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●加藤とイズナ

◆短めです。

 とある山中にある武家屋敷の一室。

 月光差す縁側のふすまに浮かび上がるのは女性の影。

 その影が音も立てずに部屋の端から移動してきて、ちょうど中央辺りで止まったところで声がかかる。


「お館様、お電話です」


「相手は?」


「間宮イズナ様です」


 相手の名前にすっかり白くなった片眉をピクリと反応させるのは加藤段十郎。この屋敷の主である。

 段十郎はすぐに威厳ある顔を取り戻すと、七十を超える年齢とは思えない屈強な体ですくっと立ち上がり、その動きを察してか、ふすまが開く。

 開いたふすまの間から覗くのは和服姿の中年女性。

 段十郎は彼女が差し出す電話子機を手に取ると、開口一番こう切り出す。


「また面倒事かの?」


「面倒事といえば面倒事ですね」


 定形の挨拶を廃した段十郎の言葉に応じるのは間宮イズナ。玲瓏な中に妖艶さと妙な迫力を潜ませる声の持ち主だ。

 そして、イズナと段十郎のこのやり取りはいつものことなのだろう。

 お互いに苦笑するようにしながらも、すぐに本題へと入る。


「加藤さんはハイエストという組織を知っていますか?」


「耳にしたことはあるな。鷹の目がおる組織じゃったか」


「あら、お知り合いが?」


 意外といった声音で訊ね返すイズナに、段十郎は「いや」と軽く否定しながらも。


「知り合いという程でもない。二度ほど現場で顔を見たくらいよ」


 段十郎はこう言うが、彼の仕事を考えると顔を見たでは済まないハズだとイズナは知っていた。

 しかし、イズナはあえてそのことに言及することなく。


「加藤さんが名前をおぼえるくらいですから、かなりの腕前なのでは?」


「彼奴には妙な力があっての。洋次と尊が手球に取られておったわ」


「あら、それは怖いですね」


「よく言うわ」


 おどけるようなイズナに苦笑を返す段十郎。

 しかし、そんな和やかな雰囲気もすぐに霧散。


「それで、そのハイエストとやらがどうしたのじゃ?」


「実は志帆ちゃんのお友達がそのハイエストなる集団に襲われまして――」


「志帆の友人が襲われたじゃと、どういうことじゃ」


 段十郎の知る志帆はただの女子高生だった。

 そんな志帆の友人が、自分達の世界で名の知れた人物の関わる組織に襲われるなど、予想外にも甚だしい。

 しかし、そんな段十郎の驚きにイズナはあっさりとした様子でこう告げる。


「トレジャーハンターになってからの友人ですよ。魔女の――」


「ほう、それは――、

 志帆もまた奇特な者達と縁を持ったものじゃ」


 いったんは驚いていた段十郎も最後の添えられた言葉でようやく得心がいく。

 どうやら段十郎も魔女という存在については認識しているようだ。


「十三さんの血でしょうか?」


「お主の影響ではないのか」


「どうでしょう。もともとそういうタチだとも言えますし、虎助もいますから」


「カカッ、それが一番ありそうじゃわい」


 続く冗談のような話に大笑いの段十郎。


「それで、その際にメンバーを数人、志帆ちゃんと虎助で生け捕りにしたのですが、扱いに困っておりまして」


「儂にどうにかせいと?」


「処分するだけならこちらだけでもできなくはないのですが、それがいま噂の組織の人員ともなりますと――」


「勿体無いか」


 続くセリフを読み取った段十郎のつぶやきに、通話口の向こうのイズナが「はい」と肯定を示し。


「ここは若い衆に勉強させるのもまた一興か」


「実地訓練ですか」


「お主の口ぶりからするに、取り引きそのものはどうなっても構わないのじゃろ」


「否定は出来ませんね」


 そう、イズナからしてみると、すでにやることをやり終えたハイエストの処分など、どうでもいいというのが本音だった。

 一人、少しやんちゃが過ぎた男がどのように処分されるかは気になりはするが、それとて遠隔操作で処分できるような処理もしてあるから問題ない。


「ならばいい機会じゃ。思い上がった阿呆共に現実を見せてやるのもいいじゃろうて」


「思い上がったですか?」


「ふむ、残念なことじゃが、最近は少々厳しい鍛錬を課そうとすると、ナンセンス? などとよくわからんことを薫などが騒ぐでな」


 そして、段十郎は段十郎でこれを弟子たちの試練として使えると考えているらしい。


「親が子供を心配するのは当然のことでは?」


「それをお主がいうのかの」


「私の場合は心配すればこそですよ」


「それが儂ら本来の姿なのじゃがな」


 呟く段十郎の声はどこか諦観の滲むものだった。


「しかし、これで無様を晒すなら、お主のところに放り込むのも手じゃろうて、ボン共もそろそろ現実を見る頃合いじゃ」


 と、ここで段十郎は意味ありげに言葉を切って、


「それにお主、近頃なにかやっておるのだろう。

 武田の奴がお主が受け持っている部隊員を見に行った幹部連中の変わり様に、どんな魔法を使ったと首を傾げておったわ」


「魔法ですか、あながち間違ってもいないですね」


 そう言ってイズナは含み笑いを零し。


「ただ、そちらの修行なら私よりも虎助が適任になるかと」


「お主よりも虎助か――、

 それも気になる話じゃな。

 できれば詳しく話をしてみたいのじゃが」


「ならば虎助に話しを通しておきましょう。今回のお仕事の報酬としてというのはどうでしょう」


「よいのか」


「加藤さんには今後も頑張ってもらわないといけませんから」


「カカッ、この老いぼれにまだ働けというのか」


「お弟子さんが頼りないのでしょう。なればこそです」


「こりゃ一本取られたわ」

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 加藤さんがようやくまともに出ましたね……
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