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●身柄引き渡しの現場01

◆今回の主役は亡国のちょっと特殊な政府職員さんになります。

 ハイエストの幹部メンバーが捕らえられた。

 そんな情報がもたらされたのは、そろそろ冬物のジャケットをクリーニングに出そうかと考え始めた十月半ばのことだった。


 なんでも、ちょっとしたイザコザから、数名の戦闘員を捕らえたはいいものの、その処分に困り、引き取り先を探している組織があるのだという。

 なんだそのいい加減な理由は――、

 酔っ払いを保護したシティポリスじゃないんだぞ。


 ちなみに、ここで出てくるハイエストというのは、もともと我が国の特殊部隊に所属していた超能力者が中核となって作り上げられた組織のことである。

 目的・主義主張こそ不明であるが、最近になって国内外でのテロ活動を活発化させており。

 現在、我が国の頭痛の種の一つになっている組織だ。

 今はまだ、その活動が一般に認知されていないので大事になってはいないものの、今後のことを考えると、少しでも情報を入手しておきたいところである。


 私は部下に命じて、この件の詳しい情報を集めさせることにする。

 すると、この情報はどうも日本で要人警護などを行う一派から出されたもののようだ。

 詳しい名前こそ伏せられてはいるが、ハイエストの捕縛にはあのNINJAが関わっているらしい。


 ただ、そういうことなら先の確保理由も理解できなくはない。

 日本といえばスパイ天国と揶揄される程、危機意識が低い国として認知されることが多いが、それはあくまで表向きの話で、裏ではNINJAやSAMURAIなどのクランがしっかりとした守護・諜報活動を行っていると聞く。

 おそらくはそうしたクランが、活動の中でハイエストとかち合い、戦闘になって捕らえたはいいものの、その処分に困っているといったところだろう。


 だったら、このまま交渉を進めても問題はないか。

 ただ、交渉に関しては私が中心となって秘密裏に進めなければならないだろう。

 なにしろ相手は戦闘・調査能力に優れた超能力者集団だ。

 どのような方法でこちらの動きを掴まれるかわからない。

 そう考えると、情報を知る人物は少ない方がいいからだ。

 それに、ハイエストの工作員を捕まえるような手練を実際に目で見て、情報を得ておきたいということもある。

 まあ、そういった面々が取り引きの場に直接訪れることは滅多にないことだが、多少なりとも顔繋ぎのようなことができれば、後に似たようなことがあった時に融通が効く場合がある可能性もあるだろう。


 ということで、私は当初からこの件に関わっている部下に相手側との接触を図らせ、交渉をしていくことに――、


 しかし、いざコンタクトをとってみると、その後の交渉は思いの外スムーズに進んでいった。

 引き渡し額などで多少のやり取りはあったものの、それ以外の条件交渉はほぼ無く、半月も待たずに受け渡しが決定したのだ。


 ただ、このスピード決着の裏側には、捕虜の奪還を目論むハイエストの動きが関連しているようだ。

 考えてもみれば、相手は日本の諜報などに関わる組織である。

 それが逆に調べられているという状況はあまりよくないのだろう。

 重ねていうがハイエストは超能力者集団だ。

 私達がそうであるように、普通なら思いもよらない方法で内情を探られるとなれば、組織の都合上、気が気ではないのかもしれないのだ。


 と、そんなこんなで正式な受け渡しが決まったところで、私は信頼のおける上層部に事の成り行きを報告し、バックアップを頼むと共に用意してもらった輸送機に飛び乗り現地へと向かう。

