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松平元春はあきらめない

 それはある日の放課後、

 文化祭の準備もほぼ完了と僕が定時で万屋に出勤したその日、

 僕から送れること三十分ほどして写真部の用事を済ませたのか、元春がやってきて、


「ちわーっす。ちっと作ってもらいたいもんがあるんだけど――って、

 どしたん? なんか空気おかしくね?」


「実はさっき加藤さんから連絡があってね。

 ハイエストのメンバーらしき人物が日本に入ってきたらしいんだよ」


 これは加藤さんと情報共有した成果とも言えなくはないのだが、

 また微妙なタイミングで情報が飛び込んできたものである。

 あ、ちなみに、どうやってハイエストの入国を知ったのかは企業秘密とのことである。


「おいおい、それって大丈夫なん?」


 元春が心配するのはハイエストの驚異か。

 それとも彼等の国内侵入を許してしまったことに対してか。

 ただ、後者の心配に関しては、そもそもこの件を知っているのは僕達と母さんを含めた特殊部隊の関係者、そして加藤さんの陣営くらだろうことを考えると、ある意味仕方のないことであり。

 ハイエストが超能力者の集団だと考えると、誰にも気づかれず、入国する手段があるとしてもおかしくはないということも考えられなくはないのである。


 ただ今回、僕が真に心配しているのは、実はそうした問題ではなく。


「実は今回の潜入を聞いて母さんが張り切っちゃってるんだよね。

 もしハイエストが現れたら、今度は自分が相手をするから、なにかあったら連絡するようにって」


「――っと、そりゃヤベーな」


 そう、前回なんやかんやで出番がなかった母さんが、ここぞとばかりに介入してくるとなると、相手側にとっては勿論のこと、関係者にとっても悪夢でしかないのだ。

 ただ、ことが母さん由来のものとなると、僕ごときが気を揉んだところでどうにもならないだろうということで、とりあえず僕に出来るのは、もし自宅近くでなにかあった場合でも対処できるように自宅周辺の警備体勢を見直すこと、そして、魔女のみなさんの拠点がまた襲われることを想定して、周辺の守りを強くすることくらいじゃないかと、ここまで元春と話しつつ、いろいろと打ち込んでいたメッセージをソニアに送信したところで話を戻し。


「それで作ってもらいたいものってなに?」


 店に入るなり言っていた元春が口にした『作ってもらいたいもの』がなんだろうと訊ねると。


「いや、俺、考えたんだけどさ。やっぱ要ると思うんだってオリジナルゲーム。

 委員長を説得すんのにちょっち作ってみねー?」


 ああ、その話ね。

 それは文化祭の出し物を決める当初のこと、

 ゲームカフェというアイデアと一緒に元春がオリジナルゲームを用意しようと言っていた。

 ただ、その案は副委員長こと中谷さん以下、女子の反発により却下された筈なんだけど。

 元春はまだ諦めていなかったみたいだ。


 曰く、これが最後のチャンスだと、実物を作って持っていきたいようなのだが、

 実際、作ったところで却下されるのがオチなんじゃないだろうかって、僕は思うんだけど。

 元春は言う。

 一見してちゃんとしたゲームに仕上げていけば、副委員長としても無碍には出来ないのではないかと。


 まあ、たしかにその意見はわからないでもないかな。


 と、僕と元春がそんな話をカウンター越しにしていると、ここで英語の勉強がてら魔王様と一緒に世界的に有名なMOBAをしていた玲さんが、ちょうどゲームのキリがついたのか「なんの話?」聞いてくるので、簡単にここまでの経緯を説明してみると、玲さんは「ちょっと面白そうじゃない」と意外にも乗り気なご様子で、


「興味がありますか?」


「わたし、そういうのも好きなのよね」


 と、これには玲さんだけでなく魔王様も興味があるようだ。

 魔王様も玲さんに続くようにこっちにやってきたところで、元春のプレゼンが始まるのだが、

 その内容がまた元春らしいもので、


「ツイスターとかみてーに決められたポーズを決める系のゲームってあるじゃないっすか、あれでセクシーなポーズをしてもらうって作戦なんすけど」


「速攻でバレると思うけど」


 それこそ秒で――ですね。

 ただ、元春はいつも通りというかなんというか、妙に楽観的で、


「ほれ、そこはなんか玉みたいなのを使ってやるのとかあんじゃん。

 ああいうので、誤魔化せばいけんじゃないっすか」


 具体的な例を出す元春に、魔王様がモデルになったボードゲームのことを調べ始める横、元春が「ちょっといいっすか」と玲さんに協力を仰ぎ。


 どうしてそんなものを持ち歩いているんだろう?


