●進撃のティターン01
◆今回はボロトスに狙われるというか――、
たまたまティターンの進行方向にあった隣国の砦の偉い人・ギルラド視点のお話です。
◆ギルラドside
それは突然の宣戦布告だった。
何の前触れも理由もなくボロトス帝国が攻め込んでくるという。
前々からそういう国であることはわかっていたが、一体何を考えているのだあの国は――、
国境沿い、空白地帯を睨むカルカラン砦の将――ギルラドは、王都から届いた報告に多大な警戒の中に微かな呆れを滲ませたため息を吐いていた。
ただ、そんなため息も束の間、続く報告を聞いたところでギルラドの態度は一変する。
それは、数日前から始まった謎の地揺れ、周辺諸国を騒がせたドラゴンの移動に関連して、なにかしらの事態が動いているのではないかと、調査部隊に調べさせたいた件の報告。
調査部隊の報告によると、謎の地揺れの原因は巨大過ぎるゴーレムが移動している音であるという。
驚きなのが、その周囲にはボロトス帝国の兵士が列をなして進んでいるということだった。
なにを馬鹿なことを――、
あまりに常識外れの報告に、当初はその報告を一言に切って捨てようとしたギルラドだったが、斥候もそう簡単にこの報告を信じてもらうことは出来ないと予想していたらしく。
その証拠として、貴重な映像記録用マジックアイテムであるメモリーダストを使ってまで報告してきたのだ。
こうなると、いかにギルラドとてその報告を信じざるを得ない。
なにより、神が作り出した絶景として知られるニフタート大峡谷の半分ほどはあるだろう巨大ゴーレム。
それに続く形で行われるボロトス帝国の進軍。
それはギルラドにとって衝撃的な光景だった。
通常、軍が一つ動くだけでもその光景は圧巻のものになるのにもかかわらず、この進軍ではその前方を守護するように――いや、実際に守護しているのだろう――巨大なゴーレムが配置されているなど、現代の戦にあってならないものだったのだ。
ただ、この映像を見て逆に納得できたこともある。
このようなゴーレムがあるからこそボロトス帝国は、取りようによっては馬鹿と言わざるをえない宣戦布告をしてきたのだと。
ギルラドはようやく本当の意味で中央からの報告を信じるに至り、これはすぐに動き出さねばと、砦に常駐する魔導師達を集め、映像に記録されたゴーレムの調査を命じる。
すると程なく、そのゴーレムがかつてこの大陸を騒がせた魔導国家ネクスラウドの最終兵器であることが判明する。
それは誰もが知っているお伽噺の兵器。
ボロトス帝国はそんな伝説の兵器が現代に蘇らせ、それを尖兵に侵略に乗り出したのだ。
ティターンといえば『轢殺機』に『城潰し』そして『破軍巨兵』と、ぱっと思いつくだけでもいくつもの物騒な異名がつけられている兵器である。
そんな兵器を相手にこの砦は戦えるのだろうか。
いや、映像を一目見れば、どのような愚物にも理解できる。
真正面からぶつかりあったら勝負にすらならないと、それがその報告を聞いた、いや、聞く前からのギルラドの率直な思いだった。
しかし、ギラルドにはここで逃げ出すという選択肢はなかった。
なぜなら、ギラルドが将軍を務めるこのカルカランの砦は、魔獣の侵攻や他国の侵略に対抗する為に作られた国防の砦。
例え相手が自分達よりも強大だったとしても、国の為、民の為、なにより自分達の家族の為にここを退くことはできないのだ。
ただ、報告はなにも絶望的なことばかりでもなかった。
相手が規格外の巨大兵器だとしても、ギルラド達にまるで希望がないわけでもなかったのだ。
その希望というのは、かつてティターンという巨大兵器を多数保有しながらも、かの魔導国家も大陸の覇者になることは叶わなかったという歴史的な事実。
その歴史こそがティターンの力も絶対ではないということを証明していたのだ。
そして、その希望の内容であるかの魔導国家の終焉における重要な事実なのだが、
子供の頃に聞かされた寝物語を信じるのなら、かの魔導国家の野望を打ち砕いたのは白銀の騎士王に最果ての魔導王、他諸説かたられる英雄たちの集団だという話であるのだが、
実際に魔導国家がその尖兵としていたティターンを止めたのは、時の大魔法使いニフタート。
そう、かの大渓谷ニフタートは彼が自らの命と引換えに使ったとされる大魔法で作られものだという話なのだ。
そして、ティターンが現れたとされるのがまさにニフタート大渓谷。
かつての大魔導師ニフタートがティターンを倒す為に生み出したのがかの大渓谷だという言い伝えを信じるとするなら、それはほぼ真実と言ってそういないだろう。
しかし、逆に言うと、それほどの奇跡を起こさない限り、ティターンは倒せないということになるのではないのか。
