●聖女と聖女
◆時系列的には前話の少し前のお話になります。
その日、わたしが魔法の訓練から万屋に戻ると、見慣れない男女四人が虎助と親しそうにしゃべっていた。
男一人に女三人といかにもなハーレムグループだ。
しかし、あの人達、虎助とずいぶん親しそうだけど、いったい何者なの?
わたしがちょうど和室にいた――元春はマオとゲームをしているから――マリィに訊ねてみると。
「そういえば、玲はフレア達と合うのは初めてでしたわね。
彼等は勇者を自称する冒険者とそのお仲間ですの」
「勇者を自称?」
「ええ、なんでもフレアは子供の頃に精霊に出会ったことがあるそうで、自分が勇者だと勘違いしてしまっていますの。
ただ、あれで龍種を退けたり、あそこにいるポーリやメルの命を救ったりと、そのように呼ばれるような実績はあるようなのですが」
そう言って、胸を強調するように腕組みをするマリィの反応を見ると、マリィがツンデレで、あのフレアさんって人がいかにもテンプレ的な王道勇者様に見えてくるんだけど――、
ただ、よーくマリィの顔を伺ってみると、どちらかというと呆れてるって感じかな。
と、わたしがマリィの反応と、その関係性をひっそり探っていると、ここで何の脈絡もなくマオと格闘ゲームをしていた元春が、ゲーム画面に向いたまま。
「そういやポーリさんって、玲っちとおんなじで聖女じゃなかったっすか」
「聖女?」
「そっす、俺も詳しくは知んないっすけど、前にそれでメルっちが教会に忍び込むとか、虎助と話してたっすから」
ふぅん、元春の話は雑過ぎて、正直なにを言ってるのかよくわからないだけど。
どうも、あの無駄に――、そうあの無駄に胸のところだけパッツンパッツンの修道服(?)を着た女の人が、わたしと同じで【聖女】の実績を持ってる人みたいね。
と、わたしが虎助と話す四人に注目していると、あちらもわたしの存在に気付いたみたい。
ってゆうよりも、あっちもあっちでわたしが誰かって話になっていたのかしら。
四人の内の一人、魔法使いっぽいトンガリ帽子を被った女の人がわたしの方を見て、虎助になにか話しかけたかと思ったら、その隣、例の【聖女】の人が驚いたような顔をして、虎助がニコニコとこっちの方に歩いてきて、どうもお互いに紹介してくれる流れになったようね。
そして、元春が出した話題がきっかけになったのかしら、お互いに自己紹介をした後、わたしは同じ【聖女】の実績を持つ者同士として、いつの間にか、そのポーリさんと話す流れになったんだけど。
「レイさんは異界召喚の代償に加護を受けて聖女にですか。
私は教会で奉仕活動をしていたら、自然とそう呼ばれているだけなので、聖女としてはレイさんの方が格が上になりますね」
「いやいや、わたしはいつの間にかそうなってただけですし」
実際、いまだに【聖女】だなんて言われても自覚なんてないし、ポーリさんみたいないかにもな人に、わたしの方が格上なんて言われても冗談ってなもんでしょ。
なんて、雰囲気はもちろん、見た目からして、それはもういろいろと差のあるポーリさんの言葉を、わたしが一生懸命否定していると、この男がまたやらかすのだ。
「そっすね。たしかに玲っちより、ポーリさんの方が断然聖女っぽいっすよね。
なんつーか、バブみのレベルがダンチっつーか」
元春の発言にピシリと音を立て固まる空気。
この反応からして、他のみんなも――ただそ天然っぽいフレアさんは除く――元春と同じようなことを思っていたみたいね。
とゆうか、元春は虎助以外の人にも『バブみ』って言葉の意味が伝わってたってのも驚きなんだけど。
ただ、ここでさすがの気遣いというべきか。
「し、しかし、玲も凄いですわよ。ええと?」
「そうですね。
魔法の飲み込みとかも早いですし」
マリィがフォローになりきれていないフォローを入れてくれて、
虎助がそんなマリィに追随。
うん、二人の優しさが痛いわ。
だから、わたしは取り敢えず二人に『ありがとう』を言って、
元春には後でお仕置きをするとして、
ただ、せっかく本物の聖女様が目の前にいるんだからと頭を下げて、
「その、いろいろと教えてもらえるとありがたいです」
「喜んで」
ああ、その笑顔もまさに聖女様。
元春の言うことをある意味で間違いじゃないわ。
まあ、元春へのお仕置きは絶対するんだけど。
と、そんな出会いがあって一週間――、
わたしは毎日のように素材の売却や物資の買い出しに来るポーリさんに聖女の戦い方を教わっていた。
魔法に関しては前々から師匠や虎助からの指導は受けていたんだけど、それはあくまで一般的な魔法の扱いだから、ポーリさんには聖女としての戦い方のアドバイスをお願いしたのである。
で、聞くところによると、分類上は聖職者とかになるのかな?
