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妹のプレゼントと姉の決意

「どうして、どうして、わたしの初めての相手がこんななのよ」


「玲さんにちょうどいい相手を選ぶとなるとあまり選択肢がなくて」


 時を遡ること数日前、アヴァロン=エラのゲートを前に玲さんが悲痛な声が響いていた。

 さて、玲さんがなにを嘆いているのかというと、実戦デビューの相手がアルパカ――というよりもサイズ的にビクーニャの方が近いかな――のような魔獣、ワカイヤハーミーの群れだったからである。


「それにしたって、こんな可愛いのじゃなくてもいいんじゃない」


 まあ、目に鮮やかな赤い毛並みの、しかも毛量の多い小さなアルパカが、結界にポインポインと一生懸命体当たりをする光景を見せられたら、そう言いたくなるのもわからないでもないが、ほぼ実戦経験がない玲さんでも戦えるような手頃な魔獣となると、なかなかちょうどいい相手がやって来ない。

 ということで、玲さん自らが(・・・・・・)実践を望むなら(・・・・・・・)と、つい先ほど集団で転移してきた、このワカイヤハーミーの相手をしてもらいたいのだが、玲さんからしてみると見た目かわいらしい魔獣を手に掛けるのは厳しいらしく。

 だからこそこの絶叫に至っているというわけなのだが、このワカイヤハーミーという魔獣は、その見た目に反し好戦的な性格をしているようで、

 僕が「どうしても駄目でしたら追い返しますけど――」と言うが早いか、無意味に結界に体当りしていたワカイヤハーミーの一匹が、なにやら口元をモゴモゴとさせたかと思いきや、ニイっと口元を引き絞り、玲さん目掛けて粘度が高そうなツバを噴射。

 目の前の結界にへばりついたツバの塊に玲さんが思わず仰け反り、尻餅をついてしまったのを見て、他のワカイヤハーミーもニヤリ――笑ったように見えるのだが、実際これは笑うとよりもツバを勢いよく吐き出すための行為か――口元に弧を作り、べちゃべちゃべちゃっとツバを一斉に発射。

 大量吐き出されたツバそのものは結界に阻まれたのだが、ツバを吐き出す寸前の表情が悪かったのか、それとも単にツバを吐きかけられたことへの嫌悪感なのか、ゆっくりと立ち上がった玲さんにはすでに先程までの嘆きはなく。


「やっぱやる。もしもの時になにもできないんじゃ、お姉ちゃんに悪いから」


「そうですね」


 そのセリフも十中八九本心なのだろうけど、つい先程のシーンの後だと、また穿った見方が出来てしまうから不思議である。

 とはいえ、玲さんがやる気とあらば僕はフォローするだけである。


「じゃあ、いきますよ」

 

 僕はミスリルの千本を用意しながら、ワカイヤハーミーの体当たりを押し留めていた結界の一部を解除。

 群れの一匹を――といいたいところであったが、彼等の動きはこちらが思ったよりも俊敏だったようだ。

 一瞬の隙をついて二匹のワカイヤハーミーが結界の中から飛び出してきてしまったので、


「片方は僕がやります」


 僕が片方のワカイヤハーミーの進路に立ちふさがる一方で、


「お願い」


 玲さんが放つのは〈光杭(シャイニングピアス)〉。

 短いレーザーのような光を放つ魔法だ。


 魔法名を唱えた瞬間、突き出した玲さんの手の平から飛び出す光の杭。

 しかし、玲さんに向かっていったワカイヤハーミーは大きく回り込むようにその攻撃を回避。

 つばを吐きかける攻撃で反撃する。


 ちなみに、後でこのツバ吐き行為のことを調べてみたところ、本家本元(?)であるアルパカは恐怖心を感じた時にする行動のようで、それによって相手を遠ざけようとする意図があるらしいのだが、ワカイヤハーミーはツバはそれなりの高温を帯びていて、しかも物凄く臭い。


 どうやらワカイヤハーミーは、このツバ攻撃で相手が怯んでいる間に強靭な後ろ足で相手を蹴り倒すというのが、必殺の攻撃パターンのようだ。

 しかし、そんなツバ攻撃もを玲さんが装備する防具の耐性を貫く程ではないらしく。

 玲さんは「熱つつつつつつつ――ってか臭っ!!」と忙しいリアクションをしながらも、すぐに体勢を立て直して、


「なにしちゃってくれてんのよ」


 怒りもあらわに〈光杭(シャイニングピアス)〉を連打。

 すると、その大半は狙いが適当なこともあって、目当てのワカイヤハーミーに命中することはなかったのだが、外れた数本が偶然にも僕が足止めをしていたワカイヤハーミーにヒットすると、当たりどころがよかったのか、僕が対峙していたワカイヤハーミーは轟沈。