いいや、そうとは限らない。
ここで一人の知恵者が『これはあくまで可能性の話になりますが――』と一つの仮説を口にする。
それはティターンが落下攻撃に弱いのではないかという至極シンプルな考えだ。
はたして、どういった理屈でそんな結論に至るのか。
その知恵者は言う。
たしかに大渓谷を作り出す魔法は尋常ではないが、本来、そういった魔法は割った地面を閉じるまでが一連の流れである。
ニフタートがそれをしなかったのはそうする必要がなかったのではないのかと――、
答えは単純に魔力が足りなかったという理由も考えられるが、問題なのはその結果である。
現にティターンは深い谷の底で壊れていたのだ。
そう、ギルラドが地揺れの調査に向かわせた兵達は、その谷の中でティターンの修復が行われていたことまで調査していたのだ。
つまり、あの強大なティターンとて、あの高さから落下すれば無事では済まないということである。
実際、映像に見るティターンは鈍重で、大きな両腕で本体を支える構造から縦方向の衝撃に弱いことが見て取れる。
ならば、こちらも同じことをすればいい。
しかし、問題はいかしにてそれを成すかである。
正直、相手がたった一体だけだとしても、ティターンほどの巨体をニフタート大渓谷のような落差の谷に落とすような魔法が使えるような人材に心当たりがない。
例え、数名の魔法使いが力を合わせたとしても、ティターンをすっぽり落とすような地割れを作り出すのは難しい。
ただ、これに単純明快な案が一つあって、
その案というのは、あらかじめ大きな落とし穴を作っておいて、そこにティターンを落としてしまえばいいというものだった。
正直、そんな単純な作戦でティターンが倒せるのかという思いはギルラドや多くの知恵者にもあった。
しかし、他になにか対案を出せるかといえば誰も彼もが口を閉ざしてしまう。
そして、現状、彼等に残された時間はあと僅か。
結局、他の案が出せないのならと、この単純ともいえる落とし穴作戦が結構される運びとなり。
一度、指針を決めてしまえばそこからは時間との勝負である。
かすかに感じる地響きの主が、この砦に到達するよりも前に、かのゴーレムを破壊する為の大穴を作らなければ、自分達はあの巨大ゴーレムと正面から戦わなければならないのだ。
ギラルドはすぐに砦と付近の街や村から土属性が使える人材を掻き集め、落とし穴作りを命じる。
しかし、いざ落とし穴を作ろうとした段でまた問題が発生する。
ティターンを落とし穴に嵌める為には、ボロトス帝国の側に落とし穴がそこにあるとわからないようにしなければならないのだが、そのまま掘ればそこに落とし穴があると言っているようなもの。
後で偽装を施すという方法もなくはないが、相手の軍にもそれくらいのトラップを見抜く魔法使いの一人や二人はいる筈なのだ。
それを考えると、魔法などの偽装なしに落とし穴を作らねばならず、どのようにしてそれを実現すればいいのか――、その方法を皆で考えた結果、最終的に出された結論は、砦の地下に入り口を作り、そこから坑道を伸ばして、砦の目の前に広がる荒野の地下に大きな大空洞を作るというものだった。
しかし、これは口で説明すれば簡単な話であるが、実際にやってみると作業は困難を極めた。
もともと、カルカラン砦がある地域は乾燥した大地が一面に広がっており、地面は固く、堀り難く。
薄く天井だけを残すとなると、これが逆に脆く崩れやすくなってしまうからだ。
けれど、ここで泣き言は言っていられない。
ズズン、ズズン――と時間ごとに近付いてくる音。
驚異はもう砦のすぐ側まで近付いてきているのだ。
魔法使いを交代で休みを取りながらも、慎重に落とし穴を掘り進めていくしかなかった。
と、そんな魔導師達の一方でギルラド達も忙しく走り回っていた。
砦に住まう非戦闘員、戦えない者の避難に戦いに備えた装備の確認と配備。
自分達が敗北する可能性を考えて、いまのうちに手に入れた情報などを、王都はもちろん、ここを経由して攻め込まれるだろう都市に送っておかなければならなかったのだ。
そうして、カルカラン砦の人員がそれぞれ役割を果たすべく忙しく動いている中、ついにその時が訪れる。
砂塵にけぶる荒野の向こう、夢と現実の境界から現れ出でたように浮かび上がる長大なシルエット。
外でそれを目撃した者は、一瞬、我を忘れてその巨体に魅入られる。
しかし、それが一歩と足を踏み出すごとに響いてくる地響きに、一人、また一人と正気を取り戻すと、上への報告へ走り、迫る敵を倒す為、各自が真剣な面持ちで自分の持ち場についてゆく。
決戦の火蓋はまもなく切られる。
◆本編キャラとの温度差が……。




