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●修行者達、魔女の場合

◆今回は望月静流の補佐役である魔女、小練杏と計良未来が、万屋にやってきて、どんな修行をしているのかというお話です。

 ◆魔女と狼・小練杏side


 朝もやにけぶるアヴァロン=エラの荒野――、

 そこに十匹以上の狼と大立ち回りを繰り広げる女剣士がいた。

 彼女の名前は小練杏。

 先日から、このアヴァロン=エラで修行をしている武闘派魔女の一人である。


 さて、どうして彼女がこんな朝早くから一人、大量の狼と戦っているのかというと、それは数日前に遡る。

 杏がアヴァロン=エラに迷い込んできた狼型の魔獣との戦いで、失態を犯してしまったからである。


 その原因は、彼女の姉が群狼という影の狼を操る超能力者に蹂躙されてしまったという事実と、

 未遂に終わったものの、彼女本人も群狼と戦い、その被害に合いそうになってしまったことにあるという。


 杏としては冷静に戦っているつもりでいるのだが、狼など群狼との戦いを想起させる相手との戦いでは、どうしても気が逸ってしまい。

 特に仲間が傷つくような状況に陥ってしまうと、頭より先に体が動いてしまうようなのだ。

 結果的に、本来なら倒せる相手に大苦戦、味方に被害が出てしまったとなれば――と、悪いサイクルに陥ってしまっているようなのだ。


 だから、杏はそうした失態を起こさぬようにと、こうして克服に挑んでいるのだが、

 ただ、その成果はあまり芳しいものではなく。


「ストップです」


 声をかけたのは、このアヴァロン=エラにある万屋の仮の店主を務める間宮虎助だ。

 彼は日課である自分の早朝訓練と並行して、杏の訓練にも付き合っていた。


 ちなみに、虎助がストップをかけた時点で、杏を取り囲んでいた狼は光となって消えていた。

 そう、杏が戦っていた狼は〈ティル・ナ・ノーグ〉なる魔法のバトルシミュレータによって生み出されていた幻の狼だったのだ。


「途中まではよかったんですけど、六匹から八匹に増えたところで焦ってしまいましたね」


「本当に、虎助殿の、仰る通りです」


 両手を膝に、息を切らせる杏からしてみると、ただただ不甲斐ないの一言である。

 敵をしっかり見て対処できている場面ではまだ余裕があるものの、追い込まれてしまうとどうにも感情が前に出てしまう。


「一応、それも効果を発揮しているんですけど」


 そう言って、虎助が指差すのは、杏の首に巻き付くチョーカー型の魔導器だ。

 このチョーカーには、装備者の脳波を読み取り、一定以上の興奮になった際に、自動的に術者本人の興奮を抑える魔法が発動する仕掛けが施されているのだが、


「道具に頼りっきりというのはあまりいいことではありませんし、なによりこういう魔法は多少なりとも精神の負担になりますから」


 感情的な反応を魔法によって強制的に落ち着かせるのだから、体の――もっといえば脳の機能を考えると、頻繁な発動は悪影響の可能性があるので多用できなくて、

 なにより、一度冷静になったところで、目の前から敵は消えはしないのだ。


 いや、この訓練に限っては、いつでも自分の好きなように相手を消すことができるのだが、実践ではそうもいかないので、


「やはり根本から精神を鍛え直さなければならないようですね」


 とはいえ、精神修行がその効果を発揮するのには長い年月が必要となる。

 ただそれも、このディストピアなら努力次第で出来ないでもないと、虎助は手を顎に添え。


「そうなりますと、ボナコンのディストピアに入ってもらうのが一番ですか」


「ボナコンというと例のアレですか」


「デメリットはありますが、権能によって精神の向上にブーストが見込めますし」


 その話は以前、このアヴァロン=エラでどんな修行が出来るのかを話した時にも少し触れたことでもあるのだが、ボナコンの実績から得られる権能には、精神が向上させるという効果があるものが存在する。

