●白の事後処理
◆内部時間の進みを鑑み、今回は赤ではなく、パキート一派&フレアパーティが主体のお話となっております。
そこはルベリオン王国に接する空白地帯――、
近隣から魔の森と恐れられる森の奥深くにある清らかな小さな泉、
そのほとりに建つ一軒のログハウスの前に、フレアたちパーティ四人と魔人パキートの部下二名が集まり、なにやら相談をしていた。
すると、そこへ黒髪のメイド・レニがやって来て、
「どうしました。みんなさんで集まって」
その声に振り返るのはリビングメイルのリーヒルだ。
彼は間伐された木材をベンチ代わりに、特大の魔法窓を操作していた手を止め。
「それが我らが城の周囲で悪事を働いていた者がいたようで、店主殿からその者共の搬送を頼まれたのであります。
今はその相談をしていたところでありますな」
「そのような輩があの遺跡に?」
リーヒルからの報告に鋭く目を細めるレニ。
ただ、ここでそんなレニを宥めるように、召喚術師のティマがオーバーに肩を竦め。
「あそこもまだまだ人が集まってるみたいだし、そういうバカが出るのも仕方ないんじゃない」
「……」
「とりあえず、立ち話もなんですから、説明がてらお茶にしませんか」
続けてポーリが執り成すとレニも静かに頷き。
「そうですね。
ことがあの遺跡の問題となれば、主様にも話を聞いていただかなければならないでしょう」
ティータイムがてら、ここまでの経緯をみんなと共有する運びとなる。
そして、レニがパキートを呼びに走る中、各自がテーブルに椅子、お茶にお菓子とそれぞれに持ち寄って、パキートが来たところで、改めてここまでの経緯がリーヒルから語られる。
「成程、前に来た女の子達が遺跡の近くで人攫いの被害に合いそうになったんだね」
「まったく人間というのはどうしてこうも野蛮なのでしょうな」
直接の被害を受けた白盾の乙女を想い、パキートが心配そうな顔をする一方で、テーブルの脇に立てられた止り木の上で憤慨するのは賢者梟のエドガーだ。
ただ、これにフレアが「返す言葉もないな」と頭を振ると、
「いやいや、どんな種族にも悪い人はいるものだから」
人間の元姫君であるロゼッタを妻とするパキートからフォローを入り。
そんな主に言葉に、エドガーがそのふくふくの羽毛を小さくさせると、
「たしかに今の発言は軽率でしたな。すみませんのフレア殿」
可動域が広い頭を器用に下げて謝罪。
「それで、捕らえた人間はどのように処分するのです」
「眠っている間に魔法をかけて、ここ数時間の記憶を曖昧にしてから、
なんていうか、禁止行為を働いた時、急所に衝撃を与える魔法を付与した下着を付けて、近くの村に分散して開放するって話だね」
ティーポットを片手にレニが浮かべた疑問符に答えたのは、ちょうど体の真ん中で半鳥半獣と、いかにもオーソドックスなグリフォン姿のキングだった。
彼(?)が鳥の鉤爪がついた前足を器用に使い、自前の魔法窓を操作して、ここにいる全員に、現在、協力関係にある異世界の万屋の店主・間宮虎助から送られてきたデータを配ると、それを流し見たレニが呟くように一言。
「しかし、この対応は甘いのでは?」
「いや、それはどうなんだ」
「うん。僕としては結構厳しい処置のような気もするけど」
それにフレアとパキートがさり気ない抗議の声を入れるのは、その処置がどれだけの苦しみを伴うものなのか身を持って知っているからだろう。
ただ、残念ながら、この場でその苦しみを真に理解するのは彼等二人だけだったようである。
他の面々の反応は苦笑に困惑とイマイチなもので、
パキートを至上の主とするレニとしても、それはパキートの優しさからくる意見だろうと、その発言を曖昧な笑みで受け流し。
「それで、この仕掛けを施した後、この悪漢共は各地に放ち、監視となっていますが、これはどういうことです?」
「それぞれに昆虫型のゴーレムをつけて、この者共の裏を探る予定のようでありますな」
文字だけ並べると少々不穏になってしまう処分に、リーヒルが自前のスカラベを取り出して補足。
「こういうバカは無限に湧いて出てくるから、元から断とうってことなんじゃない?」
「どちらかといえば店主殿は然るべきところに情報を流し、注意を促したいようでありましたな」
ティマが私見を語り、リーヒルがそれに首肯すると、大体の流れは掴めたか、レニがなにかを考えるように軽く俯き。
パキートがレニの手により用意されたお茶を一口。
「けど、そうなると、これは手伝いが必要な大仕事になりそうだね」
「はい――、
しかし、今回の仕事は、我らと被害を受けた冒険者パーティが連携して対応することになったのでありますから」