 こうなってしまうと、僕は方針を転換せざるを得ない。

 僕は仲間をやられ、ツバを溜めながら玲さんに突っ込んいくワカイヤハーミーに千本を放ち、手早くその命を刈り取ると。


「ここからどうします。ワカイヤハーミーはまだいますけど」


 ここでの確認は、玲さんが初めて自らの手で獣を殺し、気分が悪くなっていないかという懸念も含めた問いかけだった。

 しかし、すでにアヴァロン=エラまでの道中、間接的ながらも魔獣の討伐に立ち会ったことがある経験からか、それとも絶妙に熱くて嫌がらせのように臭いワカイヤハーミーのツバを浴びてしまった衝撃がよほど大きかったのか、玲さんはジトリと仄暗い視線で結界内にまだ残るワカイヤハーミーを見詰め。


「全員狩り殺すに決まってるじゃない。後悔させてやるから次の一匹を出して」


 ここであえて一匹づつって付け加えるってことは、最低限の冷静さは残っているってことでいいのかな。

 僕は玲さんの様子にも気を配りながら、この戦いは玲さんの実力アップが目的なのだからと、玲さんのリクエストに応える形でワカイヤハーミーを放流。

 そこから玲さんが納得するまでワカイヤハーミーとの一対一の戦いを繰り返し、体力的――もしくは精神的――な問題から玲さんがダウンしてしまったところで、残ったワカイヤハーミーをエレイン君と一緒に殲滅して、


「大丈夫ですか?」


「逆に聞くけど大丈夫に見える?」


 死屍累々と倒れるワカイヤハーミーを周囲に、熱くて臭いツバでデロデロになってしまった玲さんに問いかけると、明らかに大丈夫そうでない空虚な笑顔を浮かべて、玲さんがそう聞いてきたので、


「とりあえずキレイにしますね」


 僕は一言、ことわりを入れて〈浄化(リフレッシュ)〉を発動。

 唾液まみれになった玲さんを身綺麗に。


「毎度ながら凄いわね。この魔法」


「人気の魔法ということで、日々改良してますからね」


 もともと邪気を払う目的で作られた浄化の魔法――、

 そこに『穢れ』、つまり汚れを落とす効果が付随、さらに毒ガスやら呪い、軽い精神安定などの効果も追加できたことで、万屋の浄化の魔法は高性能だと評判が高く、今ではお店の主力商品の一つになっていたりする。


 ちなみに、玲さんも浄化の魔法はしっかりメモリーカードにダウンロードしているのだが、まだまだ試行回数が少なく、魔法式の補助なくしては使えないようで、さっきまでの惨状があったのだ。

 まあ、気分が悪い理由はワカイヤハーミーのツバだけが原因ではないのだろうが、僕はあえてそこには言及せずに。


「それで仕留めた彼らはどうします?」


「アルパカなのよね。毛糸って作れる」


「作れると思いますけど、どうするんです?」


「いやね。折角だから、これでお姉ちゃんになにかプレゼントできないかと思って」


 平然と全滅させた(・・・・・)ワカイヤハーミーの処理方法を訊ねると、それは社会人が初任給で家族にプレゼントするような感覚だろうか、玲さんが意外にもあっさりとそう返してきたので、これなら精神的なショックはあまりないかなと、僕は密かに心の中で安堵しつつも。


「わかりました。

 では、エレイン君に最優先で集めてもらいますね。

 それで何を作りましょうか?」


「あー、アルパカとかって取れる量が少ないとか聞いたことがある気がするけど、そんないっぱい毛糸作れるの」


「見た限りでは、それなりに量が取れると思うんですけど」


 周囲に倒れるワカイヤハーミーは体が小さいなりにも毛量が多く、結構な量の毛が刈り取れそうだ。

 ゆえに玲さんが言う希少性うんぬんの話は、アルパカそのものの絶対数や、毛が伸びる速度にあるのではないかと指摘した上で、


「とりあえず、あるだけ毛糸にしてもらいましょう」


「お願い」


 エレイン君たちを呼んで、いま倒したばかりのワカイヤハーミーの解体を依頼。

 ちなみに、これはアルパカに限らずであるが、動物の体毛から毛糸を作る工程は、選別して洗浄、絡まった毛を解して丸めて、簡単なロープを作り、何度も何度も撚り合わせて、ようやく毛糸になっていくのだが、

