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生徒会長に俺はなる。そして拡大する勘違い

◆今回は途中で視点が虎助から元風紀委員の宮本理恵嬢に代わります。

 それは、新学期も始まったばかりのある日の休み時間のこと。

 元春がいつものように僕の席までやってきて、僕の一つ前の席、トイレに行った田中君の席を我が物顔で乗っ取ると、無駄に真面目な顔をしてまた突拍子もない事を言い出した。


「なー虎助。俺、今度の会長に立候補しようと思ってるんだが」


 僕は元春のおでこに手を当て、熱を測る。

 特に熱があるみたいなことは無いみたいだけど……。


「その、大丈夫?」


「大丈夫って何がだよ」


「そりゃ頭がに決まってんだろ」


「お前が言うな」


 僕と元春のやり取りの途中、会話に入ってきたのは関口君。

 と、そんな関口君の失礼(?)な物言いに、二人はそのまま醜い取っ組み合いを始めるんだけど。

 このまま二人のじゃれ合いを眺めていても埒が明かない。

 だから、僕は関口君と一緒にやってきた水野君や高橋君の手を借りて強引に二人を引き剥がして。


「それで元春はなんで生徒会長に立候補しようなんて言い出したの?」


 またどうせくだらない理由なんだろうけど、なんにしても理由を聞かなければ始まらないと、どうして元春が生徒会長に立候補しようとしているのかを聞いたところ。


「知ってるかお前ら、来年から体操服なんかのデザインが変わるって話」


 成程、またよくもそんなくだらない理由で生徒会長に立候補するなんて言い出したものである。

 僕は元春の立候補理由を聞いて率直にそう呆れたのだが、僕以外の友人達にとってそれはとてもショッキングな情報だったらしい。


「「「詳しく聞かせてもらおうか」」」


 ここでみんなが前のめりに、元春と同じ体勢で聞く体勢に入ってしまった。


 うん、なんなのかな。

 このみんながみんなどこぞの司令官みたいになった空間は――、


 そうして聞かされた無駄に熱のこもった元春の話によると、どうも来年から学校指定の運動着がすべてリニューアルされるそうで、その中には水着も含まれているらしく。

 そんな話を粗方聞き終えたところで、さっきまで元春と取っ組み合いをしていた関口君が僕の机をバンと叩いて立ち上がり。


「って、そりゃ一大事だろ」


「ハーフパンツの競泳水着だなんて改悪もいいとこだろ」


「然り然り」


 それに続けて他の友人たちも続々と声を上げていくのだが、ここで元春がゆるりと手を前に広げ。


「ふっ、落ち着け、お前ら。

 すでに手は打ってある」


「おお――」


「さすがは元春だぜ」


 はて、僕はなんという三文芝居を見せられているんだろう。

 ただ、こういう時の元春は本当に有能にみえる(・・・)ので、友人達のこの盛り上りも仕方のないことなのかもしれないのだが、根本的な疑問として――、


「でも、なんでそれで元春が生徒会長に立候補するんだよ」


「たしかに、元春が立候補しても票なんて一票も取れねぇだろうしな」


「おいおい、一票もなんてことはねーだろ」


 元春と長年の付き合いがある僕としては、こういう時、元春なら他の誰かを矢面に立たせるのがいつものパターンなんじゃないかな。

 ちなみに、水野君が気にしていた票については、僕やひよりちゃんくらいは同情票を入れるだろうから、ゼロ票という結果にはならないと思う。


「それでなんか秘策でもあるのか?」


「まず、水着問題を前面に押し出す。そうすりゃ男子票の総取りは硬いだろ」


「おお――」


「天才か」


 いやいや、なんだろう。みんなのそのリアクションは――、

 というか、一部の真面目な男子なんかは元春を目の敵にしているようなところがあるし、さすがに男子全員の票を取り付けるのは無理なんじゃないかと僕は思うのだが、元春は自信満々で、


「おいおい虎助、なに湿気た面してんだよ。

 素直になろうぜ。

 カットタイプがハーフパンツになるんだ。そんなの絶対阻止に決まってんだろ」


 素直にとか――、そんな単純な話じゃないと思うんだけど。

 僕はあまりに単純過ぎる元春に考えに対しなにか一言言おうとするのだが、

 ただこれに、関口君や水野君、高橋君以外にも周りの男子もさり気なく頷いていたりしていて、


 あれ、みんなそういう反応なの?

 だったら、元春が言ってることも、もしかして間違っていないとか?


