加藤家別邸
◆少し長めです。
「やっと着いた」
「ここも久しぶりね」
魔女のみなさんをアヴァロン=エラに送り届け、訓練の手筈を整え、彼女達と強力して運び入れたハイエストの面々のおもてなしをエレイン君の頼んで、魔女の里へと戻った僕達は今――、魔女の里から車で小一時間ほど走った先にある、とある個人所有の山の中にいた。
川西さんが運転する4WDから降りた僕と母さんが見上げるのは長い石段。
ちなみに元春は、母さんや加藤さんになにか無茶ぶりされるのは御免だと、魔女のみなさんと一緒にアヴァロン=エラへ転移していった。
その転移役を担ったそにあはスリープ状態で車でお留守番だ。
ソニアとしてはこれから僕達が行く加藤家別邸には興味はあるようだったが、さすがに世間的にしられるビッグフットを連れていったら、驚かれてしまうだろうということでご遠慮願ったのだ。
「しかし、最近週末になると移動ばっかで体が硬くなっちゃうな」
「年中飛び回ってる人はいるけどね」
車から降り、軽く伸びをする僕に母さんが微笑みながら言ってくる。
たしかに、義父さんに比べたら僕なんてまだまだマシな方か。
飛行機の乗り換えで一日が潰れるなんてこともざらだって話だからね。
しかし、そういうことなら、体の凝りなんかを軽減できる魔法を考えた方がいいのかも。
前にマリィさんから馬車での移動はかなり辛いものだって話も聞いたことがあるし、対応するアイテムなり魔法なりがあれば、新しい商品になるかもだからね。
僕がふとした思いつきに気を傾けていると、ここで車を駐車場に停めにいっていた川西さんが戻ってきたようだ。
「じゃ、川西君が来たところで出発しましょ」
母さんの号令で僕達は山の中腹に向けて延々と続く石段を登り始める。
ちなみに、石段を登るスピードはテレビで見るようなマラソン選手のよりも少し早いくらいか。
僕達からすると軽いジョギングペースになるのだが、同行する川西隊長からしても少々キツいスピードになってしまっているようだ。
「大丈夫ですか? 川西さん」
「……はい、なんとか」
余裕がなさそうな川西隊長に心配して声をかけるも、なんとか食らいついて来てくれている。
と、僕がそんな川西隊長の頑張りに『これは僕も負けていられない』と気合を入れ直していると。
「そういえば前に話したそにあちゃんの取材の話はどうなったの?」
ここで母さんが聞いてくるのは、先日、義父さんからの定期連絡の中で頼まれた取材依頼の件。
なんでも、お世話になっているインターネットの番組のプロデューサーから、そにあことビッグフットの着取材ができないかとお願いがあったらしく。
僕もせっかくの義父さんからのお願いされたことなので、出来ることなら対応してあげたいと、取材の件をソニアにお伺いを立てたところ、ハイエストのことは多少心配ではあるものの、取材そのものはそにあに搭載されている人工知能だけでも対処は可能なようで、ソニアとしても自分の作品がテレビで紹介されるということにはそれなりに誇らしさがあるらしく。
「別に構わないみたいだよ」
と、あらかじめソニアに確認を取っておいた、取材了承の意思を伝えたところ。
母さんの返事は意外といったら意外なもので、
「だったら十三さんに連絡して、しっかりもてなさないといけないわね」
と、そんな母さんの言葉に、僕は一瞬、頭の中が真っ白になるも。
母さんに鍛えられた精神力ですぐに気持ちを立て直し。
「もてなすって誰が誰を?」
「十三さんのお仕事の仲間を私がでしょ」
「いやいやいやいや、なんでそんなことになるのさ」
一般のお客さんが母さんのもてなしを受けたら生きて帰れるとは思えない。
母さんの不穏な考えを僕は完全否定するも、母さんは当然とばかりに。
「でも、お相手は十三さんの仕事仲間よ。妻として私がしっかりとおもてなしないと」