 それを上手く獲得することが出来れば、ごく短時間でも実感できるような精神力の向上が見込めるのだが、

 この方法には明確なデメリットもあって、

 実はボナコンのディストピアで得られる実績の中には、〈火糞〉という、読んで字の如しの効果を持つ権能を得る可能性が存在しているのだ。


 そして、下手をすると乙女としては不名誉な〈火糞〉という実績が手に入ってしまう可能性があるとなると、さすがの杏も安易にその一歩が踏み出すのは難しく。


「他に精神の向上が見込めるディストピアはないのですか」


「未調整というか、表に出せないものなら、ないわけでもないんですけど」


「表に出せないディストピア、ですか」


 表に出せないという表現から、強敵を予想して緊迫した雰囲気を出す杏。

 しかし、このディストピアに関しては、実は元春が攻略しているディストピアで、

 だから、魔法的な身体強化などを行える杏ならば、攻略することも出来なくはないのだが、

 ここで虎助は周囲を見回し、この早朝訓練に参加する小さな女子大生(仮)やエルフの青年(老)がこちらの話を聞いていないことを確認すると。


「杏さんはローパーという魔獣をご存知ですか?」


「ローパーですか?」


 虎助の問いかけに首を傾げる杏。

 そのリアクションから、意外にも(・・・・)彼女がその種の魔獣を知らないのは明白で、


「えと、その魔獣に関しては、ちょっと僕からは少し説明し辛いので――、

 そうですね。ローパーだけだと別のものが引っかかってしまいそうですので、アダルトというワードを付け加えて画像検索でもしてみてください。それでわかる筈です」


 と、杏はこの不思議とも思える虎助の指示を素直に実行。

 そこに出てきたピンク成分を過分に含んだ画像群にピクリと体を震わせながらも。


「これは――」


「ええと、たぶんそれそのものと戦うことになるのですが、ボナコンとどっちがいいでしょうか」


 それは乙女としての究極の選択――、


「私は――」


 果たして、彼女がどちらを選んだのか、それは彼女自身と二つのディストピアを紹介した虎助だけが知っている。



 ◆ウィッチ&ストラテジー・計良未来side


 カルキノスとの戦いから一週間――、

 基本的な戦闘訓練にティル・ナ・ノーグを使った模擬戦。

 そして、ちょっとした魔獣との実戦に各種ディストピアへの挑戦と修行を重ね。

 アヴァロン=エラにやって来た魔女達の滞在も残すは数日となったある日のこと、

 それぞれがそれぞれのレベルに合わせた訓練をする中、人形やゴーレムを操るのが得意な魔女達が工房側の訓練場に集められていた。


 そんな彼女達を前に虎助が開いているのはシンプルなゲームのスタート画面。


「みなさんにはこちらのゲームを遊んでもらいいます」


「えっと?」


 表示された魔法窓(ウィンドウ)に困惑顔の魔女達。

 そんな一同に虎助は言う。


「ここまでの訓練から、どうもみなさんは集団的な戦略はあまり得意ではないご様子なので、今日はみなさんに集団戦の立ち回りなんかを勉強してもらおうと、こちらを用意させていただきました」


