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●エルマの冒険

◆あの人はいま?エルマ編です。

 光粒が濁流のように押し寄せる転移反応が収まると潜水艇を衝撃が襲う。


「ヤート、プイア、大丈夫?」


「「ピュイ」」


 ウインドホークにハーピーと、自らの獣魔を抱き寄せそう叫ぶのはエルマ。

 『掃除屋』という謎の怪物に食べられ、次元の狭間に飛ばされて、そこにあった商店『万屋』の支援を受けて、いま元の世界へ帰ってきた旅のテイマーだ。


 エルマは潜水艇の揺れが収まると獣魔であるウインドホークとハーピーの二匹の無事を確認して、潜望鏡を使って船の外を覗いてみる。

 すると、そこは青い空に青い海がただただ広がるだけの海のど真ん中。

 ただ、最悪の場合は『掃除屋』の腹の中に戻るという可能性もあると聞かされていたので、エルマはこの景色に一安心する。

 しかし、安心してばかりもいられない、現状エルマ達は遭難状態にあるのだから。


「えと、まずは周りの確認でしたよね」


 エルマは自分の記憶を確認するような独り言を口にしながら、潜水艇内の自分が座る席の真ん前に用意された二つの金属球に触れ、思考操作で呼び出した魔法窓(ウィンドウ)の一つから周辺地図を呼び出す。

 周囲五百メートル以内には危険な生物はいないようだ。


 ちなみに、このマップの情報を集めてくれたのは小さなウミガメ型ゴーレムのラファ。

 こちらの世界への転移と同時に潜水艇のマジックバッグから射出される設定になっていたラファが、エルマ達が乗る潜水艇周辺の安全を確認してくれていたのだ。

 ただ、そんなラファは、エルマが転移直後の混乱にまごついている間に、自らの役目を果たす為、旅立ってしまったようだ。


 しかし、移動した先からも情報は送ってくれているようなので、エルマもこれに文句を言ってられない。

 そもそもラファはただ自分の世界に戻るだけのエルマと違って、『掃除屋』の調査という使命を持っているのだから文句は言えない。

 それに、エルマにもラファと同じウミガメ型ゴーレムが他に与えられているのだ。

 だから、エルマは自分の為に用意されたウミガメ型ゴーレムのレオを潜水艇のマジックバッグから放出し、潜水艇周囲の偵察をしてくれるように手配すると。


「よし、出発だよ」


 ようやく本来の目的である陸地を目指しての移動を開始となるのだが、ここで問題となるのが、どちらの方角に進めばいいかということである。


 現在、エルマを乗せる潜水艇が浮かんでいるのは海のど真ん中。

 地磁気の流れから、どちらがどの方角なのかはわかるようになってはいるが、転移前、船がどこを進んでいたのか、正確な現在地を把握していないエルマとしては、どの方角に向かって進めば早く陸地に辿り着けるのかがイマイチわかっていなかったのだ。


 単純に陸地を目指すというのなら、出発した港と目的地から考えて、西に向かえばいいのだが、角度によっては、出入りが厳しい軍事国家や海賊ひしめく危険な海域に辿り着く可能性もあり、ある程度、考えて進むべき方角を考えなければ無用なトラブルに巻き込まれてしまう可能性もなくはない。


 しかし、それも先行してくれるレオとラファの存在があれば、ある程度は防げると、エルマが最終的に選んだ進路は、ちょうどよく東の方へ向かったラファとはまた真逆の方向に進むことだった。

