新装備各々02
◆後半です。
みなさんの装備をソニアに発注して数日――、
ソニアから全員の装備が出来上がったとの連絡が入ってきたので、さっそく注文をくれたメンバーに万屋の訓練場に集まってもらい、その出来栄えを見てみることになった。
「みなさん、お待たせしました。
こちらが完成品になります」
ちなみに、今回集まってくれたメンバーは、装備を渡す白盾の乙女のみなさんに玲さん、元春に加えて、マリィさんに魔王様のお二人だ。
と、そんなみなさんの前には完成したばかりの商品がずらり用意された長机の上に並べられ。
「おお――」
「まず試して欲しいのは、エレオノールさんの為に作ってもらったカウンターシールドですね」
そう言って、僕が手に取るのは先割れスプーンのような形をしているタワーシールド。
盾の下部分が奇妙な形になっているのは、強力な魔法に対して、その部分を地面に突き刺すことで、その攻撃に耐えられるようにするためだという。
「カウンターシールドですか。
名前を聞く限り、攻撃を跳ね返す盾のようですが」
「正確には向けられた魔法の力をその身に蓄えることができる盾になりますね。
裏側についている宝玉に魔法を貯めて返すことができるようになっています」
ちなみに、この宝玉はつい一ヶ月ほど前、とある世界においてヴェラさんがメチャクチャに壊してしまった巨大ゴーレム・ティターンの肩の部分についていた魔導砲台を構成する部品だったりする。
あの後、監視目的で例の荒野にばら撒いたネズレムがサンプル名目で回収してきたこれが、魔法の放出を一時的に留める効果を持っていたらしく、ソニアがその力を利用してディロックのようなものに仕立て上げたみたいである。
「でも、反射って言うわりには意外としょぼい効果っすね?」
というコメントは、実際にその盾で魔法をチャージ、魔弾を放ったエレオノールさんを見た元春の感想である。
とはいえ、もともと魔法をチャージするそれが、ティターンから回収してきたクリスタルをそのまま使ったものであり、そこに繊細な魔法コントロールが必要なディロックの生成過程を半自動化した魔法式を付与しただけとなると、威力が落ちてしまうのは当然なのだ。
ただ、その分、盾そのものの魔法を受け流す力に関しては、ソニアもかなり気を割いて作ってくれたようで、耐魔法性能に関してはかなり高性能なものとなっているらしい。
そして、それを実際に使ってみたエレオノールさんはというと、
「いや、魔法への防御力はかなりのものですね。
もともとの強度もかなり高いようですし、素晴らしい盾です」
うん、かなり満足してくれたみたいだね。
まあ、盾そのものにストームワイバーンの血が使われているから、柔い盾が出来るわけがなのである。
ということで、それから二度三度と、魔法銃なんかを使った実験で盾の性能を確かめたところで次の説明に移ろうか。
「次に、こちらがアヤさんの装備で、黄昏の聖剣ラグナロクです」
「なんか凄いのきちゃった」
と、さっきの盾とは違って、こっちは名前を聞いただけで大袈裟なリアクションをする元春。
まあ、この名前はゲームをやっている人にしかわからないだろうから、あと、このネタがわかる人は魔王様くらいなもので、それ以外のみなさんは意外と冷静なのかと思いきや、ここで声を上げたのはその剣を受け取るアヤさん本人だった。
「せ、聖剣とはどういうことなのでする?」
「そのままの意味ですよ」
いつもの冷静さはどこへやら。
どこか可愛いらしく混乱するアヤさんに解説するのは、以前マリィさんとも話した聖剣と精霊との関係性。
「精霊が宿る武器とは……、
自分には過分な装備の気がするのですが」
「しかし、聖剣とはいってもラグナロクはまだ赤ちゃんのようなものですから、いまのところ普通の魔法剣とさして代わりませんよ」
実際、このラグナロクにできることは斬った相手を多少弱体化させるくらいのことくらいなもので、それだけ聞くと凄まじい力のようにも聞こえるのだが、その効果は普通の魔法剣よりもよっぽど地味なものなのだ。
ただ、本体そのものは、一見すると凡庸なサーベルのように見えるのだが、先ほどのエレオノールさんの盾と同じく、先日狩ったストームワイバーンの血液から作られた魔法金属が使われている為、単なる剣として見ると、かなりの希少品になったりするのだが、見た目は本当に凡庸なサーベルなので、慎重に鑑定されなければそれが希少なものであると気づかれないというのはソニアの談である。
