幕間・鎮魂の儀式
◆前日に続き何となくSSです。
もともとこれくらい短い短編で刻んで行こうと考えていたんですけどね。
※今回、一部地方で使われる『とごる=沈殿するetc.』という表現が使われています。
イメージ的にその言葉が適当だと感じたのであえてそうしてあります。
『とごる』個人的に便利な表現だと思うのですが、なぜ標準語ではないのでしょう?
時刻は午前4時、まだ夜も明けやらぬ時間帯。
薄闇に包まれたアヴァロン=エラに降り立った虎助が原付を足に向かったのは、ゲートから北へ十キロほどの位置にある巨大な石舞台だった。
常時展開型の結界で覆われるその石舞台に積み上げられるのは、骨や角など、各種部位を含めた様々な生き物であった者達の躯。
一見するとここは『工房』の裏手にある素材置場のようではあるがそうではない。
置かれている躯は、何が原因なのか損傷が激しいものばかりで、更に一段高くなった祭壇のような場所には鎧などに身を包んだ人間の遺体が数体並んでいるのだ。
そう、この石舞台は遺体の安置所。
エレイン達によって集められる有用な素材とはまた別に、どこともしれない異世界から死して、いや、この世界を訪れてから死を迎えたものも含めて、この世界に運ばれてきた者達の安らぎを祈る祭壇だ。
虎助はその石舞台を囲う結界を〈魔法窓〉によって解除すると、石舞台の脇に設置された石の階段を登る。
そして、登ってすぐのスペースに突き立てられていた錫杖のような杖を魔力を込め、その杖先で石舞台を叩く。
シャラン――
石舞台を叩いた反動で杖の丈夫に設置された黄金のリングがはずみ、澄んだ音と共に杖に刻まれた魔法式を発動させる。
その杖に刻まれる魔法式は〈浄化〉。生活魔法の〈浄化〉とはまた別の、魂の浄化に特化した魔法である。
シャラン――
二度目の音で杖に宿った浄化の魔光が、石舞台に響き渡る涼やかな音色に乗って周囲に拡散する。
と、石舞台に並べられた躯から黒い靄のようなものが立ち上る。
特に最奥の一段高くなった場所に安置される人間の遺体からは一際濃い色の靄が立ち上っている。
これは躯となった生物が生前に抱いた恨み辛みと言った負の感情が魔素にとごり固まることによって生まれた穢れである。
そして、その穢れが淀み溜まることによってアンデットや死霊などの存在が生まれるのだという。
だがしかし、
シャラン――
三度目の音に乗せて放たれた浄化の光が魔素に沈着したその穢れを洗い流す。
そして、
「仕上げだな」
シャラン――
四度目の音で、穢れを祓われ、周囲を満たす純然たる魔素が『名も無き杖』に収束吸収される。
そして、虎助自身もその魔力を込めて静かに元突き刺された穴に突き立てると、
シャラン――
地面にバーコードのような光のラインが走り、残骸となった魔獣の遺骸が――、名も知らぬ世界から迷い込んだ遺体が――、安置される石舞台に超巨大な魔法陣を構築される。
「〈原初回帰〉」
唱えられた魔法名に石舞台に並べられていた躯達が光の粒に変換される。
これは物質を魔素に変換する錬金魔法。本来、これほど大規模なものとなると虎助個人では使用できない規模となる。
だが、石舞台に順次蓄積される魔素の補助、そして、負の感情によって歪め滞留してしまっていた魔素を受けることによって、この規模の錬金魔法が可能となるのだ。
虎助は光の粒となり消えていく者達に向けて手を合わせる。
そうして少しの間、この世界で死んでしまった人達、自らが手にかけた魔獣達、消えてしまった者達への言葉にならない祈りを捧げた虎助は、「よし、今日も1日頑張るぞ」と一言、気合を入れるような声を張り上げ、石舞台の下に止めてあった原付バイクにまたがると万屋へと戻っていった。
◆次元の歪みを通じてこの世界にやってくるのは魔物や素材だけではないという話です。
お盆ということでこんな話を書いてみました。
(濃密な魔素を利用したアヴァロン=エラの加護を持ってしてももう助からない人もいるということです)
◆
因みに使える素材の中にも穢れたものが存在します。
その場合は工房の方で穢れだけを取り除いてバックヤード行きとなる流れです。
この石舞台は処分に困る遺体などを生命力の素ともいわれる魔素に変換して世界へ滞留させる為の施設です。




