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監視者と進路の話

◆今回、最後に同じ話の別視点における会話劇がついております。

「「「見張られてる(ですか)?」」」


「やっぱり気付いてなかった」


 それは、魔女のみなさんが地元に帰り、文化祭も目前に迫ったある日の放課後――、

 その日は少々厄介な宿題を出されてしまったということで、僕達はみんなで協力して宿題を片付けようと、文化祭の準備に部活とそれぞれの用事を済ませた後、合流して僕の家へ。

 しかしその途中、粘りつくような視線を感じた僕は、家につくなりそのことをみんなに伝えると、元春に正則君、次郎君の三人が素っ頓狂な声を上げ、正則君についてやってきたひよりちゃんが「あっ」と可愛らしい声で言ってくるのは、


「もしかして取材です?」


 ひよりちゃんが口にした取材というのは例のボヤ騒ぎに関連する話だろう。

 ただ、あれは――、


「母さんが手を打ってくれたから無いと思うよ」


 学校でのボヤの件は――元春は別として――僕も学校もあまり大袈裟なことはしたくないと、母さんを通じて感謝状の類も断ってもらっているから、取材がくることなんて無いハズだ。

 そもそもマスコミ関連の人達は、そにあが日本に来たばかりの頃にいろいろとやらかしているから、個人的な暴走を除いて、僕達が取材対象になることなんてまずあり得ない。


「それに相手はプロだから」


「「はっ?」」


「プロ――というとイズナさんの関係者とかですか?」


「うーん、タイミング的にたぶんハイエストの関係じゃないかな」


「ああ、志帆さんが襲われたという例の――」


 プロと聞いてすぐに母さんを思い浮かべる辺り、次郎君の頭の回転の速さは流石だけど、タイミング的にはハイエスト関連の監視と考えるのが一番わかりやすい。

 と、そんな話をしながらも、僕は居間に居たそにあに手振りで挨拶。

 みんなに転移を先に譲って家の外の気配を軽く探ると、しっかり戸締まりを確認してから、そにあの口へ。

 そしてゲートに降り立つなり、元春がさっそく話の続きをと――、


「しっかし、見られてるってわかってんなら捕まえた方がいいんじゃね?」


「それなんだけど、母さんから言われているんだよ。そういう人がこっちに来たら泳がせておいてって」


 母さん言わせると、そういう輩は下手に動き回られるよりも、一箇所に目を向けさせた方が面倒が少ないとのこと。


「だから、みんなも帰る時はこっちが気付いてることに気付かれないように気をつけてね」


「マジか――、

 てか、そういうことなら教えてもらわねー方がよかったぜ」


「ああ、見られてるってわかってるとどうもな」


 と、演技とかそういうのが苦手な元春と正則君はそうだよね。

 だけど正則君にはひよりちゃんがいるし――、


「元春ってもとから挙動不審だから」


「「確かに――」」


「って、おい」


 と、幼馴染ならではのコンビネーションがあったところでモルドレッドの股下を通過。


「けど、いきなり襲ってくるなんてこともあり得るから、それだけは気をつけてよ」


「襲ってくるかもって、実際襲ってきたらどうすんだよ」


「その時は逃げるなり、迎え撃つなり、好きにして構わないよ」


「迎え撃つって、相手はプロなんじゃねーの」


「そうなんだけど、みんななら逃げに徹すれば平気じゃない」


「まあなぁ」「イズナさんにも鍛えられていますし」


 そう、そもそもここにいるメンバーは母さんのブートキャンプでいろいろと鍛えられている。

 加えてアヴァロン=エラで魔獣との戦いを経験しているので、たとえ相手がワイバーンでも逃げ切れるくらいの実力があるのだ。


「それに僕達の通学路とか家の周りはいろいろと仕掛けがしてあるから」


 ただ逃げ回って時間を稼ぐだけでも対策としては十分(じゅうぶん)である。


「しかし、つってもな。あっちだとブラットデアとか時間制限があるだろ」


「別にブラットデアは使わなくても大丈夫だと思うけど。

 もしブラットデアの魔力が尽きても、いまの元春ならそのまま動くことくらい出来るんじゃない」


 元春の言う通り、地球でブラットデアを使う場合、魔素濃度の関係から、その稼働時間に制限がある。

 ただ、相手はあくまで索敵要員。

 たとえ銃器を持ち出してきたとしても、魔法金属製の鎧を装備していれば殆どの攻撃は防げると思われ。

 ひよりちゃんにしても、ミストさんが作ってくれたインナーやら各種魔法のアクセサリなんかを渡してあるから、たぶんバズーカでも持ってこない限り安全だろうし。


「とにかく、家の近所にはソニアが仕掛けたいろんなマジックアイテムがあるから、適当に見て逃げ回ったりしててくれれば、後はこっちでなんとかするから」


「適当って、ハイエストってヤツ等、そんなヨエーの?」


「戦闘に特化したメンバーでも義姉さんと佐藤さんで完封できてたし、幹部クラス? まあ、なんか強い人でも出て来ない限り大丈夫だと思うよ」


「てか、あの二人って普通にツエーだろ」


「装備込みなら、元春だってそこまで変わらないと思うけど」


「いやいや志帆姉だぜ」


「たしかに志帆姉はな――」


 うん、たしかに二人の言わんとすることもわからないでもないけど。

 なんて、そんな話をしている間にも万屋に到着したようだ。

 そして、店内に入ってもまだ真面目な話をしていたからか、玲さん達が元春を見て「どうしちゃったのコレ?」と聞いてきたので、ここまでの会話を軽くまとめて話したところ。


「ふーん、そんなことがね」


「しかし、イズナ様がそのような方針ならば、対策はしっかり施されているのではありませんの」


「まあ、そっすよね」


「その辺はオーナー(ソニア)も自重していませんし」


「考えてもみれば、虎助んとこは前にもやらかしてるからな」


 と、最終的に話は巡り、そにあが家に来た時の騒動を思い出したのか、一番心配していた元春も遠い目をして納得。

 とはいえ、相手のことを考えると元春達の安全も考えないとだから、その辺は後でソニアに相談するとして、


「で、あんた等は雁首揃えてなにやろうってのよ」


 と、玲さんが聞いてくるのは、僕達が和室のテーブルの上に勉強道具を広げたからだ。


「宿題っすよ。もう文化祭は目の前だってのに数学の三宅がアホみたいな宿題を出しやがって――」


「あれ、でも、あんた達、別のクラスとか言ってなかった?」


「はい。ですが、今日はちょうど授業の進みが同じだったみたいで」


 玲さんに応えるのは次郎君。

 それに玲さんが「へぇ――」と僕が出した教科書を手に取って、それをペラペラと捲り。


「いまの子は難しいのやってるわね」


「難しいって玲っち、俺らとそんな離れてないっすよね」


「感覚的なものだから」


 玲さんはそう言うが、玲さんは義姉さんの一つ下になるから、やっている勉強は変わらないハズだと思うけど。

 やっぱり異世界に連れて行かれ、勉強とは無縁の世界にいたブランクは大きかったとか?