 そういった作業はすでに他の魔獣で経験済みなので、処理はぜんぶエレイン君に任せておけば問題ないと、万屋で待つことしばらく――、


「結構な量になったわね」


 待機中に調べた情報によると、通常アルパカ一頭から取れる毛の量は三キロ程度とのこと。

 しかし、玲さんと僕が倒したワカイヤハーミーは魔獣化した影響からか、体のサイズの割にその毛量はかなりのもので、最終的に一つの群れで軽トラ一杯くらいの毛糸を作ることができたみたいだ。


「けど、この毛糸、派手過ぎよね」


「考えますに、ここ(アヴァロン=エラ)と同じような土地に暮らしていたんじゃないですか」


 戦っている最中から気にはなっていたが、ワカイヤハーミーの毛色は明るい赤色である。

 こんな動物が森の中にいたら目立ってしょうがないのではないか。

 ただ、彼等がもともと住んでいた土地が、このアヴァロン=エラのような場所ならわからないでもないと、その辺も含め、出来上がってきた毛糸を鑑定してみるたところ。

 その予想は当たらずとも遠からずだったみたいだ。

 どうもワカイヤハーミーは火山地帯に暮らす魔獣だったようで、その関係から、この毛色と、さらに耐熱&温度調整機能があるということが判明。


「毛糸の効果を考えるとセーター一択でしょうか」


「耐熱効果があるんなら、ミトンなんかもアリだろうけど、ミトンを毛糸で作るのはねぇ」


 ちなみに、ここで玲さんがいうミトンというのは鍋つかみのこと言っていると思われる。

 たしかに、鍋つかみを毛糸の手袋で作るのは、性能はともかく、どうしても火元に毛糸の手袋という見た目に忌避感を感じてしまうのだろう。


「そうなると、やっぱりここは虎助が言うようにセーター一択?

 でも、この色でセーターってのもどうなのよ」


「えと、いちおう毛糸の色は変えられますけど」


「え、ここから色って変えられるの?」


 まあ、これだけ鮮やかな赤から他の色に変えるのは難しいという玲さんの感覚は正しくはあるのだが、


「錬金術を使えばそんなに難しくないと思いますよ。

 ただ、処理の仕方によっては宿る効果が弱くなってしまうかもしれないのが難点でしょうか」


 これは錬金術に限ってのことではないのだが、素材に沈着する色素を抜く場合、それと同時に素材に宿る魔素などが抜けてしまうことがある。


「それは勿体無いわね。

 けど、こんなに派手だとお姉ちゃんも使いづらいだろうから、せめてもうちょっと地味になるといいんだけど」


「地味にですか、なにかいい方法はないかちょっと調べてみましょうか」


 と、玲さんのリクエストに素材の持ち味を殺さないように毛糸の色を変える方法はないかと、万屋のデータベースを漁ってみると、毛糸に少し炭を錬成することで素材の効果を高めつつ色を変化させられる方法があることを発見。

 実際にその方法を試してみたところ、耐性効果はむしろ向上して、色の変化もしっかり確認。

 玲さんから「この色ならお姉ちゃんに似合うかも」とお墨付きをいただいたことで、後はデザインをどうするかということになるのだが、

 聞けば、環さんはシンプルなデザインがお好きなようだ。

 そうなると、デザインはシンプルに既製品から無難なものを持ってきて、素材の肌触りにこだわるような形にするのが一番か。

 ということで、インターネットからいくつかセーターの定番のデザインを掘り出そうかと検索をかけようとしたところ、ここで万屋正面のスライドドアがスパンと勢いよく開き。


「童貞を殺すセーターでいいんじゃね」


 乱入してきたのは元春だった。

 まあ、ゲートから光の柱が立ち上がっていたので、来ていたことはわかっていたんだけど。

 どうやら元春は、店の入口で僕達の話を聞きつつ、入るタイミングを伺っていたみたいだ。

 さて、そんな元春発案のセーターなのだが、


「名前からしてあんまり良さそうじゃないんだけど」


「いやいや大人気って噂っすよ」


 胡乱な玲さんの視線にも動じない元春。

 すると、玲さんもその堂々とした態度に興味を持ったのか。

 いや、ただ呆れているだけかもしれないな。

 「どんなのよ」と続きを促す玲さんに、「こんなのっす」と元春が魔法窓(ウィンドウ)を開いて見せたのは、防寒具としてのセーターとしてはまったく使えない、背中がお尻までぱっくりと開いたセーターだけを着ただけの女性のセクシーショットで、

 そんな写真を見せられた玲さんはいろんな意味で顔を真っ赤にして、


「アンタ、お姉ちゃんになにさせようとしてるの」


 スパンと元春のほっぺに真っ赤な紅葉を作り出す。


 ちなみに、その後は元春も真面目に意見を出して?

