●続・とある旅路の乙女達・白
◆長くなってしまいました。
「はぁ、やっと着いたっす」
「ここが目的地でもないんだけどね」
深い深い森を抜けた先にある木組みの集落。
そこは魔王パキートの居城のすぐ近くに作られた簡易的な拠点。
無人となった魔王城を探索する兵士や冒険者の為に急遽作られた拠点に、白盾の乙女は長い旅路の果てに辿り着いた。
彼女達は拠点に到着するなり、まずはと冒険者が集うギルドへ向かう。
最後に出た街からここに至るまでに狩った獲物の処分と、これからこの周辺を中心に活動するということで、いろいろと情報を仕入れる必要があるのだ。
ということで、彼女達はギルド職員から話を聞いたり、掲示板に貼られている依頼書など見て情報を集め、とりあえず満足のいく情報が揃ったところでギルド建物を後にしようとするのだが、ちょうどギルドを出て宿でも探そうかとしていたところで声をかけられる。
「ねぇねぇ、君達ちょっといいかな?」
かけられた声に振り向くと、そこにいたのは若い冒険者パーティ、男性ばかりの五人組だ。
「ええと、貴方が呼び止めたのは私達かな?」
「ああ、実は一緒に森に入ってくれるパーティを探していてね。どうかと思って声をかけてみたんだけど」
声をかけてきたのは、いかにも貴公子然とした長髪の青年だった。
彼はエレオノール達――白盾の乙女に一緒に冒険に行こうと誘っているようなのだが、彼等には悪いが白盾の乙女の目的は、魔王城にある転移ゲートから別の次元に存在する万屋へ行くことだ。
そして、そのことを他の冒険者に知られるワケにはいかないので、
「いや、申し訳ない。私達のここでの目的は少々特殊でね。他をあたってくれないかな」
しっかりと断りを入れ、男達から離れようとするのだが、男達はそこで引き下がらない。
「待って、待って、城の探索が目的じゃないってことは森での狩りかな。それなら尚の事、僕達の力が必要なんじゃないかな」
「そうそう、アンタ等、女ばっかだろ。あの森の魔獣は強ぇし、人数を揃えた方が無難だぜ」
最初に話しかけてきた長髪の青年の仲間、キツネ目の男と弓を背負った男が違う方向に歩き出そうとしたエレオノールの進路に回り込み、なんとかして白盾の乙女を仲間に引き込もうと声をかけるのだが、
「すまないな。本当に必要ないんだ」
エレオノールの考えは変わらない。
白盾の乙女達は回り込んできた二人を避けるようにその場を立ち去ろうとするのだが、ここで彼等の中で一番大柄な男が立ち去ろうとするエレオノールの手を掴み。
「いいじゃねぇか。付き合えよ」
「そう言われましても、すでに断ったハズですが?」
理屈もなにもない男の強制とも呼べる勧誘に眉をひそめるエレオノール。
「チッ、うるせぇな。
せっかく俺等が助けてやるっつってんだ。女のお前らはついてくりゃいいんだよ」
「これは強引にでも連れて行くという解釈でいいのですね」
そして、もう隠すつもりもないのだろうか、強引に自分についてこいと言い出した大柄の男の態度に、おそらく彼がこのグループのリーダーなのだろう、最初に話しかけてきた長髪の青年にエレオノールが訊ねると、彼は困ったように髪をかきあげ。
「そんなつもりは無いんだけどね」
積極的に止めるつもりはないようなので、
「ならば、こちらも相応の手段を取らせてもらうことになるのだが」
「ああん、喧嘩売ってんのか?」
今までの柔らかな口調を改めて、エレオノールが自分の手を掴む男を軽く語調を強める形で忠告を発っする。
すると、そんなエレオノールの言い方が気に障ったのか、大柄な男がいきり立ち、現場にピンと張り詰めた空気が周囲に漂う。
しかし、いよいよそんな張り詰めた空気が限界に達しようとしていたそんな時――、
「おい、お前等、なにやってんだ?」
狙ったようなタイミングで割って入ってきたのは、こなれた革鎧を着こなす無精髭の中年男。
そして、そんな中年男につられるようにぞろぞろとベテランらしき冒険者がやってきて。
