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台風の日

 それはある平日の午前中――、

 とある理由から僕が朝からお店に顔を出していると、午前九時頃になってマリィさんがやってきて、


「あら虎助、今日は学校ではありませんの?」


「それが台風で休みになりまして」


 実は本日、僕が住む地方に台風が直撃。学校が休校となってしまったのだ。

 家にいてもやることがないということで、こうして朝からの出勤しているのだが――、

 と、そんな話したところ、それを聞いたマリィさんはどうしてか首を傾げており、聞いてみると、どうもマリィさんには『台風』というワードが理解できなかったようである。


 ふむ、マリィさんが暮らしているガルアシアがあるのが内陸部、バベルによる翻訳がうまく働いていないのかな。


 ということで、テレビでやっていた天気予報を見せたりして、台風のことを説明していると、ようやくマリィさんにも話の内容な伝わったようである。


「つまり大きな嵐が来ていますのね。お家の方は大丈夫ですの?」


「雨戸も閉めてきましたし、なによりウチは母さんが手をかけた家ですから」


 僕の家は母さんがいろいろと手を入れている家なので、外敵対策は勿論のこと、災害にも強い造りになっている。

 加えて、そにあが家で暮らすようになってから、ご近所さんを含めた自宅の周囲に、こっそりと魔法的な防衛機能が施された為、自宅周辺の防衛力もかなり強化されているのだ。

 ただ、相手は自然災害。


「こっちにいた方が安全ですから」


「成程、理解しましたの。

 しかし、ならばどうして元春がこの場にいますの?」


 と、マリィさんが見るのはカウンター奥の和室で、魔王様や妖精さん達と鉄道系すごろくゲームをする元春だ。

 さて、この台風が接近する中、どうして元春がこの万屋に来ているのかといえば――、


「いや、こういい感じに天気が荒れてる日って、なんかわくわくしないっすか。

 外に出たくなるっつーか、なんつーか」


「……わかる」


「「「「「うんうん」」」」」


「そもそも俺が家を出た時はまだ学校からのメールが来る前だったんすよ。

 んで、虎助んまで辿り着いて、いまに至るって感じっすか」


 今朝、僕が台風の位置をチェックしてお店に出勤しようと思っていたところ、チャイムが鳴って、こんな日に誰がやってきたと思ったら元春だったのだ。

 ちなみに、元春は学校からの連絡がどうのこうのと言っているのだが、暴風警報が出ている時点ですでに休みということがわかっていたハズなのに、その連絡が届いていなかったのをいいことに家を飛び出してきたみたいである。

 元春が僕の家に到着した少し後に千代さんから『馬鹿な息子をよろしく』とのメールが届いたのだ。


 ちなみに、この台風の中、外に出ている人は実は元春だけではなかったりする。

 実は母さんもいい訓練になるからと、ちょうど自宅に居た義姉さんを連れて仕事に出かけてしまった。

 まったく、みんな台風をなんだと思っているのか。

 まあ、母さんに言わせるなら、一つの状況に過ぎないってところなんだろうけど。


「てか、それを言うならマリィちゃんもどうなん。俺らが休みでもねーのに朝からいんなんて珍しいじゃん」


「今日は城にいてもやることがありませんの」


 普段なら、この時間は万屋にいるのはユリス様の方。

 なのに、今日はどうして午前中からマリィさんがここにいるのかというと、単に仕事がないからだという。

 例のトワさん襲撃事件の影響から、マリィさんのトンネル視察が先延ばしになったのが、主な原因なのだそうだ。


 ちなみに、トワさんがトンネルの入口で受けた襲撃の件は、一ヶ月くらい前にミスリルの確保を狙って街道を塞いだダフテリアン領主の件と合わせて、その処理をルデロック王に投げたとのことである。


 それだけ聞くと、ルデロック王の現状や地方貴族との関係性から、なあなあの処分になってしまいそうであるが、ダフテリアン領主との揉め事の時と同じく、ルデロック王には、後始末を任せる手紙と共に襲撃の際の映像やら、ことの起こりからこの数週間で集められた不正の資料などを、改ざん不能な状態かつ、いつでも公開できる用意があると釘を指した上で提出したとのことであり、ある程度はきっちりやってくれるんじゃないかというのが、この処理を決めたトワさんやスノーリズさんの見解のようだ。


