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●ディストピアに挑む者達

 現在、わたし――安室玲はとあるメンバーと一緒にディストピアに挑もうとしていた。

 そのメンバーとは、わたしがお世話になっている万屋の店長である虎助のお姉さんとそのお友達。

 なんでも、仕事の方でトラブルがあった虎助のお姉さんである志帆が用事があるからと、実家に戻ったところ、その友人たちもこっちに戻っていたみたいで、一緒にディストピアにでも行こうかってことになってたそうだ。


 いや、そんなちょっとした同窓会みたいなノリで化け物に挑むってどうなのよって、今回の誘いを受けた時、わたしは真っ先にそう思ったんだけど、ディストピアのソロ攻略は難しいっていうから案外間違っていないのかもということで、せっかくなのでとわたしも同行することになったのだ。


 いや、なにが『ということなので』なのよって、少し前のわたしならそう言ったかもだけど、なんか最近お姉ちゃんも強くなろうと頑張ってるみたいだから、わたしも出来るだけ頑張りたいのだ。


 まったく、そんなことしなくてもいいのにお姉ちゃんは――、

 なんて個人的な目的はそれとして、


 しかし、幼馴染で義理のお姉さんとか、この志帆って人、どこのラノベのヒロインなんだか。

 でも、実際ここまでの会話から読み取れた志帆のキャラクターを考えるとそういう展開にならないことは確実よね。


 どっちかといえば志帆はガキ大将キャラ。

 ちなみに、そんな志帆の友達もまたキャラが濃くて、

 男装の麗人って言葉がぴったりなイケメン女子の鈴におっとりふわふわな巡。

 そして小学生のような女の子のひよりちゃん。

 この子はこんななりでも高校生らしく、ちょっと親近感が湧いてくる。


 さて、そんな四人に混ざってるわたしなんだけど。


「みんなは鎧とかつけないけど平気なの」


「ん、ああ――、鎧とかって着るの面倒だし、動きにくいじゃない。ねぇ」


「う~ん、わたしは志帆ちゃんみたいに忙しく動かないから、鎧も悪くないと思うけど、虎助君がね~。わたしの防具をしっかり作ると、なんかみんなより少し高くなりそうって言ってたから、ローブだけにしたんだよ~」


 そう言いながら、ぴょこんとジャンプをして豊満な胸を無駄に揺らす巡。

 その天真爛漫な彼女の姿に『その胸もいでやろうか』と思ったのは、わたしじゃないハズだ。

 と、わたしが危うくダークサイドに落ちかけていたところ、彼女も同じ思いを抱えているのか、ここで鈴がわざとらしく咳払いをして、


「それに、できるだけいい実績が取れる確率を上げておきたいっていうのもあるよね」


「それってどういうこと?」


「魔獣とか格上の相手との戦いで手に入る実績はふつうよりもいいものが多いらしいんだ」


「それに私達、このディストピアをもう何度かクリアしてるから~、装備を減らしてレアな実績を狙おうって感じ?」


 要は通常プレイだとこれ以上のレベルアップは難しいと判断して、縛りプレイをするとかそういう感じ?


「でも、この子だけでもちゃんとしたものを着けさせてあげた方がいいんじゃ」


 言って、わたしが見るのはひよりちゃん。

 こんなちっちゃい子が危ないって噂のディストピアに、自衛隊の人がしてるみたいな格好――っていうとなんか凄そうに聞こえるかも知れないけれど、鎧とかに比べたらかなり身軽な装備でディストピアに行くのは危険なんじゃと指摘するんだけど、年長者三人の反応は微妙なもので、