「ああん、おっさん共、なに絡んできてんだよ」
「はぁ、お前らだってその子らに絡んでたじゃんよ。おっさんだからって仲間外れにすんなよ」
フザケているのかいないのか、その中年冒険者達はエレオノール達にしても判断に迷うことを言いながらも、わざとらしくため息を吐き。
「なぁ青年、はっきりフラられてんだから、さっさと引き下がるってのが男だぜ」
聞きようによっては挑発とも取れなくもない発言に、長髪の青年が笑顔を一瞬崩し。
その一方で、威圧のためだろうか、エレオノールの手を掴んでいた男がその手を武器に移動させようとする素振りを見せるのだが、
その動きを無精髭の中年男はそんな男の動きを目敏く見つけ、手を塞ぐように掴み取り。
「おいおい、こんなとこで武器を出そうなんざ。冒険者の資格を剥奪されたいのか?」
あえて大きめの声でそう言うと、彼の仲間だろう小柄な中年冒険者が長髪の青年の背後にひっそりと近づき、その肩をポンポンと叩くと、ビクッと振り返った青年にニヤリと笑顔を向け、続けて、ちょいちょいと親指で側にある羽扉の奥を指差してみせる。
と、小柄な中年冒険者が指し示した先にあるのは冒険者ギルドの羽扉。
そして、その奥のギルド建物内からは、一人のギルド職員が怪訝な様子で建物の外を伺っており。
「ダッ……、それくらいにしてくれ」
それを見つけた青年が慌てたように剣呑な雰囲気を放つ男に声をかける。
しかし、強引に絡んできた大柄な男としては、ここで止められるのは不満なようで、「おい――」と抗議の視線を青年に向けるも。
「これ以上は本当に不味いから」
「ア゛アン?」
「いいから、止めろって」
「見られてるから」
「……チッ、おぼえてやがれ」
リーダーらしき青年とその他仲間が抑えに回ったことで、男も渋々引き下がることにしたようだ。
定番の捨て台詞を残して去っていき。
一方、乱入してきた中年男達はというと、悔しそうにしながらも逃げていく青年たちにシッシッと茶化すようなことをしながらも「助かりました」「ありがとうとざいます」と、エレオノールを始めとした白盾の乙女が下げる頭に少し照れながらも彼女達の装備を見て、
「いや、嬢ちゃん達なら別に俺等が助けなくともよかったと思うがな」
エレオノール達の装備は一見地味なその装備だが、見る人が見れば相当にいいものだと理解できる。
そして、そんな装備が入手でき、魔の森を越えて元魔王城のお膝元まで四人でやって来ることが出来ているということが、即ち彼女達の実力を物語っていた。
しかし、白盾の乙女達としては、自分達はまだまだその実力にないという自覚があり。
それを誤魔化すようにココが、
「いやいや、これでも自分達、れっきとしたレディなんすから、ああいう手合というのは苦手なものなんすよ」
人懐っこい笑顔でそう言うと、中年冒険者達は破顔一笑。
「ははは、悪い悪い。
しかし、お前ら、今さら来ても遅かったんじゃねぇのか。もうお宝なんてもうほとんど残っちゃいねぇと思うぞ」
魔王城内部のお宝はほぼ回収されてしまったというのが冒険者内での認識である。
それを目当てにするなら、もっと早くこなければ意味がないと中年冒険者達は聞くのだが、
「それなら大丈夫です。我々がここを訪れたのは城とその周辺の調査を頼まれてのことですから」
「頼まれたって――、もしかして国からの依頼か?」
「いえ、ある領地に住まう研究者の依頼ですね。
なんでもかの魔王城が実は古代遺跡の類だったとかいう話があるそうで――」
ちなみに、エレオノールがここでいったある領地に住まう研究者からの依頼というのはまったくの嘘でもなく、彼女達が実地で感じた情報はソニアにアビーにサイネリア、そしてパキートなどにも伝えられ、きちんと報酬が得られるようになっているのだ。
そして、そんなエレオノールの話を補足するように、ココが報告用にと万屋で受け取ってきた映像記録用のクリスタルのあまりを見せると、男は無精髭の生える顎を撫で。
