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決戦は昼休み

 ◆短めのお話です。

「くははははははは――、

 さあ、我に供物を献上するがいい」


「――っ、

 今のうちに調子に乗ってなさい。後でたっぷり後悔させてあげるから」


 昼休みの教室に高らかに響く笑い声。

 さて、まったり平和な昼の教室で、どんな茶番が展開されているのかというと、

 文化祭の出し物としてボードゲームカフェをすることが決まった我がクラスでは、カフェで提供するゲームのルール把握する為、お昼休みの度にみんなこぞってゲームを楽しんでいるのだが、

 こういうゲームをする際に『負けた人が罰ゲーム』なんてことを言い出す輩がいるのはよくあることで、

 昨日、土下座やらなんやらで拝み倒してようやく相手をしてもらえた、副委員長の中谷さんがリーダーを務めるグループに偶然(・・)勝利を手にした元春達が、調子に乗っているというわけなのだ。


 うん、そういうことを大袈裟にするから元春達は女子に人気が無いんじゃないかな。


 さて、そんな波乱のランチタイムの後、

 負けっぱなしでは終われないと、中谷さんがリベンジを言い出したのがきっかけ――というよりも、この場合、元春達が女子と一緒にゲームをしたかったという方が正しいか。

 昨日と同じグループで再戦が行われるという運びとなったのであるが――、


「で、委員長はなにを選んだん?」


「だから私は――って、アンタには何度言っても無駄よね。今日はこいつよ」


 王者の余裕というかなんというか、たった一回の勝ちでどうしてそこまで調子に乗れるのか。

 元春に煽られるがまま、中谷さんが机の上に置いたのは、ハゲタカのキャラがトレードマークのシンプルなバッティングゲーム。

 発売から三十年以上、今もなお愛される人気のカードゲームで、プレイヤーはそれぞれに配られた1から15の手札を使い、プラス10からマイナス5まであるハゲタカを取り合うというシンプルなゲームだ。

 ちなみに、プラスカードはより高い数字を出した人が獲得することができ、マイナスカードはより低い数字を出した人に押し付けられる。

 ただし、ここで問題となるのが、それぞれ出したカードがバッティング――つまり同じ数字になってしまった場合、勝負から除外されてしまうというルールである。

 マイナスの時なら構わないが、大きなプラスの時にかぶった場合は大きな痛手となってしまう。


 と、はじめてこのゲームをするメンバーにも、簡単にルールを把握してもらったところでゲームスタート。


 ただ、ゲームのプレイ人数上、僕は参加できない――というか元春達がさせてくれない――ようなので、とりあえず審判みたいな立場として、僕がハゲタカのカードをめくることになったんだけど。


「って、いきなり9とか、そういうことやる?」


「そんなこと言われても、僕は上からめくっただけだから」


「そうよ。文句言ってないでさっさと出しなさいよ」


 元春の文句に僕が肩をすくめ。

 そこにすかさず差し込まれる中谷さんの声に、


「ええい、ままよ――」


「ままよなんて初めて聞いたよ」


 どこでおぼえてきたのか、また変な掛け声で、最後に元春がカードを出したところで、それぞれが出したカードを確認していくのだが、

 その結果、我らが副委員長であられる中谷さんが9で、その友達である鈴木さんが11、やや巻き込まれたきらいのある佐々木さんが12、そして、元春と愉快な仲間達(水野君と関口君)が15って――、


