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魔法世界とコンピュータと

 今話はおまけ付きです。

「なあ、少年。ちょっといじってもいいか?」


 西日が差し込む万屋の店内、唯一のお客様である賢者様がそう言って指を差したのは、和室の片隅に備え付けられたコンピュータだった。

 そのすぐ隣には雷の魔石等の魔法素材により魔改造されたルーターが設置されていて、

 そう。マリィさんの逆鱗に触れた毒舌ゴーレムを発見した素材置場漁りから二週間ほど、ついにこのアヴァロン=エラにもインターネット環境が整ったのだ。

 使い方とか分かりますか?という僕の問い掛けに、賢者様が、ああ、問題ねえ。と手を振ってパソコンが置かれた座卓の前に腰を下ろす。

 マウスを操りパソコンをスリープ状態から立ち上げを行い、その僅かな時間を有効に使ってヘッドホンをセット、インターネットに接続する。

 多分、この辺の操作は僕達の世界も賢者様の暮らす高度に発達した魔法世界もあまり変わらないのだろう。

 それでなくとも、賢者様たち常連客の皆さんは、ゲーム機やら何やらと、普段から僕達の世界の機械に触れているのだ。この手の操作方法なんて感覚的に理解しているのだろう。

 とまあ、そんな感じで新しいおもちゃ(バソコン)に齧りつく賢者様を横目に僕は、時折やってくるお客様の対応をしたり、マリィさんやフレアさんがいる時には出来ないエクスカリバーの整備をしたりと通常業務をこなしていく。

 そして、ふと賢者様の背中越しのモニターに視線を戻すと、その画面が肌色に埋め尽くされていたのだ。


「あの、賢者様。なにやってるんですか?」


「見りゃ分かんだろ。エロ動画を見てんだよ。というかスゲェな。お前等の世界はどうなっちまってんだ。コレ、俺の世界じゃ完全に禁忌に触れる映像だぞ」


 おそるおそるした僕の問い掛けに、賢者様はモニターを食い入るように見つめたままで答える。

 正直、いい大人が中学生みたいに目を血走らせてエッチな動画を見るなんてどうなの?そう思わないでもないけど、

 曰く、賢者様の世界は保守的な勢力が大勢を占めるらしく、表立ってそういった画像やら動画やらが手に入れられないのだという。

 かたや、僕の暮らす日本はといえば、ある種、世界一のポルノ大国なんてレッテルが貼られるくらいに、そっち関係の危険なブツが揃っている環境にあったりする。

 まあ、そのお陰で紳士を装った他の国からの締め付けがキツくなっているとかいないとか。『このままじゃ、日本のエロが、HENTAIが潰されちまう』なんて元春が熱弁を振るっていたけど、それはそれとして、


「賢者様の世界の事情は分かりました。でも、その映像は止めてください、ね。そろそろマリィさんが来る頃ですから、そんなの流しっぱなしにしてたら――」


「あら、(わたくし)がどういたしましたの?」


 目を背けながらも注意するその最中に聞こえてきた声に振り返ればヤツがいた。

 …………………………………………いや、マリィさんだ。

 気配がしなかった気がするけど、いつの間に入ってきたんだ?

 賢者様を注意するのに夢中になりすぎたのか?

 じゃなくて、どちらにしてもこの状況はマズ過ぎる。

 男2人でエッチな動画が流れるモニターを前でワイワイと騒いでいるなんて、マリィさんにバレたら問答無用で火炎滅菌される案件なのだ。

 だから、ここはすぐに謝って――、

 いや、落ち着くんだ。マリィさんの様子から察するに、彼女はまだ僕達が何をやっていたのか気付いていないのではないか。

 ここで謝ったらそれこそ、自分達が悪いことをしていると認めているようなものじゃないか。

 だったら、ここで取るべき行動は――、

 コンマ以下秒、この緊急事態にどう対応するか。矢継ぎ早に思い浮かべた考えの最後、正々堂々誤魔化すことに決めた僕は『とにかく、その画面をどうにして下さい』と、そんな意味を込めたアイコンタクトを意見ジャ様に送ると同時に、マリィさんの気を引こうと声をかける。


