魔女姫様、ご来店
◆長めです。
その日、僕がお店で商品の整備をしていると、そこに艷やかな黒髪を揺蕩えた美魔女が来店してくる。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ」
柔らかな微小を浮かべお店の中に入ってきたその人は、僕の挨拶に軽く手を振って答えると、僕の直ぐ側まで歩いてきて、
「弟子がいると聞いたんだけど」
「お弟子さんですか?
あ、もしかして玲さんの関係者ですか?」
「ええ、ナタリア・ネーヴェ。よろしくね」
ナタリア=ネーヴェ。
彼女のことは賢者様からの報告で知っている。
曰く、北限の魔女姫と呼ばれる戦闘狂いで研究狂いな魔法使いの方だそうで、
危険人物とのことなので、賢者様がタイミングを見て連れてきてくれるとのことであったが、
いざ、やってきたかと思ったら彼女は一人きりで――、
「これはご丁寧に、自分は間宮虎助といいます。それで賢者様はどちらでしょうか?」
「ふふっ、なにか隠してたみたいだから、こっそり調べて、こっそり来ちゃった」
これはなにかあったなと訊ねると、ナタリアさんは『テヘペロ』とかそんな擬音が聞こえてきそうな口調でそう答えてくれる。
どうやら彼女は、賢者様が連れてくるタイミングを見計らっている内に我慢しきなくなって? 一人でこちらにやって来てしまったようだ。
そして――、
「しかし、あなたなかなか面白そうね。お手合わせをお願いできるかしら」
戦闘狂という報告を受けてはいたけど本当にいきなりだね。
この場合、僕はハッキリ断っても構わないと思うんだけど。
僕の経験上、こういう人は一度決めたらなかなか許してくれないのが殆どだ。
だから、ここは一回、正式に勝負を受け入れておいた方がいいのかなと、僕は彼女に『魔法を使う』という旨の断りを入れて魔法窓を展開すると。
「お客様が望むのでしたら手合わせ自体は構わないのですが、お客様にお怪我があってはいけませんので、バリアブルシステムを使った試合ということなら構わないのですが、どうでしょう?」
「バリアブルシステム?」
「戦闘シミュレーションみたいなものでしょうか。
お互いに自分を守る結界を展開して、それを削り合う魔法的なシステムですね」
しなっと首を傾げて、頭上に疑問符を浮かべる彼女に、僕はバリアブルシステムのマニュアルが表示された魔法窓をパスしながら、口頭でも簡単に説明をしてゆく。
「ふぅん、結界魔法ね……。
その技術も気になるけど、全力で楽しめそうだから、まあいいか。
まずは戦ってみましょ」
その言葉を聞く限り、彼女にも一応手加減をするつもりはあったのかな。
ともあれ、これで彼女がそれで満足してくれるならありがたい。
僕は彼女の気が変わらない内にと、すぐに訓練場に案内して、
お互い距離をとったところでバリアブルシステムを展開。
十秒のカウントダウンの後、バトルがスタートしたところでナタリアさんは杖を構えて魔力を集中し呪文を唱え始める。
格好からわかっていたけど、彼女はテンプレートな魔法使いタイプの人みたいだ。
しかし、だとしたら――、
僕は〈一点強化〉で脚力を強化、一気に彼女の背後に回り込み。
そのまま首トンリングでの攻撃を試みて、彼女の気絶を狙うのだが、
「早い」
ナタリアさんはそんな僕の動きを素早く察知。
素早く呪文の詠唱をキャンセルすると、その手を覆い隠す手袋自体がシェル――いや、魔具になるのかな。
突き出した手の平の前に急遽作り出した氷の礫を、裏拳の要領で散弾状に飛ばしてこようとするのだが、
僕はその攻撃を最小限の動きで回避して、
「嘘っ!?」
もう一度、彼女の首を狙っていくのだが、
これにナタリアさんがその場でタップダンスのようなステップで素早く踏んだかと思いきや、黒衣をまとうその痩身が一瞬で数メートル先に転移。
こっちは移動系の魔導器だね。
無駄なアクションがあるけれど、擬似的なショートワープの魔法を動作一つで発動させるには、これくらいのリスクは必要になるのか。
「呪文を唱えさせてはくれないみたいね。
だったら――」