まあ、そもそも龍種の血を触媒とするような金属が、その世界にはあまりないというから、ふつうに気付かれないのではという予想もあるらしい。
「う、む、そうなのか」
ちなみに、この剣に宿っている精霊がニュクスさんが選抜した夜の系譜に属する原始精霊ということで、この剣が成長を続けていけば、高度な隠匿性を秘めた、かなり強力な聖剣になるのではと予想されているものの。
ただ、この剣がそうなるのは、かなり先の話であって、アヤさんが現役の間にそこまで成長することはまずないからと、アヤさんに安心(?)してもらったところで、ここで一気に玲さん、リーサさん、ココさんの装備紹介に移ることにする。
「エレンさんとアヤさんの後だとなんか地味っすね」
この二人の装備は帽子と靴だから、ココさんの言わんとする事もわからないでもない。
それにココさんの場合、これの元になった魔法の靴をすでに持ってるからね。
しかし、これら装備を見た目が地味だと侮ることなかれ。
そこはソニア謹製の装備である。
「まず、ココさんの靴はお店で売り出している靴にいくつかの機能を追加したものです」
「そっすか――、
それで、どんな機能が追加されてるんす?」
「先ずは衝打。
これはノックバック機能ですね。
靴に魔力を込めて対象を蹴ることで相手を吹っ飛ばすことができます」
「ほほう、便利そうな機能っすね」
ココさんの場合、相手に囲まれたら終わりなところがあるということで、この機能は大きな戦力になってくれるだろう。
「そして空包。
これは靴の底を起点として空気の塊を作り出す機能ですね。
ちょっとした牽制や高いところから落ちた時なんかに使うと便利だと思います」
感覚としては空気のクッションを足元に作る感じかな。
うまく使えばクッションの反動を利用して大ジャンプすることも可能となっている。
「ちなみに、この空包は先ほど紹介した衝打と合わせることが出来ます」
「ん、それってなんか意味があるんすか」
靴の周囲に生み出せる空気の塊。
そんなものに衝撃を持たせても意味がないのではとみなさんお思いのようだが――、
「実はこの空包は一度設置してしまえば、しばらくはその場に存在し続けるんです」
「ええと?」
「ちょっと待て、それって、もしかして機雷のとかそういう感じに使えんのか?」
おっと、さすがは元春である。
すぐに、このコンボ技の使い方に気がついたみたいだね。
そうなのだ。設置式の空包に衝撃の特性を持たせるそれは、つまり見えない爆弾を作り出せるということであるのだ。
「威力の方はお店で売ってる魔法銃の衝撃の魔弾くらいなんですけどね」
「いや、それでもありがたいっすよコレ。
自分、囲まれたら終わりって感じのとこがあるっすから、そういう時の逃げに使えそうっす」
たしかに、空包の衝撃を利用して、敵を倒すと同時に包囲網から脱出なんて使い方もできそうだよね。
「しかし、見えないそういうのが、いつの間にか自分にってのが怖いわね」
「言われてみれば――」
「それにつきましては、魔法窓のマップ機能と連動が出来ますので、そちらの方を使って確認していただければよろしいかと」
「ふむん、それなら平気なのかしら」
まあ、それでも連携次第では仲間に被害が――なんてことにもなりそうだが、その辺は事前にこういう時に使うなどと白盾の乙女のみなさんで相談してもらうしかないと、靴に付与された魔法同士を複合させることが出来ることまで紹介したところで、
「最後に隠し玉なんですけど、走りながら『ロケットダイブ』と唱えると必殺技が出ます」
これはここまでに紹介してきた全能力を重ねて使った特殊攻撃魔法のようなもので、
「必殺技っすか」
「あちらにクッションが用意してありますので、それを目掛けて使ってみて下さい」
僕が指差す先にいるのはウレタンマットを構えるエレイン君。
「五メートルくらい手前で唱えると丁度いいかと思います」
「了解っす」
そう言うと、先の二人の装備を見たいた分、楽しみな部分があるのか、ココさんは迷う素振りも見せずに駆け出して、
「ロケットダイブ」
キーワードを唱えた瞬間――、
暴力的な風がココさんを前に押し出して、エレイン君に衝突。
しっかりとヒットバッグを構えていたエレイン君もろとも十数メートル吹っ飛んだ。
そんな光景を見て。
「スゲーな。格ゲーの技みてー」
元春が素っ頓狂な声を上げ、魔王様が手を叩く。
そして、実際にロケットダイブを使用したココさんはというと、なんとか着地を決めたその残心から、ギギギとぎこちない動きでこちらに振り返り。
「なんすかこれ?」