うん、母さんの性格を考えると、言わんとすることもわからないでもない。
わからなくはないのだが、母さんのもてなしを――、特にその料理という名の劇物を知る僕としては、それを許容することはできないと。
「そこは男女平等社会っていうか、別に母さんが気を使わなくてもいいんじゃないかな。それにソニア関係は僕がやらないと」
時代は男女平等社会。
あくまでそれは建前にすぎないが、僕が母さんを止めなければ無辜な犠牲者が出てしまうのは確実となると、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。
「でもね。なにもしないっていうのはどうなのかしら」
「いや、母さんも忙しいし、ソニアのフォローをするなら僕じゃないと難しいから」
「そうなの?」
「そうだよ。それにソニアに雇われいるのは僕なんだから、ソニア関連のことで僕が動かないでどうするのさ」
「うーん、虎助がそこまでいうのなら」
と、これで諦めてくれたかな。
母さんはまだ少し納得していないように言葉を濁すが、一応、僕の意見を尊重してくれるらしい。
そんな母さんの様子に僕はとりあえず一安心。
そして、ここでタイミングよくというべきか、石段が何度目かの踊り場に差し掛かったみたいだ。
「あ、頂上が見えてきたみたいだよ」
「本当」
僕の誘導に母さんが石段を見上げ。
「川西さん。あと少しですよ」
「あら、川西君もしっかりとついて来ているのね。すごいじゃない」
「あ、ありがとござっます」
母さんの気が息も絶え絶えな川西隊長に移ったところでラストスパート。
辿り着いた長い石段の終着点には立派な楼門があり、その奥には神社やお寺のような作りの建築物がデンと構えていた。
そして、どこからか聞こえてくる戦いの音に、母さんの意識はすっかり切り替わったみたいだ。
「加藤さんは――音が聞こえる方にいるわね」
加藤さんの気配を察知した母さんが容赦なく歩き出したところで、石段登りで疲労困憊な川西隊長には悪いけど、ここで話が義父さんからのお願いに戻ってもらわない為にも、僕は川西隊長をなんとか励まし、急いでその後を追いかける。
そして、境内のような敷地内を歩いてしばらく――、
僕達が辿り着いたのは広い屋外の修練場。万屋にあるような土の訓練場だ。
加藤さんはここで僕と同年代の人達の訓練を見ているようだ。
修練場に片隅に立つレスラーのようなガタイのお爺さん(?)を見つけた僕達は、訓練中のみなさんの邪魔にならないように隅っこを歩いていく。
そして、組み手の相手を切り替えるタイミングを見計らい。
「加藤さん。ご無沙汰しております」
母さんが声に合わせてお辞儀をする僕と川西隊長。
すると、加藤さんが年齢に見合わないハリのある顔をクシャッと崩して「久しぶりじゃな」と返事をくれて。
「お取り込み中でしたか」
「構わんよ。どうせ退屈しておったところじゃしな」
母さんの声に面倒そうに手をふると「場所を変えるか」と歩き出そうとするのだが、
「お待ち下さい。段十郎様」
いまの発言を耳にしてか、ここでストップを掛けたのは大学生くらい青年だ。
黒髪短髪、細身ながらもしっかりとした体躯を持つ彼は、加藤さんと挨拶を交わす僕達に探るような流し目を送ると、フッと鼻で笑うようにしながらも加藤さんの目をしっかりと見据え。
「本日は我々に修行をつけてくれるという約束だったハズですが」
「工か。主は儂に客を放ってお主達の相手をしろと言うのか」
淡々と聞き返した加藤さんのその言葉は、どうやら青年の望む通りの返事だったらしい。
青年はその細く切れ長な目で満足そうに弧を描き。
なんていうか雰囲気は次郎君みたいな人だけど、中身は義姉さんと同じタイプになるのかな?
