●ミストのお仕事頑張るぞ。龍の墓編
私はミスト、精霊の森に暮らすアラクネです。
今日はリドラさんと同郷のドラゴンさんのお墓のお掃除をみんなでしようと思います。
本当なら、龍の墓場に行けなかったドラゴンさん達の体は、龍の谷の奥深く、決められた場所に埋められるのが習わしだそうですが、
シャイザークさんでしたっけ? ドラゴンさんの体を操る蛇竜さんの件もあって、谷に埋めるのは気味が悪いと、こちらでお墓を作ることになったそうです。
ちなみに、その気持ち悪いという原因になった蛇竜さんの力のことですが、先にアヴァロン=エラで浄化がされてるってということで、私達が暮らす森に埋めても変なことにはならないそうです。
ただ、リドラ様を見ていただければわかると思うのですが、ドラゴンさん達は、みなさん物凄い魔力持ちなので、その体が埋められた周辺はやっぱり影響を受けるみたいで――、
「すっごいね」
「頑張らないと」
お墓掃除にやってきた私達が見つめる先にあるのは、こんもりと森を飲み込むようにできた小さな丘――ではなくて草の塊。
これはドラゴンさんの骸から漏れ出す魔力の影響で凄く育った植物だそうです。
一週間も放置しておくと、お墓が埋もれてしまうので、森のパトロールも兼ねて、私達が持ち回りでお墓の掃除をしているというわけです。
ということで、さっそくドお掃除を始めなくちゃなんですけど、その前に――、
「片付けちゃう前に素材になりそうなものを確かめよっか、レナレナちゃんお願い」
私が言うと、頭の上でぐでっと横になっていた妖精飛行隊のレナレナちゃんが「わかったよー」とふわり浮き上がって、まずは近くの草むらからと、その上をくるくると三回くらい見回ってくれます。
そして「う~ん」と空中で胡座をかいて、
「使えそうなのは龍爪花くらいかな。後は他の場所でも取れるし」
「じゃあ、その花だけ採って、他は草刈りの魔法で切っちゃおっか」
万屋さんが買ってくれそうな薬草をレナレナちゃん達に採ってきてもらって、風の草刈り魔法でいっぱいの草を片付けちゃおうと思います。
ちなみに、この草刈り魔法は、虎助様のお友達の元春さんが、お小遣い稼ぎに引き受けた家の草刈りをする為に作った魔法だそうです。
周りの被害を気にしないなら、もっとすごい魔法を使ってもなんだけど、それだと周りの草や木まで刈り取っちゃうかもしれないからってことで、このお仕事ではこっちの魔法を使っています。
さて、そんな草刈り魔法を使って、とりあえず目の前の草を刈り取っちゃっいます。
「じゃあ、刈り取った草を埋めちゃおっか」
「りょ~」
そして、刈り取った草は適当に置いておいたら悪い虫の住処になってしまうので、土魔法でちゃんと埋めないとなんですけど、
近くに埋めると、これまたドラゴンさんの躯の影響を受けてしまうそうなので、ちょっと離れたところに持っていかないといけません。
私達は刈り取った草を集めて運びます。
そして、土の魔法が得意が聖鎧様のガラティーンさんが掘ってくれた穴の中に埋めていくのですが、ここで現場で刈り取った草を集めていた仲間から歓声があがります。
なんでしょうと声のした方に戻ってみると、草を刈り取った先に色とりどりの実をつけた植物がありました。
それはフェアリーべりー。
とある精霊様が、人間に追われて困っていた妖精さんを助けるために作ったというお話が残っている特別な果物です。
私も何度かいただいたことがあるんですが美味しいんですよね。
本当なら本当に少ししか取れない果物だそうなんですが、ここはドラゴンさんのお墓の上ということで、すごくいっぱいの実が成っているみたいです。
こうなると草刈りは後回しですね。
私達は浄化の魔法で自分の体を綺麗にして、みんなで手分けしてフェアリーベリーを摘み取ります。
そして、綺麗に色づいた実を半分ほど採り終えたところで、
「いっぱい取れたね」
「おすそ分けができそうです」
「おすそ分け?