 マジックバッグから取り出したガチャカプセルを使って『僕が考える最強にセクシーなポーズ』を決めてもらうべく、いろいろと注文を出していくのだが、

 いざ、ポーズが完成しようかという段になったところで、


「で、後は腕を組んでもらえば――って、すんません」


「なんで謝った」


「すんません」


「だからどうして謝る?」


 元春が指定したポーズは胸が大きい人でないと、ただ休んでいるようにしか見えないポーズだったみたいだ。

 と、そんな残酷な真実を本人に伝えるのは忍びないと、ただひたすらに謝る元春に、

 僕もこの気まずい空気を変えるように、


「でも、膨大な数のポーズの中から、それが出る確率ってかなり低いんじゃ」


「だからこそ意味があるのだよ。木を隠すなら森の中、一見して真っ当に見えるゲームの中に潜むエロス。素晴らしい」


 と、さすがの元春も空気を読んでか――、

 いや、単純に好きな話題にノッてきただけかな。

 ただ、木を隠すなら森の中とかって、僕からしてみると全然隠れてない気がするんだけど。

 ここで妙なテンションになった元春がまたやらかす。


「ってことで、玲さんが考えるセクシーポーズをキュー(Cue)


 せっかく場の空気が元に戻りかけていたというのに、どうしてそんなことを言い出すのか?

 しかし、ここであえて地雷を踏みに行くのが元春スタイル。

 そして、玲さんは玲さんで意外と真面目なのか。

 それともさっきの無情な『すんません』が悔しかったのか。

 片手を頭に片手を腰にというテンプレートでクラシカルなセクシーポーズを決めて。


「ぶふぉっ」


「死ね」


 思わず吹き出してしまった元春に放たれるシンプルな殺意と光杭。


「レーザー、レーザーはマジでヤバイっすから」


 容赦なく打ち込まれる〈光杭(シャイニングピアス)〉に慌てる元春。

 かたや、玲さんは投げやりな声で、


「もう、アンタがやんなさいよ」


「いや、俺がやるのはないっしょ。ここはマオっちとか」


「ダメよ。それは許されないわ」


「そ、そうっすよね」


 魔王様に頼めばおそらく素直に頷いてやってくれると思われる。

 しかし、それはいろんな意味で許されないと、この意見には元春も納得のようで、「仕方ねーな」と四つん這いの状態から肘をついて意味なく片目を瞑り。


「ちなみに、見て欲しいのは横からのアングルな」


 まったくどうでもいい情報をありがとう。

 そして問題のポーズの評価であるが。


「むむ、たしかにこれなら」


 あの、玲さんはなにを悔しがっておられるのでしょうか。


「でもさ。元春、その状態に辿り着く前にふつうにゲームで負けると思うんだけど」


 そう、たしかにそのポーズはセクシーなのかもしれない。

 セクシーなのかもしれないが、そのポーズをしてもらうベースとなるのは、あくまでボールを落とさないようにするゲームなのだ。

 ポーズに至るまでの順番にもよるだろうけど、その状態に辿り着く前にほとんどの人は負けてしまうのではないのか。

 僕が現実的な問題を突きつけると。


「くっ、その辺の難度も考慮しなきゃなんねーのか」


 元春が悔しそうに床を叩き。


「難しいわね」


「……ん」


 ええと、玲さんや魔王様までも何故か乗り気ですか。


「虎助もなんかアイデア出せ」


 こうなると、さすがに僕も無視は出来ない――のかな?

 みんなから期待やらなんやらの目を向けられた僕が、


「別に玲さんがやったポーズで十分じゃないですか。普通にセクシーだと思いますけど」


 そう切り返すと、玲さんが「えっ、そう?」と声のトーンを上げ、元春が「はぁ」とため息をつくのだが。


「たぶん昔のファッションモデルさんがやってたみたいに、かっちりとしたポーズみたいにしたのが間違いだったと思うんですよ」


 だから例えば、こう腕と耳の間に一個挟むようにして、手の平と手の甲でもう一つを挟んで――と、このポーズを僕がやっても気持ち悪いだけなので、ここは玲さんにおまかせするとして、