 そして、久しぶりにじっくり教科書を見たせいか、玲さんは一通り教科書を捲り終わると「はぁ」と重いため息を吐き出し。


「退学になる前に帰りたいわ」


「四回留学したら終わりなんでしたっけ?」


「らしいわね」


 これは大学に通っている人でも意外と知らない人は多いんじゃないだろうか。

 調べてみると、大学というのは四回留年になると除籍する決まりになっているそうで、

 大学によっては『二年連続留年した段階で除籍――』なんてルールがあるところもあるらしいのだが、幸いにも玲さんが通う大学はそうではないそうで、

 と、そんな話をしていると、ここで何故か下級生であるハズのひよりちゃんから、宿題の解き方を教えてもらっていた正則君がノートに目を落としながらポツリと一言。


「元春は留年とかでフルで大学通いそうだな」


「否定はすまい」


「そこは否定しようよ」


 本当にそうなりそうだから。


「でも、そうなったとしても最悪ここで稼げるし、別にいいんじゃね」


 いや、正直ここも何時なにがあるかわからないし、千代さんにも怒られそうだから、あんまりウチを頼りにしてもらって困るんだけど。

 ただ、元春ならまかりなりにも錬金術も使えるし、なんだかんだで食いっぱぐれることはないのかな。


「それに、次郎は別にして俺等はそんなスゲー大学行くんじゃねーから、そんな心配いらなくね」


「なんで僕だけ別なんですか」


「なんでって次郎は東大とか行くんだろ」


「えっ、そうなの? すごいわね」


 驚く玲さんに「いえいえ」と謙遜、そのまま反論に繋げようとする次郎君。

 しかし、ここで元春がそんな次郎君の発言をぶった切るように、


「コイツ、見た目通り、スッゲー頭がいいんすよ」


「でも待って、あんた達って同じ学校なんでしょ。それってダイジョウブなの?」


 基準を元春なんかに合わせると玲さんの懸念も尤もなものにも思えるのだが。


「玲っちさ、俺らの学校、いちおー進学校なんだぜ」


 元春の発言に胡散臭そうな顔をする玲さん。

 ただ、元春の言っていることも決して間違っているわけではなく。


「元春はお金とかそういうのがかかっていると本気出すタイプですから」


「ああ、そういうこと」


 と、あんまりにもあんまりな説明ではあったけど、玲さんにはこれで納得してもらえたみたいだ。

 そう、元春は中学三年生の夏、母親である千代さんがぶら下げた餌につられて猛勉強して、いまの高校に合格したのである。

 その辺り、息子の性格を完璧に把握しているところが千代さんらしいけど。


「ちなみに、ノリはスポーツ推薦っすから、俺よりもバカっすよ」


「――っ、ふだんの点数はそんな変わんねぇだろ」


 あまり誇れたことではないけど、元春と正則君の点数はふだん赤点ギリギリの低空飛行だ。

 ただ、それも最近はポーションブーストもあって、随分と改善されてきていて。


「って待てよ。そうすっと俺もスポーツ推薦みてーなのでいけんじゃね」


 正則君を見て、いいこと思いついたとばかりに頭上に電球を閃かせる元春。

 たしかに、元春が全力を出せば、スポーツ推薦をもぎ取ることも不可能ではないかもしれないけど。

 そもそもそういう推薦にも基本的な学力は必要で、


「あのさ。スポーツ推薦だとそっちで結果を出さないとってことになると思うけど、元春はそれでいいの?」


 スポーツ推薦ということは、つまるところ、推薦を受けたその分野での活躍が見込まれるということだから、それで大学に受かってしまうと、元春があまり好きではない運動系の活動に巻き込まれるんじゃないか。

 僕がそう指摘すると、元春はひよりちゃんに勉強を教えてもらう正則君を見て首を振り。