「成程それでか」
「あはは、それで何か面白そうな噂とかないっすかね。ギルドの方でも話を聞いたんですけど、こういう話は実際に生の声が聞きたいっすからね」
続くココの軽い感じの問いかけに、男達はそれぞれ顔を見合わせて、またフッと笑い。
「そうだな。そういう目的で城の中を調べるなら、かなり奥まで入らねぇとそういうのはなかったと思うぞ」
「周りの森にもいろいろと気になるところがあったな」
「そうだな。最近、森の中に見慣れないリビングアーマーを見たって話もあるしな」
「ああ、どうもそれがミスリルの鎧じゃないかって噂でな。俺等も狙ってんだが――」
この世界においてミスリルは希少金属だ。それを大量に手に入れられるならそれは一攫千金。
男達もそこまで言ったところで微妙に『しまった』というような顔をするのだが、ここでエレオノールが、
「大丈夫ですよ。私達の目的はあくまで城とその周辺の調査ですので、そんな大物は狙いませんから。
まあ、なにかあって向こうから襲いかかって、上手く倒せる方法が思いつけたのなら話は別でしょうが」
「ハハッ、そりゃ仕方ねぇな」
冗談のようなやり取りで、自分達は自分からそれを狙わないことを明言。
その後、また、ちょっとした情報交換をして、中年男達とはそこで別れ、アリバイ作りとして宿を取ったところで、白盾の乙女達の四人は周辺調査を名目にそのまま拠点を出るのだが――、
「しかし、さすがは魔王城のお膝元、冒険者のレベルも一段違いますね」
「自分らも万屋で鍛えてなかったら危なかったっすよね」
「まあ、あのナンパ男共くらいはなんとかなったでしょうけどね」
こう見えて白盾の乙女もそれなりの修羅場をくぐり抜けてきたという自負がある。
だから、例え今の力がなかったとしても、その時はその時で立ち回りというものもあったのだが、今回は長旅の疲れもあったことで、そこまで気が回らずに――、
「いや、面倒事は続いているようだぞ」
「あ、やっぱりそっすか、なんかついてきてるなぁって思ったんすよ」
「って、もしかして、さっきのがまだいるの?」
「おそらくはとしか言えないが」
これが一度離れてしまったのなら、また違ったのかもしれないが、その気配がずっと離れずついてきているとなると心当たりは一つしか無い。
ちなみに、その気配が先ほど別れたベテラン冒険者達ということはありえない。
何故なら、彼等ならばこんな回りくどいことをしなくとも、あの場でなにかすることもできたハズなのだから。
「でも、これ、どうするっすか。このままつけられても困るっすよね」
「そうよね。私達が抜け道に入るところを見られるわけにもいかないし」
白盾の乙女の本来の目的は魔王城の中にある転移ゲートを使って万屋へ行くことである。
その案内はここに至るまでに依頼してあり、その場面を見られてしまえば、余計な騒ぎになりかねない。
だから、彼女達としては実際に行動に移す前に追跡者を排除しなければならないと――、
「人数はわかりますか?」
「多いってことはわかるっすけど、途中で人数を増やしたみたいっすからねぇ。アヤさん、わかります?」
「いや、私の気取りはココのそれより精度が低いからな」
「というか、リスレムを使えばいいんじゃない」
「それがあったっすね」
エレオノーラからの問いかけに悩む二人に、リーサが言ったリスレムというのは、彼女達が現在向かっている万屋がこの魔王城周辺の管理・監視をするために仕掛けているリス型ゴーレムである。
これを使えば周囲の状況を把握することが出来るということで、リーサはそのリスレムに連動できる特殊なマジックアイテム由来の魔法・魔法窓を不可視モードで発動。半自動操作で周囲偵察を行ったところ。
「やっぱり、あの男達ね。
人数は――、三、二、三、四で十二人に増えてるわね」
「結構多いっすね。
でも、なんでそんな人数で追いかけてきたんすかね」
「そうね。……誰かに一目惚れしたとか?」