ナタリアさんが意味ありげな手袋を嵌めた左手を前に突き出し魔力を集中すると、彼女の前方に十数本のつららのような氷の塊が横一文字に並び。
「〈射出〉」
魔法名をキーに一斉掃射。
一方、僕は〈誘え――〉という原点の言葉に乗せて〈誘導線〉の魔法を発動。空間をなぞり迫るつららの起動を強化された誘引の力で強引に捻じ曲げる。
「妙な魔法を使うのね。でも、これはどう?」
すると、ナタリアさんは、今度は一つだけ大きな氷の塊を作り出し。
おそらく、あの手袋にはイメージ通りの氷塊を作り出す魔法が込められているんだろう。
その氷塊に手を当てて、
「〈破砕〉」
無秩序にばら撒かれた砕氷が僕に襲いかかる。
と、これは――、
ナタリアさんはこのバリアブルシステムを使った勝負の内容を把握し、バリアそのものを削ることに重きを置いたかな。
ただ、この程度の攻撃ならバリアの耐久力で耐えられる。
僕は自分のバリアの耐久力ゲージを細かくチェックしつつ、最低限の回避で次なる大氷塊を用意するナタリアさんに近付いて、
ナタリアさんが氷の礫でバリアそのものを狙うのならこっちもと、首を狙うように背後に回り込んでからの――、
「〈氷筍〉」
首を狙うフリをして、足元からの攻撃。
すると、この作戦がうまくハマってくれたみたいだ。
ナタリアさんのバリアを大幅に削ることに成功。
先を丸めた氷筍の突き上げを食らった華奢なナタリアさんは高く空中に投げ出され。
こうなってしまえば後は簡単だ。
僕は腰から抜いた魔法銃を斜め上に構え、どこぞのスタイリッシュアクションのごとく、空中に投げ出されて逃げ場のないナタリアさんに魔弾の連打を食らわせ、バリアの耐久力ゲージを削りきり。
ナタリアさんが地面につく頃にはゲームセット。
「僕の勝ちですね」
「魔法だけの戦闘ならともかく、純粋な戦闘では敵わないみたいだね」
これで納得してくれたかな。
ナタリアさんが諦めたように差し出した僕の手を掴み、引き起こされながら。
「で、これから私はどうなるの?」
「特に問題を起こさないのでしたら、お客様として迎え入れますが」
「あらそうなの?
なら先ずはさっき居たお店の中を見学させてもらってもいいかしら、いろいろと気になるものが売っていたから。
あ、でもその前に、レイがどうしているのか確認したてもいい?
一応、私はレイの師ってことになってるから」
「わかりました」
と、さっきまでのバトルモードはなんだったのか。
いや、この人はもともとこういう人なのかもしれない。
こちらが驚くような切り替えの早さで、普通(?)の状態に戻ったナタリアさんを案内してお店の方に戻った僕は、今どきレトロな壁掛け時計に目をやって、
「えと、この時間なら魔法の練習をしていますかね。
ベル君、どこにいるのかわかる?」
店番をしていてくれたベル君に玲さんの居場所を訊ねると、どうも玲さんは近くの荒野にいるらしい。
万屋を出てそこへ向かう道すがら――、
「しかし、ここのゴーレムは凄いわね。
動きや仕事は勿論だけど、積んでいるAIも私達のところよりも高度なんじゃないかしら」
「ありがとうございます」
「君が作ってるってことは――ないわよね」
「ベル君やエレイン君を作ったのはここのオーナーですね」
「会ってみたいわね」
「機会はあると思いますよ」
ソニアの方もナタリアさんに興味を持っているようだからとそう応えたところ、ナタリアさんも「楽しみだわ」と言ってくれ。
その後すぐに玲さんが魔法の練習をしているのを見つけたのはいいのだが、ここで何故かナタリアさんの足が止め。
「どうしました?」
「あれ、なに?」
「魔法の練習をしているようですが」
具体的に言うのなら、玲さんは荒野の真ん中で、某カードゲームのように体に風船をくくりつけたエレイン君を追いかけながら、〈光槍〉で風船を狙う練習をしているみたいだ。
「そうじゃなくて――、
レイ、魔具使ってないわよね。
それでどうしてあれだけの魔法を撃ててるの?」
ああ、そういうことですか。
そこまで聞いてナタリアさんの言いたいことがわかった。
ナタリアさんは、つい数日前までロクに魔法も使えなかったハズの玲さんが〈光槍〉のような中位の魔法を使いこなしていることに驚いているのだろう。