 こうすればどちらかが陸地を見つけた場合、そこが安全ならば、そこへ向かえばいいからだ。


 と、エルマは進む方角を決め、警戒しながら船を進めることになるのだが――、

 移動を始めて三十分、潜水艇の周囲の様子を映し出すマップに赤い光点が映し出される。


「これは魔獣の反応?」


 その光点が示すのは魔獣の存在。

 エルマは潜水艇の操縦桿となる二つの金属球に手を添えて。


「先ずはこれでしたね。〈不響波音(リジェクトソナー)〉」


 発動したその魔法は、大型船に乗せられている魔獣避けのマジックアイテムのような魔法だ。海の魔獣が嫌がる音を出すという効果がある。

 それでも近付いてくるということはそれだけ危険な魔獣だとのことであるが、

 今回、エルマが遭遇したその敵は危険な魔獣だったらしい。


 速度を落とさず、いや、むしろ移動速度を上げて搭乗する潜水艇に迫ってくる魔獣。

 しかし、エルマは慌てない。

 そもそも、この潜水艇がかなり丈夫な素材で作られている上に、レオという心強い味方もいる。

 そして、そういう強力な魔獣と遭遇した場合に備えて、この潜水艇にはいくつかの攻撃方法が用意されているからだ。


「ええと、追い払うのに失敗した場合は、この鋼球を触りながら攻撃魔法を使うんでしたよね」


 エルマは確認するように呟き。


「〈雷装(ハープーン)〉、〈雷装(ハープーン)〉、〈雷装(ハープーン)〉、〈雷装(ハープーン)〉」


 魔法を連続して唱えると、

 魔力を大きく消費してしまったのか、軽い倦怠感を覚えるも、フラッと前のめりに倒れてしまいそうになるのを気力で堪え。


「で、〈付与(エンチャント)魔力探知(マジックサーチ)〉で狙いを定めて――〈発射(シュート)〉」


 役割を分割した魔法を発動させると、直後にバシュッと潜水艇の前方から水中戦に特化した魔弾が発射される。

 そして、マップ上でその命中を確認するのだが、


「これは倒しきれていませんね」


 敵を示す赤い光点は消えなかった。

 それどころか微妙ではあるものの動いているような状況が見られ。

 ならばとエルマは再度――、


「〈雷装(ハープーン)〉、〈雷装(ハープーン)〉、〈雷装(ハープーン)〉、〈発射(シュート)〉」


 相手はもう目と鼻の先だと、エルマが狙いを定めず放った魔法は、はたして敵に命中したようだ。


「倒したんですか?」


 エルマは魔法の連続使用で完全にグロッキー状態になりながらも、従魔のプイアに支えられながらマップを確認。

 今度は完全に敵の反応が消えたことに「はふぅ」と安堵の息を吐き出す。

 すると、そんな彼女の様子を心配してか、従魔二匹が甘えるようにすり寄ってくる。

 正直、エルマとしてはここでしばらく獣魔たちとのんびりしたいところであったが、


「海中の敵は血の臭いに集まってくるって言ってましたよね」


 次に強い魔獣と遭遇したらさすがに厳しい。

 連戦を避けるべく、魔力の使い過ぎでだるい体に鞭を打って潜水艇を発進。

 その海域から急いで離れる。

 そして、獣魔の手伝いも借りながらも船を進め、ここまで来ればさすがに大丈夫だろうという地点までいどうしたところで、


「ステイタスの確認ですね」


 これも必要な調査の一環だと、この潜水艇を作ってくれた万屋の店主である虎助からお願いされていたステイタスのチェックを行うのだが。


「どうやら反映されているようですね。

 しかし、潜水艇の武装を使って実績が得られるというのはどういうことなんでしょう」


 先の戦闘はあくまで潜水艇に組み込まれた魔具や魔導器を利用した攻撃でしかなかったのだが、それが自身が行ったこととして反映されているのだろうかと、エルマはそんなことを考えながらも、いま得たデータをラファに転送して、


「ちょっと休憩しようか」


 魔獣との戦いに疲れたと、周囲の安全を何度も確かめ、船を浮上させる。

 そして、従魔二匹と一緒にハッチから外に出たところで、大きく体を伸ばし。


「ん~、気持ちいい。

 あんまり遠くに行くと危ないから船が見える範囲にしてね」


「「ぴゅい」」


 さっそく大空へと飛び立った獣魔二匹に手を振って注意を入れたところで、


「さて、私は――と、疲れたのでお茶にしたいところなんですけど、せっかく外に出たんだからあれを飛ばさないとですね」


 エルマは光の玉のような私の小さな従者(スクナ)ヤートを呼び出すと、船の周囲を見張るようにお願い。

 一度船内に戻ったエルマは、船内に設置されているマジックバック(正確にはボックス)の中から大きな袋とサイコロ状のなにかを取り出してくる。

 これは、いわゆる気象観測気球と呼ばれるもののマジックアイテム版で、これを〈空読み〉という魔法アプリと連動させることによって、周辺の天気を予測できるのだ。

 エルマはガスによって膨らませた観測球を空に解き放つ。

 そして、ヤートとプイアがそれに興味を持つのに「それに触っちゃ駄目だよ」と下から声をかけ。


「これで良しと、さて、改めましてお茶でもいただきますか。

 まだ一日なのに随分と遠くに来たみたいです」


   ◆


 元居た世界に戻って数日――、

 エルマはまだ海の上にいた。

 この世界における通常の船旅の感覚から、エルマが潜水艇の速度をあまり出していなかったことも理由の一つにあるが、日に数度、海の魔獣に襲われたのが主な原因である。


 襲撃そのものは〈不響波音(リジェクトソナー)〉と〈雷装(ハープーン)〉で対応できたのだが、一戦ごとに船を止めたり逃げたりと、進路を軌道修正する必要もあり、結果的に思ったよりも前に進めないといった状況があったのだ。


 しかし、そのおかげもあって、エルマの実績も随分と増えていた。

 ただ、惜しむらくは倒した魔獣が海の生物だった為か、その殆どが水に関わるものばかりなことか。


「〈深海適応〉 深い海の中に限り、泳力向上……、これもハズレですね」


 けれど、そんな権能の中にもエルマにも使えるものはあったりして、

 特に水魔法との親和性を上げるような権能は彼女にとって便利なもので、

 その日も潜水艇の運行をしながら、片手間に水魔法の練習をしていたところ、

 そろそろ日も暮れようかという頃になって、潜水艇に先行して進んでいたレオから、陸地を、そして港を発見したとの報告が届いた。


 その報告に歓喜の声をあげるエルマ。

 しかし、ここで重要なのが、発見した港がどこの国に属する港なのかということである。

 ようやく陸に上がれる場所を見つけたのはいいものの、国によっては近海に近付いただけで拿捕されてしまうような国もあるのだから。


 エルマはその港がどの国に属するのか、そして、たとえ港に入れなくとも、どこか潜水艇が停泊できる場所さえあればと、先行して安全を確認してくれているレオにその港の映像を送ってもらうことにするのだが、その映像を一目見たエルマは先ほどの喜びから一転、緊張した表情を作り出す。