なんとも空気の読めない青年に、僕がどう反応したらいいものやらと一人考えていると、ここで新たに格好良さげな模様が入った坊主頭の青年が肩を怒らせるように前に出て、
「んなの、佐伯の婆さんにでも任せておけばいいだろ。
それよりも爺さん、俺の相手をしてくれよ」
こちらはストレートに身勝手な人といったところかな。
挑みかからんと拳を構えるオシャレ坊主の青年に、加藤さんは困ったような顔をしながら。
「主ら、相手を見て言うがよい」
「はっ、そいつ等がどうしたってんだよ。
そっちのおっさんはちったぁ使えそうだが、そっちのガキと女は論外じゃねぇか。
一般人がここでデケェ面してんじゃねぇよ」
僕をガキと言うのはまだしも、母さんにこの態度、なんて命知らずな人なんだろう。
そして、これは母さんも同じようなことを――いや、それよりも酷いことを思っていたのかもしれない。
「女、なに笑ってんだよ」
「あら、ごめんなさい。
あんまりにも残念な坊やが出てきたものだから、ついね」
「あ? バカにしてんのか、殺すぞ」
母さんがわかりやすく笑っている時点で既に危険だっていうのに、まさか自分から地雷原に飛び込んでいくなんて――、
川西隊長も状況こそ理解できないながらも、場の空気――特に母さんから漏れ出す不穏な気配は肌で感じとっているのだろう。
ここは自分がなにか言うべきかと、言葉を差し込むタイミングを図っているようだが、母さんの迫力に加藤さんの存在、そして、ここまでの道中で疲労困憊であることから、どうすることもできず。
すると、ここで加藤さんがわざとらしくため息を吐き出し。
「イズナ。悪いがこの思い上がった阿呆共に現実を見せてやってくれんか」
そんな加藤さんの言葉に、ここでまた威嚇を始めるオシャレ坊主な彼。
しかし、母さんと加藤さんはそれを完全に無視。
「いえ、ここは虎助に任せていただけませんか」
そして、なぜかここで僕にご指名が入り。
まるで射殺さんとばかりの視線が僕に殺到するのだが、
そこに乗せられる殺気は、義姉さんがいつも無意識に煽り倒す、街の不良とほぼ変わらないレベルで、
「よいのか」
「ふふっ、この子も随分と強くなったんですよ。虎助、やっておしまいなさい」
母さんはどこぞのご隠居様かな。
しかし、それが母さん直々のご氏名とあらば仕方がない。
なにより、ここまでのいろいろで心労が募っている川西隊長の為にも、ここは早くケリをつけた方がいい。
「じゃあ、気を張ってくださいね」
ということで、僕がこの広場に集まる人達にそう声をかけると、坊主の彼を始めとした何人が憤り、文句を言おうと口を開きかけるも。
ただ、これに関しては実際に食らってもらった方が早いということで、
とりあえず安全に配慮して「いきますよ」としっかり前置きをした後、軽く威圧を飛ばしてみる。
すると、目の前にいたお弟子さんの半数が糸が切れた人形のように崩れ落ち。
なんとか耐えた人達も、具体的になにとは言及しないが、いろいろと垂れ流しになってしまったみたいだ。
ただ、最初に文句を言ってきた二人は、さすがと言うべきか、しっかりと意識が保てているらしく。
だったらもう一段上の威圧をと二人に目線を向けるのだが、
「ぐっ――」「ひぃ――」
おっと、露骨に目を逸らされてしまった。
ということで予定変更。
これでいいですかとばかりに、母さんと加藤さんに行き場をなくした目線をスライドさせると。
「これは――」
「派手にやったわね」
そう言われても、まさか僕もこんなになるとは思わなかったのだ。
「しかし、いまのは仕方なかろうといったところか……、
というよりも、むしろイズナ。お主は息子にどんな教育をしておるのじゃ」
「どんな教育といわれましても、常識的なことしかしておりませんが。
ただ、最近になっていろいろと環境が変わってきましたので、
その辺りの事情は加藤さんにも伝わっているのでは?」
「例の噂は本当じゃったということか……」
加藤さんが言う噂とは一体どれのことだろう?