「ちょわー」


「なにやってんだよモト」


「最初から15とかないっしょ」


「俺もそう思ったから出したんだっての」


 うん、裏の裏を読むという意味で戦略的には別に間違ってもいなかったんだけど、今回は運が悪かったかな。

 ということで、早くも男子一同が最強の持ち札を失い、この回は佐々木さんの勝利の勝利に終わり、次の勝負となるのだが、ここで出たカードがまたなんというか極端なもので、


「マイナス5とか、どんな引きしてんだよ」


 僕もどうかと思うけど、最後に山札をカットしたのはプレイヤーであるみんなである。

 だから僕に文句を言われても困るというもので、


「ん、待てよ。これって逆に使えるんじゃね」


「逆ってどういうこったよ?」


「いや、さっきのシチュエーションをそのまま逆にやりゃあさ」


「ああ、たしかにそれなら――」


 と、ここでまた元春が卑怯な手を思いついたみたいだ。

 限りなく黒に近い方法で友人二人に結託を求め。


「アンタ達、また変なこと考えてるでしょ。

 そもそも、このゲームって、そういうこと相談するのはルール違反なんじゃないの?」


「いやいや、委員長(いいんちょ)、これは別にそういうんじゃねーって、単なるトークだよトーク。

 それにゼッテーその数字を出すかはわかんねーじゃん。もしかしたら俺がこいつら裏切るかもだし」


「くっ――」


 と、この切り返しはなかなかのものかな。

 実際、ここで元春が裏切るってこともよくあることだし、こういう言い回しなら、中谷さんも元春達が絶対に結託しているとは言えないだろう。

 ただ、ここまであからさまな作戦となると、その対策も取れなくはないわけで、


「ねぇ、間宮君、これってみんな同じだった場合どうなるの?」


 ここで質問してきたのは佐々木さんだ。

 そして、僕が説明書を確認してみたところ。


「次に持ち越しみたいだね」


「じゃあ、こっちもあわせるのが無難ってことね」


「ちょっと、佐々木さん?

 ――っと、いえ、そういうことね。

 だったら私はこれにするわ」


「えっと、じゃあ、これでいいのかな」


 と、今の短い会話で女子陣も気づいたみたいだ。

 みんなのカードを出揃ったところで、今度は元春が、


「なあ虎助、これって変えても」


「ダメに決まってるでしょ」


「もうみんなが出した後だから、変えるのは無理なんじゃないかな」


「というか松平、アンタもしかしなくてもそうなの?」


 佐々木さんのこの予想はおそらく当たっていると思われる。

 全方位からのじっとりしした視線が元春に注がれる中、


「オープン」


 ここで佐々木さんが自らの手札をオープンすることによって、元春の退路は完全に絶たれてしまった。

 ちなみに、出されたカードは五人が1で残る一人が8と半端な数字だった。

 誰が8を出したのかは言うまでもあるまい。


「ほら、松平がマイナスよ」


「マジかよ」


「てか、自業自得だろ」


 これにて男子陣の協力関係が消滅となったかな。

 そうして、その後は余計な小細工なしの真剣勝負になるのだが、やはり最初に失ったのマイナスをひっくり返すことはいかんともしがたかったようで、勝負は元春の惨敗で幕を閉じ。


「じゃあ明日、アンタのお弁当からオカズを一個もらうから、早弁とかはしないでよ」


「くっ、こうなったら委員長に極太――、いや、極エロフランクを食らわせるしか道は残されてないってか」


「ちょっと、変なもの食べさせようとしないでよ」


「大丈夫だと思うよ。もし元春が変なことしよとしても千代さんに怒られるだけだから」


「千代さん?」


「元春のお母さんだよ。普段ニコニコしてるいいお母さんなんだけど、そういうことには厳しいんだから」


「ああ、ふだん温厚な人ほど怒らすと怖いわよね」


「むしろ、そんな人の子供がこんなになっちゃったのかしら」


「それは、えと、あはは――」


 僕が出会った時に元春はすでに元春(・・)の片鱗を見せていた。

 元春のご両親も祖父母もみんないい人だ。

 そう考えると元春は一体どこで道を間違えたのか。

 気がつけば、すぐ側に大きな謎が横たわっていた。

◆文末が妙にシリアスですが、草稿段階のそれが個人的にしっくり嵌ってしまったということと、今週ちょっと執筆時間が取れなかったということで、そのまま残した次第であります。

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