「えっと――、エレオノールさん綺麗っすもんね」
「なっ!? ココさんどうして私なんです。こういうのはリーサさんでしょう」
「え、嫌よ。というか一目惚れは冗談だから」
と、どうして狙われるのか、乙女らしい会話を織り交ぜながら考えていると、
「目的など、実際に聞いてみればいいと思うが、どうする?」
「そうね。話を聞いてお帰り願うしかないんじゃない」
「そっすね」
「できれば穏便に済ませたかったのですが」
ここで一向に話題に上らなかったアヤが三人の女子トークを断ち切るようにそう訊ね。
リーサとココが強硬手段も已む無しと言い。
ただ、エレオノールとしてはそこまでの荒事にしたくないようであったが、
「けど、こんな森の中まで追いかけてくる時点で穏便に済ませるのは無理でしょう」
「そうですよね」
外のメンバーの意見を聞いて仕方ないと諦める。
「で、結局どうするの?」
「どうするもなにも適当でいいんじゃないっすか。見た限り、そこまでの相手じゃないっしょ」
「それもそうね」
ココとリーサが適当に言いながら強硬な手段に出ようとするのだが、ここでエレオノールが、
「いえ、ここは念には念を入れましょう。
リーサさん、万屋と連絡は取れますか?」
「リスレムが使えるくらいだから大丈夫よ。店長さんがちょうどお店にいるみたいだから。
それで、どうするの?」
「後でなにか言われても面倒ですから、こういうことは証拠を残しておいた方がいいと思いまして」
「ああ、たしかにね」
ということで、リーサが代表して万屋に応援を要請。
四人はリスレムが配置につくまでの時間を油断なく森の中を彷徨うことで稼ぎ、しっかりスタンバイが整ったのを魔法窓を介したメッセージで受け取ったところで満を持して、追跡者に呼びかける。
「あの、隠れていることはわかっていますよ」
「そろそろ出てきたらどうかしら」
「そっすよ。面倒だからさっさと出てきちゃってくれっす」
しかし、相手からの返事はない。
だから、『ここは私が――』とリーサが杖の先に炎を灯して、「出てこないなら森ごと焼き払うけど、それでいいのね」と言ったところ、ようやく森の奥からぞろぞろと男達が出てくる。
その中には当然、魔王城近くの拠点で絡んできた五人組の姿もあって、
「いつから気づいてた?」
話しかけてきたのは、やはり彼がこの集団のリーダーなのだろう貴公子然とした長髪の青年。
「最初からっすよ」
というか、あんな捨て台詞まで残しておいて、どうして気付かずにいられるのだろうか。
主にココがそんなことを呟きながらも。
「それで、なんの用ですか?」
「まさか本当にエレン姉さん目当てとかじゃないっすよね」
軽いジョークのような問いかけに、男達は「ははは」と笑い合って、ギラリと威圧的な視線を向けながら。
「マジックバッグ、持ってるよな」
「あと、お前らが着てる装備だな」
「それは君達のような冒険者が持っていてはいけないものだ。僕達に渡してもらおうか」
「ああ、そっちっすか……」
「気付かれないように使ったハズだったんだけど、どうしてわかったのかしら」
ココの微妙な笑いに続くリーサの疑問符。
これに関してはものが高級品だけに白盾の乙女のメンバーの気をつけて使っていたハズなのに、どうしてバレてしまたのかと白盾の乙女としては甚だ疑問なところであるが、
長髪の青年曰く、どうも彼等の仲間に高度な鑑定を操る魔法使いがいたようで、どうも彼等はギルドに入ってくるすべての人間の持ち物をチェックしていたらしい。
「ちなみに、そっちっていうのはどういうことだい?」
「いや、私達狙いなんじゃないかと思いましてっすね」
「ああ、まあ、そっちはそっちでいただくけど」
愛想笑いでココが言うと――、
長髪の青年もそれに合わせるようにへらっと笑い、さも当然とばかりにココ達もののついでにもらってやるとそう応え。
「あれだけコケにされたんだからな。覚悟しやがれよ」
「コケ?