 そして到着早々、現地関係者と受け取りの準備を進めていくことになるのだが、今回、相手側は捕らえた者共を私達が滞在することになる基地まで届けてくれるのだという。

 正直いって、これはありがたい提案だった。

 これがもし別の場所での引き渡しとなっていた場合、取り引き中の失敗が即国際問題に――なんてことにもなりかねなかったからな。


 まあ、それはこの基地での取り引きでも変わりないのだが、基地内での問題ならある程度のもみ消しも効く。

 おそらく相手もそういった計算でこちらまで届けてくれるという判断になったのだろう。

 まあ、なんにしてもこちらの手間が少ないのは助かるというものだ。


 と、忙しなくも時間は過ぎていき、ついに訪れた受け渡し当日――、

 私と数名の部下、そして警備を担当する現地陸軍兵士、一個小隊四班が、今回の取り引きの現場となる、基地内部の格納庫(ハンガー)へと集まる。

 そして、周辺警備の者たちがそれぞれの配置についたところで、

 基地に入る際の手続きの関係からか、予定時刻からやや遅れ、格納庫の中に一台のセミトレーラーが入ってくる。

 どうやら、あのトレーラーに捕らえられたハイエストの戦闘員が乗せられているようだ。


 ゆっくり入ってきたトレーラーが、今日の為に空にされた格納庫の中央で停車する。

 降りてきた運転手とその助手によって後部ドアが開かれる。

 開かれたトレーラーからまず降りてきたのはレスラーのような老人と小柄な少女だった。

 一見するとこの現場に不釣り合いなこの二人。

 しかし、まとう雰囲気、その所作から只者ではないことを察することができる。


 私は彼等の後に控えるように降りてくる青年達にも目を配りながらも、彼ら二人に声をかける。


「ミスター、貴方が責任者ですか?

 私はジョン(・・・)マクレーン(・・・・・)。今日の取り引きの最高責任者になります」


 私のあからさまな名乗りに手を差し出してきてくれたのは老人の方だった。

 彼はその白く長い顎髭を軽く撫で、


「儂は加藤段十郎じゃ、よろしく頼む」


 あまり面倒なやり取りしたくないのだろうか、「早速で悪いのじゃが」とすぐに引き渡しに入りたいとの旨を伝えてくる。

 しかし、それはこちらとて同じこと、

 この基地内なら安全だと思われるが、なんらかの方法で内情を探られることはあるだろうからな。


 私はすぐに加藤を名乗る老人の提案を受け入れ、この現場の警備担当となる陸軍大尉へと視線を送る。

 すると、格納庫奥に唯一駐められていた護送車がゆっくりとこちらに近づいてきて、ようやく身柄の受け渡しとなるのだが、私はトレーラーから降ろされた面々の顔を確認して改めて驚く。

 サムとボブのリバイブ兄弟にサイレントスナイパー。

 それはハイエストの戦闘員の中でも名の知れた者達だった。

 資料にはあったが、まさか本当に捕まっていたとは――、

 しかし、真に驚くべきは彼等の背後に見える男の存在である。


「ウルフパック……」


 それはかつて我が国の特殊部隊にあった一人。

 境遇や能力から皮肉めいたあだ名を付けられながら、そのあだ名を逆に揶揄するような戦術を自ら生み出し、実力ではねのけた強兵。

 そして、現在は例の組織にて、テロ活動の尖兵――というよりも狂戦士のような扱いを受けている男でもある。

 そんな男が大人しく捕まっているという光景にも驚きであるが、

 ハイエストがここまでの戦力を投入して、日本でなにをやっていたのかも気になるところだ。

 ここは一つ探りを入れてみるかと、私は両脇を屈強な青年に押さえられ、トレーラーから降ろされるウルフパックを横目に、加藤に近付き話しかける。


「随分と大物が混ざっているようですが、彼等はこの日本でなにをしていたのです」


「それなのじゃが、此奴らは儂らが捕らえたのではないのでの。詳しいことは話せんのじゃ」


「そうですか――」


「ただ、情報が欲しいのなら、お主の国の魔女と交渉することよな」


「魔女ですか」


「問題の当事者じゃからな」


 魔女といえば、ハイエストの前身となる部隊の中に今もそのような存在がいると聞くが、それがハイエストとどんな関係にあるのか?

