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神秘教会の秘密装備

「これがその装備ですか」


「ええ、とりあえず一式調べてもらえる」


 それは今日の午前中のこと、賢者様の研究室がおかれる森の中に、もうおなじみとなった神秘教会の特殊部隊が玲さんを狙って忍び込んできたらしい。

 ただ、その襲撃自体は、迷いの森の結界がしっかりその力を発揮して、襲撃者を足止め、賢者様を始めとした研究所オールメンバーが出動することで撃退できたみたいなのだが、

 どうもその戦いで対峙した男達が特別な装備を身に着けていたらしく、折角だからこれをお小遣いにと、ナタリアさんがその襲撃者が身につけていた装備を一セット持ってきてくれたので、とりあえず鑑定してみることになったんだけど。


「それでどう?」


「武器は普通に鋼鉄製ですね。ですが、防具の方はそれなりの量の魔法金属が使われているものらしく、精霊の加護を受けているみたいですね」


 まあ、加護を受けたから、含有している金属の一部が魔法金属化したという可能性もなきにしもあらずであるが、その辺はソニアに見てもらわないとわからない。


「そう、精霊の……、

 さすが腐っても三大宗教の一つね」


 ちなみに、鎧を調べる限り、加護を授けた精霊の属性は空。

 空間系というよりも風に近い力を持っている精霊みたいだ。

 神秘教会という宗教組織の戦士が身につけていた装備であることと、ナタリアさんから聞いた鎧の能力から、光とか、そういう属性のイメージがあったので意外な鑑定結果である。

 けれど、こんな暗殺に特化したような鎧を用意する教会なんて、マンガとかラノベとかに出てくる組織なんかじゃあるまいし。


「今更なんですけど、神秘教会ってそんなに凄いところなんですか」


 神秘教会はその世界では有名な宗教と聞かされていたけど、名前といい、やっていることといい、僕が知る限り新興宗教のそれとそう変わらないのではないか。

 今更ながらに神秘教会とはどんな宗教なのだろうかと訊ねる僕に、ナタリアさんは「うーん」と少し考えるように細い指を顎に当て。


「そうね。言ってみれば『戒律こそ全て』って感じの宗教かしら」


 いわゆる原理主義とかそんな感じかな。


「別にそれも悪いことじゃないんだけど、行き過ぎると本当に面倒な組織になっちゃうの。

 ロベルト君なんて、それで被害を受けた口だから」


 場所が場所なら当然のように作られているホムンクルスを製造したということで、賢者様は、問答無用で暗殺対象になったり、拉致されたりと、散々な扱いを受けていた。


「しかもその戒律も、約五百年続いてると言われるナルーイ派と、実はそれよりも百年くらい前からあるっていう源流を主とするハブイ派で結構違っているクセに、それを正す組織は一つだけっていうのがね」


 それはかなり面倒な構図だね。

 一方では戒律的に問題なくても、一方の戒律では間違ったことをしているとその組織が動くのだ。

 その二者に配慮していろいろやるなんて不可能なんじゃないかな。

 いや、さすがに世界の中でも有名な宗教なだけあって、滅多なことではその対象にならないって感じなのかな。

 と、僕が一人問答をしていると、ここで部活帰りのリフレッシュと和室でのんびりしていた元春がゴロゴロとカウンターの方に転がってきて。


「でも、五百年とか六百年とか、その宗教ってなんつーか、有名っつーわりに微妙に歴史が短いんすね」


「君達のところだともっと長いのかい」


「僕達の世界の有名な宗教は軒並み千年越えですね。

 一番有名な宗教は暦に使われているくらいですから」


「へぇ、君達のところの宗教って発足した時期とかまでわかってるんだ」


「有名どころは大凡どの年代に発足したのかが判明してるんじゃないですかね」


 それが確かなことなのかは僕にはわからないけど。

 世界に名だたる宗教は、創始者を始めとして、そう記録に残っていると知られている。


「凄いわね」


「とはいっても、全部が全部そうというわけではなくて、僕達の国にある神道とかはかなり曖昧なんですけど」


「神様も八百万とかいって、めっちゃいるしな」


 まあ、神道の場合、民間信仰などを発祥として、そこから生まれた宗教だから仕方のないことなのかもしれないけれど。


「八百万の神様って、そっちはそっちで凄いのね」


 正確には数え切れないことを八百万というから、無数に神様が存在するということになるのだが、

 それをあえてここで指摘することはないだろう。

 と、どうしてそんな話になっちゃってしまったのか、不意に始まった宗教談義はさすがにこれ以上深堀りすると沼になってしまうからと打ち切って、話を本題に戻そう。

 早くしないと工房で魔法の練習をしている玲さんが戻ってきちゃうからね。


「とりあえず一通り鑑定してみて、武器の方は形状は珍しいですけど、武器そのものはただの合金ですので、そこまでの価格にはないかと。

 ただ、防具の方は精霊の加護が付与されているのでそれなりの価値になりますね」


「つか、見えない鎧って完全にブラットデアのパクリだよな。俺にくれ」


 なんでそうなるのさ。

 僕が元春からの遠慮ないというか、単に『もらえたらめっけもん』マインドで言った軽口に軽くジト目を向けている中、

 ここでナタリアさんが元春の発言に興味を持ったみたいだ。

 鎧の出処から玲さんに襲撃者の存在は気付かれたくないものの、魔法の専門家としては黙っていられないのかもしれない。


「ブラットデア?」


「元春が持ってる魔法の鎧ですね。こちらは光学迷彩と認識阻害のあわせ技ですけど」


「見せてもらってもいいかしら」


 名実ともに美魔女であるナタリアさんからお願いされたら悪い気はしないだろう。

 元春が「いっすよ」と張り切って、常に装備するマジックバッグから取り出したブラットデアを着装すると、早速光学迷彩を発動。


「素材はなにかしら」


「虎助?」


 ついと鎧の表面をなぞるナタリアさんの指先に、若干の喜色を帯びた声を発しながらも元春がその質問をそのままパスしてくるので、


「基本的には魔鉄鋼(ミリオン)ですね。配合は単純に炭素を加えただけのものになりますけれど」


 単純に強度を高めるなら、ニッケルやクロムを入れてステンレスのようにしてもよかったのだが、そうすると綺麗な茶羽色が出ないということで、このシンプルな配合の合金になっている。