「風の魔法を利用した人間砲弾と言ったことろでしょうか。
シチュエーションによってはかなり威力が出ると思いますが、使い所には気をつけてくださいね」
技の発動と同時にココさんの前方に風属性の魔法障壁が展開される為、ココさんになにかあることはないのだが、例えば頑丈な壁に囲まれた場所など、場所によっては自分も相手も必要以上にダメージを受けてしまう可能性があるからと、ココさんに注意を入れたところで、
「最後にリーサさんの帽子と玲さんの装備一式ですけど」
「ねぇ、この帽子、なんか喋ってるんだけど」
聞いてきたのは玲さんだ。
玲さんの装備一式は、師匠のナタリアさんに合わせて、アラクネの糸で作った黒いローブにアステリオスの革で作った胸当て、そしてリーサさんに渡すのと同じ仕様の魔女帽子となるのだが、玲さんが気になったのはやっぱりリーサさんとおそろいの帽子だったようである。
「一応、インテリジェンスハットですから」
ちなみに、その帽子には、エレイン君達のネットワークをデータ化ものを、有名なAIアシスタントと掛け合わせてインストールしてある為、音声は某魔砲少女が持つデバイスよろしく、いかにもな機械音声になっていたりする。
「使いたい魔法とその数を思い浮かべてください」
と、玲さんとリーサさんが僕に言われた通りに、無言で使いたい魔法を脳裏に思い浮かべると、帽子から「I received」と返答があって、ぱぱぱと使用者であるお二人の体の両サイドに複数枚の魔法窓が表示され、後はそこに魔力を流せば魔法の発動が完了するという寸法なのだが。
「これってどういう仕組みになってるの」
「まず帽子の裏側を見て下さい。そこに銀色の丸い模様がいくつかありませんか」
「あるわね」
裏側を覗き込みながら答えてくれるのはリーサさん。
「実はそれ、魔法金属を薄く伸ばしたもので、念話の受信機のようになっているんですよ。
だから、はっきりと脳裏に指示を思い浮かべれば、帽子そのものがそれを感知して魔法窓を動かしてくれるんです」
「へぇ、そんな仕組みになってるんだ」
「凄いわね」
「他にも、マップと連動して、さっき話したココさんの空包機雷の位置を確認したり、ネズレムを動かしたりと――、
まあ、要するにメモリーカードでできる操作は教え込めば命令一つで出来るようになってるんです」
例えばスクナを飛ばして周囲を警戒してもらって、その情報を整理してサポートしてくれたりとか。
いろいろ利用方法はあると具体例を上げながら説明したところで、これですべて紹介が終了かと思いきや。
「待て待て待て待て、まだ俺のブラットデアのお披露目がまだだろ」
「冗談だよ。エレイン君、元春の前に持っていってくれる」
「まったく」
元春がぶつくさ言う中、エレイン君の手によって元春の前に運ばれていくのは、新たに改修を終えたブラットデアだ。
見た目こそ、たいした変化はないものの――いや、性能もそこまで変化はないのかな。
とにかく、パワーアップはしているらしい。
「んで、俺のブラットデアはどう変わったんだ」
「まずはご要望通り、光学迷彩の継続時間を伸ばしたよ」
これはついこの間、亀型ゴーレムのラファが、テイマーのエルマさんが帰っていった世界から回収してきてくれた宝箱の中に入っていたハーミットラビットの毛皮を各所に配置した結果なのだという。
「マジか」
「まあ、パワーアシストの関係上、二割り程度しか変わってないけどね」
そもそもブラットデア本来の機能はパワーアシストなのである。
だから、優先して改良されるべきなのは、先ずはそちらであって、光学迷彩などの機能はあくまでその余剰部分を使っているに過ぎないのだと、そんな説明をしたところで、本命の機能であるパワーアシストの機能を確かめていくのだが――、
こちらは、どれだけアシスト機能がパワーアップしたのかの確認だけなので、それほど見どころもなく。
正直、地味にウェイトを上げたり、軽く演舞のような事をするだけということで、元春がすぐに飽きてしまったようなので、ここで元春のやる気を取り戻してもらうべく新規追加機能のお披露目を――ということになる。
ちなみに、その新機能がどんなものかというと。
「あと、羽を使って飛ぶことができるようになってるみたいだよ」
「おお――」
「まあ、実際には飛ぶというよりも飛ばされてるって感じなんだけどね。
風のマントみたいな感じで」
「風のマントって、それって大丈夫なん?」
そういえば、前に風のマントを試した時、元春、墜落しそうになってたっけ?