「ひよりちゃんなら大丈夫でしょ」


「そうだね。この中だと志帆の次に強いから」


「そうなの」


「いやいや、そんなことないですよ」


 志帆に続く鈴の言葉にわたしが聞くと、照れたように頭に手をやるひよりちゃん。

 しかし、ここで巡が緊張感のない間延びした喋りで、


「わたし達より、いっぱいここで戦ってるんだよ~」


 ああ、そういうアドバンテージね。

 ってことは、わたしもその内、この子達より強くなるのかな。

 なにしろわたしここに住んでるから。


「とにかく、行くわよ」


 ちなみに、ディストピアへの入場方法は単純にその世界のシンボルとなる魔導器に触れればそれでOKみたいだ。

 簡単なのはいいんだけど、これってうっかりすると強制的に変な世界に取り込まれちゃうってことにならないかな。

 と、わたしはそんな心配を密かにしながらも、みんなに促されるまま、目の前にある、いかにも呪われそうな骸骨が絡みついた剣に触れる。

 すると、眼の前の景色が一転、気がつけば古代ヨーロッパを題材としたアクション映画に見るような巨大な石の円形闘技場の中に立っていた。


 そして、わたしがはじめての――いや、正確にはゲートでの転移がそれに近いかな――景色の急転に呆けていると、


「来るわよ」


 志帆の鋭い声が飛び、その声に続くようにジャラジャラと鉄が擦れる音が遠くから聞こえてくる。

 音につられて視線を向けると、闘技場の四方にある入り口の一つから骸骨の軍団が闘技場に流れ込んできているところで、

 志帆の声を受けて、志帆、鈴、巡、ひよりちゃんの四人がばっと前に飛び出し、志帆を頂点とした大きなひし形のフォーメーションを作り。


「じゃ、まずは先制攻撃。玲、アンタの力を見せて頂戴」


「任せて」


 志帆の呼びかけにわたしはメイスを構えて集中。


「〈祈願光波(ディヴァインヴェール)〉」


 唱えたのは少し前に知り合った、別の世界の聖女様が教えてくれた対アンデッド用の浄化の魔法。

 オーロラのような光がわたしを中心として波紋のように広がり、それに触れたスケルトンがただの骸骨へと戻ってゆく。

 そんな光景にわたしが「できた」と小さく呟き安心していると、前衛の三人から「おお」と唸るような声をあがって、


「やっぱり属性って重要なんだね~」


「ここまであからさまに効果があるのは滅多にないみたいだけどね」


 アンデッドと言えば光が弱点。

 今回ここが攻略に選ばれた理由はわたしの魔法が一番生かせるディストピアだったからだ。

 ただ、この魔法で倒せるのは雑魚までで、本命を倒すにはいささかどころかまったく威力が足りないみたい。


「ここからは私達の出番ね」


「じゃあ行こうか」


「気合を入れるよ~」


 露払いが終わったところで前衛の三人が飛び出して、上位のスケルトン達を屠っていく。

 ちなみに、彼女達が使っている武器はそれぞれちょっと変わっていて、

 志帆がグローブにグリーブと全身を武器にした超接近戦型格闘スタイルで、鈴が片手に細剣、片手にトンファーという和洋折衷?な不思議な組み合わせ。

 巡が魔獣革のローブを防具にピコピコハンマーのような武器を思いっきり叩きつけていく一撃必殺タイプで、ひよりちゃんは二丁拳銃と格闘を組み合わせた戦い方みたい。


 と、志帆、鈴、巡をメインに、ひよりちゃんと私が生き残ったスケルトンを倒していると、ここで骸骨の軍勢の奥から黒いオーラをまとったスケルトンが現れる。


 ひよりちゃんが言うには、あの骸骨こそがこのディストピアの主のスケルトンアデプト。

 無念の内に死した達人がアンデットになって、幾度もの戦いを勝ち抜くことで生まれる特殊個体で、このディストピアは、そんなスケルトンアデプトの遺骸を複数組み合わせて作ったものみたい。

