昼下がりの巨大蟹
◆長めのお話となります。
ちなみに、今回の敵のイメージは『某狩りゲームのタカアシガニをレイド戦で――』といった感じでしょうか。参加人数が多すぎて出番調整がてんやわんやでした。
それは五時間目のことだった。
必要以上にマニアックな歴史の西田先生の解説が途切れ、黒板の板書をしようとしたところ、突然目の前に魔法窓が現れ、こんな通信が飛び込んできた。
『虎助、巨獣ってのが来たみたい』
通信のお相手は玲さんのようだ。
どうやら魔法の練習をしていたところ、アラームが鳴って巨獣の来襲に気づいたとのことだ。
『ソニアに連絡は――』
『もうした。それでなんだけど、みんなが戦いたいってことになってて――』
みんなと言うと魔女のみなさんだろうか。
正直、僕としてはあまり賛成できないけど。
ここで最初から出番待ちをしていたのだろうか、すかさずソニアの声が差し込まれる。
『せっかくだからやらせてあげようよ。最近物騒なんだし、彼女達にも力が必要だと思うんだ。フォローもしっかりするから』
『大丈夫なの?』
『相手はただの大きな蟹だし、動きも早くないから、ハサミなんかの攻撃に気をつけていればいけると思うんだよね』
成程、送られてきた映像を見る限りでは動きも緩慢なようだし、きっちり安全マージンをとって戦えば危ない状況になることもほぼ無さそうか。
いや、無さそうではあるんだけど、ただ、それでも相手は巨獣である。
一撃でも食らえば、最悪のことだってあり得るので――、
と、そういった懸念には、ソニアにベル君にエレインと、みんなでフォローに回るから『大丈夫』だと。
そして、もしもの場合はエリクサーを惜しまずにエレイン君たちがフォローに入ってくれる言われてしまっては仕方ない。
まあ、それでも心配を口にすれば尽きることなんてないのだが、本人達の事情と強い意志があると言われてしまえば、僕としても強く反対はできないだろう。
なにより現在、学校にいるこの状況で、すぐに駆けつけたとしても戦闘は先に始まってしまうのだからと、僕は『仕方ない』とため息を吐き出して。
『……わかった。くれぐれも気をつけてよ』
『うん。いざとなったらベルやエレイン、それにモルドレッドだっているんだし問題ないよ』
◆
「みんなOKが出たみたいよ」
「「「「「「「「「「おお――」」」」」」」」」」」
「それで我々はどう動けば?」
「ええと、そういうのは全部、ソニアちゃんが取り仕切ってくれるみたいだから――」
『ということで、みんなにはこれからボクの指示に従ってもらうよ』
「了解しました。みんなもそれでいいな」
「「「「「「「「「「はい」」」」」」」」」
さて、懸念だった虎助の許可が降りたところで、改めて状況をまとめてみよう。
その化物――カルキノスが現れたのはお昼ごはんの少し後、
わたしが魔女のみんなに混じって、魔法の無詠唱化と魔力アップを兼ねて、ティル・ナ・ノーグっていう魔法アプリで戦闘訓練していた時のこと、
不意に目の前に魔法窓がポップアップ。
警戒色がふんだんに盛り付けられた注意勧告とけたたましく鳴り響くアラームに音に、何事かと思ってその魔法窓を見てみると、どうもこのアヴァロン=エラに巨獣という大きくて強い魔獣が迷い込んできたようで、
慌てて万屋に戻ったわたし達が見たのは、遠く見えるゲートに閉じ込められる、巨大怪獣かってくらいおっきい蟹。
と、そんなあからさまな巨大怪獣の登場に慌てるわたし達。
でも、その直後、この万屋のオーナーであるソニアちゃんからメッセージが飛んできて、
それによると、あの巨大蟹――名前はカルキノスって言うみたいなんだけど、それを倒すのは万屋の戦力で問題ないそうで、ホッと一息のわたし達。
ただ、カルキノスは巨獣の中でも比較的倒しやすいタイプの巨獣らしく。
ソニアちゃんが、『どうせなら、玲達がパワーアップするために倒してみないか』なんて言い出したの。
正直、わたしは最初、その提案は無茶過ぎるものだとしか思えなかったんだけど。