 まあ、鍛造方法や鎧そのものの構造にいろいろと手間を加えて、前述の合金に迫る耐久力になっていたりするのだが、


「このコアみたいなものはインベントリ?」


「はい。シェルなんかに組み込まれる制御コアと同じような扱いですね。

 それで鎧そのものを動かすようになっています」


「パワードスーツのようなものなのね。

 そう考えると、むしろ神秘教会の鎧よりもこっちの方が高性能ってことになるのかしら」


「道具としてはそうなのかもしれませんが、精霊の加護を考えると隠蔽効果は大きいですし、なによりこっちの鎧の方が軽いですから、熟練の戦士にはナタリアさんが持ってきた鎧の方が都合がいいんじゃないですか」


「たしかにそれはそうかもしれないわね」


「えっと、それってどゆこと?」


「パワーアシストも使う人によりけりってことかな。

 僕とか母さんなんかが特にそうだけど、パワードスーツを装備すると逆に動きが阻害される時があるから」


 ブラットデアは装備者の僅かな筋肉の動きに反応して、鎧そのものが動き、その動きをアシストするという仕組みになっている。

 そのシステムの場合、装備者の肉体的な反応が早ければ早いほど、鎧そのものの動きが装備者の動きを阻害することになるのだ。


 一方、ナタリアさんが持ってきた鎧の場合、鎧そのものはあくまで防具という位置付けで、特殊な機能とちょっとした防御力を補うものであり、鎧そのものは装備者の動きを阻害しないような工夫がされている。

 そう考えるともともとの持ち主である人達はかなり鍛えられていたとは思うんだけれど、ナタリアさんの話を聞く限り、鎧を使うことに慣れ過ぎて、その能力に過信しちゃったってところがあるみたいだから。


「と、そういえば、これの持ち主はどうなったんですか?」


「例のベルトをつけて、近くの街に捨ててきてもらったわ」


「ああ、いつものパターンか」


 ナタリアさんのげんなりと呟く元春。


「いつものパターンって、アレってそんなに頻繁に使ってるの?」


「最近はそうでもないですよ。

 ただゲートの特性上、どうしても招かれざるお客様はいらっしゃいますから」


 最近は滅多に迷い込んで来ないけど、つい一年ほど前までは、月に数グループペースで盗賊や山賊とかいう輩がこのアヴァロン=エラに迷い込んできていたのだ。

 最初はそんな輩に対し、それ専用のマジックアイテムやディストピアなんかで対応していたのだが、襲撃回数が増えるにつれ、段々とその管理と罰の選別が追いつかなくなってきて、最終的に彼らが持っていた装備を鋳潰して、簡易的な〈息子殺しの貞操帯(ジュニアキラーベルト)〉を無理やり装備させ、放逐するようになってしまったのだ。


 ただ、最近そういう輩の数が少なくなってきている。

 正直どうしてそうなっているのかはわからないが、もしかすると常時開きっぱなしの次元の歪みが僕達が認識している以外の場所にも実はあって、〈息子殺しの貞操帯(ジュニアキラーベルト)〉をつけられ、放逐された人間がここの事を噂で流しているのではなんじゃないかとソニアは言っていた。

 と、まあ、この辺の万屋の捕物事情はそれとして――、


「それでナタリアさん。鎧の方のお値段なんですけど。

 この鎧、後どれくらいありますか?」


「五セットね」


「そうですか。そうなりますとワンセット金貨十八枚――いや、切りのいいところで金貨ニ十枚でどうでしょう?」


 全部買い取るとして金貨百二十枚。

 日本円で推定すると一千二百万円くらいになるのかな。

 金銭感覚が狂ってくるね。

 それは元春も同じだったみたいだ。


「おおっ、結構いったんじゃね」


「精霊の加護が宿ってるからそれくらいは出さないと、それでどうしましょう」


「ああ、売値はそれで構わないよ。もともとタダで手に入れたものだから」


 ちょっと悩んでいる風だったので、買い取り価格が不満かと思ったんだけど、どうやら別のことに気を取られていたみたいだ。


「では、とりあえずこの鎧の金額はどうお支払いしましょう」


「いつもみたいに万屋ペイでお願い」


「わかりました。そのように処理しておきますね」


「よろしく」

◆ちょっとした追記


 精霊の加護を受けた鎧一式(鋼鉄製のナイフ付き)を中古でニ百万で買い取り。

 正直、かなり買い叩いている印象はありますが、万屋で販売している装備やアイテムの性能を考えると、これでもかなり頑張っている値段だったりします。

 ※ちなみに、実寸大の西洋甲冑のレプリカの値段が長剣付きで五十万前後で、それよりも重装甲かつ加護付きの鎧がこの値段というのは、産地価格の残酷さだと思います。

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