 そして、ボスになるスケルトンアデプトが装備している武器はその都度変わるそうで、

 今回出てきたスケルトンアデプトは――、


「弓か、厄介なのが来たわね」


 スケルトンアデプトが装備する武器を見て、面倒そうに舌打ちをする志帆。


「でも、近付いちゃえばこっちが有利なんじゃ――」


「それがあのスケルトンアデプト、接近戦も出来るみたいなんです」


「それに攻撃範囲が広くて近づくのが難しいんだよね~」


 たしかにそれは厄介ね。

 わたしが巡とひよりちゃんと話している間にも志帆と鈴がスケルトンアデプトに突撃。

 一方、スケルトンアデプトは三本同時につがえた矢を射出。

 突っ込んできた二人のみならず、わたしやひよりちゃんを狙ってくるんだけど、志帆と鈴は止まらない。

 至近距離から放たれた矢を、まるで格闘マンガに出てくる達人みたいに、腕をくるっと回すように弾いていく。

 ただ、その防御も完璧なものではないようで、何発かは手や腕、頬をかすめるように傷がつけられ。


「うわっ、凄いわね」


 正直わたしからしてみると、遠距離が得意な相手に真正面から突っ込んでいく時点で、すでに頭がおかしいんじゃないって感じなんだけど。


 まさかそれを弾こうだなんて――、


 しかし、ここはディストピア。

 たとえ失敗してやられたところで復活できることを考えると、二人の選択は決して間違っていないのかも。

 わたしは二人の思いっきりのよさに呆れるやら驚くやらしながら、改めて自分の役目を果たさないとって、もう一回浄化の魔法を使おうとするんだけど。


「〈祈願(ディバイン)――」


 これが自分達にとってどれだけ厄介なものなのか、さっきの一発でスケルトン達にも知れ渡ってしまったみたい。

 わたしが魔法を使おうとしたその瞬間、スケルトンアデプトの方から悲鳴のような音があがり、倒したハズのスケルトンが立ち上がる。

 そして、わたし目掛けてワラワラと集まってくるんだけれど。

 そんなスケルトン達は銃撃の連打によって薙ぎ払われてしまう。

 ちなみに、そんな光景を生み出したのはひよりちゃん。


「わたしが守りますから、任せて下さいです」


 あら男前――、

 こんなちっちゃい子が頑張っているのに縮こまってもいられない。

 わたしは自分を落ち着かせる為に深呼吸。

 もう一度、魔法の発動に挑戦。

 と、今度は成功したみたい。

 最初の時と同じように光のヴェールが広がって、弱いスケルトンは一瞬でただの骨になり、スケルトンアデプトを覆っていた闇のオーラを吹き飛ばすんだけど。


 ここで狙っていたのか、さっきまですぐ側にいたハズの巡が、いつに間にかスケルトンアデプトの背後に回り込んでいて、スケルトンアデプトの脳天に強烈な(?)一撃をピコッと叩き込むんだけど。


「やった、んだけど――」


「最後、上手く逃げられたわね」


 格闘戦素人のわたしからしてみたら、巡の攻撃は完璧に決まったようにしか見えなかったんだけど、巡達からするとイマイチな当たりだったみたい。


「でも、頭にヒビ入ってるから、このままいけば倒せるよ~」


「たしかに――、

 じゃ、玲はさっきの魔法を連発。

 私達は弱ったところを狙って行くわよ」


「任せたよ」


「はい」


「やっちゃうよ~」


 志帆と鈴が防御を考えない猛攻を仕掛けて、それにより生まれた隙を伺って巡が重い一撃を入れ、わたしとひよりちゃんがフォロー。

 途中、わたしも含めて、志帆と巡がスケルトンアデプトの矢の雨(アローレイン)の晒されるなんてハプニングがあったんだけど――、

 最後はやっぱり巡の一撃が豪快に決まって、スケルトンアデプトの頭蓋骨を粉砕。


「意外と楽だったわね」


 志帆が肩に刺さった矢を抜きながら、お気楽にもそんなことをのたまうってくるんだけど。


「これでなの?」


 わたしとしては、ローブを羽織ってなかったら、矢の雨を撃たれた時点で死んでたのは確実で、まさしく死闘って表現がぴったりだって感じだったんだけど。

 だた、わたしの認識は甘かったらしい。

 志帆達は平然と――、


「殺されないだけマシよ」


「ヒドイ時は瞬殺されちゃうからね~」


「アダマーとか本当にもう一瞬だったからね」


 これは後で聞いた話なんだけど、鈴が言ったアダマーっていうのは、宿泊施設で公開されているディストピアの中では一二を争う難度のディストピアのようで、そのクラスのディストピアとなるとこの四人ですらまったく歯が立たない難易度になるそうだ。

 あれだけの戦いができる三人が瞬殺ってどれだけよ。


「じゃ、お楽しみタイムね」


 まあ、それはそれとして志帆が自前のマジックバッグから取り出すのはステイタスカード。

 ゲームのように自分のステイタスを知ることができマジックアイテムだ。

 とはいっても、知れるのは実績と魔力量だけとシンプルなものなんだけど。

 とにかく、わたし達は順番になって実績を確認していく。


「呪詛耐性っていうのをゲットしたみたいです」


「わたしは精神向上がちょっぴりだけ強くなったみたい」


「こっちも同じだね」


「私は――〈弓技向上〉って誰得(だれとく)なのよ」


「何も無いよりマシじゃない~?」


「まね。

 で、玲はどうなのよ」


「えーと、〈起死回生〉ってヤツみたい」


 これは、わたしが一撃で沈むような攻撃を受けた場合、それに抗ってカウンターを決めるような力みたい。

 ソシャゲなんかにありがちな一発逆転のスキルみたいな力ね。

 とはいえ、前提はあくまで自分の実力を加味してのものらしいんだけど、これに志帆達が驚くような顔をして。


「ここで当たりを引くとは」


「次、このまま次行くわよ」


「え、ちょっと、休憩とかは」


「どうせ戻れば回復してるわよ。それよりも今日は当たりを引くまでやめまいわよ」


「そんな――」


 その後、むちゃくちゃ周回したのは言うまでもない。

 でも、そのおかげで見た目上は随分と強くなった気がするから文句は言えないか。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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