母さんはそんな加藤さんの言葉を肯定も否定もせず。
「しかし、彼等がこの体たらくでは加藤さんにはまだまだ頑張ってもらわないとなりませんね。
それも含めて例の相談の後、時間があるとよいのですが」
「……お主はこの爺をまだ働かせようというのか」
よくわからないけど、今のやり取りで加藤さんが万屋にくることが決定したのかな。
まあ、魔女のみなさんのこともあったし、加藤さんをアヴァロン=エラにお連れするのは予定通りといえば予定通りで、
ただ、加藤さんに魔法関連のアレコレを教えるとなると、母さんレベルの鬼が誕生しそうな予感しかしないのだが。
しかし、加藤さんには普段からお世話になっているから――、
そしてなにより、直接の被害を実際に受けるのは僕ではないことを考えると、別に構わないのではと、僕が目の前で倒れるみなさんに心の中でエールを送る一方、母さんと加藤さんは、
「しかし、これはちょっと情けない結果ですね。
モト君でもあれくらいは耐えられるでしょうに」
「ほぉ、松平の坊主がのぅ。
いや、此奴らの体たらくを見れば坊主がよくやっているというべきか」
「それも実際にモト君を見て判断していただいた方がよろしいかと」
正直、殺気うんぬんに関しては魔力――もしくは気などに関係する技術なので、魔力の総量や質がその結果に大きく関わってくる。
だから、この場合、元春が頑張っているというよりも、それを知っているか、知らないかというのが重要なのだが、それを今の加藤さんにわかってもらうのは難しく。
「どちらにせよ。小奴らがこのままじゃと、この先、使い物にならんかもしれぬな。
本格的に鍛え直さねばならぬ時期が来たということか」
「でしたら一度、この川西君の部隊と合同訓練をしてみてはいかがです」
母さんの提案に複雑な表情を浮かべる川西隊長。
上を目指すという意味で合同訓練はありがたいが、さっきまでの青年達の言動を考えると、できれば関わりたくないというのが本音といったところだろう。
八尾さんとかが僕と同じように絡まれたら真っ先に飛びかかっていきそうだからね。
「しかし、まずはお仕事の話でしょうね」
「そうじゃな」
ただそれは、今回の目的とはまた別だということで後回しに。
まずは本来の話し合いを先に済ませてしまおうと、加藤さんを先頭にこの修練場から出ていこうとするのだが、ここで川西隊長が少し控えに「あの」と声をかけ、言ってくるのは、
「彼等はこのままでいいのでしょうか」
「構わん構わん、自業自得じゃて」
川西隊長が声をかけたのはおそらく母さんだろう。
しかし、それに応じたのは加藤さん。
そして、問題の彼等の処遇はそのまま放置とのことで、僕と川西隊長はいろいろと残念なことになってしまっている彼等に後ろ髪を引かれる思いを残しながらも、さっさと先に行ってしまった母さんと加藤さんに追いつくべく、小走りで修練場を後にして――、
ここは離れでいいのかな?