万屋からの装備の貸し出しや魔法の提供から、ベルやエレイン、そしてゲートの前に立つモルドレッドのフォローもつけるからと言われてしまえば心が動く。
そして、まずは小練さんが『そういうとなら私が参戦しよう』って手を上げのをきっかけに、続々と魔女のみんなも手を上げていってしまったとなると、小市民的な日本人であるわたしも黙っていられない。
結局、わたしも含めて、みんながやるということになっちゃって、さっきの報告に繋がったわけなんだけど。
ソニアちゃん曰く、カルキノスとの戦いに手を上げたのはわたし達だけじゃないそうで、後処理のことを考えると、ゲートの周りで戦うのはちょっと手狭みたい。
だから、戦場を変えるべく、ベルの誘導で万屋から離れる必要があるらしく。
そんな移動の最中に、とりあえずこれだけは頭に入れておいてと聞かされたのは、カルキノスと戦う際に気をつけるべき攻撃。
なんでも、ここまでエレインが戦った範囲で、カルキノスは長い手の薙ぎ払いと八本の足を使った踏みつけで戦っていたみたい。
それに必殺技のようなものとして酸を帯びた泡のブレスがあるらしく。
その泡ブレスはかなり強い酸攻撃ってことなんだけど、事前に口元をブクブクさせるモーションがあるらしく、回避するのはそんなに難しくないみたい。
そして最後に、未知の攻撃もあるだろうから警戒は怠らないようにと注意を受けたところで、わたし達は所定の位置に到着。それぞれの配置に散っていく。
ちなみに、戦場となるのはゲートから少し離れた荒野のど真ん中、
バリスタっていうおっきなボーガンみたいなのが屋上に設置された砦みたいな建物の周りみたい。
そこにおっきなドーナツ状の結界を作って、ぐるぐる回りながらカルキノスと戦うみたいなんだけど。
その前に、まずはカルキノスをこの砦の近くに誘導しないといけないそう。
ということで、タイミングを合わせて、万屋に――っていうよりも狙いはモルドレッドになるのかな?
結界が解除されて動き出すカルキノスにみんなが遠距離まで届く魔法を放つ。
その一方、飛び出していくのはエルフの男の子――じゃなくて、サイネリアのおじいちゃんであるジガードさん。
ジガードさんも例の警報とソニアの話を聞いて、この戦いに参戦したみたいなんだけど。
白盾の乙女という女性冒険者の前衛三人を引き連れて突撃していく様は、どこのハーレム主人公って感じよね。
まあ、実際には孫以上の年の差があるみたいなんだけど。
さすがリアルエルフ、見た目年齢が完全に狂ってやがりますよ。
と、わたしが飛び出していったジガードさん達にそんなことを考えていたところ、そのジガードさんがなにかをしたみたい。
カルキノスに走り込むジガードさんの前方におっきな木が斜めに勢いよく生えてきて、それがカルキノスのお腹に激突。
その巨体が大きく仰け反らせる。
と、それに合わせるように白盾の乙女の中で足の早いアヤさんとココさんが一番前の日本の足に攻撃を仕掛け。
その隙を付くように、いつの間にか、おっきな木に飛び移っていたジガードさんがその木を伝ってオンザヘッド。
からの、魔力を纏わせた剣でカルキノスのつぶらな瞳に突き刺し攻撃をするんだけど――、
ありゃ、抜けないのかな。
剣を突き立てたまま動かないでいるジガードさん。
そして、その背後から――というよりも、私達の背後から飛んでくる大きな槍のようなもの。
それはアビーさんとサイネリアさんが担当するバリスタによる攻撃だった。
あっちに引きつけて戦うってことで作戦通りといえば作戦通りなんだけど。
まだ、おじいちゃん逃げてないんだけど大丈夫?
と、そんなわたしの心配を他所にバリスタの矢がカルキノスに着弾。
ちょっとした丸太サイズのその矢自体は、その強力な殻に阻まれ弾かれちゃうけど、続けて無数の魔法が飛んできて――、
ちなみに、これはバリスタでの攻撃を合図に、わたしや師匠、白盾の乙女の魔法担当であるリーサさん、そして、地球の魔女のみんなが放つ予定だった魔法なんだけど。
これってジガードさん死んじゃったんじゃない?