「な、なんでもないですよ。それよりもエクスカリバーの鑑賞はいいんですか。何かリクエストがあればお茶菓子も用意しますけど」


「むぅ。虎助からそんなことを言い出すなんて、なにか怪しいですの」


 しまった。マリィさんといえば武器の話題かお茶菓子を出しておけばどうとでもなるだろう。なんて考えていたのだが、それが仇となったみたいだ。


「というか、怪しいと言えばロベルトです。それは何をしていらっしゃるの?」


 マリィさんがチラリと向けた冷たい視線の先にはパソコンを抱え込むようにする賢者様の姿があって、


「ななな、なんでもねえっての。俺のことは気にすんなよ」


 いや、どうにかしてくださいって眼力を送ったのは僕ですが、ウィンドウを消すなり、モニターの電源を落とすなり、方法は幾らでもあったでしょうに、抱きついて画面を隠すって、子供ですかアナタは――、

 あからさまに怪し過ぎる賢者様の行動に、マリィさんは疑いを深めたのだろう。


「そんな格好でなにもない訳が無いでしょう。また、何かやらかしたんですね。そこをおどきなさい。何を隠していますの」


 そのしなやかな指先に小さな火を灯し、賢者様の首筋にそれを近づける。

 すると当然、賢者様は「熱っ!!」とエビ反り状態でパソコンから離脱する訳で、

 結果的に件の映像を覗き込む形になったマリィさんは、突如として視界に飛び込んできた肌色の乱舞に「ふぁっ」と素っ頓狂な声を上げたかと思いきや、透き通るような白磁の肌を赤く染め上げ、悲鳴じみた声でこう捲し立てる。


「あああああ、貴方、ななななな、何をしていますの。いやらしいですの。汚らわしいですの。破廉恥ですの」


そして、自らの体を羞恥に染め上げた熱エネルギーをそのまま、燃えたぎる魔力(怒りエネルギー)に変換するように華奢な腕を包み込む真紅のオペラグローブに装填。

 放たれようとする魔法は、マリィさんお得意の〈炎の槍(フレイムジャベリン)〉か、それとも更に上位の魔法だろうか。

 どちらにしても、店の中でこれだけの魔力を注がれた魔法を放たれたら被害は甚大なものになるだろう。


「お、落ち着いてください――ね。マリィさん。ここで魔法を使ったら僕達もタダじゃすみませんから」


「わ、(わたくし)は落ち着いていますの。大丈夫ですの。こ、虎助が止めようと入ったのでしょう。だからどいていてくださいね。その男が殺せませんから。焼き殺せませんから」


 容易に想像できる惨状に僕が説得しようとするも、マリィさんはヤンデレ妹のような台詞を口に、今にも魔法を放たんと賢者様に魔力渦巻く手の平を突きつける。

 ああ、こうなってしまっては、僕にできることはこの万屋を守ることだけか。

 明らかにテンパるマリィさんを見て、これは止められないと判断した僕は、マリィさんを説得するのを諦めて、店の商品を最優先に固定結界を施していく。

 と、そんな僕の動きを見た賢者様が、


「おい、少年。裏切る気か」


 裏切るも何もこれは賢者様が巻いた種である。

 普段から困ったお客様の対処をしてくれているエレイン君達を動かせば、マリィさんを止められるかもしれないが、既に戦闘態勢に入っている高位の魔導師に下手に手を出せば暴発なんて事態にもなりかねない。

 そう、最早ここに至ってマリィさんに手を出せる人材はこの場には(・・・・・)存在しないのだ。

 しかし、賢者様からしてみると諦めた時点で死亡確定である。バッと腕を前に突き出して最後の悪あがきを目論む。


「待てお嬢、これは少年に頼まれたことなんだよ」


 この人はいったい何を言っているんだ?