 あまりの堂々とした元春と周囲のみんな――、

 その反応に僕の常識がちょっと揺らぎそうになったそのタイミングで、


「そんな訳ないでしょ」


 後ろから元春の頭を(はた)いたのは我がクラスの副委員長であらせられる中谷さん。


 しかし、マリィさんの火弾すらも持ち前のタフさで即時復活できるようになった元春には、その程度の攻撃はむしろマッサージのようなものであり。

 クククと不気味に笑いながら顔を上げた元春は、意味ありげな笑みを口元に浮かべ、シュパンと足を組みながらお尻を椅子の上で滑らせ半回転、中谷さんの方に向き直ると。


「さて、それはどうかな」


「どういうことよ?」


「それは後のお楽しみだぜ」


 一見するとなにか腹案でもありそうな元春のセリフ。

 しかし保育園の頃からの付き合いの僕にはわかる。

 これは完全に口からでまかせを言っているパターンだと。


 たぶん元春が言う策というのは、さっき言ってた水着変更の件を男子たちに訴えて、密かに票を集めるという単純なものだろう。

 しかし、中谷さんの鋭いツッコミに、ここでちょっといい感じのことを言ってやろうと、そう答えただけなんじゃないかな。

 実際、話を聞き出そうとしている中谷さんを白々しく無視しているし。

 これはもう結果を見ずとも決まったようなものかな。


 と、僕は幼馴染の視点から、元春の内心をそう予想。

 とにかく、こうして元春を先頭にした一部男子による生徒会選挙が動き出したのだった。


   ◆


 その日、私こと宮本理恵は古巣である風紀委員室を訪ねていた。

 どうして引退した私が風紀委員室に足を運んだのかというと、私が風紀委員時代、一番手間をかけさせられた松平元春に関する二つの噂を聞いてしまったからである。


 曰く、大人の女性と楽しそうに買い物をしていたと――、

 曰く、噂で彼が生徒会長への立候補も考えていると――、


 まあ、前者に関しては前に似たようなこともあったことだし。

 そ・こ・ま・で――、

 そこまで気になるものでもないんだけれど、生徒会長に立候補するという話は無視できない。

 松平元春の性格を考えると、物凄くくだらなくて、お馬鹿で迷惑なことを考えているのは間違いないからだ。

 被害が他の生徒に及ぶ前になんとかしないと。


 ということで、風紀委員室にやってきた私は事情を聞こうと後輩の花園君を探すのだけれど、まだホームルームが終わったばかりだからかしら、メンバーの半分も集まっていないみたいね。

 出来るなら、去年私のフォローをしてくれていた花園君に話をしたかったんだけど、いないのならば仕方がない。

 私はちょうど近くにいた町村君を捕まえて、松平元春に関する二つの噂話の真相を確かめることにする。


「その噂は本当らしいですよ。

 実際、美女と一緒に行動する松平の写真もあるそうですから」


「噂は本当だったのね」


 残念ながら町村君はその画像を持っていないってことだけど、とりあえず噂の一つは本当みたいね。


「このことを風紀委員はどう考えてるの」


「気になる噂ではあるものの、なにぶん学外のことですから」


 まあ、私たち風紀委員の仕事はあくまで学校内の校則違反を注意することだものね。


「でも、相手はあの松平元春よ。去年の田島のこともあるから、なにか変なことになる前に手を打っておかないと」


「たしかに――、そう考えると先輩の言う通りなのかもしれませんね。

 ただ、やはり確たるなにかがないと介入するのは難しいですから」


 むむ、やっぱりこっちの問題に関しては打つ手なしか。

 私が少し悔しげに考え込んでいると、町村君がどこか落ち着かない様子で妙なことを言い出した。


「あの、先輩は松平のことが気になっているんですか」


「気になってる?

 まあ、ずっと追いかけてきたから、なにか変なことをしてると言われるとどうも落ち着かないのよ」


 これって職業病のようなものかしら。

 しかし、町村君が考えていたのはまったく別のことだったみたい。


「いえ、そういうことではなくてですね。

 その、せ、先輩は松平のことが好きなんですか?」


「はぁ?」


 なにを言っているのかしらこの子は?