ただ、これには明確な理由があって――、
「実はこの世界は他の世界と比べてかなり魔素が濃いそうで、消費した魔力の回復が格段に早いんです。
だからその分、たくさん魔法の練習ができるので上達も早いんですよ」
このアヴァロン=エラは――比べる世界によってその倍率はかなり変化するのだが――他の世界に比べて、環境魔素濃度が濃く、少なくとも数百、数千倍になる。
そうなると魔力の自然回復もそれだけ早く。
回復が早ければ、その分、練習の回数も増やせるわけで――、
通常、一日一・二発撃つのが限度の魔法も、この世界なら百回、千回と練習ができることになり。
まあ、練習を続けることで発生する体力・精神の疲労は回復できないから、限度はあるものの。
ふつうなら不可能な回数、魔法の行使ができることは変わりないので、その分、魔法の熟練度が上がるというわけだ。
「言われてみると、さっき使った魔力がもう回復してるわね」
実際、相当魔力の扱いに長けた人でも、周辺の魔素濃度を正確に把握することはなかなか難しいという。
それが自分の常識外の濃度となると、その全体像を計るのは困難で、
だからこそ野生動物の中から魔獣が生まれたり、逃げるまもなく次元の歪みに落ちたりするといった事故があるらしい。
と、ナタリアさんとこのアヴァロン=エラの異常な魔素濃度についてはなしていると、玲さんが僕達に気付いたみたいだ。
「あら、虎助――と、
し、師匠、どうしてここに?」
「どうしてここにって、レイの方こそヒドイじゃない。
自分だけこんな面白そうな場所に来て――、
しかも私を放置するなんて」
「え~、ええと、それはですね。
そ、そういう文句はロベルトさんに言ってくださいよ」
わざとらしく頬をふくらませながら近付くナタリアさんにたじろぐ玲さん。
表面上は仲がいい二人の掛け合いのように見えるけど、ナタリアさんの性格を考えると玲さんの反応もよく分かるもので、
「まあ、いいわ。
それよりもレイ。アナタ、随分と使えるようになったみたいじゃない。ちょっと私と戦ってみない?」
「な、なに言ってるんです。そんなの無理にきまってるじゃないですか」
玲さんの魔法の練習風景を見てナタリアさんのバトルジャンキーな食指が動いてしまったか。
目の前で繰り広げられる師匠と弟子のやり取りに、ここはどうやって収めるのが一番かと、僕がそんなことを考えていると、不意に僕の手元に魔法窓が立ち上がり、警報音が鳴り響く。
「これって――」
「ゲートを通って魔獣が来たみたいですね」
「へぇ、あそこからは魔獣もやって来るの。
それで、どんな魔獣が現れたのかしら?」
不意の魔獣の来襲に玲さんがビクビクする一方、獰猛な肉食獣のような顔をしたナタリアさんが聞いてくるので僕は「待ってくださいね」とポップした魔法窓をチェック。
「ストームワイバーンのようですね」
ゲート上空で監視任務に当たっているカリアから送られてきた情報をそのまま伝えると。
「えっと、なんていったのかしら。
私、ちょっと耳が遠くなっちゃったみたいだけど、もう一回いってくれる?」
「ストームワイバーンですね。ストームワイバーンが迷い込んできたみたいです」
急に真顔に戻ったナタリアさんが耳が遠い老人のように聞き返してきたので、重要なことではないのだが、いちおう二回いってみる。
すると、ナタリアさんはクワッと目を見開いて、
「ちょ、ちょっと、ワイバーンって龍種じゃない」
「そうですね。
でも、相手はワイバーンですから」
随分驚いているようだが、所詮はワイバーンだ。
その耐久力は同レベルの魔獣と大差はなく、倒し方のコツを押さえてさえいれば、そこまで脅威な相手でもなく。
ただ、カリアからの報告には相手の情報だけでなく、もう一つ重要な情報があって、
「それで、なぜか現場に賢者様がいるみたいなんです。
だから急いで現場に向かいますね」
タイミングをから考えると、賢者様が現場にいるのはナタリアさんを追いかけてきたからだろうか。
転移のタイミングがちょうどかち合ってしまってそうなったんだろうけど、賢者様も運がない。
というか、前にもこんなことがなかったかな?