わたし達のようなスタイルの人間が強くなるには、アンデッドに対してすごい効果を持つ浄化の魔法を使って実績を積み重ねていくのが一番手っ取り早いみたい。
とはいえ実際、ポーリさん達も実績とか権能とか、そういうシステムを知ったのは実は最近のことらしいんだけど。
ちなみに、これはここに来てから聞いた話なんだけど、わたしが呼ばれたあの世界でのステイタスも、また万屋で常識になってるステイタスとはまた違ったものになるみたい。
師匠が言うには、一部【聖女】や【賢者】、【魔女】なんかの実績が、ゲームなんかでいうところのジョブシステムように認識されているっているそう。
まあ、わたしを呼んだのも、その世界を隈なく探しても、まずお目にかかれかかれないレアな【聖女】っていう広告塔が欲しかっただけみたいだし、本当になんだかなって感じよね。
なんて、わたしがちょっと思考を脇道にスタックさせながら魔法の練習をしていると、
「あの、レイ、どうかしましたか?」
「ああ、えっと、ちょっといろいろな理不尽を思い出しちゃいまして」
さすがは聖女様。
ポーリさんはすぐにわたしが余計なことを考えてるってすぐに気付いたみたい。
心配そうな顔でわたしの顔を覗き込んでくるので、ここでごまかすのも変な空気になっちゃうと、わたしは、あえて明るく、いま考えてたことを話してみると、それを聞いたポーリさんは、
「たしかに、世の中は理不尽なことがいっぱいですね。
私も生まれが生まれですからね。
子供の頃はそれはそれは苦労したものです」
ポーリさんは本当に苦労してきたのかしら。
実感のこもった声色でわたしを慰めてくれるんだけど。
「しかし、その中でも良き出会いというものはあるのですよ。
例えば私とフレア様との出会いなのですが――」
ヤバッ、やっちゃった?
ポーリさんって、普段はおしとやかな聖女様そのものなんだけど、意外とおしゃべりが好きみたいで、その内容がまた恋する乙女のなんとやらというか、なにかにつけてフレアさんを絡めてくるわけで、
まあ、出会った時の状況とか、その後の巨大ドラゴンとの戦いとか、魔王城へのカチコミとか、あと、わたしみたいに教会絡みのいざこざとか、フレアさんと出会ってからほぼずっとイベントが続いてたみたいだから、その時のことを誰かに聞いてもらいたいっていう気持ちはわからないでもないんだけど。
酔っぱらいのおじさんみたいに、二回、三回って同じ話を聞かされると、内容もほとんどおぼえちゃってるのよね。
でも、ポーリさんの場合、たまにこっちに話題を振ってくることがあるから、聞き流すことも難しいのよね。
例えば、こっちが話しかけられたことにうまく答えられないと「ちゃんと聞いてます?」とか言われて、また話が長くなっちゃうから、ある程度は話を聞いておかないとなのよね。
ってなわけで、わたしはポーリさんの話を気にしながらも魔法を練習を再開。
ちなみに、わたしがいま練習している魔法は、ポーリさんがつい最近までお世話になっていた教会に伝わる魔法で、集団で行動するアンデッドに絶大な効果を発揮する範囲型の浄化魔法。
ポーリさんが言うには、この魔法さえおぼえればアンデッド相手に無双できるらしく。
ただし、現実にはゲームみたいなレベルアップとかはないから、あんまり同じアンデッドを大量に倒しても意味がないみたいなんだけどね。
とはいえ、そういう戦いは、魔法運用のいい訓練にもなるそうで、どっちかっていうとパワーアップの本命はそっちみたい。
けど、そうして強くなるにしても、このアヴァロン=エラだとアンデッドと戦う機会がそうそうないのよね。
ここに迷い込んでくる魔獣は森に暮らす動物が元になった魔獣ばっかで、アンデッドが来るのは本当に珍しいことって虎助も言ってたしね。
だから、わたしがいま狙っているのはアンデッド系のディストピア。
ちなみに、ディストピアっていうのは、レアな魔獣なんかの素材を使って作る超リアルなVRゲームみたいなものかな?