 可能ならもう少し詳しく話してもらいたいところだが、加藤の反応を見るにこれが精一杯の譲歩なのだろう。

 とあらば、ここは無駄な追求はなしにして、


「しかし、まさかあのウルフパックがああもなるとは」


「ふむ、お主の言いようだと、そのウルフパックというのは其奴のあだ名のようじゃが――」


「はい。良くも悪くも、元はそのコードネームが許されるような活躍をした軍人で、かなり危険な男と聞いていたのですが、それがあの状態とは――」


「それは彼奴らが身につけている拘束衣のおかげじゃの。あれはかなり丈夫に作ってあるらしいからの」


 私からすれば、その拘束衣は特別なものには見えないが、彼がこういうからには、見た目以上のなにかがあるのだろう。


「それとじゃな。彼奴らが大人しくしているのにはもう一つ理由がある」


 と、加藤が側に控える青年に目配せすると、アタッシュケースが一つ運ばれて来る。

 彼はそれを受け取ると我々の方を見て、


「見せる前に一つ注意じゃ。

 この中身は少々見た目が悪いのでな。特にそちらのお嬢さんなどは見ん方がいいじゃろ」


 加藤が注意したのは私の部下だった。

 彼女には前段階の交渉にあたってもらったということで、この場にも同席してもらっていたのだが、どうやらこのアタッシュケースの中身は、彼女にとっては刺激が強いものになるようだ。


 さて、なにを見せられるのか?

 これは目を離すことができないと、忠告をされた部下も含めて、私達が注目する中、

 開かれたアタッシュケースに収められていたのは、切り取られた肉体の一部だった。


「きゃあ」


「な、なんですかこれは、こんなのなんの意味があって――」


「慌てるでない。これはお主が思っているようなものではない」


 悪趣味と言わざるを得ないその中身に、思わず私の声が大きくなる。

 ただ、加藤はそんな非難の声を穏やかながら圧力のある口調で無理やり抑え込み。


「さすがに触れとは言えんから、これを使う」


 手に取ったのはアタッシュケースの片隅に入れられていた赤い液体の入った小瓶。

 曰く、これはトウガラシエキスを濃縮したものとのことなのだが、

 加藤はそれを付属のスポイトで吸い取ると、悪趣味極まりないアタッシュケースの中身にポトリと垂らし。

 直後、「ア――」と悲鳴が叫びがハンガーに響き渡る。

 悲鳴のする方に振り向けば、そこでは先ほど話題に上がったウルフパックが拘束衣のまま藻掻き苦しんでいて、


 これは一体?


 混乱する我々に加藤が言うのは、


「このケースに収められているこれらは切り離されているように見えるが、繋がっているのじゃよ」


「繋がっている?」


 それはどういう意味なのか。

 いや、これはもしかして――、


「ESP?」


「どう捉えてもらっても結構じゃが、結果はいま見てもらった通りじゃ。一応、言っておくがくっつけることも出来る。どう扱うかはお主達次第ということよ」


 つまり、彼等はこれを人質の交渉材料として使えるということか。

 なんと悪辣な。

 しかし、これがこのまま渡されるということは我々としては助かるのか。

 まったく、この取引相手は予想以上に底知れない相手のようだ。

◆こういうお話は、映画とか、海外ドラマで見る分には楽しいですが、実際に書くとなると大変ですね。

 本来なら、この手のやり取りは、かなり慎重に、多くの人員を割いて進めるでしょうから。

 というか、海外ドラマの主人公さん達のなんでも自分で解決していくパワー、半端無いって思います。

 大統領本人がテロリストと戦ったりとか……。


 ちなみに、ジョン・マクレーンさんはあえて(・・・)わざとらしい偽名を名乗っています。

 そして、加藤はあえて(・・・)本名を名乗っております。


◆コロナでもインフルでもありませんが風邪を引いてしまいました。

 次回投稿は水曜日を予定しておりますが、感想などが滞ってしまうかもしれません。

 ご理解の程、よろしくお願い致します。

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