜥蜴がクロムローヘッドによって生み出されたからとか」


「ああ、例の邪神召喚の関係ね」


 二人はそんな考察しながらも殺到する影蜥蜴を倒していく。

 ただ、その数があまりに多く、このままではいくら銀騎士もどうなるかわからないと、


「アビー。爆撃お願い」


「了解」


 サイネリアからの要請で上空から投下されるのは四発の風のディロック。

 それがクロムローヘッドも巻き込むような形で暴風を巻き起こす。

 正直、過剰とも思えるこの攻撃には、影蜥蜴の排除のついでに廃墟となった館周辺の建物を吹き飛ばし、戦いやすようにすっきりしてしまおうという計算もあったりする。

 ただ、その所為で――、


「クロムローヘッドも一緒に飛んでっちゃったみたいだね」


 銀騎士をしっかり瓦礫の影に隠し、爆風をやり過ごしたサイネリアが見通しが良くなった景色に一言。

 蒼空を操るアビーのナビで爆風に吹き飛んだクロムローヘッドを追いかける。


 ちなみに、風のディロック投下前、おそらく百を超える数になっていただろう影蜥蜴は、風のディロックの爆風により、瓦礫や地面に叩きつけられたことで、大幅に数を減らしたようだ。


 と、そんな影蜥蜴を銀騎士(サイネリア)は手斧で斬り払い、上空の蒼空(アビー)の案内でクロムローヘッドを発見。

 ふたたび戦いを始めるのだが、


「うん、だいぶ戦いやすくなったかな。

 けど、それでもまだちょっと厳しいか」


「やっぱ戦闘中にスキャンするのは難しい?」


「激しく動くからどうしても外れちゃうね」


 ここでサイネリアが問題にしているのは、クロムローヘッドの異常な再生能力の元になっている原因を探す銀騎士のスキャンの光。

 これは万屋のゴーレムであるベルが使うそれに近い機能で、魔法で作り出した特殊な光を対象に当てることで、鑑定魔法とはまた別角度から対象を調べることができる機能なのだが、スキャンの成功にはそれなりの時間が必要で、その処理の最中に光が外れてしまうと上手くデータが取れなくなってしまうのだ。


「わかった、上からスキャンしてみるよ」


 と、アビーが銀騎士でのスキャンが難しいならと、そのスキャン役を上空を旋回する蒼空で担当すると申し出る。

 そして、サイネリアはクロムローヘッド(+影蜥蜴)との戦闘に集中することになり。

 お互いに別方向性ながらも驚異の耐久力を持つ銀騎士とクロムローヘッドとの持久戦がしばらく続くことに――、


 復活を繰り返しながらも闇の魔法を乱打するクロムローヘッドに、全身を形作る魔法金属の耐久力を信じつつも、小回りが効くギリギリのサイズの戦斧を、時に武器に、時に盾にと使い分けて戦う銀騎士。


 と、そんな終わりの見えない消耗戦が始めてどれくらいだろうか。

 数度のトライでようやく蒼空によるスキャンが成功したようだ。


「良っし100%――と、これは面白い作りだね。

 全部が全部そうじゃなくて、いろんな魔獣なんかの骨をパズルみたいに組み合わせてるんだ。

 復活のギミックは空魚の骨なんかを利用しているのかな?」


「じゃあ、空魚の骨を壊せばいいってこと?」


 蒼空を操るアビーの考察に、戦闘中にもそんな問いかけが出てしまうのは研究者が故なのだろうか。


「ううん、そんなことしなくても大丈夫。核らしきパーツを見付けたから」


「それは朗報だ。

 で、どこがそのパーツなんだい?」


「それがどうもその核らしきものは頭蓋骨のパーツの中に収められてるみたいでね」


「ああ、それはちょっと面倒かも」


 その部分を破壊するなら簡単だが、今回の目的は新たな魔導書作成の為にシンボルを回収が必須。

 その核らしき部分がシンボルであることがほぼ確定だと考えると、それを破壊してしては意味がない。

 そうなるとだ。

 どうやってクロムローヘッドを止めるかであるが――、


「邪神召喚の儀式から生まれた個体だけに、切り離して浄化でもしてやれば、

 再生を防いで機能停止に持ち込めると思うんだけど、どうかな?」


「だったらアンカーを使うのがいいんじゃない」


「アンカーってなんだったっけ?」


 訊ねるアビーに集中を見出したか、サイネリアはモニターの向こう、クロムローヘッドが使う闇魔法・暗黒槍が避けられないと、銀騎士に防御姿勢を取らせながらも。


「いつだったか、店長が山登りに使ってた腕からワイヤーが出るギミックだよ。

 アレであの山羊みたいな頭蓋骨を引っこ抜けないかな」


「ああ、出発前にいろいろ試した時、使った気がする。

 やってみよう」


 とはいえアンカーはこれまでほぼ使うことがなかった機能である。

 さすがにぶっつけ本番は不味かろうと、サイネリアは暗黒槍の着弾から一気呵成にと、銀騎士に襲いかかるクロムローヘッドの攻撃を回避・防御・往なしとなんとか耐えきりバックステップ。

