【お正月特別編】干支談義
◆あけましておめでとうございます。
移動中になんとなく書いた特別編なので、ツッコミは無しの方向でお願いします。
それは、ある日の夕暮れ後、
テンクウノツカイであるルナさんがお店にやってきた。
ルナさんが突然お店に顔を出すのはいつものことだが、気になることが一つ。
それは、いつも銀色の頭の上にピンと立っているうさ耳が、今日は元気なく、横に垂れてしまっていることだ。
「ルナさん、その耳、どうしたんですか」
「ああこれ、いま日本とかでこういう耳の兎が流行ってるんでしょ」
「流行っているかどうかはわかりませんが人気がありますね」
ロップイヤーと言うんだったか、いつの頃からか、すっかりおなじみとなった垂れ耳の兎は人気の種類であるが、
「でも、その耳、大丈夫なんですか?」
「これでも神獣だから、耳をどうするのかなんて自由自在よ」
ルナさんは自分の耳を風船のおもちゃのようにピンと立ったり、へニョリと折れ曲げたりと健在をアピール。
「しかし、なんで急にまたそのようなことを?」
「ほら、今年って卯年でしょ。そっちに行くことが多くなるからオシャレの一つもしないと」
普通ならおしゃれの一つで済ませない肉体的な変化を簡単にやってのけてしまうのは、さすがは神獣というべきか。
「それで、ルナさんは地球にやってきて何をするんです?」
もしも、各地で試練が勃発されたら大変そうだと、内心で冷や汗をかきつつ、にこやかに訊ねてみると、それは神獣として存在感を示す場のようなものだろうか。
「干支関連の行事にいろいろと顔を出してみるつもりだけど、
兎が単体で崇められるような行事とかって無いのよね」
そういえば、端午の節句とか土用の丑の日とか、あと酉の市などはあるが、卯に関係する行事は聞いたことがないような。
「そもそも、干支のレース?
あの話がどうなのかって思うのね。私が競争で四番に甘んじるだとか、ビックリして『あの子』に道を譲っただとか、ありえないでしょ」
そして、スピード特化の神獣だけに、ルナさんは干支にまつわる競争に文句があるそうで、
続くルナさんの口ぶりからして、いま話題に上った『あの子』というのは虎の神獣になるのかな。
「牛ものんびり行くような性格でもあるまいし、大晦日に出発ってフライングじゃない」
たしかに、一日前に出発っていうのは少しズルいようにも感じるし、牛の神獣は干支の話にあるような真面目でのんびりな性格ではないとのことであるのだが、
「あれはあくまでお話ですから」
「わかってるけど、もう少し出番があってもいいと思うのよ。私、兎なんだけど」
たしかに――、
「あと、あの卑怯なネズミが主役っぽいのもどうなの?」
そういえば、あのお話で一番になったネズミは、猫を騙して牛に乗って、最終的に一位をもぎ取ったりなどと、あまり良い印象は無いような気がする。
「だから、私もネズミの罠にかかって――っていうのはどうかしら」
「どうと言われても――」
「だから、あたかもそれっぽくインターネットに流しておけば広まるかもだし、新解釈とかあるじゃない。あんな感じで実はこうだったって知らしめるってのはどうかってこと」
成程、そういうことですか。
しかし、ああいう新解釈モノは、ある程度、事実に基づいてのものであって、
それがルナさんの主幹となると――、
いや、そのモデルが神獣だとすれば、別に間違ったことでもないのか?
「ちなみに、どんな感じのお話になるんです」
とはいえ、その内容は確認しておかないと――、
別になにがどうするというわけでもないとは思うのだが、一応と続きを促してみると。
「やっぱり私が華麗に一位を取るお話とか」
「順位はそのままじゃないと不味いのでは」
根底の流れを替えてしまうと、混乱を招くというよりも、単純に別の話としてネットの海に沈んでしまうのでは?
そんな指摘にルナさんは「一理あるわね」と顎に手を添え。
「やっぱりネズミが悪いと思うのよ。黒幕ね。
競争で一番の驚異となる兎を陥れる為に虎と手を組むっていうのはどう?」
そんな重大な――、
というよりも、悪意のようなものが見え隠れする設定を僕に投げらても困るので、
ここは話題を変えて、
「牛はどうするんです?」
「ネズミが改造して自分の足にするとか」
本家より扱いが酷くなってる?
「兎までの順位はそれでいいとして、龍はどうするんです?」
「たしかに、龍も抑えないと厄介よね」
僕が知ってる龍がそれだとするなら、レースに出場している種族の中で、基本的なスペックは段違いだ。
「そういえば、話の中にネズミに騙された猫がいたわよね。
あとタヌキ、その二柱がネズミに騙されて龍の足止めをするってのはどう?」
そこで意見を聞かれても、僕はそのお二方にあったことがないので、なんとも言えないというのが正直なところで、
「だけど、あの二柱で祖龍のおじいちゃんを抑えるのは無理よね。機動力と防御特化だもん」
この場合、猫が機動力でタヌキが防御特化でいいのかな。
「もう、レースに出てる残り全部の動物を――、いや、さすがにそれは都合が良すぎるか」
そもそも、そんな状況だと、たぶんルナさんが一位で終わっちゃうんじゃないだろうか。
「だとすると――、
騙されやすそうな馬、猿、犬、猪がちょうどいい感じ?」
これも具体的な誰かを想像しているのだろうか、ルナさんはそう呟くと、
「作戦は順調に進んだけど、猿と犬の対立で龍が抜け出したっていうのが順当な流れかしら」
それなら原作とも乖離しないかな。
「それで我関せずと蛇がおじいちゃんに続いてゴール。次は馬だっけ?」
「そうですね」
「羊ちゃんが馬に惚れてて助けに入ってレースに復帰。後は本編の流れでいいんじゃない」
なにやら途中でラブロマンス的な展開になりそうではあるのだが、
「よし、まとまったわ。ネットにあげるわよ」
さすが神獣と言うべきか、ルナさんは僕と話しながらも簡単に原稿をまとめ上げてしまったみたいだ。
そのストーリーがどんなところに投下されるかは不明であるが、
とりあえず、ネズミ年の人への風評被害がいかないことを祈るばかりである。