「白盾の乙女でしたか、
こちらの事情も知らない彼女達にこなせる仕事ですか?」
今回の被害者(?)となった白盾の乙女の面々はフレア達パーティとは面会しているが、その協力者として魔王パキートがいることは知らない。
レニはそんな白盾の乙女とリーヒル達が、はたして連携が取れるのかと疑問視しているようだが、
「その辺り店主殿が取り持ってくれるそうでありますので――」
「ならば問題なさそうですね」
ただ、幾度もの面会を果たし、ある程度の信頼を寄せている虎助が間に入るのなら、少なくとも悪いことにはならないだろうと、この件に関してはレニも納得。
「それにギルドへの報告とか、あの子達じゃないとできないからね」
実際、リーヒルやキングが操るゴーレムでも報告くらいは出来るだろうが、得体のしれないゴーレムからの情報を信じてくれるとは思えない。
それなら、しっかりと森に入る前にギルドに顔を出している白盾の乙女から報告するのが確実である。
「そちらなら俺達も協力できそうだが」
ここでフレアが手を挙げるも、
「いや、君達は目立つから止めた方がいいんじゃないかな」
キングからの指摘ももっとなもので、
姫の逃避行に関係のある勇者に聖女と、そんな彼等が魔王城と呼ばれた遺跡のお膝元に作られた臨時のギルドに顔を出せば、いらぬ混乱を招きかねない。
「頼ってしまうことになるけど、なにかわかったら僕達が手伝えるように準備をしておこうか」
「ですな。あちらでのことが我らが悪評に繋げられては困りますので」
「てゆうか、実際そういう計算もあるんじゃない」
「あり得る」
「まったく、エドガーの言ではありませんが、人間というのはどうしてこうも小賢しいのでしょう」
場所が元魔王城の周辺ということで、相手側には魔王軍を隠れ蓑にする目論見があるのでは?
と、そんなティマとメルの指摘に、仄暗いオーラを立ち上らせるレニであったが、
「こらこらレニ、口が悪いよ」
「も、申し訳ありません」
パキートに窘められてしまえば謝るしかない。
「ともかく、まずは捕まえた男達の処分でありますな」
「分散して運ぶってやつね。大変そうだけど平気なの」
「実際に運ぶのはゴーレムでありますから、なんとかなるでしょう」
今回、捕らえた人間は十名を超える数の冒険者だ。
それを昏倒させたまま、手早く各地に放逐することは簡単ではないが、休憩の必要のないゴーレムならば、やってやれないことはない。
リーヒルがそう言ったところで、ここでパキートが「ちょっといいかな」と軽く手を上げ。
「運搬なら遺跡の発掘に使ってたゴーレムを使えばいいんじゃない」
「成程、あれがありましたな」
それにリーヒルが大きく頷く一方、ハテナと首を傾げるのはフレア達。
「ほら、僕達がここまで乗ってきたゴーレムだよ。遺跡を出る時に錬金術でも使わないと回収できない場所に置いてきたんだ」
しかし、パキートによる追加の説明があれば、
数ヶ月前、バラバラに逃げた際にパキート一行を迎えに行ったティマとポーリも納得だ。
そうして、不良冒険者達の処理にパキートが作ったゴーレムを再利用されることが決まったところで、リーヒルが不良冒険者達の運搬準備を進め。
その傍ら、パキートがテーブルの上に用意されたクッキーに手を伸ばし。
「しかし、このクッキーはおいしいね」
「虎助からのもらい物だからね。前に狩ってきた軍隊蜂から採れた蜜珠で作ったみたい」
顔をほころばせながらの言葉に応えたのはティマだった。
「蜜珠ですと、それはなんとも贅沢な」
「是非ロゼッタ様とニナ様にも食べていただかなくては」
何気なく出されたクッキーに、高級食材が使われているのに驚くエドガー。
そして、レニがいまここにいない二人に食べてもらおうとクッキーを取り分けようとするのだが、
「あ、待って、それは止めといた方がいいかも」
「どういうことだい?」
ここでティマから慌てたようなストップが入り。
それに目を尖らせるレニ。
しかし、得も言われぬ緊張感の中、パキートが軽い調子で訊ねると、
「赤ちゃんにハチミツは駄目」
面倒な説明を省き、要点だけを告げるメルの発言があって、
「ええと?」
パキートが伺うような視線をティマに向けるも、ティマも詳しい理由までは把握しておらず。
最終的にニコニコと話を聞いていたポーリが、ハチミツとボツリヌス菌、そして赤ちゃんとの関係を噛み砕いて説明するとレニも理解してくれたようだ。
「そういうことなら仕方ありませんね」
「まあ、後で素材売りに行くし、その時にたまごボーロでももらってくるわよ」
「お願いします」
◆次回投稿は水曜日を予定しております。