そして、そんな報告を聞いたナタリアさんはというと、その原因が自分だということに気付いているのだろうか、
「えっ、ロベルトが? それってまだ生きてるの?」
その口調とは裏腹に、もの凄く深刻そうな顔をしており。
しかし、この場合、賢者様が無事か無事でないかは特に問題ではなく。
「大丈夫ですよ。この世界ではお客様の安全は可能な限り確保されるようになっていますから」
そもそもゲートに魔獣が現れた場合、後から転移してくるお客様に配慮して、中央の魔法陣とその周囲が結界で別れるような仕組みになっているので、賢者様の安全はすでに確保されている。
とはいえ、相手はワイバーンといえど龍種である。
だから念の為、ゲートにいるだろうエレイン君に賢者様を守るように指示を出し、玲さんとナタリアさんに二人はどうするか聞いた上でゲートへ向かうことにする。
ちなみに、玲さんとナタリアさんの二人は現場の安全を見極めた上で後からついてくるみたいだ。
玲さんはあんまり関係ないかもしれないけれど、ナタリアさんは自分達の所為で賢者様がワイバーンと遭遇してしまったかもしれないんだから心配なんだろう。
さて、そんな話し合いの結果、僕が大きく先行する形で辿り着いた現場ではすでに戦いが始まっていた。
ゲート中央、困ったようにする賢者様に襲いかかろうとするストームワイバーン。
そんなストームワイバーンを魔弾で牽制するエレイン君。
ちなみに、ストームワイバーンはワイバーンの中でも、さらに飛行に特化しているのか、かなりスマートなシルエットをしていて、どちらかといえば、ドラゴンというよりもプテラノドンに近い感じだった。
僕はそんなストームワイバーンとエレイン君の戦いを横目に、急ぎ賢者様のもとまで駆けつけて。
「おそくなりました」
「いや、こっちこそ悪かったな」
賢者様が逆に謝ってくるのはナタリアさんがなにかやっているという確信があるからなのかな。
だが、いまは余計なことを話し込んでいるような状況じゃない。
ストームワイバーンが自分の目視範囲内に入ってきた僕に気付いて、目標をエレイン君から僕に変えて突撃をしてきているのだ。
僕は結界の向こうの賢者様に後ろに下がるように告げると、突っ込んできたストームワイバーンに氷のディロックを投げつける。
しかし、ストームワイバーンはその攻撃を自分の周囲に展開した風の防護膜でその氷を砕き貫き、そのまま僕に向かって突っ込んでくる。
「さすが龍種、そう簡単にはいかないよね」
だからと僕は、ここはディロックの攻撃を諦めて、ミスリル製の千本・黒針を取り出すと、それを巨大な氷を砕き突っ込んでくるストームワイバーンの顔目掛けて投擲。
すると、狙い通りストームワイバーンの目鼻に黒針が命中し。
ストームワイバーンがそれに怯んでいる隙に、僕はエレイン君の両腕をカタパルト代わりに大ジャンプ。
地面スレスレから切り返し、上空へ逃がれようとするストームワイバーンの背中に飛び乗ると、空切でその翼を分断して地面に落とそうとするのだが、
そうはさせじとストームワイバーンから尻尾攻撃が飛んでくる。
ちなみに、ワイバーンの尻尾にはゲームよろしく毒針が隠されており、通常、人が刺されたら大変なことになってしまうのだが、僕は強力な状態異常耐性を持っているので、その効果も限定的。
実績の強化も兼ねて、ワイバーンの毒はもう摂取した後なので、無害化も出来ると思うのだが、ストームワイバーンの毒が他のワイバーンと違う可能性も無くはない。
だから、ここであえて毒を食らう理由もないと、僕は空切を振るい、器用に折り曲げられ槍のように突き出されるストームワイバーンの尻尾をその中ほどから切断。
その攻撃を紙一重で回避するのだが、
ストームワイバーンはそんな背上の動きを察してか、僕を振り落とさんと体を揺すってくる。
僕はこの動きに、当初の予定通り翼を切ることで対抗。
すると、ストームワイバーンの体が落下を始め。
このままでは僕も、彼――、もしくは、彼女と一緒に地面とキスすることになってしまうからと、地面に激突するスレスレのタイミングで背中を蹴って飛び降りる。
