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●新人店員・安室玲

◆あけまして、おめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。

 一話前にお正月特別編も投稿してみましたので、よろしければそちらもお願いします。

 わたしの名前は安室玲。

 本当なら、今ごろ平和なキャンパスライフを送っていた女子大生だったハズなんだけど。

 何の因果か、どっかのバカ連中のおかげで異世界転移なんてものに巻き込まれ、このアヴァロン=エラというヘンテコ世界に身を寄せている。


 そんなわたしが今やっているのは、どこのラスダンの隠しショップなのかと文句をつけたくなりそうな万屋の店番だ。

 店長の虎助が文化祭の準備やらなんやらで忙しいからって、最近はよくここの店番をやらせてもらっていたりする。


 まあ、それ以外にも、異世界転移の都合(?)で、元の世界では何故かわたしが留学していることになってるみたいで、その辻褄合わせからアルバイトをしなきゃいけないみたいなんだけど。

 最終的にはお金よね。

 ここでの暮らしのお金はお姉ちゃんがなんとかしてくれるって言ってはいるけど、やっぱ迷惑かけている分、わたしがしっかりその辺のお金は出さないと――ってなわけで、こうして店番をさせてもらってるってわけ。


 で、そんなわたしが何をやっているのかというと、常連さんの相手と商品管理。

 とはいっても、わたしは装備の手入れとかはまだまだ素人だから、棚の埃取りと在庫のチェックをしたら、後はお客様にお茶を出したりするくらいしかやれることはなかったりするんだけど――、

 いや、私にも手入れが出来る武器が一本あったわね。

 それはカウンターの前にある黄金の剣。

 彼女(?)の手入れだけならわたしにもできる。

 まあ、その手入れっていうのも、お客さんが触ったりすることで汚くなった持ち手のところを綺麗にするくらいなんだけど。

 ただ、駄菓子屋にしかみえないお店の中にあるこの剣がエクスカリバーとか、何の冗談って話よね。

 しかも喋るし。


 そう、とても信じられないような話なんだけど、この店の一番目立つカウンターの前にぶっ刺さってる、この黄金の剣は本当に本物のエクスカリバーなのだ。

 しかも、インテリジェンスソードとかいう自分でしゃべって動く武器なのである。

 ちょっと前、急に話しかけられた時は本当にビックリしたものだ。


 だって、虎助に頼まれてちょこっと店番をしていたら、いきなりグリップのところを綺麗にしてくれって言い出すんだもん。

 しかも、さらっと自分のことをエクスカリバーとか言い出すし。

 まあ、実はその剣がエクスカリバーだっていうのは結構前から聞いていたんだけど、普通そんなことさらっと言われて信じられる?

 もう、いきなり話しかけれらたあの時のノリツッコミは冴えに冴え渡ったと自分でも思ってるわ。

 ただそのせいで、それが冗談じゃなくて本当だと実践込みで証明された時には焦ったけど。


 ただ、そんなエクスカリバーさんのお世話も今日ばっかりは必要ないかな。

 何故かっていうとそれはマリィが来ているからだ。

 あの武器マニアな領主様がいる限り、わたしの出番なんてあるわけがない。

 というか、わたしなんかがお世話するよりも、ずっとしっかりとした整備をしてくれるしね。


 そもそもマリィはどこぞの国のお姫様って元春なんかが言ってたけど、本当にあの娘はなんなのって感じよね。

 お姫様が武器の手入れなんて普通しないでしょ。

 ってゆうか、毎日エクスカリバーさんと話してて、飽きることはないのかしら。

 まあ、マリィは領主様の仕事をしっかりしているから、そのストレス発散って意味合いもあるんじゃないかっていうのが虎助の話だけど。


 と、そんなマリィと、それよりも早くお店に来て、ずっとゲームをしてるマオにお茶を出していると、店の外に光の柱が立ち上り、ポンっと軽快な音を立てて、わたしの手元に小さな魔法窓(ウィンドウ)がポップアップ。