 もしや僕を共犯者に仕立て上げて自分への怒りを分散させるつもりなのか。

 驚愕に目を見開く僕を見て、賢者様がニタリと人の悪い笑みを浮かべる。


「なんでも虎助少年はモテモテな俺から女を喜ばせるテクを俺から学びたいんだと。俺はその教育をしていただけなんだって」


 なんてことを――、賢者様のあからさまな嘘に動揺する僕だったが、幸いなことに、賢者様の撹乱にもマリィさんの精神は揺るがなかった。


「嘘をおっしゃい」


 ひゅぼっ!!

 どこか気の抜けた音を立てて、賢者様のすぐ後ろ、賢者様が言うところの『女を喜ばせるテクニック』という卑猥な映像を垂れ流しにしていたパソコンが燃え上がる。

 ええと――、あのパソコンにも固定化の魔法がかかっている筈なんですけど……。

 これはもっと固定化の魔法を強化しなくてはマリィさんの魔法に店が耐えられないか。

 まるで空気そのものが個体化しまったかのような重苦しいプレッシャーの中、僕はどうにか動く指先だけで魔法窓を操作、ありったけのイメージ力を注ぎ込み、店内に張り巡らされた防衛機能を強化する。

 だが、そんな僕の一方で賢者様はくじけない。

 それこそ、正体がバレてオラオラされても自らの平穏を諦めなかった殺人鬼のように、みっともなくも最後まで抵抗を続けるみたいだ。


「嘘じゃねえって、少年はな。お嬢の為に俺からテクを学ぼうとしてたんだぜ」


 おそらく、賢者様としては、それが女性に対する最大の褒め言葉に繋がると信じていたのだろう。

 しかし、残念ながらそれは誤った選択である。

 特にエッチな話題が苦手なマリィさんには逆効果で、

 その結果、どうなるのかといえば――、


「余計に悪いですわ――っ!!」


 まったく仰る通りです。

 絶叫と共に放たれた浄化の炎がマリィさんを起点として、床を――、壁を――、天井を――、店内全てを埋め尽くすように駆け巡る。

 だが、その炎が放つ熱がマリィさん(と僕)に届くことはない。

 どうしてなのか?

 それは考えるまでもないだろう。自分が放った魔法で、術者が、その仲間が、火傷を負ってしまうというのは二流の魔法使いがやる仕事だからだ。

 けれど、その一方で、敵と認定された者の末路というのは酷いものだ。

 とはいってもだ。何というか、うん。ギリギリのところでマリィさんの理性が働いたみたいである。

 炎に巻かれた賢者様はその熱さにやられて転げ回っているけれど。皮がベロベロになるとか、黒焦げになるとかにはなっていないようだ。

 どうやら、この炎は熱に重きを置いて具現化した炎らしい。直接的な攻撃力はほぼ皆無で、どちらかといえば相手を精神的に追い込む事に特化した魔法のようだ。

 よく訓練された炎術師というのは炎の温度すらも自在に操ると聞かされたことがあるが、これがそういうなのか。

 安全域の中で僕が感心している間にも、賢者様は和室内をのたうち回り、マリィさんのやさぐれた気持ちも幾分回復したのだろう。万屋を焼却炉の如くオレンジに染め上げていた炎が、パチンと一発。フィンガースナップで霧消する。