「ああ、そういうのはノリくらいで十分か」


「俺は普通に勉強するぞ。最近だと小テストでも結構点数とれてるからな」


「おいおい、ノリさんよ。嘘はよくないぜ」


「嘘じゃないからな」


 実際、最近の正則君は勉強も頑張っている。

 将来のことを考えて、日々ひよりちゃんに仕込まれているのだ。

 と、そんな事実を正則君の隣でニコニコするひよりちゃんから感じ取ったのか、元春の勢いが一気に消沈。

 僕はこの隙を狙うように――、


「とりあえず、宿題を片付けちゃおうね」


「はい」


 元春を席につかせて、ようやく宿題に取り掛かるのだった。



   ◆


「なあ、これバレてないか、あの坊主頭の動きとか明らかにおかしいし」


「相手は一般人だという情報だが」


「てゆうか、そのデータ、実際まともなのかよ。

 消えたチームの報告とか、生きたままバラバラにされて運び込まれたってなってるぞ」


「信じられないのはわかる。

 しかし、サイコメトラーの報告だぞ」


「知ってるけどよ。

 それをやったのスカウト組だろ。

 しかも遠隔での能力行使ってなると信憑性がな」


「遠隔操作の陣頭指揮をとっていたのは副官という話だが」


「それなんだよな。

 副官がいうなら、間違っていないんだろうが、報告そのものが突飛すぎんだろ」


「たしかにな。

 ただ、あえてそうしているとは考えられないか」


「何の為にだよ?」


「例えば、組織にどれくらいの能力者がいるのかを探る為とか?」


「って、お前、ここはジャパンだぞ。

 相手が素人じゃなかったにしても、そんな裏をかくようなことしてくるか」


「まあ、これが表向きの組織ならお前の言うこともわからないでもない。

 だが、相手がNINJAのような裏のものなら、そういうこともあり得るんじゃないか」


「NINJAとか裏の者とか――、

 ハハッ、こんな時になんの冗談だ。

 お前、お前、ジャパンに来たからってMANGAの読み過ぎだぞ」


「いや、実際この国にはそういう化け物もいるんだ。

 俺は前の仕事で出会したことがあるからな」


「マジか。

 じゃあ、さっきの坊主がその化け物だっていうのか」


「そうとは言わないが……、

 冷静に考えてみると、今日の調査、おかしくなかったか」


「なにがだよ」


「ただ高校生を追いかけるなんて、楽な仕事のハズだろう。

 しかし、今日の俺達はどうだった?」


「どうだったって、いつも通りだろ」


「そう、いつも通りだった。

 相手は一般の、しかも学生にも関わらず、俺達はいつも通りを要求されたんだ」


「そう言われると、そうかもしんねぇが……、

 そんなことあり得るか」


「わからん」


「わからんって――、

 とゆうか、それよりどうすんだよ。

 あいつ等、そろそろ分かれるみたいだぞ。追いかけるか?」


「止めておこう、不測の事態に陥った場合――、俺達だけだと不安だ」


「不安ってなあ。

 まあ、あんなリトルガールを追い回すとか、趣味じゃねぇからな。

 上からも深入りするなって司令が来てるみたいだし、いいんじゃね」


『懸命な判断ね』


「「――っ」」


「なあ、今の……、

 お前、チカラ使ったか?」


「いや、なにもしてないが、

 その様子だと聞こえたようだな」


「『懸命な判断ね』って女の声、だったらな」


「……カメラを置いて撤退だ。なにかヤバい」


「そうだな」

◆イズナによるブートキャンプには、息子の友人に対する心配がたぶんに含まれております。

 そして、裏で打っている手はそれ以上だったりします。

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