 私が松平元春が好きだなんて――、


「一体なにをどう勘違いしたらそうなるのよ?」


 私は努めて冷静に――、

 いいえ、冷静にというよりも、

 そうね。呆れるように、そう、呆れるように町村君に聞き返す。


 私が松平元春を――、

 そんなことあるわけないじゃない。

 あいつは女子の敵で学校の風紀を乱す急先鋒よ。

 まあ、たまに、本当にたまに、私達が見直すような行動を取る時はあるんだけど、普段の行いを考えると好意を持つことなんてありえない。ありえないわよ。


 私がそんな心情を懇切丁寧かつやんわりと町村君に伝えたところ、何故か町村君は複雑そうな顔をして、


「そ、そうですよね。

 実は前に先輩方がそうなんじゃないかって言っていたもので、もしかしてと思ってしまって」


 まったく、他から聞いた噂を鵜呑みにするなんて、町村君もまだまだね。

 けれど、それはそれとして――、


「ちなみに、町村君に馬鹿なことを吹き込んだ先輩って誰のことかしら?」


「え、えっと、あの、その…………、宮下先輩と棚橋先輩です」


「ふぅん――」


 後輩に変な誤解を吹き込んで、これは後でとっちめなくちゃ。

 私が二人にどんなお仕置きをしようかしらって考えていると――、


「でも、そうですか。

 だ、だったら、僕が先輩の、その、こ、……恋人候補に……立候補しちゃおうかな。なんて思ったりして」


「え、立候補がなにかしら?」


 町村君の話を聞き逃してしまった。

 なので、町村君にもう一度なにを言っていたのかを聞いてみると。


「いや、僕が松平の代わりに立候補しようかな――なんて思っちゃったりなんかして」


「はぁ、町村君、あなた本気なの?」


「やっぱり僕じゃ駄目ですか?」


 思わず目が鋭くなってしまったのかしら、私の問いかけに不安そうな目線で訊ねかけてくる町村君。

 まあ、言ってることが言ってることなので、彼がそうなってしまうのもわからないでもないけど。


「駄目に決まってるじゃない」


 風紀委員の新体制はつい最近動き出したばかりなのよ。

 なのに委員長である町村君が生徒会選挙(・・・・・)に立候補だなんて何を考えているのかしら。

 生徒会選挙に立候補するなら夏休み前からそのことを伝えておかないとダメでしょうに。


「そ、そうですか――、そうですよね」


 まったくこの子はなにを考えているのかしら。

 私が突拍子もない事を言い出した町村君に肩をすくめていると、背後から聞き慣れた声が聞こえてくる。


「あれ先輩、どうしてここに?」


 振り返ったそこにいたのは花園君。

 と、丁度いいところに来てくれたわね。

 どうしてか大袈裟に落ち込んでしまった町村君には悪いけど、変なことを言い出した彼が悪いのだと、私は彼のフォローを後回しに、ここまでの経緯を話しつつ花園君を連れて委員会室の奥へ。

 そして、花園君に松平元春に関する二つの噂に対する委員会の動きを今一度たしかめてみたんだけど。


「ああ、例のお出かけ情報ですか、あれは間宮君も一緒にいたという証言もありますから、前に聞かされていた間宮君のお姉さんかその友人なんじゃないかって話になっているみたいですよ」


「そうなの?」


 やっぱり今回もそういうパターンなのね。

 そもそもあの松平元春が女の人と一緒に出かけるだなんてありえないんだから、完全にみんなの早とちりってところかしら、まったく迷惑なんだからやめてよね。

 しかし、そうなるとやっぱり重要なのは生徒会の件よね。

 そっちの理由とか聞いていたりするのか花園君に聞いてみると。


「それなんですけど、間宮君によると、来年変更になる水着のデザインの抗議が目的だそうです」


「えっと、そんなことで立候補したの?」


「重要なことらしいです」


 あの松平元春が生徒会長に立候補するだなんて、どんな目的があるのかしらとは思ってはいたんだけど、現実は私が考えていたことよりも遥かにくだらないことだったみたいね。

 呆れる私に苦笑いの花園君。


「けど、水着のデザインの変更なんて学校の決定でしょ。生徒会長になっても介入するのは無理じゃない」


「よくわからないですけど、なにか秘策があるとかで――」


 秘策ねぇ……、

 考えられるとすれば新聞部絡みで先生の弱みを見つけたとか。

 そういえば例の避難訓練の時に火事を消し止めたのが松平元春だったわよね。

 こういう時って、だいたい感謝状がどうのこうのって話になると思うんだけど。

 そういうのもないみたいだし。

 もしかして、その件でなにか学校と交渉する材料を見つけたとか?


 けれど、そもそも松平元春が立候補して当選するのかしら。

 松平元春が生徒会選挙選で勝ち残るなんて難しいと思うんだけど。


「聞いた話ですと、本人はそれなりに自信があるみたいです。

 なんでも生徒の半分は男子だからとイケるって言ってるみたいで」


 立候補者がどれだけいるのかはしらないけど、男子生徒の半分くらいの指示を取り付けることができれば、一応可能性はあるのかしら。

 それも甘い計算だとは思うけど、相手が松平元春ってなると、また何かよからぬ計画を立ててるんじゃと勘ぐりたくなるわよね。


「そう考えると町村君が言った立候補の話も悪い選択じゃないのかもしれないわね」


 私がそう呟くと、花村君が少し驚いた後に何故か哀れんだような視線を私の背後に向け。


「町村が生徒会選に、ですか?」


「ええ、松平元春の話をしていたら、急にそんなことを言い出したのよ」


「あの、先輩、それなんですけど、勘違いなんじゃ……」


「え、勘違い。それってどういうこと?

 花園君、なにか知っているの」


「ああ――、そうですよね。

 いえ、もう終わったことですので先輩は気にしないでください」


 よくわからないけど、終わったのならいいわ。

 それよりも今は松平元春への対策よ。


「でも、万が一のことを考えるとなにか対策を立てておきたいわね」


「そうですね。僕も一応考えてみますけど、ここはシンプルに町村に風紀委員として頑張ってもらうのが一番かと」


「そうね。

 じゃあ、後は優秀な後輩達に任せようかしら」

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