すると、その反動もあってか、ストームワイバーンは頭から思いっきり地面に突っ込む形になってしまったみたいだ。
僕が着地した時はすでに瀕死の状態で――、
これは苦しませるのも可愛そうだね。
僕はすでに死に体となっていたストームワイバーンを見て、エレイン君に大きな樽を用意してもらうと、巨大解体用ナイフでその首をスパッと切り落とす。
瞬間、勢いよく吹き出す血飛沫。
僕は切り落としたストームワイバーンの首元にエレイン君と協力して大きな樽をあてがい、龍の血を採取する。
と、ここで、少し離れたところから戦いの様子を伺っていたナタリアさんと例さんが恐る恐る近付いてきて、
「もう大丈夫ですよ。
それよりも尻尾がお二人の方に飛んでいったと思いますが平気でしたか」
「え、ええ――、
それよりもアナタ無茶苦茶ね。龍種をあんなに簡単に倒すだなんて」
「ワイバーンは龍種の中では耐久力がダントツに低い種ですから」
ワイバーンは空を自由に飛び回る為、耐久力を犠牲にしている龍種である。
その分、飛行能力――特に狭い空間での小回りなんかは上位龍種にも勝るとも劣らないものとなっているが、その動きについていけさえすれば倒すことは難しくない。
「あのね。そんなこと普通できないから」
しかし、ナタリアさんは僕のその説明を聞いても納得できないみたいだ。
こう言って反論してくるけど――、
ファンタジーな世界には魔法の箒なんていう飛行アイテムがあるんだから、慣れれば案外、誰でも倒せるのではないかと、僕はそう再反論。
ただ、やっぱりナタリアさんはその考えに否定的らしく、これ以上は言うことが無いとばかりに首を振り。
「それに最後の止め?は、アナタのその武器があってこそでしょ。
というか、そもそもその武器、単純に切れ味がいいってわけじゃないでしょ」
「正確には武器ともちょっと違うんですけどね」
そう言いながら、ゴムで出来た刀身をぐねぐねと動かしてみせると、興味を持ったのか、ナタリアさんが顔をぐっと近づけてくるのだが、
「見るのはいいですけど触れないように気をつけてくださいね。
空切は僕以外が扱うと大変なことになりますから」
「使用者固定のようなものなの?」
「どちらかと言えば呪いのようなものになりますか。
僕以外の人がこのナイフを持とうとすると、その効果を受けてしまうんですよ」
軽く脅しのような文句を言っている内に、ストームワイバーンの血抜きもほぼ完了したかな。
後の処理はエレイン君達に丸投げするとして、
「しかし、ワイバーンの素材をまるごととか、凄いわね」
「血以外はあまり使い道が無いんですけどね」
「どういうこと?」
「龍種の素材はどうしても高い値段をつけざるを得ませんから。
それに販売が難いですし、それになんだかんだで月に一回は来ますから」
今回は始めての種類であったが、ディストピアでおなじみのフォレストワイバーンなんかは割と頻繁に迷い込んでくる。
だからその度に在庫が増えるわけで、
「ワイバーンが定期的に攻めてくるとか、
それって大丈夫なの?」
「ウチには僕だけじゃなくてエレイン君やモルドレッドもいますから」
それに母さんがいれば、嬉々として戦ってくれるし。
まあ、最近はワイバーンくらいじゃ食指が動かなくなってきたみたいで、母さんの出動は少なくなっているんだけど。
僕が苦笑していると、ナタリアさんが興味を持ったのは、
「モルドレッド?」
「あの子ですよ」
「もしかして、あのゴーレムも動くの?」
「動かしてみましょうか」
「お願い」
軽いノリで聞いてみたら、ナタリアさんが真剣な表情でそう頼んできて、
玲さんにも見せていないから、ここで一回動くところを見せておいた方が安心してくれるかなと、
ちょっと腕を動かすくらいならそこまで魔力を消費するわけじゃないからと、解体のお手伝いに少し使ってみたところ、
やっぱりモルドレッドのインパクトは凄いみたいだね。
師弟揃って大きな口を開けて驚くハメになったみたいだ。
◆次回投稿は『日曜日』になりそうです。