 玲さんの厳しいチェックの元、最終的に選ばれたのはリブニットと呼ばれるシンプルなセーターで、

 後日、玲さんに完成したセーターを渡された環さんは、玲さんが実際に魔獣を倒して素材を手に入れたことに複雑な顔をしながらも、とても喜んでいたことは言うまでもないだろう。



   ◆


 それはある日曜日のこと――、

 玲さんに会いに来た環さんから帰り際にこんなお願いをされる。


「環さんも強くなりたいですか?」


「ええ、玲と同じくらいに」


「ですが、そんな必要ないのでは?」


 玲さんはともかく、日本で暮らしている環さんが、自ら望んで玲さんと同じレベルで強くなる必要はほぼないのではないか。

 そんな力の必要があるとすれば、このアヴァロン=エラで戦いに巻き込まれた時くらいなものだと思うが、それも事前に連絡をいただくことで、手が空いているエレイン君に迎えに行ってもらうような体勢を整えているから、転移直後に魔獣に出会したところで問題ないのだが、環さんとしては『妹が頑張っているのに自分だけ何もしないのは――』という思いがあるようだ。

 僕からしてみると玲さんの生活費なんかを出すだけでも随分と助けになっていると思うのだが、環さんとしてはそれでは満足できないみたいだ。

 とはいえ、念話通信を使うために多少魔力を上げただけの環さんでは、魔獣と戦うことはおろか、ディストピアに挑戦することも難しく、向こうでの仕事もあるとなると、本格的に鍛える時間はあまり取れないから――、


「簡単なのは装備を整えることでしょうか。

 魔法銃を一丁でも持てばそれなりの戦力になるかと」


 いまの環さんの魔力だと、魔弾を四・五発撃っただけでも魔力が空になってしまうレベルなのだが、アヴァロン=エラの魔素濃度なら回復もほぼ一瞬のため、単純な戦力アップ法として一番手軽にできる。

 ただ、この強化案には少々問題があり。


「お店で売っているアレね。いくらくらいするの?」


「それなんですけど、一番お安いモデルで金貨二十枚。

 日本円にしますと二百万円になってしまうんですけど」


 まず魔法銃はなかなかのお値段がするものだ。

 ちなみに、この値段設定に関しては素材の希少性はともかく、魔法銃本体の原価を考えると実は結構なぼったくり価格であるが、あまり安くして出回ってもらうのも困るということでこの値段になっている。