ただ、ブラットデアの防御力をもってすれば、もしも頭から地面に落ちたとしても特に問題はないので、
「ブラットデアの防御力なら大丈夫だよ」
自身をもってそう答え。
「ちなみに、これには他の使い方もあって、内羽根を飛ばして武器として使ったり、乗ることもできるから」
「まるで膝丸のような機能ですわね」
「オーナーが言うには、膝丸のパワーアップを目論んでのデータ取りみたいです」
「ふむ、それなら仕方ありませんわね」
と、いったんは『自分の真似をされた』とばかりに、元春のブラットデアを睨んでいたマリィさんだったが、本来の意図を聞いたところで許してくれたみたいだ。
そして、マリィさんにご納得をいただいたところで、さっそく元春による実演をしてもらうことになるのだが、
「つかさ、飛ばした羽に乗るって、それって出来るん?」
まあ、もともとの飛行すらもただの人間ロケットみたいな感じなんだし、元春が心配するのも当然なんだけど。
「ほら、そこは有名な柱投げとかあんな感じで練習をすればいけるんじゃないってオーナーが言ってたよ」
「いやいや、それ人間業じゃねーから」
と、文句を言って抵抗していた元春だったが、有名な柱投げというワードを聞いて、わくわくと期待の目で見つめる魔王様には勝てなかったようだ。
最終的にみんなの前で挑戦してみることになり、派手にすっ転んで、失敗となってしまったのは言うまでもないだろう。
◆今回登場した装備
カウンターシールド……ディロックの自動作成機能を搭載したムーングロウ製の大盾。魔法の吸収と放出が可能で下位の魔法までならほぼ完璧に防ぐことが可能となっている。盾の下部に取り付けられたフォークのような部分を地面に刺すことにより、踏ん張ることなく強力な攻撃を防げるようになっている。
黄昏の聖剣ラグナロク……黄昏の精霊を宿したムーングロウ製のサーベル。とある実験で呼び出された黄昏の原始精霊が宿っている。刀身に魔力を込めることで揺れるような魔力光をまとわせ、相手に彼我の間合いを誤認させる力を使うことができる。ちなみに黄昏の精霊は光と闇が混じり合い最強に見える原始精霊である。
風龍の魔法靴……ストームワイバーンの革をメインに作られたスニーカー。世界樹の樹脂で作られたソールにムーングロウ製のプレートが入れられており、〈空歩〉〈浄化〉〈乾燥〉〈硬皮〉〈衝打〉〈空包〉〈人間砲弾〉の魔法式が刻まれている。一部の魔法はどこかで見たような星のマークに触れることによって任意で発動することが出来る。
インテリジェンスウィッチハット……アラクネの糸で作られた魔女帽。帽子内部にはムーングロウの銀糸が張り巡らされており、それによって装備者の思考を読み取り、組み込まれたインベントリにて魔法式を引き出し、展開する能力をもっている。インベントリに人工知能を組み込むことで、擬似的なインテリジェンスハットとなっている。
魔女のローブ……アラクネの糸で作られた黒いローブ。体から自然の流れ出す魔力を吸収し、防御力を上げる。魔力を使い果たすと防御力が低下。
闘牛銀の胸当て……極薄のムーングロウのプレートとよく鞣されたアステリオスの革を重ねて作った胸当て、表面のムーングロウが魔弾などの攻撃を弾き、内側の牛革が精神魔法への高い耐性を持つ。軽量化の為、物理的な防御範囲は狭いが、魔弾反射、耐性の効果範囲は広い。
ブラットデアver.3.0……新たに羽が取り付けられた魔動鎧。羽にはフォレストワイバーンの皮膜が仕込まれており、その推進力で空を飛ぶことが可能になっているが、まだ未完成。
ちなみに玲の武器は、魔法使いの杖代わりとして、既におみくじ木刀(小大樹の枝)が与えられています。
◆次回投稿は水曜日の予定となっております。