 後に残ったのは失敗日焼けのように全身を真っ赤にした髭面のダンディだけだった。

 まあ、この程度ならば自然回復でどうとでもなるだろうけど、念の為にポーションでもかけておこうか。

 炎の魔法が魔法薬に影響を与えてる可能性もあるからその品質チェックを兼ねてね。

 火の手が収まるやいなや、僕は手早く固定結界を解除。魔法薬が並ぶ棚の中からポーションを1本取り出し、ゆでダコ状態の賢者様にドボドボまぶしていく。

 見たところポーションに異常はないみたいだな。

 とすると、やはりあの炎は幻術や精神魔法のような魔法なのだろうか。

 僕がマリィさんが放った魔法の考察を行う傍ら、ポーションの効果によって蘇ってきた賢者様が壊れてしまったパソコンモニターの前に膝をつく。せっかく手に入れた桃源郷の入り口(エロ動画の鑑賞装置)が無残に破壊されてしまったのがショックなのだろう。


「壊れてしまいましたね」


「こ、壊しちまったな」


「わ、(わたくし)、悪くありませんわよ」


 事実を突きつけられオロオロするマリィさん。

 賢者様はその様子を恨めしそうに見上げているが、どちらかとえいば、この場合、悪いのは賢者様の方だろう。だから、


「固定結界のおかげで商品に被害は無いようですし、取り敢えず賢者様にはパソコンを弁償してもらうとして――」


「って、なんで俺なんだよ!? パソコン壊したのはお嬢だろ」


 当然の要求を突きつける僕に、破壊されたパソコンの前で項垂れていた賢者様がガバリ起き上がって文句を飛ばしてくるけど、


「でもですね。そもそもの原因は、こんなところでエッチな動画を見てたからですから」


「といってもだな。パソコンはここにしかねぇし――、もう、どうしろってんだよ」


 普通に見なければいいんじゃないですかね――とか、これは言っちゃ駄目なのかな?

 僕はたかだかエッチな動画ごときで絶叫する賢者様にジト目を向けながらも「仕方ないですね」と一言。


「パソコンの弁償の方は、賢者様の世界のパソコンを仕入れてもらうことで手を打ちましょう。お金はこちらで持ちますので今すぐに買ってきて下さい」


 続く提案にキョトンとしてしまう賢者様。


「そんだけでいいのか?」


「はい。魔法薬の売上代金から天引きしてもいいですが、賢者様もご自分の研究費用が必要でしょう。それに賢者様がそうであるように、僕達(・・)も異世界のあるモノを求めているのですよ」


 実は魔法世界のパソコンの入手は、前々から賢者様に頼んでいたことだった。

 しかし、賢者様は現金がないだの時間がないだのと面倒臭がってなかなか買ってきてくれなくて、

 だったら、これをちょうどいい機会だと考えて、入手してきてもらうのが手っ取り早いと提案してみたのだ。


「それに、魔法世界のパソコンを解析できれば、いろいろと応用的な技術も確立できますからね」


「もしかして、解析が進めば俺の世界でも少年の世界のネットワークが見れるようになると」


 まるで少年のような笑顔を浮かた賢者様が「よっし」と小さく握り拳を作る。

 そう。魔法世界のパソコンと地球産のパソコンの間に互換性が確立できれば、魔法世界においてもインターネットの恩恵が得られることになるのだ。

 しかし、そんな賢者様の姿を蔑むように見つめる人物が1人いた。マリィさんである。


「いいんですの?お店にも迷惑をかけているのですから甘すぎる処置だと思うのですが」


 マリィさんのご意見も最もであるが、


「賢者様の場合、放っておいても、いずれ元春と取引していたでしょうからね。それならば、僕が取り引きした方がまだマシかと」


 元春と賢者様。この2人が組めば必ず良からぬことをやらかすだろう。

 ならば、こちらから色々な技術を提供して、監視下においた方がもしもの時に対処しやすいのではないか。

 そんな思惑があると説明する僕にマリィさんは「成程……」と残念そうに溜息を零す。

 その一方で、賢者様は僕の提案を聞くやいなや自分の世界へ帰っていったみたいだ。本当に欲望に忠実な人である。

 そして、自分の世界へ帰ってから軍資金を受け取ることを忘れていると気付いたのだろう。取り敢えずはと自宅にあった使っていない古いタイプの魔動コンピュータを持ってきてくれたのだけれど、