 ちなみに、虎助の指摘は魔女達自身も感じていたことでもあった。

 そもそも魔女はひきこもり体質の人間が多く、他人と連携して何かをするということはあまり得意ではないのだ。

 しかし最近、ハイエストという外敵が、自分達の棲家を奪おうと積極的に攻めてきているとなれば、苦手なこともある程度は克服しなければならない。

 というよりも、ここに集められている魔女達のスタイルを考えるのなら、むしろそういう立ち回りは必要な技術であって、わざわざそれを教えてくれるというのなら否はなく。

 なにより、彼女達はこの二週間に渡る実践的な修行で、精神的にも肉体的にも疲れ果てていたのだ。

 だから、こういう息抜きのような訓練は願ってもないことであって。


「基本的に魔力で操作することになっていますから、まずはエレイン君から配られるカードを使ってゲームを立ち上げてみてください」


 ここで虎助の助手を努めるベルが魔女達に、虎助が見せたRTSリアルタイムストラテジーゲーム・エリュシオン(仮)が入ったメモリーカードを配布。


「対戦相手はカルキノスなど魔獣に加えて、ハイエストなど入っていますので頑張ってくださいね」


 それに合わせて虎助がゲームを立ち上げると、スタート画面を映し出していた魔法窓(ウィンドウ)が前方に倒れ、そこから三次元フレームが浮かび上がる。

 そう、このエリュシオン(仮)はこの立体のフィールドを使って、戦術を学ぶゲームとなっている。


 虎助が自軍キャラクターを選び、マップに配置すると、一部マップが色づいて表示される。

 この着色された部分は盤上のキャラの視界を示したものになる。

 本来なら、マップそのものも真っ暗にした方がよりリアルな経験が得られるのだが、ゲームとしての難易度を考えた結果、このような表示になったそうだ。


 ちなみに、選べるキャラクターには、アタッカー、タンク、ヒーラーの三種の役割が与えられており、キャラクターによっては特技があって、中にはバフやデバフが使えるキャラクターも存在しているらしく。


「これって私達がそのままキャラになっているんですかぁ」


「ティル・ナ・ノーグの応用ですね。

 あくまでデータ上の存在なので、ご本人とまったく同じにとはいきませんが」


 操作キャラクターは彼女たち本人だ。

 他のキャラクターには念話を使った指示出しで、実際の戦術を学んでもらおうというこのゲームのコンセプトである。

 そして、ステージを進むごとにチュートリアルが挟み込まれ。

 簡単にではあるものの、こういう時はこう攻めるのがいいというお手本のようなものが、虎助の母であるイズナから紹介されるようになっている。


 さて、ここまで説明したのなら、後は実際にプレイをするのみである。

 とはいえ、ただ漠然とプレイを続けたところで実戦に勝るような上達は見込めないだろうと、虎助はここで彼女達のやる気を引き出すべく、一つ餌を用意する。


「ちなみに、今日プレイしてスコアが一番高かった方には、ゲーム中に登場する蒼空をプレゼントいたしますので頑張ってください」


 これは上空から、一定時間マップ全体を見渡せるというお助けキャラだ。

 現実にも同じようなことができる点から虎助がチョイスしたものである。


 そして、この餌の投入によって、お遊びのような修行内容に戸惑いがちだった魔女達の眼の色が変わる。


 先に触れたように、今日この場に集められている魔女はゴーレムや人形をメインに戦う魔女達だ。

 だから、空を飛ぶゴーレムが手に入るなら文句など出ようハズもなく。

 ほとんどの魔女が先を競うようにゲームスタート。

 終日、女達の熾烈な争いが繰り広げられることとなり、後方の指揮を磨くのに大いに役に立ったのだという。


 ちなみに、その後、この訓練に使ったバトルシミュレータ・エリュシオン(仮)が常連の間で人気コンテンツとなるのだが、それはまだ先のお話。

 ◆今回新登場の魔法アプリ


 エリュシオン(仮)……魔法のバトルシミュレータであるティル・ナ・ノーグのデータを流用したRTSリアルタイムストラテジー

 実際にあるゲームを参考に、コスト制度を設け、キャラの技や動きをロールに合わせて制限することで、シンプルかつ戦術を考えるゲームになっている。

 しかし、突貫工事で作ったゲームだけに、一部キャラの性能が破格すぎてゲームにならない状況に陥ったりする。

 禁止キャラの導入、コストの見直しなど、ソニアによる本格的な調整が待たれる。

 ゲームスタート時は自分を模したプレイヤーキャラと、エレイン(タンク)、ガラハド(アタッカー)、マーリン(ヒーラー)の三キャラのみ。

 ステージをクリアしいくことにより使用キャラが増えていく。

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