聞いた話によると、そのディストピアには、スケルトンアデプトっていう強いスケルトンと戦えるのがあるそうで、それそのものは魔法のパワーアップとかに、あんま関係ないみたいなんだけど、戦闘中の体の動きなんかにサポートが入る実績が手に入れられるらしいのよね。
まあ、ただそれもさっき少し触れたみたいに、しっかり自分にあった権能をゲットして、しっかり訓練を積まないと身にならないってことだから、そっちはそっちで訓練しなきゃいけないみたいなんだけど。
あと、もう一つ問題なのは、そのディストピアがわたし一人でクリアできるなんてレベルじゃないってこと。
だから、誰か一緒に入ってくれる人がいないとって思うんだけど。
元春に頼んでもビビって断られちゃうし、マリィはあれで領主様だから無理強いもできないし。
なにより実績っていうのはちゃんと戦闘に貢献してはじめて得られるものらしいから、少なくとも相手にしっかりダメージが入るような攻撃を憶えないとどうにもならないらしいのよね。
だからこそ、いま練習しているこの魔法を完成させなきゃなんだけど、これが本当に難しいのよ。
ポーリさんによると、この〈祈願光波〉は、中位の魔法になるらしく。
魔力の消費量もかなり多くて、魔法式に魔力を入れる時にちょっとでも集中を切らすとまた最初からやり直し、なかなか集中力が必要な魔法みたいなのよねコレ。
しかも、今日はポーリさんの悪い癖が出ちゃったから集中が難しいって来たものよ。
けど、これはこれで良い修行になるのかも。
なんて、延々と続くポーリさんのフレアさん自慢をBGMに、わたしが魔法の練習を繰り返していると――、
「フレア様!!」
と、ここで本人様(と他二名)のご降臨ね。
実はポーリさんがわたしの訓練に付き合ってくれるようになった頃、フレアさん達も、自分達ももっと強くなりたいって、虎助やマリィ、あと、どうしてか元春からもいろいろアイデアを出してもらって訓練を始めたみたいなのよね。
まあ、それはポーリさんも同じで、わたしの訓練に付き合ってくれるついでに、特別な魔法銃を使って回復の魔弾を飛ばす練習をしていたりするんだけど。
正直、フレアさんのことをトロけ顔で話しながら、淡々と銃をブッパするなんて軽くホラーよね。
ほら、幽霊よりも人間の方が怖いってアレなやつ?
ただ、そんなポーリさんもフレアさんが迎えに来てくれればいつもの聖女様に元通り?
「レイ、そろそろ帰ろうと思うんだがポーリを連れて行っても構わないか」
「え、はい。どうぞどうぞ」
むしろ、この状態のポーリさんなら引き取ってくれるとありがたいです。
結局、わたしは元に戻ったり戻らなかったりのポーリさんをフレアさんに引き取ってもらったところで「ふんす」と気合を入れ直し。
「さて、夕飯までもう一頑張り、練習を続けよっか」
夕食の時間になるまで魔法の練習を続けるのだった。