「しかし、いつ見ても凄いですわね。虎助の世界の天気予報は――」


 と、僕がここ最近のガルダシアを取り巻く一連の動きを考える一方で、マリィさんが見るのはテレビの天気予報。

 暴風警報が解除になった場合、昼から学校に行かないといけないと、垂れ流しにしていたニュース番組を見ていたマリィさんの独り言に、ゲーム画面の中のサイコロを振りながら元春が聞いてくるのは以下のようなことだった。


「マリィちゃんとこは、そういうのはないん?」


「ありますわよ。

 ただ、(わたくし)たちのそれは占星術の一種になりますの。

 なので貴方達の世界のそれとはまったくの別物になりますわね」


「ふ~ん、占いか。

 マリィちゃんとこもそういう人とか雇ってるん?」


「いえ、(わたくし)のところには最近まで他に人を入れられませんでしたから」


 今こうしていると、ついつい忘れがちになってしまうが、マリィさんはつい一年程前まで軟禁状態におかれていた。

 そして、囚われのユリス様を開放してからは、ユリス様が作物の種まき時期などに、本人曰く『拙いながらも』その任を担ってくれていたそうなのだが、現在はそれと並行して、


「ただ、最近になって虎助に提供していただいた観測気球を使って天気予報の真似事はしていますわね。

 マオのところもそうですわよね」


「……ブキャナンが毎日頑張って調べてくれてる」


 と、ゲームの中で取り憑かれていた貧乏神を元春になすりつけながら、魔王様が口にしたブキャナンさんという方は、魔王様の拠点に暮らす心優しきオーガの青年だ。

 意外にも彼は細かな工作が得意なようで、こちらで作った部品をその手先の器用さで組み立てて、魔王様の拠点で役に立つ道具を管理してくれているのだ。


 そして、ゲーム内での順風満帆から一転、一気に形勢不利に陥った元春が「ちょっ――」と魔王様の擦り付けに焦ったような声を出しながら『まだ自分のターンで取り返せるかも』と、気を取り直すように聞いてくるのは、


「観測気球? それってなんなん」


「気象庁とかが毎日飛ばしてる小さい気球知ってる」


 ニュースで見たことないかなあと僕が聞くと、元春は多分心当たりが無いのだろう「ああ――」と曖昧な声を出し、続けてゲーム内で起こった大破産に「ぎゃー」と大絶叫。


「あれをパワーアップしたヤツだね。周辺の地形データから、気圧に気温、湿度なんかのデータを照らし合わせて、ちょっとした天気予報をしてくれる装置を週に二回程度飛ばしているんだよ」


 ちなみに、気球にはネズレムを乗せていて、一定範囲まで飛んだところで安全に着地。指定された場所に戻るように設定されているので、他に人員を配して回収する必要がないようになっている。


「……いろいろ手ぇ出してんだな」


「これは僕というかオーナー(ソニア)がなんだけど、必要に迫られて作ったって感じだけどね」


「必要に迫られて?」


「前に自分の世界に帰っていったエルマさんの為に作ったんだよ。

 潜水艇に乗ってるとはいえ、海の真ん中で嵐に会うのは危険だからね」


 ちなみに、エルマさんというのは大きなクジラに飲まれてこのアヴァロン=エラに転移してきたテイマーの女性である。


「でもよ、潜水艦って海の中に潜ってるし、天気とか別にカンケーねーんじゃね」


「船自体はね。

 でも、乗ってる人はそうはいかないから」


 海が荒れれば船体も揺れる。

 そうなると潜水艇に乗っている中の人が、船酔いのレベルを超えた被害を受けてしまう可能性があるのだと、お食事時には敬遠されるような具体的な話をしてあげたところ、元春は「な~る」と感心したように頷いて、ここで魔王様とのゲーム勝負における逆転の一手になるだろうカードを発動――させるのだが、無事その目論見は失敗。現実逃避からか、ここではないどこかを見るような視線を僕に向けてきて。


「でもよ。そういうのって――、

 あ、嵐の方な。魔法とかぶつけて消すとかできねーの」


「貴方、無茶を言いますのね」


 実際、その大陸で五指に入る程の実力者であるマリィさんの魔法をもってしても、自然災害に真っ向から立ち向かうことは難しい。


「じゃあ、やっぱマリィちゃんのこととかでも普通になすがままって感じなん?」


「もちろん(わたくし)共で対策できる箇所は対策しますわよ。

 ただ、マイスタークラスの魔導器を使い、常時強力な結界に守られている王都や公爵家がおかれるような大きな街は別ですが、(わたくし)共のような地方の領地では大掛かりな防衛は望めませんの」