敷地内に建物が多すぎてどう表現したらいいかわからないが、整備された日本庭園の中にある小さな建物に腰を落ち着かせたところで、さっそくハイエストの引き渡しに関する打ち合わせを始めるのだが、
ハイエストの引き渡しについては、すでに母さんと加藤さんの間ですり合わせが出来ているみたいだ。
二人の会話の内容はもっぱらハイエストメンバーの実力に関するものになっており。
「それで、その超能力とやらは、どの程度の脅威なのじゃ」
「私見になりますが、いまのところ、それがあったところで大きな戦況の変化はないかと」
「成程の。
しかし、お主の私見はあまり頼りにできんからのぉ」
まったく加藤さんのおっしゃる通りで――、
母さんの私見はその表現通り、母さんの立場に立ったものの見方でしかないから、相手の実力がイマイチ図りにくいのだ。
しかし、冷静に考えると、群狼一人に小練さんたち魔女の精鋭が苦戦していたことから、例えば川西隊長の部隊でも、ハイエストとの戦場で強力な超能力者が一人でもいたのなら苦戦は必死で、さっきの人達だとまったく歯が立たないというのが本当のところではないだろうか。
と、加藤さんから求められ、僕もたまに意見を挟みつつも母さん達のご相談は進んでいき。
「とりあえず、引き渡し方はあちらさんとの連絡を取れれば、すぐにでもできるじゃろうが、お前さんの話を聞くに、取り仕切る儂等の方が問題になりそうじゃな」
「襲撃は当然あるでしょうね。
そして、現状で彼等との戦闘経験があるのが魔女の方々と私達くらいであることを考えると、襲撃への対応が難しくなりますか」
と、ここで母さんは顎に指を添え。
「ここは受け渡しに関わる人員を予め超能力者と戦わせてみるというのはどうでしょう」
「それもよいかもしれぬが、出来るのか」
捕虜を使って戦闘訓練をするのは人道的に問題があるのではないだろうか。
ただ現状、僕達以外は対超能力者に関して後手に回っていることを考えると、ある程度のルール違反も許容しなければならないのかもしれない。
と、それが母さんと加藤さんの共通認識のようだ。
ただ、それにはしかるべき組織とコンセンサスを取る必要があると、ここで意味ありげな視線が二つ、川西隊長に向けられるのだが、当の川西隊長はここまでのいろいろで既にいっぱいいっぱいのご様子で、二人からの視線に気付けるような状態ではないらしく。
こうなると、お鉢が回ってくるのは僕なわけで、
「虎助、誰か適当な相手とかいた?」
正直、ここで僕が決めちゃっていいのかなという思いはあるのだが、川西隊長があの状態で、母さんに急かされてしまっては仕方がない。
どちらにしても、ここで断ることは出来ないんだからと、僕は捕らえたハイエストの面々を脳裏に思い浮かべて、
「再生能力が高い能力者がいたから、彼等ならどうかな」
それは義姉さんと佐藤さんが戦ったという超能力者。
再生能力が高く筋力が超人クラスと、どこぞのマンガキャラのような二人組だ。
彼等なら、ある程度、本人との合意が得られれば、激しい訓練をしたところで問題はないと思われる。
最悪エリクサーを使うって手もあるし。
「再生能力ってどれくらい?」
「義姉さんが倒すのを諦めて状態異常を狙うレベルだから、結構凄いんじゃないかな」
言うなれば常時回復効果がある付与魔法が常に発動してるって感じだろうか。
相手を殺さないように配慮された魔法が付与されているワイバーンのグラブを装備していたとはいえ、母さんに本格的な修行をつけてもらった義姉さんが倒しきれなかったのだから、その能力はかなりのものになるハズだ。
「その状態異常といのはわからんが、あの志帆が諦めるくらいじゃから相当じゃろうな」
ちなみに、加藤さんがイメージする義姉さんは高校生の頃で止まっているのだろう。
ただ、その性格は完全に把握していると予想すると、圧倒的優位の状況から義姉さんが倒すのを諦めるというイメージには、加藤さんと僕達とでそこまでの大差はないのだと思われ。
ここまでの話しを聞く限り、この後、加藤さんはアヴァロン=エラに来るらしいので、そこでいろいろ見てもらえれば考えを改めてくれることだろう。
「今後のことを考えると色々と頭が痛いわい」
「お孫さんがあの体たらくですからね」
「お孫さん?」
「あら、気づかなかった。さっき修練場で話しかけてきた二人、加藤さんのお孫さんよ」
そうなんだ。それにしては――、
と、そんな僕の心の声が、どうやら母さん達には伝わってしまったようだ。
母さんは「哀れね」と一言、加藤さんの方を見て、
「あのままではこれからの時代、役目を果たすのは難しいのでは」
「本格的な鍛え直しが必要というわけじゃな」
二人の話は含みがありすぎて、その詳細を見抜くことは出来ないが、ただ、加藤さんの孫を含めた彼等の修行がハードモードになることが決定したみたいだ。
改めて、彼等の今後に幸あらんことを――、
僕は本人たちが知らない内に、いつの間にか決まってしまった幾つかのことに、そう願うことしかできなかった。




