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狙われたトワ

 それはある日の放課後――、

 今日は部活がなかったと、僕についてお店に顔を出した元春が魔王様のゲームの対戦相手をしながら、まるで|なんでもないことのように《・・・・・・・・・・・・》聞いてくるのは、先日、僕も巻き込まれるはめになってしまった義姉さんの話題。


「そういえば志帆姉が襲われたって?」


「どっちかっていうと襲われたのは相手側って感じだったけどね」


 僕がその時に出会した超能力集団・ハイエストのことを合わせて話してあげると、ここで『今日のお手入れは、(わたくし)に任せてくださいな』と、やんわり威圧的にエクスカリバーさんのお手入れを買って出てくれていたマリィさんが、エクスカリバーさんをピカピカに磨き上げた布を片手にカウンターの内側に戻ってきて。


「超能力者集団ですか。アニメやマンガのようなお話ですわね」


「……興味深い」


「ちなみにマリィちゃんとこはそういう組織ないん?」


「どうなのでしょう。超能力者を特定の魔法に特化した人物と考えると、似たような組織はありますわね。実際、数日前にトワがそういう組織に襲われたばかりですの」


 マリィさんが自分の考えをまとめるようにそう話すと、それを聞いた元春が「へ」と間抜けな声を出すのだが、

 すぐにぐるんと魔王様がプレイするゲームを見ていたテレビの前から体ごと振り返るようにして、


「ちょ、マリィちゃん、トワさんが襲われたってどういうことっすか!?」


「ええと、たしか、カイロス伯爵の領地から帰ろうとしたところ、トンネルの前で襲われたんだったかな」


 元春が振り返った時、マリィさんはすでにカウンター奥のキッチンに手を洗いに行ってしまっていたということで、僕が代わりにその質問に応えると、やはりこういうところにも実績の影響があるのだろうか、元春は名前を出すのもはばかれれる例の生物のような、カサカサっと素早いハイハイで僕の方に近付いてきて、


「ちょちょちょ、虎助は知ってたん?

 つか、二人共、なに落ち着いてるんだっての。トワさんが襲われたんだぞ」


「元春こそ落ち着いてよ。もうちゃんと撃退した後だから」


 その襲撃はすでに終わったことなのだ。

 というよりも、そもそもトワさんの実力なら並の使い手では相手にならないのだが。

 ただ、トワさんに思慕を抱く元春としては見過ごすことのできない事件であるらしく。

 その後もしばらく、興奮気味の元春に細かすぎる説明を求められることになるのだが、繰り返し同じ話をしていると、さすがに元春も落ち着いてきたようで、

 十分くらい話したところでようやく僕から離れてくれて、その間にベル君に用意してもらったお茶を飲んでいたマリィさんに改めて。


「ってゆーか、なんでトワさんは襲われたんすか」


「予想するまでもなくトンネルですわね」


「そうですね。トワさんの襲撃に失敗した後、最後にはトンネルもろとも爆破しようって大きい魔法を撃って来たという話ですから」


「トンネルもろともって、ぜんぜん大丈夫じゃなくなくね」


 状況を聞くに、元春の言わんとすることもわからないでもないのだが。


「マリィさんのところのトンネルはかなり頑丈に造っているから、そう簡単には崩れないよ。

 それに攻撃の大半はトワさんが防いでくれたみたいだし」


 トンネルを狙った敵の本命の魔法攻撃はトワさんが聖槍メルビレイの力を開放。作り出した水のバリアでその衝撃を和らげてくれたのだ。


「それでもだろ。

 てか、爆破って耐えられるトンネルってどんだけだよ」


 地球とかの常識を考えると、元春の言わんとすることは珍しくまともなんだけど。


「魔法がある世界だから強化付与とか使えばそれくらい余裕だよ。

 工房の鍛冶場だってそんな感じでしょ」


「そうですわね」


 オリハルコンを始めとした最上級の魔法金属を加工するには相当な火力が必要である。

 だから、工房の鍛冶場はそれに耐えうる強度を備えており。

 それら建物の耐久力を考えると、建築――特にその中でも強度という分野において、魔法が存在する世界の建築技術は地震大国の日本などよりも遥かに進んでいるところもあるわけで、

 今回ガルダシアに作っているトンネルは、ソニアがこの為だけに組んでくれた魔法式を刻み込んでもらっているから、一般的なファンタジー建築よりも一段どころか、二段、三段と強固な建物になっていて、ちょっとやそっとの魔法攻撃では壊れない頑強な構造物となっているのである。


「しっかし、トワさんを巻き込んでの爆破テロとか、たかがトンネル一本くらいでそこまでやるか」


「やりますわよ。これほど重要な経路をつなぐ道に何もしないなどありえませんの」


 マリィさんが暮らすルデロック王国はカタカナのコの字の形をした国である。

 そして、マリィさんが領主を務める租借地ガルダシアがそのコの時の南の突端に、伯爵の領地が北の突端にある。

 その両者が繋がるとなれば、ものの流通が今までとはまったく別の流れになってしまうことも考えられる。

 故に、今まで従来の流通の恩恵に預かっていた者達が、その恩恵を失いたくないが為、こういう行動に打って出ているのだ。


 ちなみに、トンネルを作る前、マリィさん達がそうしていたように、飛空艇を使えば道に頼らない流通経路を作ることも出来なくはないが、そもそも飛空艇というものは王族レベルの財力を持っていなければ運用できないような乗り物であるから、現行の物流に打撃を与えるものにはならなくて、