 魔法や魔動機など(マジックアイテム)という対抗手段はあるものの、それを維持するのは難しい。

 まあ、ガルダシアに関しては万屋からいくつかマジックアイテムを提供させてもらっているので、財力にあかせた防衛機能を働かせる王都などの守りには敵わないとは思うのだが、地球でも百年くらいまえまでざらにあったような――いや、最近も異常気象だのなんだのと毎年のように起きているか――ヒドい水害の被害なんかはなんとか避けられるとは思うのだが――、


「それに滅多なことであることではありませんが大精霊の怒りを買うという可能性もありますのよ」


「……精霊は怒ると怖い」


「そうなん?」


 例えば、ディーネさんが、とある事情から元の世界で怒り狂った時には、それはそれは凄まじい被害を出したのだそうだ。

 そう、まさにいま元春がゲーム内で味わっている壊滅的な被害のようにである。

 そして、朝にたまに降る雨はディーネさんの機嫌を反映させたものだと元春に教えてあげると。


「そう考えっとボロトス帝国って結構ヤベーことしてたんじゃね」


 ニュクスさんの領地に踏み入ったり、水の精霊を閉じ込めたり。

 たしかに元春の言う通り、ボロトス帝国はかなり精霊のヘイトを溜めてるよね。

 ただ、それで怒るのは現地の精霊達であって、その被害を受けるのは決してボロトス帝国の人間ばかりではなく。


「そうならないように魔王様のところのみなさんが助けに入ったから」


 つまり、魔王様たちがあれだけ積極的に動いていた裏にはそういう意味もあったのである。

 ちなみにこれに関して、ニュクスさんはむしろ積極的に打って出てもよかったのではと仰っていたそうだ。

 しかし、その世界でも最古参だというニュクスさん(夜の大精霊)が全力で暴れてしまった場合、いったいどんな被害が巻き起こるかわからないということで、魔王様たちが頑張っていたというわけである。


「と、そういえばヴェラさんが暴れたあそこって今どうなってるん?

 あの後、すぐに解散になったんだろ」


 元春はすぐに解散といっているが、正確にはヴェラさんが大暴れしたことによって恐慌状態に陥ったボロトス帝国の軍は勝手に敗走。

 散り散りに逃げたボロトスの兵が近隣の村々を襲わないように、またヴェラさんに出動してもらったりして、さらにボロトス帝国の兵士達が恐慌状態に陥るなんてこともあったそうだ。

 その結果、あの場に立ち会った両軍以外に大きな混乱はなく、戦いはうやむやなまま収束したそうなのだが、残ったティターンの残骸はそのまま放置され。


「カルカランだったかな。ボロトス帝国と面した国の砦――、

 あの近くにあるものはあの時、ティターンと戦おうとしていた砦の兵隊さんもそうなんだけど、他にも噂を聞きつけた傭兵なんかがティターンの残骸を求めて集まってるみたいなんだよね」


「ボロトスのヤツ等は?」


「一応回収には動いてるみたいなんだけど、ヴェラさんが派手にやったから軍本体は出てきていないみたい」


「ビビっちまったん?」


「それもあるかもだけど、これも精霊の影響になるのかな。

 あの後、周辺の天気がかなり悪くなってるらしくて、なかなか近づけない状態みたい」


 単なる偶然だったり、ヴェラさんが暴れた余波という可能性もなきにしもあらずなのだが、意外とさっき話した精霊のみなさんの怒りみたいなものが関わっているのかもしれない。


「しかし、彼の国がそう簡単に諦めるでしょうか」


「ああ、それなんですけど、実は動いている傭兵の一部はボロトスからの依頼で動いてるみたいです」


 これはマリィさんの言う通りで、

 一部、自分達の装備を拡充させるために素材あさりをしているグループもいるらしいのだが、それなりの数の傭兵が、ボロトス帝国から依頼でティターンの残骸の回収をしているみたいなのだ。


「とはいえ、所詮は個人個人では限界がありますし、この悪天候でボロトス側から入るのが難しくなっているそうですから」


 なんでもボロトス側から現地に入るには、ティターンが進んだ大渓谷を抜けなければならないのに、その渓谷が連日の悪天候で水浸しになっており、崖崩れの心配があるとなると、なかなかティターンの回収に動いてくれる人も集まらないのだという。


「まさに天罰だな」


「貴方にしてはお上手ですわね」

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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