けど、それはわたしの素人考えだったみたい。
「あっ」
気がつけばわたしの横をジガードさんが駆け抜けていったのだ。
なにがどうして後ろからやってくるのかわからないけど、ジガードさんは魔法が撃たれる前にしっかりカルキノスの頭の上から逃げていたみたい。
ただ、剣は諦めないといけなかったらしく、マジックバッグから予備の剣を取り出して、白盾の乙女のみんなが抑えてくれているカルキノスに、もう一度、切りかかっていくんだけど。
ぼーっとしてる場合じゃなかった。
わたしも攻撃に加わらないと。
そう、戦場に立ってる以上、わたしも戦力なんだ。
唖然としている場合じゃないと、魔法窓を使ってわたしが呼び出したのはとある魔法式。
いつもなら、さっきからの続きで〈光杭〉一択のところなんだけど、今回は水生生物(?)が相手だということで、万屋のオーナーであるソニアちゃんから〈放電球〉って雷の魔法の魔法式が送られてきていたのだ。
ちなみに、〈放電球〉はその単純な名前からわかるように、この魔法は下位の魔法。
ただ、低レベルの魔法にしてはなかなかの威力がある魔法らしく、動きが遅い相手にはうってつけの魔法みたい。
あと、もう一つ〈氷原〉っていう魔法のデータも送られてきた。
これは単純に地面を凍らす魔法で、相手の侵攻を緩めることが出来るから、余裕があったら進行方向に設置してくれってことみたい。
でも、まずば攻撃からよね。
わたしは魔法窓を使って空中に表示させた魔法式に魔力を流して発動させる。
「遅いわね」
バチバチという音を立てながらゆっくりと飛んでいくバレーボールサイズの雷の球に、わたしは呟く。
けど、ソニアちゃんの言う通り、威力はあるみたい。
当たると雷が足を伝って上と下に流れていって、カルキノスがあからさまに嫌がっているみたいだし、確かにこれは動きが遅い相手に効果がありそうだ。
ってことで、わたしは魔力の回復と相談しつつ、出来る限りの〈放電球〉を撃っていく。
そうして、しばらく〈放電球〉を使っていると、カルキノスの巨体が随分と近くなってきた。
だから、そろそろ逃げないといけないんだけど――、
でも、その前にこっちを試してみようか。
逃げる前にとわたしが用意するのは〈氷原〉の魔法式。
これで多少なりともカルキノスの足止めが出来ればいいんだけどと、魔力を流してみると、わたしの手の平から冷たい波紋のようなものが溢れ出して。
「えっ、冷気が出ただけ?」
「レイ、その魔法は地面に向けて発動させるタイプだから、地面に接して使わないと意味がないわよ」
なにか失敗したのかなと首をひねっていると、向こうの世界でいろいろ助けてくれた師匠のナタリアさんが教えてくれる。
たまたまこっちにやって来ている時にこんな事態になったんだけど、喜んで参戦するところが師匠らしい。
ちなみに師匠の役目は、わたし達に混ざって大火力の魔法を撃つことだ。
本人としては前に出て戦いたいみたいなんだけど、今回は遠距離攻撃が得意な人がいっぱいいるから、この配置になったそう。
ソニアちゃんが言うには、この規模の集団戦で前に出るなら、それなりに集団戦の経験が必要だってことみたい。
うん、師匠ってボッチ気質のところがあるから。
戦ってると我を忘れちゃうみたいだし、後ろで砲台やってた方が安全だってのはわかる気がする。
さて、そんな師匠の事情はそれとして、わたしは師匠の注意に従って〈氷原〉を発動させる。
すると、地面についたわたしの手を中心に半径一メートルくらいの範囲に氷の地面が広がって、
そうか、この氷で足を滑らせるんだ。
たしかにこれは敵に向けて使っても意味がない魔法だね。
ただ、発動に時間がかかるけど、カルキノスの動きを考えると結構使える魔法なのかも。
けど、基本は〈放電球〉の連打が無難かな。
〈氷原〉も上手く嵌まれば効果は高そうだけど、発動までにかかる時間といい、その効果範囲といい、狙って使うのはなかなか難しそうだし、ここぞって時に使う魔法だと思う。
と、わたしは戦いの前に渡された二つの魔法式の特性を理解したところでクロッケを召喚。
ちなみに、クロッケっていうのはわたしのスクナでかわいいカエルの精霊。
ただ、クロッケは召喚するなり、わたしの頭に飛びついて、ポカポカと叩いてくる。
呼び出すのが遅いって怒ってるみたい。
愛い奴め。
ちなみに、クロッケの特技〈輪唱〉は後でわかったことなんだけれど、詠唱魔法だけじゃなくて魔法名だけの魔法にも対応するようだ。
まあ、魔法式ありきかしっかりとイメージが固まっていないと、その効果は発揮しないみたいなんだけど……。
今回は魔法式があるからまったく問題ないということで、失敗を気にせずとにかくどんどん撃っていけばいいんじゃないかな。
と、またわたしが〈放電球〉を使おうとしていると。
ここでカルキノスの体がぐぐぐっと大きく拗じれて――、
「みんな、大きい薙ぎ払いがくるぞ」
叫んだのはエレオノーラさん?