 だから、これはさすがの環さんでも手が出ないのではと、僕は勝手にそう思っていたのだが、


「買うわ」


 さすがお金持ちというべきか。

 それとも妹を思う姉心故か、環さんは購入を即決。

 しかし、魔法銃の購入にはちょっとした注意点があって。


「地球では弾数制限があるんですけど、それでもよろしいでしょうか」


「弾数制限? この銃って魔力で弾を飛ばすんじゃなかった」


「はい。環さんの言う通りなんですが、問題はその根本である魔弾の供給で、地球だと魔素――、魔法を使うエネルギーが薄くて、魔力の回復が凄く遅いんです」


 魔力が一ないしそれ以下の一般人が、いったん魔力を使い切ってしまうと満タンにするまで数日の時間が必要になってしまうのだ。

 ただ、それも魔力の絶対値が上がってしまえば、そこまで問題にならないレベルになるのだが、いまの環さんの魔力ではそれは難しく。


「けど、向こうでそれを使う機会なんてそうそうないでしょ。

 それにこっちに来れば使えるようになるのよね」


「それは問題なく」


 アヴァロン=エラに戻りさえすれば一桁代の魔力回復なんて一瞬だ。


 ただ、せっかく買った武器が使えないのは勿体ないし、こういったものは普段から使い慣れていないと、とっさの場合にうまく使えない。

 そのことを僕が指摘すると、環さんも「そう言われるとたしかにね」と考え込むようにそう言って、


「せっかくこれだけ高いお金を払って手に入れる以上、しっかり訓練は積んだ方がいいわよね。玲も頑張ってるんだし」


「それにもう一つ、あちらでの練習場所がないんですよね」


 魔力の問題はある程度費用はかかるものの、下位の魔法金属やドロップ、魔法薬を使えば解決する。

 ただ、その魔法銃を使う場所が問題で、


「どこか射撃訓練が出来る場所とかあればいいんですけど」


「探してみればあると思うけど」


 さすがに都会の真ん中で本物の銃じゃないにしろ、人目がある場所では仕様をはばからざるを得ない魔法銃なんてものを試す場所を用意するのは難しいだろう。


「ただ、射撃訓練だけというなら手段がないわけでもないんですけど」


 そう言って僕が取り出すのは小さなダンボールサイズの銀色の箱。


「これは?」


「ディストピアは知ってますよね」


「あっちのテント村にあるリアルな戦闘ができるってアレよね」


「これはそれに似たリスクのないバトルシュミレーションといいますか、ディストピアの下位互換といいますか、リアルなVRゲームようなものでして」


 それは以前、義姉さんがどこぞの蔵から発見してきたゲームマシン?

 出処は不明であるが、異世界の宇宙人であるアカボーさんと同じような技術で作られた、VRゲームの最終進化とも言うべき道具である。

 ちなみに、ディストピアのように、このゲームをプレイすることで亜空間に閉じ込められるとか、そういう危険がないことは僕や魔王様などが実験――というか、遊び倒して実証している。

 とはいえ、それに直接なにかしらの効果があるわけではなく、ただ単純に射撃ゲームを楽しむようなものでしかないから、これをプレイしたとして、そこまでの恩恵はないのだが、

 と、そんな前置きをした上で、ちょっと試してもらったところ――、


「面白いわね。これ」


 意外にも環さんはこういうゲームが好きな人だったみたいだ。

 口調はクールながらも、目をキラキラと輝かせていて、

 考えてもみれば玲さんもゲームに詳しそうだったし、そのお姉さんの環さんがこういうゲームが好きだったとしても不思議はないのか。

 僕は以前にも見たような光景にそんなことを思いながらも。


「ねぇ間宮君、私が作ってもらう銃ってどんな種類があるのかしら」


「魔法銃はあくまでマジックアイテムですので、設計さえしていただければ、大体のことは出来ますけど」


 環さんからの追加注文によどみなく応える。

 ちなみに、魔法銃のデザインに関しては重要なのは中身なので好きに変えることは可能である。

 とはいえ、大型の銃の方が魔法金属を多く仕込める分、自身の魔力消費を大幅に減らせるというメリットもあるのだが、逆に持ち運びに不便というデメリットもあると説明したところ。


「そうなると、逆に小さいもので見た目に気をつければオモチャってことで持ち歩いても平気ってわけね」


 まあ、ガワに関しては、多少値段を下げてもいいかなと言うことで、世界樹の樹脂に色付けの魔法薬を加えた派手な見た目にしておけば、向こうで持ち歩いても問題はないかな。

 その後、環さんのリクエストで、どこぞのファンタジーキャラが持っていそうな、無駄に変形ギミックを備えた未来的な魔法銃を製作するハメになったのは言わずもがなか。

◆姉妹愛的なお話にしたかったのに、どうしてこうなった?


 褐熱羊駱駝のセーター……保温性・伸縮性・耐久性に優れたワカイヤハーミーの毛糸で作られたセーター。最初に難度を上げてから、一気に妥協することで松平元春の策謀によって体にピッタリとフィットする扇状的なセーターになっている。


 魔法の水鉄砲……水鉄砲としても使える魔法銃。本体の小ささを加味して衝撃弾、麻痺弾、催眠弾の三種類となっている。


※ちなみに、異世界の魔法銃はすべて銃の形をしているのかというと、そうではありません。

 多いのは、そのまま杖に単一の魔法式を仕込んだものです(この場合、名称は魔法杖、もしくは単純に魔導器となります)。

 ただ、杖などの形状から狙い通りの位置に魔法を飛ばそうと、取っ手や照準のようなものをつけた結果、銃のような形になってしまったもの。

 もしくは、クロスボウから魔法弓、さらに変化していった結果、銃のような形になり、魔法銃にとなるケースなどがあるようです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前から思ってたんだけど、元春のセクハラ発言が目に余るので、1度きっちり締め上げたほうがいいのでは? 装備なしでトワさん、スノーリズさんの見てるところでインキュパスに掘らせるくらいで丁度いいく…
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