そういえば、前にマオ様が虎助様と約束したんだっけ?」
「うん。虎助様にはいろいろとお世話になってますから」
「じゃあ、これ、悪くならない内に持って帰らないと」
収穫したフェアリーベリーを新鮮な内に拠点に届けないと――、
ということで、フェアリーベリーは一緒に来た中で一番足が早い獣人のテンちゃんに任せて、私達は草刈り再開です。
「でも、その前に、このフェアリーベリーは植え替えた方がいいですかね」
これだけ育ったフェアリーベリーです。せっかくだから大事にしたいですとみんなに相談してみると。
「どうなるかわからないから、次に来た時に切っちゃわないように囲いだけ作っておいたら」
たしかに、これはレナレナちゃんの言う通りです。
ということで、草刈りのついでに切った若木なんかをつかって、簡単に柵を作り付けたりしていると、いつの間にか、いい時間になっていたみたいです。
フェアリーベリーを置きに拠点に戻っていたテンちゃんが戻ってきたところで「お昼にしましょう」ということになりました。
「やったお昼御飯だ」
「なにかな、なにかな。今日のご飯はなんだろう」
ちなみに、今日のお昼はキャサリンさん特製のホットドックとフルーツサンド。
あと、スープポットにポトフが入っているみたいです。
「ウィンナーいっぱいだね」
「野菜も食べないと体に悪いって虎助様が言ってたよ」
「レナレナさんだってイチゴサンドばっかじゃないですか」
そして、わいわいとおしゃべりをしながらお昼ごはんを食べた後、少し休んでからまた草刈りの時間です。
そうして、ときどき見つかる素材を摘み取りながら一時間くらい作業を続けていると、ドラゴンさんのお墓の周りにあった草の山はすっかり綺麗に片付きました。
「ようやくお墓の周りがきれいになりましたね」
私達が見上げるそれはドラゴンさんの血を混ぜて作った黒鉄の柱。
少し小さいそうですがオベリスクというものだそうです。
なんでも、これには浄化や循環の魔法式が刻まれているらしく、ドラゴンさんの躯から漏れ出す魔力を『効率よく循環』させるものってなことなんですけど、それでも草をこんなにボーボーにしちゃうドラゴンさんの魔力ってどうなってるんでしょうね。
と、そんなことを考えながらも、私達はところどころ蔦が絡みついた跡がついているオベリスクを持ってきたブラシで磨き綺麗にして、お供え物を用意します。
ちなみにお供え物は、この下に眠っているのがドラゴンさんということで、本当なら鶏肉がいいという意見が、特にリドラ様から上がったのですが、こんな森の中に鶏肉を置いておいたら、獣に荒らされてしまうのがオチということで、ここはお酒をお供えです。
そして、このお酒ですが、虎助様から提供されたジュンマイシュというとても美味しいお酒だそうで、チェルトヴカさんなんかはこれをお墓に備えると言ったら勿体ないと言っていましたが、私には――というよりも私たち種族には――お酒の美味しさがよくわからないので、あんなにも必死になる理由がちょっとわからないかったです。
さて、そんなお酒を妖精さん達に手伝ってもらって、オベリスクの天辺から振りかけたところで手を合わせて、ドラゴンさんの安息を祈ればお参り完了です。
ちなみに、このお祈りもいろいろな方法があるというか、ドラゴンさん達は歌うような遠吠えでお祈りとするそうなのですが、私達にそんな事はできないので、虎助様に教えてもらった方法でお祈りします。
虫の声、鳥の声、風のざわめきが聞こえてくる中、真剣に手を合わせる私達。
そして、たっぷりと時間をかけてお祈をしましたところで、
「じゃあ、帰りましょうか」
「うん」
「今日の夜ご飯はなんでしたっけ?」
「チキンカレー。リドラ様のリクエストなんだって
「それは期待だね」
◆鎮魂のオベリスク……埋葬された龍種の墓標として、磁鉄鉱と墓標の主たる龍種の血で作られた黒鉄の柱。素材となった磁鉄鉱の力で対象(この場合、混ぜられた血の持ち主)の魔力を循環させ、自然に還す機能が付与されている。
◆次回投稿は水曜日を予定しております。