いや、エレオノールさんだったかな?
とにかく、白盾の乙女のリーダーさんだ。
彼女の警告でカルキノスの近くにいた同メンバーと魔女のみんなが一斉に逃げ出す。
と、そこに振るわれるカルキノスの大きな腕。
しかし、その一撃は放たれた頃には、わたし達はもう安全域まで下がっていて、
カルキノスが放った攻撃も、エレオノールさんが地面に突き立てた大盾にぶつかった次の瞬間、
ガキッとか、バキッとか、そんな音と共に斜め上にカチ上げられる。
って、あんな攻撃を弾くなんて、エレオノールさんのあの盾ってどうなってるんだろう。
やっぱり万屋で作った特別製?
わたしがあの一撃をくらったら一巻の終わりでしょ。
だって、車がそのまま高速でぶつかってくるようなものだもん。
でも、いまのエレオノールさんの活躍を見ると、あの攻撃にあわせて〈氷原〉を使ったら簡単にスリップさせられそうじゃない。
なんて余計なことを考えていたのが不味かったみたい。
薙ぎ払いが無事に弾かれたのを見て、わたしが〈放電球〉で援護しようと少し前に出たところで、
「レイまだ早い」
師匠が滅多に出さない大声を上げる。
すると次の瞬間、巨大なハサミがわたしの頭上に落ちて来て――、
どうやらカルキノスは横薙ぎを弾かれた勢いを利用しての振り落としをしてきたみたい。
師匠の声に慌てて逃げようとするわたしだったけど――、
これは間に合わない?
迫る鋏に動かない体。
そして、脳裏に浮かぶ家族の顔。
ああ、走馬灯って本当にあるんだ。
と、スローモーションの景色の中、まさにフラッシュバックとばかりに脳裏に浮かぶ家族の姿に、どうしてかわたしの心は落ち着いていた。
ただ次の瞬間、横からの強烈な衝撃がわたしの体を吹き飛ばし。
なにがあったの?
ゆっくりと横にスライドする視界に意識を向けてみれば、そこには青緑のゴーレム・ベルの姿があって、
ベルがわたしを助けるために飛び込んでくれた?
ただ、そう思った直後、わたしを突き飛ばしたベルが目の前でカルキノスの大きな腕に押し潰されてしまい。
「ベルっ!!!!」
巨大なハサミの下に消えたベルに駆け寄ろうとするけれど、そんなわたしの行く手を一枚の魔法窓が阻み。
『心配しないで、あれくらいじゃベルはやられない。それにこっちにはマオがいるから』
そんなソニアちゃんからのメッセージの直後、ベルを押し潰したカルキノスの大きなハサミの隙間から半透明の茨が這い出すように伸びてきて、
ズズズとゆっくり持ち上がるカルキノスの巨大なハサミ。
すると、その下から茨の檻に囲まれるベルの姿が現れて――、
多分じゃなくて、これはソニアちゃんの仕業だろう。
目の前に急に現れた矢印に振り返ると、そこには荘厳な玉座のようなものに座ったマオちゃんがいて、
どうも戦列の最後方にいたマオがいざという時の為に魔法を準備をしてくれていたみたい。
ベルの見た目は茨の檻に捕まっちゃったみたいになってるけど、実際には守られているんだよね?
そして、ズドンと重い音がアヴァロン=エラの荒野に響き渡る。
それは、はじめてこの世界にやってきた時に見せられた巨人モルドレッドの一撃だった。
その一撃がカルキノスのハサミにヒビを作り、それによって力が緩んだか、ベルを取り囲む半透明の茨が、カルキノスの野太い腕ぐぐっと持ちあがり。
と、そこに飛んでくる巨大な矢。
大槍といっても差し支えないそれは、アビーとサイネリアが担当するバリスタの矢だ。
その槍のような矢は、突き刺さるというよりも打撃という目的で打ち込まれたものだったのか。
ううん、単にカルキノスの殻が硬すぎたってだけかも。
カルキノスのハサミが大きく弾かれ、その隙にベルがカルキノスのハサミの下から脱出。
わたしとしてはベルが壊れていないのかを確かめたかったんだけれど、カルキノスとの戦いは継続中。
ここでベルを追わせるわけにはいかないと、わたしはここで魔力を使い切らんとばかりに〈放電球〉を連打。
とはいっても、逃げる余力は残している。
ここで動けなくなったら、またベルに迷惑をかけちゃうからね。
と、そんなこんながあって、体勢を立て直し、遠距離から攻撃を繰り返しつつも逃げるというパターンに戻るんだけど――、
ただ、これで攻撃手段はほぼ出尽くした感があるかな。
後はブレスを気をつけてさえいればなんとかなる?