 後は手の平と後頭部で抑えるようにしたらどうなんだろうと、微調整をしながらポーズを決めていくと、ここで元春がわざとらしく(しゃが)れた声を出し。


「天才じゃったか」


「えっ、私セクシー?」


 どちらかといえばそれは、玲さんのそれは元気いっぱいな可愛さを表現したようなものなのだが、

 あえてそれを言ってしまうと元春の二の舞になりかねないので、ここは賢くダンマリを決め込み、成り行きを見守っていると。


「俺は考えすぎてたのかもしれん」


 この無駄に芝居がかった元春の言葉を皮切りに、どうしてこうなったのかと玲さんや魔王様まで巻き込んで、いろいろとポーズを考えつつも具体的なゲームの改造が始まってしまい。

 これくらいなら許容範囲かなと形がまとまったところで、それを実際に製品として落とし込み。

 後の判定は中谷さんに委ねられるが、もともときちんとしているゲームだからと、追加カードの情報も含めて判断してもらえばもしかして――ということで次の日の昼休み。


「ってなわけで、ご検討おなしゃす」


 さっそく完成したそのゲームを持ち込んで、中谷さんに許可を取り付けようと頭を下げる元春。

 しかし、その結果は当然のものというかなんというか。


「却下ね」


「ええー、せっかく作ったのに」


「作ったって、これ既製品みたいだけど?」


 既製品のような出来のそれを手に取り、驚くのは佐々木さんだ。

 そして、佐々木さんが思わず零した驚の声を聞いてか、他のクラスメイトも集まってきて、その中身を確認。

 と、そんなクラスメイトの中にはそのゲームを知っている人がいたようで、


「たしかに、売ってるやつと違うよな」


 誰かの声を皮切りに、


「え、でも、このカードとか普通に他のと変わらないけど」


「てゆうか、これってどうやって作ったの?」


 クラスのみんなから驚き半分疑い半分の声が上がり始め。


「虎助の知り合いにこういうのが得意な人がいんだよ」


 元春の何気ない一言を聞いたクラスメイトは、


「いや、これ、そういうレベルじゃないでしょ」


「ふつうにお店で売ってるレベルだよね」


「っていうか、松平の言ってるの。本当なの間宮君」


「一応ね。

 だけど、もともと同じようなデザインのゲームがあるから、そこまで難しくはなかったみたいだよ」


 あえてここで僕が口を濁すのは、これがエレイン君に作ってもらったものだからだ。


「……でも、そういうことなら、このままお蔵入りは勿体ないのかも」


「そうね。こんな立派なものを作ってこられたんじゃ。委員長」


「え、ああ、うん――」


 と、ここで意外な展開が――、

 さすがに、ここまできっちりとしたものを作ってこられてしまうと、勿体ないと思ってしまうのは人の性か。

 みんなから促されるように水を向けられた中谷さんは、場の空気に流されてか。


「仕方がないわね。許可します」


「うらっしゃー」


「けど、変なことを考えたら――」


「わかってるって」



 そんなこんなで中谷さんの許可が降りたその日の放課後、

 万屋でも魔王様を中心に魔改造されたポージングゲームをプレイする姿があった。

 魔王様が特注のボールを使ってフルフルさん達と万屋でプレイしていたところ、マリィさんも興味を持ったようだ。


「成程、元春の意図を考えなければ、特に問題なく楽しめるゲームですわね」


 ちなみに、現在マリィさんのポーズはちょっと派手なインドの仏像を思わせるものだったのだが、


「マリィちゃんレベルになると、この程度のポーズでも色気がまろびだしちまってんな。玲っちとはレベルが違うぜ」


 ここで元春が玲さんが聞いていたら確実に光杭の連打を食らわされることを呟き。


「しかし、楽しそうですわね。文化祭」


「だったら、前にやったみてーに見学とかおもしれーんじゃね」


「いいんですの?」


「どうせ当日は暇ですから、僕が案内しますよ」


 魔王様の気になっているみたいだからね。

 ということで、マリィさんと魔王様の文化祭参加が決定し。

 その後は、ワイワイと僕達がアレンジしたそのゲームをプレイしながら、当日の打ち合わせを進めていくのだった。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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[一言] 滅茶苦茶金かければ参加できるのは、そにあを筆頭に前例となる遠隔型がそれなりにある 何より現地サポート要員いるのが強み ただ外見の問題が…、完全な人形じゃないと本人たちが参加しにくく、そんなも…
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