 その内容を読んでみると、ただお客さんが来ただけみたい。

 警戒のアラームが鳴ってないことからお察しよね。

 わかってはいたけど緊張した。

 なにせ、この世界には時に本物の化け物がやって来ることがあるんだから。


 あのカルキノス()とか、ふつうに出くわしてたら絶対にヤバい相手なのよね。


 と、わたしがゲートのカリアから飛んできた報告に、一人、心の中でブチブチ言ってると、お店の中に厳つい男性ばかりのグループが入ってくる。

 わたしはぞろぞろとお店の中に入ってきた強面集団にちょこっと怯みながらも、


「いらっしゃいませ」


「おっ、見ない顔だな。新人さんかい?」


 なんとか自然に挨拶できたかな?

 頭を下げるわたしにそのおじさん(?)は、意外にも気さくな感じで声をかけてくれる。

 聞けば、おじさん達はアムクラブとかいう街から来た常連さんで、依頼を受けて定期的にこの万屋までカレー粉なんかを買いに来ているみたい。


 てゆうか、高難度のダンジョンをくぐり抜けて、買っていくのがカレー粉ってどうなのよ。

 万屋(ここ)でスパイスなんかを取り扱っていることは聞いてはいたけど、実際にダンジョン探索なんかの事情も含めて本人達から聞かされると、驚きよりもツッコミの方が先にくるわね。


 でも、しっかり聞くと、今回おじさん達がここに来た理由は、カレー粉とかの調味料だけが目的ってだけでもないみたい。


「あと、ちっとお偉いさんからの依頼でいい感じのアクセサリがないかって頼まれてんだが見せてもらえるか」


 成程、ただのアクセサリなら店頭にも並べてあるけど、お貴族様とか、そういう人がつけるようなゴージャスなアクセサリは置いてないから、店に入るなりカウンターの方に来たってことね。


 でも、これってどうすればいいのかな?

 わたし、そういう商品がどこにあるのか聞いてないんだけど――なんて考えていると、ここでベルがプロのメイクさんが使う化粧箱のような大きな箱を持ってきてくれる。

 覗き込めば、その箱の中にはたくさんの宝飾品が見やすいように種類別に並べられていて、


 うん、これって総額何億万円?


 正直、これを渡されても、わたしは震えるしかないんだけど、ベルのフキダシを見るに、どうもここから好きなのを選んで欲しいみたい。

 ということで、わたしはできるだけそれに触れない(ノータッチの)方向で、ベルが用意してくれた無駄に豪華そうなその箱を右から左にスルーパス。

 おじさん達はその箱を覗き込んで相談を始めるんだけど。


「なあ、どれがいいと思う?」


「なんで俺に聞くんすか? こういうのはリーダーがビシッと決めちゃってくださいよ」


「そうそう」「だな」「(コクリ)」


 そりゃそうなるよね。

 わたしだって自分の一存で好きなのを選んでなんて言われたら困っちゃうもん。

 なんて思っていると、それが悪かったのか。


「……お前らも嫌がってないで決めろよな」


 おじさんは仲間のメンバーに面倒臭そうにそう言いながらも、わたしの方を見て、


「なあ、嬢ちゃん。オススメとかあるか?」


「お、オススメですか!? 」


「おうっ、最後に選ぶのは俺達なんだが、男の俺らが一から選ぶよりも、なっ?」


 なっ――なんて言われても、この流れからして、そのオススメで決まっちゃうパターンよね。

 それはさすがに責任が重すぎる。

 わたしは素直にそう言って選ぶのを辞退しようとするのだが、

 いざ断りを入れようとしたところ、重量感のある金髪となにかがわたしの横でわさりと揺れ。


「予算はいか程ですの?」


 おお、ここで高貴なるマリィ様のお助けですか?