いや、その考えが油断になるんだ。
とにかく、わたしは自分が弱いことを自覚しないと。
まあ、自覚するまでもなく弱いんだけど。
とにかく、みんなの足を引っ張らない為にも、変な欲をかかずに安全域からの〈放電球〉を撃ちまくり、逃げに徹して、チクチクとダメージを重ねていく。
これに限るんだと思う。
と、そんな決意と共に攻撃を繰り返してどれくらい戦っていたんだろう。
合間合間にカルキノスから大きく距離を取って、体力なんかを回復しつつもベルの無事を確認したりして、
わたしたちはバリスタを中心に展開されたドーナツ状の結界の中をぐるぐると回りながら、少しづつカルキノスにダメージを与えていったんだけれど。
「タフ過ぎないですか、あの蟹?」
「予想以上の硬さよね」
カルキノスはモルドレッドの攻撃があって、ようやく殻に多少ヒビが入ったくらいのダメージしかなかった。
魔法もバリスタも特定の属性でもない限り、弾かれるのがオチとか、
それでも電撃系の魔法の貫通ダメージはかなり入ってるとは思うんだけど。
ただ見た目ではまったく勢い衰えないカルキノスに、私よりぜんぜん凄い魔法を連発している師匠が、疲れた様子で言ってくる。
このアヴァロン=エラにおいて魔力はすぐに回復するものの、魔法を使う為の精神力や攻撃を避けたり逃げたりする体力が徐々に削られているからね。
正直、わたしの好きな狩りゲームだったらとっくにタイムオーバーになっているんだろうけど。
ここはリアル。
そんな制限時間などあるわけがなく。
「次の一撃で止めにして欲しいよねぇ」
「でないと、後は我々だけで削らないといけなくなってしまうからな」
うんざりするような誰かの声にわたし達が見るのは、緩やかなカーブを描いた先で待ち構えるモルドレッド。
強力な味方であるが燃費が悪く、だた局所的に使えば長時間戦力として使えるモルドレッドは、カルキノスを追いかけながら戦うのはエネルギー消費が激しいということで、この結界の中に入って、待ち構えて応戦するようにすることでここまで頑張ってきてくれたんだけど。
それもそろそろ限界らしくて。
「ブレス来るっす」
白盾の乙女の斥候、ココさんの声に必死に走るわたし達。
泡に飲み込まれたら皮膚がただれて、それはもう酷いことになると聞かされているからだ。
と、そんな泡ブレスからなんとか逃げ切ったところで、
『みんな魔法を一斉掃射――、
からの、モルドレッド行くよ』
ソニアちゃんの号令で、泡をかき分けるようにやってきたカルキノスに次々と魔法が放たれる。
それに続いて、止めとばかりに放たれたモルドレッドの一撃が、カルキノスの硬い殻に入ったヒビに沿うように食い込んで、
――と、止まった?
急に動かなくなったカルキノスに、身構えるわたし達。
そして、たっぷり数十秒の間を開けて、
「倒した?」
ちょっとフラグっぽいセリフを言っちゃったけど大丈夫だったみたい。
ズズン――、
ゆっくりと前のめりに倒れたカルキノスは、その後、起き上がることなく。
その死亡をベルが確認。
「終わった」
動かなくなった巨大蟹を前にわたしもまた大の字になって倒れるのだった。
◆作者メモ
釣り役&抑え役:安室玲、地球の魔女(小練杏、計良未来、以下数名)、
ジガード、白盾の乙女(エレオノール、アヤ、リーサ、ココ)、エレイン各位。
砲撃役:アビー&サイネリア(バリスタ+魔法強化)、ナタリア=レーヴェ。
フォロー要員:マオ、ベル、モルドレッド(ソニア)。
◆次のお話も少し長くなりそうなので、日曜日の投稿になってしまいそうです。