自分達、なにかしたっすかね」
最初から喧嘩腰だった男が続けるのだが、ココ達の側からしてみると、男がなぜそこまで怒っているのかがわからないと首を傾げる。
すると、男は「はぁ」と不機嫌な様子で、
「あんだけ人の前で俺達に舐め腐った態度取りやがったクセに舐めてんのか」
つまり、この男からしてみるとココ達は自分達に従うのが当然と、そう思っているということだ。
しかし、それはバカバカしいほど傲慢な考えで、
「勘違いもはなはだしいわね」
リーサがあえて挑発するように気だるそうなポーズをとってそう言うと、はたして、それが男達の敏感な部分を逆なでしてしまうことになったようだ。
「ハッ、なにを余裕ぶってんのか知らねーが、お前らはここで終わりだ。奴隷に落ちて俺達を馬鹿にしたことを一生後悔するんだな」
「奴隷ですか……、
この国でそれは許されていないハズですが」
指を指し、そう言ってくる男達にエレオノールが目を鋭く細める。
奴隷制度がある国は存在する。
しかし、この魔王城が存在するルデロック王国とその周辺地域では、奴隷は禁止されている。
ただ、それはあくまでエレオノールが知る表面上の話であって、
「蛇の道は蛇。どこにでも好き者はいるってことさ」
つまり、表向き規制はされているものの、一部の好事家の間では実際に流通しているというのだ。
それを聞いたエレオノールは「ふむ」と難しい顔で頷いて、
「これは報告案件ですね」
「報告案件?
そんなこと、どこに報告するっていんだい。
いや、そもそもどうやって報告するのさ」
独り言のようなエレオノールの呟きに肩をすくめる長髪の青年。
彼からしてみるとエレオノールのそれは現実味の薄い話に聞こえたみたいなのだが。
「出来なくはないと思うっすよ。他国ではあるっすけど、こう見えて自分達、これで結構顔が効くっすからね。例えばこういう物があるんすけど、これをとあるお国のお偉いさんに見せたらどうなると思います?」
ここでココが見せるのは手の平サイズのクリスタル。
ただ、ココが取り出したそれがなんなのか、ここにいる大半がその正体がわからなかったようで、ココの望んだようなリアクションは得られなかったのだが、中にはマジックアイテムに詳しい人間もいたようだ。
「メモリーダストだと!?」
驚愕の声を上げたのは長髪の青年が率いる冒険者メンバーの中にいた魔法使い。
「なんだそりゃ」
「貴族が使う記録用のマジックアイテムだ」
思いのほか驚いている仲間に男達の一人が何気なく訊ね、返ってきた答えに、また他の男が慌てたように――、
「ちょっと待てよ。それってヤバいんじゃねぇのか」
「落ち着けって、どうせ逃げられなきゃいいんだろ」
「あ、ああ、そうだな。ダッドリィ」
「わかってる。お前ら、今回はお遊びなしだ」
どうやら最初からエレオノール達に敵愾心を持っていた大柄な男はダッドリィという名前だったらしい。
妙にエレオノールに絡んできた男――ダッドリィの呼びかけで戦闘態勢に入った男達にエレオノール達は武器を抜きつつ。
「えーと、なんか勝手に納得して勝手に襲いかかってきたんすけど」
「というか、コイツ等、もともとこういうことをしてお金を稼いでいたんじゃないかしら」
「そうですね。口ぶりからしてなんらかの組織と繋がりがありそうですし」
「でも、結局やることは同じよね」
「そうですね」
どこかのんびりした会話を交わしていると、
「なに余裕かましてやがる」
男の一人がココに攻撃を仕掛け。
「――って言われてもっすね。
実際、余裕っすから」
ココがその男の剣を躱し、懐に潜り込んで膝蹴り。
続けて襲いかかってきたダッドリィの攻撃を間一髪で避けたところで、
「油断は禁物ですよ」
エレオノールがそのダッドリィにシールドバッシュ。
「とはいえ、相手がこれでは少々面倒だな」
アヤが剣を使っては殺してしまうと、エレオノールのシールドバッシュで倒れたダッドリィの股間を踏み潰しながらも、ココの膝蹴りで蹲る男の頭を鞘が付いたままの剣で強打して、あっという間に二人を撃破すると、それを見て男達の勢いが急激に削がれ。