 大きく距離を開けるといろんな方向から飛びかかってくる影蜥蜴の一匹にアンカーを射出。

 それがどのような動きをするのかを何度か確かめた上で、


「試しておいてなんだけど、このままやって通じるかな」


「どうなんだろう?

 魔法生物の学習能力は個体によってまちまちだからね。

 とりあえず、目隠しに唐辛子爆弾を落とすから、それに紛れてやっちゃうってのはどうかな」


 続く提案に「うーん」と難しそうな声を出し。


「アンデッドは魔素を見てるから大丈夫?」


 アビーに訊ねると、


「うん。

 だけど、ワイヤー自体には魔素が介在していないし、弱い風の魔法が込められてるから、それが撹乱になるんじゃないかって思うんだけど」


「成程」


「だめだったら、もう一発、風のディロックを落とすから」


「わかった」


「じゃあ、用意が出いたら合図をちょうだい。タイミングを合わせるから」


 そこからしばらくは再び戦いに集中――、

 まだ残る影蜥蜴の数を減らしながらも、数合の打ち合いの後、なんとかクロムローヘッドの腕を一本、斬り離したところで、


「いま――」


 鋭い声に唐辛子爆弾が落とされ三秒――、

 銀騎士とクロムローヘッド、そして多くの影蜥蜴を巻き込んで赤い霧は広がり。

 視界が赤い煙で遮られる中、魔素、熱源、空気の流れなどを読み取る銀騎士の情報を頼りにサイネリアは銀騎士の右手に備わるアンカーを射出するのだが、


「避けられた?」


「駄目だったかぁ」


「いや、まだ行ける」


 サイネリアがタップしたのはアンカーの巻き戻しボタン。

 すると、クロムローヘッドから外れ、どこかへ飛んでいってしまったアンカーヘッドが急激に引き戻され、ヘッドから三方向へ飛び出す引っかかりの一つがクロムローヘッドの肩口に引っかかり、体が軽いクロムローヘッドはそのまま銀騎士の下へと引き寄せられ。


「アイアンクロー」


「おおっ――」


 気合の声と共に繰り出した掌がクロムローヘッドの頭蓋を捉え、


「ドロップキック」


 その勢いから腹に蹴り。掴んだクロムローヘッドの頭を引っこ抜き。


「からの〈浄化(リフレッシュ)〉」


 浄化の魔法を発動。

 すると、クロムローヘッドの頭蓋骨から黒い影のようなものが光に溶けて消えて、蹴り飛ばさえた体がガシャリと崩れる。

 その後、頭蓋と体を銀騎士(アビー)蒼空(サイネリア)で手分けして確認(スキャン)

 安全を確かめると、その素材とついでに影蜥蜴の皮を回収。


「予想はしてたけど他がボロボロになっちゃったね」


「そこは仕方がないんじゃない。それよりも回収したものを確実に持ち帰らないと」


「でも、これでようやく材料が揃ったね」


「うん、これが届くのが楽しみだよ」

 ◆今回登場の魔法生物


 影蜥蜴……クロムローヘッド(を形作った魔法儀式)によって生み出されている魔法生物。儀式によって汚染された影を外皮に動く魔素そのものといった生物。(イメージとしては水風船に近い)


 クロムローヘッド……邪神を崇拝するカルト教団が邪神を呼び出そうとして生まれた魔法生物。

 邪神を崇める為、強力なアンデッドの素材を基礎に作られたシンボルに、各種儀式に使った魔導器。

 捧げられた生贄の血を元に形成されている為、アンデッドのような姿になっている。


◆今更ですが、サイネリアとアビーが似たタイプの為、ボク・私の一人称以外、口調に特徴が出しにくいのが微妙に辛いです。


◆とりあえず、このお話でこの章は終了となります。

 とはいっても、次回からも幕間的なお話が続きますので微妙なところなのですが……。

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