「特におじ様――、カイロス伯爵の領地は北にある国や魔の森などの空白地帯に面していますの。

 ですので、そこでしか手に入れられないものも多く、周囲に与える影響が大きいのです」


 それでなくともガルダシア領の関税はかなり低く設定されており、それだけに外の領地の打撃は大きく、驚異的な噂を無視してでも攻撃をしかけてきている相手がいるというわけだ。


「ふ~ん、よくわかんねーけど、トワさんが襲われたりしたのとかの対策とかしてあるん。さすがにこのまま放置ってわけには行かねーだろ」


「本当なら黒幕を潰すっていうのが早いんだけど、そっち方面の調査は不調に終わったから、打てる手は警備の数を増やすくらいかな」


 まあ、襲撃の対策に、トンネル以外にもちょっと危険な道になるのだが、山道を通すなんてこともやっておいた方がいいかもしれないが。

 この対策は難民とかの問題にもなりかねないから、マリィさんにユリス様は当然として、トワさんやスノーリズさんと相談してからになるかな。


「黒幕とかの捜査が失敗ってリスレムとかはどうしてたん?

 マリィちゃんのとこにも警備とか入ってたんだろ」


「ああ、それなんだけど」


「裏を探ろうと襲撃犯の一部をそのままにして泳がせていたのですが、その途中で殺されてしまいましたの」


「へっ、殺されたって、マジっすか?」


「ええ、残念ながら」


 スカラベを貼り付けて泳がせていたら、たぶん待ち合わせポイントを決めてあったのだろう。とある森の中の小屋に到着したところで、その小屋ごとトラップ式の火炎魔法で焼殺されてしまったのだ。


「そんなわけだから、その襲撃犯がどこの手合だったのかわからないんだよ」


「マジかー。

 つか、そんなドラマみたいな展開あんだな」


「今回のトンネル工事で、今後の趨勢が決まるも同然なのですから、当然の動きではありませんの」


 こうしていると忘れがちだけど、マリィさんのお国はまだまだ封建社会が全盛のお国である。

 だから、こういう暗闘は当然のようにあるわけで、

 実際、トンネルを作る原因になったダフテリアンの街道事件だって、構図そのものは今回のトンネル襲撃事件とあまりかわらないし、マリィさんのお父さんのことなんて、その最たるものである。


 ただ、こういう争いが身近な人に及ぶとなると、特に元春としては黙っていられない。


「ますますトワさんが心配だぜ」


「さっきもいったけどトワさんの実力ならまったく問題はないと思うけど」


 もともとトワさんは父親であるカイロス伯爵に鍛えられ、かなり強かったところに、最近になって聖槍を手に入れ、それにふさわしい主になるべく暇を見ては積極的にディストピアに潜ったりしているのだ。

 これで強くならないハズがないと思うのだが、そこは恋をするが故の心情なのだろう。


「それでも、もしもってこともあんだろ」


「それはそうなんだけど」


 元春の心配はそれとして、トワさんたちメイドさんも、軟禁中からの流れもあって、いつ自分達が暮らす場所が敵が襲ってきても戦えるようにと備えている。

 それは特に、マリィさんのお父さんの件で現場に立ち会ったトワさんなどにその傾向に強く。

 現在身につけているメイド服などは、そのシンプルな見た目とは裏腹に最上級の防御力を備えており、その襲撃者が焼殺された魔法を食らったところで無傷で切り抜けられるような装備なのだ。


 加えて、ルデロック王との諍いのことが噂になって流れているようで、ダフテリアンの演習現場での昏倒事件などもあり、実は情報通の間では『ガルダシアに手を出すな』という空気が一部では蔓延しているらしく。

 だから正直、今回トンネル建設にちょっかいを出してきているのは、そういった時流に乗り遅れた者達か、うわさ話を信じてないような強行派くらいなのだというが。


「とにかく、いまは八龍を始めとしたゴーレム部隊も動いてるし、他のゴーレムの数も増やしたから、領内に不審者が入ったら、すぐわかるようになってるから」


 黄金の騎士である八龍にプテラ、村に配備されているゴーレムロバのロシナンテ一号二号にリスレムなどと、現在ガルダシア領には無人でも動くことのできる監視の手が散らばっているのだ。


「それでも心配なら、その監視の一部を元春も見られるようにするっていうのはどう?」


「マジで、そういうことなら俺も余裕で手伝うぜ」


「でも、城の中の監視はプライバシーがあるから、元春が見られるのは外の監視だよ」


「……わ、わかってんよ。そんくらい」


 ここで淀まずに言えないのが元春クオリティ。

 とにかく、これでマリィさんのところの監視体制がまたちょっとだけ上がったってことでいいのかな?

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