 それは機械というより小さな宝石の集合体のようなアイテムで、


「これが魔法世界のコンピュータですか?小さいですね」


「正式には〈シェル〉の一種だな。俺等の世界じゃあ〈インベントリ〉なんて呼ばれてるぜ」


 インベントリというとパソコンに内蔵される各種データの目録みたいなものだったかな。

 つまり、この手の平サイズの結晶体は情報プログラムが詰め込まれた――、魔法世界的な表現で言うと魔導書とかそういう扱いになるのだろうか。


「それで、これはどうやって使うんです?」


 見たところ、単純に様々な色をしたクリスタルを積み重ねただけのインベントリにスイッチの類が見当たらないのですが。

 そんな僕の問いかけに、よほど急いで持ってきてくれたのだろう。賢者様はいい仕事をしたといった風に上がり框に腰を下ろし手団扇で自分を扇いで、


「軽く魔力を流してやってくれ、後は下にセットしてあるドロップから魔力を取り込んで、中に入った魔法式(プログラム)を起動してくれる」


 どうやらこの〈インベントリ〉は魔力によって発動する本格的なマジックアイテムみたいだ。

 僕はイベントリをパソコンの横へセット(とはいってもただ置くだけなのだが)。賢者様から言われた通りに魔力を流すと、ポンと聞き慣れた電子音が鳴り、魔法窓のような画面が宙に浮き上がる。

 会社のロゴらしきマークが映し出された後、ローディング画面がしばらくあって、トップ画面へと移行する。

 へぇ、ここまでは普通にコンピュータと変わらない感じだな。〈バベル〉の翻訳効果で賢者様の世界の文字も問題なく読めるみたいだし、後はこれをインターネットに繋げられればいいんだけど……。


「有線じゃあ難しいですよね」


 ケーブルを繋ぐにしてもポートらしきものは見当たらない。

 スイッチすら存在しないマジックアイテム(シェル)なのだから当たり前なのかもしれないのだが、

 やっぱり魔法的な無線LANみたいなシステムでネットワークに繋ぐのかな。


「だな。普通は〈レイライン〉っつう専用のアプリを使って繋ぐんだが、さすがに異世界の機械までには対応してないだろうから――そうだな。だったら、〈インベントリ〉を媒介にして情報の検知の術式を発動させてみたらどうだ。一応、両方とも情報を扱う機械だからな。上手くすりゃ接続できるかもしんねえぞ」


 索敵関係の魔法を応用して周囲からの情報を拾い上げてやるように誘導してやればいいのか。

 一般から魔法という技術が失われた賢者様の世界では考えられない裏技かな。

 僕は賢者様の提案を出来るだけ再現できるようにと〈調査(スキャン)〉の魔法をインベントリに付与してみる。因みにこの技術は錬金術の練習中に覚えた〈魔力付与〉の応用だ。

 しかし、もともとこのアヴァロン=エラでは魔法で強化したWi-Fiをメインに使っていたから、その電波ならぬ魔波を拾ってやれば意外といけるのではと、そう考えての接続方法だったのだが、この方法での接続はなかなかに難しいみたいだ。魔法の付与を試してみてもトップ画面に変化は見られない。

 ならばパソコンみたいに有線でと繋げられたら簡単だったのだが、インベントリの仕様からして物理的な接続はほぼ不可能。

 錬金術を利用してやれば、おそらく物理的な接続もできるようになると思うのだが、一歩間違えればせっかく手に入れたインベントリを壊してしまうなんてことにもなりかねない。

 万屋の資金力を考えると、たぶんインベントリの1つ2つを壊したところで大して痛くはないのだが、イベントリの購入には賢者様を通さないとならないし、古いものだとはいえ賢者様の家にあったものを壊してしまっていいものだろうかという思いが先にきてしまう。