「くそ、支援魔法か」
「魔法使いの女を潰せ」
しかし、白盾の乙女が女だてらに強いのは魔法使いの補助あってのこと――、
ここで、この集団のリーダーらしき長髪の青年が苦し紛れにそう言うと、男達のほとんどがそのターゲットをリーサに変更して動き出すのだが、
「ちょ、なに勘違いしてるのよ。私は純魔だから」
リーサはリーサで殺到する男達にうろたえながらも、万屋での訓練で獲得した杖術を使ってそれに対処。
すると、そんなリーサの奮闘に男達が勘違いを加速させ。
「純魔がこんなに戦えるなんてなラインリッヒの言う通りだぜ」
「くっ、騙されたか」
「他の女は取り敢えず無視だ。囲め囲め」
なによりリーサを倒すのが先決だと、エレオノール、アヤ、ココの三人を無視してリーサに攻撃を仕掛けようとするのだが――、
三人がそれを許すハズもなく。
「通すと思ったか」
「抜かせん」
「頑張ってくださいリーサさん」
エレオノール、アヤ、ココのそれぞれが、ターゲットを自分からリーサに変える男達を倒してゆくのだが、
しかし、そのバトルスタイルがゆえか、ココが倒せたのは一人のみで、
「ちょ、ココ、ちゃんとやってよ」
「ちゃんとやってるっすよ。でも、自分の場合、脳筋のお二人と違ってまとめて倒すなんて真似はできませんから、それにリーサさんの実力なら、それくらいの人数なら余裕っしょ」
「余裕な訳ないじゃない。腐っても魔鉄装備よ。私の攻撃だとうまく倒せないのよ」
ちなみに、ここでリーサが口にした魔鉄というのは、微量の魔法金属を含んだ合金のことで、この世界においてはそれなりに上位のに位置する装備である。
リーサが相手の装備を理由に求めた助けに対し。
「鎧がないとこを狙うんすよ。こうやって、こうっす」
ココが手本を見せるように、目の前の男の鎧の隙間を狙いナイフの柄を突き入れて、その意識を刈り取るのだが、
「魔法使いにそんな高度な技を求めないでよ。というか、アンタ倒せてるじゃない。その調子で他のもちゃっちゃとやっちゃってよ」
「そっすね。もう残りも少ないっすし」
ココとリーサが男達の相手をしながらそう言い合っている間にも、エレオノールとアヤは黙々と敵を倒し。
「おっと、最後はおにーさんっすよ」
「君達、僕に手を出してただで済むと思ってるの」
「そんなこと言われてもっすね。手を出してきたのはそっちの方じゃないっすか」
「というか、ただじゃ済まないっていうなら、どうなるのか教えて欲しいわね」
「そうですね。それによってはこれからする処分が代わってきますから」
最後にエレオノールの発言が、天然の脅迫になったのか。
「……」
「あら、急に大人しくなったっすね」
「誰かさんの天然発言でさすがに観念したんじゃない」
「まあ、もともとこの状態になって後ろ盾に頼ってる時点で終わってるっすからね」
そう、彼が自分の後ろ盾と考えている人物は、表向き禁止されている奴隷商売を手広くするような人間だ。
そう考えると彼の代わりなどいくらでもいるだろうし、そもそもここでこの件がエレオノールに漏れた時点で、この男もその後ろ盾も後が見えたようなものなのだ。
「終わりですね」
「チクショウ。なんでこんなことになってんだよ」
「なんでと言われてもな。自業自得だろう」
「それに、エレンさんを前にあんなこと言っちゃった時点で終わってるっすよね」
「いや、まっとうな冒険者なら誰しもが同じ対応を取ると思うのですが」
「まあ、その辺は人それぞれっていうことで、とりあえず眠ってくださいっす」
と、ココが綺麗な回し蹴りで男の意識を刈り取って、
「後は店長さん達に任せればいいんすよね」
「ええ、なにか問題があったら後で教えてくれるでしょ。あっちもあっちでなにか伝手があるみたいだし、っていうかお迎えが来たわよ」
リーサが視線を向ける先には噂のリビングメイルが歩いてきており。
「はぁ、ようやくっすね」
「今回はゆっくりできるといいわね」
「そうですね」
◆二話にわけようとも思いましたが、そのまま一気に投稿しました。
なので今週、水曜日はお休みで、次回投稿は通常通り日曜日となる予定です。