「ここって、もしかしてリュクコ帝国?」


 リュクコ帝国――、

 それはエルマが恐れていた危険な国の一つで、すべての概念はリュクコから生まれたと標榜する帝王の下、厳しい法が敷かれており、国民はもとより、旅人も厳しい搾取がなされると知られている国なのだ。


 ただ、他国の者に対する搾取に関しては、彼の国とて、他国からの人や物資、そして金の流入がないと困るからと、国民ほど無慈悲な搾取ではないとされているのだが、

 エルマの場合、潜水艇というこの世界においては規格外の乗り物を持っているということ、それを踏まえて考えると、ここは慎重に動かなければならないと、急ぎ陸地から離れようと潜水艇を転進させようとするのだが、どうやらその判断は一歩遅かったみたいである。

 気がつけば、潜水艇の進路にあたる、数十メートルほど離れた海の上にローブ姿の男が一人立っており。


『そこな船よ。どこの国のものであるか?』


 直接頭の中に響く声でそう語りかけられてきたのだ。

 ちなみにであるが、エルマはそんな問いかけに答える余裕を持っていなかった。


「あれって――」


 なぜなら、いま目の前に現れた人物。

 撫でつけられた白髪に刻まれたシワ、なにより触覚のように顔からはみ出たあの特徴的な眉毛。

 それはリュクコ帝国の六将に歌われる大魔導師ブンラン、その人の特徴だったからだ。

 どうして、そんな大物がこんな沖合をほっつき歩いているのか。

 そもそもあれは本人なのだろうか。

 他国にも知れ渡るような人物がこんな海の真っ只中にどうしている。

 目の前にふらりと現れた大物に焦るエルマ。

 しかし、ブンランという大魔導師はせっかちな性格をしているのだろうか。


『ふむ、答えぬか。答えぬのなら、もう喋らなくともよかろうよ』


 船の所属を訊ねてから、一分と待たず、いきなり杖を構え、大規模な魔法攻撃を放ってきたのだ。


『〈水蛇大縛呪(チピトカーム)〉』


 竜巻のように巻き上がる海水。

 それが大蛇の形となって、エルマの乗る潜水艇に絡みつき、その船体を締め上げていく。


 そのあまりに強大な魔法に死を覚悟するエルマ。

 だがしかし――、


『なんだとっ!?』


 エルマの乗る潜水艇はブンランが生み出した水邪の締め付けにも物ともせず。


「――どうして?」


 エルマの声にならない悲鳴。

 しかし、考えても見れば簡単だった。

 エルマの乗っている潜水艇は海の深くまで潜れる潜水艇だ。

 加えて、そのボディは古代樹という高い魔法耐性を備えている素材で作られている。

 ゆえに、水圧を主軸にした魔法攻撃には無敵ともいうべき防御性能を持っていたのだ。


 そして、いったん気がついてしまうばなんてことはない。

 相手の攻撃が効かないとわかり、エルマは落ち着きを取り戻す。

 とはいえ、相手はかの有名なリュクコ六将の一角である。

 いま受けた魔法以外にも強大な攻撃魔法をいくつも持っているハズだ。

 そして、そんな魔法がいったん発動されてしまえば、自分にそれが抵抗できるだろうか。

 いや、出来ない。

 ならば、ここは逃げの一択しかないと、エルマはすぐに潜水艇を転身させ、尻尾を巻いて逃げ出そうとする。


 だが、敵は一応その国において最強といわれている存在である。

 ブンランは、このままむざむざ逃がすと思うかとばかりに、ワープのような魔法を使い潜水艇の前に出ると、先ほどの魔法とはまた別の攻撃魔法を準備するのだが、ここで彼にとって予想外のことが起こる。


 エルマを乗せた船が突如として海中に沈んだのだ。

 そう、エルマの乗る船は潜水艇。

 いまは陸地の近くということで船体の半分を水上に出してはいるが、本来はその船体を海に沈めて航行する船なのだ。

 はたして、エルマはブンランの攻撃を回避し、逃走するに成功する。


『むぅ、まかりなりにもワシの魔法に耐えた船だ。ただの船と見るべきではなかったな。しかし、海中を征く船か。あれは王に献上されるべきもの。次に現れた際には必ずや確保してみせようぞ』


 しかし、この時のエルマはまったく気づいていなかった。その稀有な能力を持つ船にブンランが興味をいだき、自分が追われる立場になろうことなど……。

◆『to be continued...』といった感じの終わりになっていますが、完全にノリで書いたお話なので続きがあるのかは未定です。

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