 これはもうしょうがない。自分での接続をあきらめた僕は、魔法窓からソニアへと応援を頼み。

 それから、ソニアからの返事がくるまでマリィさんが飽きもせずにエクスカリバーを眺めながらお茶を楽しむ傍らでインベントリと格闘すること数十分、最終的に僕が持つ〈誘引〉の特性を持った探知系魔法をソニアに新しく構築してくれたみたいだ。そこに翻訳魔法に作用させることが鍵だったらしい。ようやくインベントリによるインターネット接続が成功するのだが、


「良し。繋がった」


「結構な時間がかかりましたのね」


「でもよ。これってバグってないか」


 賢者様の言う通り、データの処理方法なんかが違うのだろう。プリズムのような結晶体の上に浮かぶ魔法窓に表示されるのは、ところどころにブロックノイズが走る某有名検索サイトだった。


「これは今日中に完成させるのは無理そうですね」


 結局、その一言をきっかけにその日は解散――というか、各々が好きなことをし始めて、

 その後、ソニアのパソコンを組み上げたエレイン君を筆頭に、プログラムの改変や新たな接続方法を模索するなどしながら一週間、結局のところ〈バベル〉の翻訳機能を間に噛ませてやることが鍵だったみたいだ。とはいえ、僕の〈バベル〉を使うわけにはいかないと、ベル君達のウィンドウ表示に採用されている。劣化版の翻訳魔法をルーターに仕込むことによって解決。


「おお。繋がってんじゃんかよ。やったじゃねえかよ虎助少年。凄えな」


「いえ、学校で習うような簡単アプリ作成ならまだしも、パソコン(インベントリ)のOSを改造(いじ)るなんて僕には不可能ですよ。褒めるならエレイン君達を褒めてやって下さい」


 と、そんな僕の声に賢者様はベル君の頭をペチペチ叩きながらも、


「ムフフ。これでエロ動画が見放題だぜ」


 いや、ムフフって賢者様?


「でも、また、前みたいに皆の前でエッチな動画を見ていたら今度こそマリィさんに殺されますよ。近い内にインターネットカフェみたいな施設を作りますから、それまで待っていて下さい」


「そ、そうだな」


 結局のところそれから数日間、僕が義父のツテを辿って、コンピュータルームの替わりにと、格安のトレーラーハウスを見つけてくるまでの間、賢者様はお預けをくらうことになるのだった。


 ◆◆◆おまけ◆◆◆


「そういえば虎助。三次元ディバイダーの正式名称は決まりましたの?」


「考えたんですけどなかなかいい名前が思い浮かばなくて、僕ってネーミングセンスが無いんですよね」


「あら、ディロックなどは虎助がつけたものでしょう」


「あれはたまたまディロックの機能そのものを略したらカチッと嵌っただけですよ」


「ああ、名前をつける傾向ってのはあるよな」


「ですね。因みに参考までにマリィさんと賢者様のお二人なら三次元ディバイダーにどんな名前をつけますか」


(わたくし)なら、やはりエクスカリバーの名を受け継ぐようなものにしますわね。たとえばイクスディバイドとか」


「イマイチだな。少年は東洋風の顔出しなんだからそれ系の名前がいいんじゃないのか」


「そういわれましても、(わたくし)、東洋の武器の名前など知りませんわよ。虎助なにかあります?」


「そうですね。僕の知る限りになりますが、童子切・鬼丸・三日月・大典太・数珠丸の天下五剣。他にも刀匠の名前を取った正宗や村正、あと伝説に由来した草薙の剣とか、意外といろいろありますね」


「な、なんて心躍る名前ですの」


「まあ、少年の話から、普通に何とか丸とか、何とか切がいいんじゃね。例えば空間を斬るナイフだから空切とか?」


「なっ、貴方、意外な才能ですわね。認めましょう。このナイフは空切です」


「あれっ、これってもしかして名前決まっちゃいました」

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