「と、マリィの嬢ちゃんもいたのか、こりゃありがてぇ」


 どうやらこの二人は面識があるみたいね。

 マリィはおじさん達の予算と依頼主の性格や好みなんかを確認。


「そうなりますと、こちらのものを数点、購入していくのがいいと思うのですけど、依頼主との連絡は?」


「ああ、連絡できればよかったんだが、やっぱダンジョンを挟むと無理みたいでな」


 連絡をするっていうと、魔法窓(ウィンドウ)を使った念話通信?

 中継機を使えば他の世界とのやり取りも出来るみたいだけど、その繋がっている先がダンジョンだと、うまく念波が届かないってことかな。

 おじさん達が依頼人と直接連絡を取ることは難しいみたいで、


「でしたら、こちらの大粒の魔石を主軸に据えたネックレスを第一に、後は様々な意匠を施したものを選ぶのが無難ではありませんの」


「そうだな、そっちは嬢ちゃんもなんかこれってのはあったりするか」


「えっ、わたしもですか?」


「一人で選ぶよりも何人かで選んだ方が好みの偏りがなくなりますから」


「そういうこった」


 それでわたしにも選んで欲しかったのね。

 まあ、それでも責任重大な気もするけど、ここで断っちゃうのは空気が読めないか。

 ということで、みんなそれぞれにアクセサリを選んでいく中、わたしが控えめに「じゃあ、わたしはこれで――」とシンプルながら上品な――少なくともわたしはそう思った――指輪を選んだところで、リーダーのおじさんが「迷惑かけて悪ぃな」と言ってくれて精算タイム。


「あら、今回はとんぼ返りですの」


「前ん時に装備を一新したんでな。きょうは元気薬だけで我慢だ」


 おじさんはガハハと笑うとカウンターの上に金貨の詰まった革袋を置いて、


「じゃ、これで頼むわ」


 ここでベルが革袋の中身を数えておつりを用意。

 最後におじさん達を「ありがとうございました」と深々とお辞儀をして見送って、

 和室でくつろぐマリィに改めてお茶を出しながら。


「あの、ありがとう」


「気にしないでくださいまし、『困った時はお互い様』ですの。それに今回はわたしにも益があることでしたので」


「益?」


「一番に勧めたネックレス。(わたくし)がデザインをしたものですのよ」


 それって職権乱用とかそういうのじゃ――なんて一瞬思ったりもしたんだけど。


「安心なさい。彼等の話を聞き、考えた結果選んだものですから」


 えっと、それならいいのかな?


「それに、今回選んだものがすべて(わたくし)がデザインしたものではありませんのよ」


「……虎助のもあった」


 そう言って、テーブルの上の駄菓子に手を伸ばすマオである。

 やってるのがカジュアルなゲームだからって、片手で操作なんて器用よね。

 そして、それとかけてるって訳じゃないんだけど。


「あんた達ってホント、なんでも出来るのね」


「エレインがいますから、絵が書けさえすれば後はどうとでもなりますの」


 いや、わたしからするとデザインだけでもすごいと思うわよ。


「レイもやってみてはいかがです。ソニア様か虎助の目に止まれば店頭に並べられることもありますのよ」


「えっ、本当に――」


 だけど、ちょっとデザインして売れたらお金になるっていうなら、ちょっとやってみてもいいかな。

 と、そんな軽い気持ちで始めてみると、意外と熱中しちゃってたみたい。

 その後、学校が終わって出勤した虎助に声をかけられるまでデザインに没頭してしまうわたしだった。

◆ちなみに、今回登場したアクセサリは、魔獣の素材(魔石やきれいなウロコ、特殊加工された水晶、各種魔法金属など)を使っている為、地球では意外と価値が低かったり、つかなかったりするものがある為、玲が言っていた超高級品になるとは限りません。

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― 新着の感想 ―
[一言] 存在しない物質は、研究者以外には「新しいまがい物」でしかないでしょうからね それがどんなにきれいであっても、模造ダイヤと同じような扱いでしょうねぇ
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