かまぼこさつま揚げ
◆白はんぺんに黒はんぺん、他にもさつま揚げや揚半、しんじょなど、この辺の名称区別は難しいですね。
ということで今回は広義の観点からさつま揚げと表現することにしました。
「話には聞いてたけど、マジでこんなんが動くんだな」
「目的が目的だけにそうやって喜ぶのも不謹慎な気もするけどね」
「いやぁ、そりゃそうかもしんねーんだけどよ。こう巨大ロボットみてーなゴーレムが動いてっと興奮すんだろ」
「だな」
「マオっちもそう思わね」
「……ん」
「魔王様が良いんなら、それでいいんですけど」
「で、お前らはなにを作ってるんだ」
さて、起動した翌日――、
あらためてティターンの報告に来てくれた魔王様と谷を進むティターンの映像を見ながら、僕と魔王様がなにをしているのかというと、軽く一抱えはある巨大な魚の切り身を適当な大きさに切り取る作業。
これは先日、掃除屋に飲み込まれ異世界からラファが持ち帰ってくれた巨大なサメ型魔獣の一部で、今日はこれでカマボコやさつま揚げを作ろうかと考えているんだと、僕が元春とその後ろにいる次郎君、正則君にそう言うと。
「いや、なんでこのタイミングでンなことやってんの?」
「なんでってティターンの監視の間に簡単に食べられるものがいるかなって、
あと、トワさん達が近々、辺境伯に挨拶に行くみたいだからお土産にどうかなって思ってね」
「ああ、そりゃ重要だな」
なんでも、マリィさんのところで掘っているトンネルが、そろそろ馬車が一台通れるくらいのスペースができるということで、その安全性の確認とそのついでに、トワさん達がトンネルのつながる辺境伯の領地に改めてご挨拶に行くらしいのだ。
なので、なにか軽い手土産はないかと、つい先日、スノーリズさんからご相談があったので、こういうものがありますよと、先ずは味見にと今回おすそ分けすることになったのだ。辺境伯の領地は海がない土地らしいからね。
あと他に酒飲みである賢者様にもおすそ分けをしようかと考えている。
ちなみに、同じ酒飲みでもディーネさんは女子らしく(?)お酒のお供には甘いものをということで、最近は、世界樹農園で暮らすようになった水の精霊さん達が作ってくれるびわの砂糖漬けをおつまみにしているので大丈夫だろう。
「……楽しみ」
「しかし、このティターンだったか?
それの見張りをしてんのって妖精達だよな。
あのチビ達ってこういうの食うのか?」
「うん」
「アイツ等、結構雑食だぞ」
妖精といえば花の蜜を吸って生きてるとかそういうイメージがあるから、正則君が意外に思うのも無理もないと思うんだけど、実際、妖精のみんなは結構なんでも食べてくれて、今回のリクエストだって、実は彼女達の了承あってのことだったりするのだ。
「けどよ。こういうのって素人がやっても作れるものなのか?
なんか難しいってイメージなんだけど」
「意外と簡単に作れるよ」
インターネットで調べればレシピも出てくるし、実は以前、知り合いに連れられて釣りに行った時に、偶然大きなサメが釣れたことから、簡単な作り方を聞かされていたのだ。
ということで、いい感じの大きさに切り分けた魚の切り身をボールにまとめて、
「まずは武器の手入れに使うこの浄化の魔法をかけてくださいね」
手伝ってくれているマリィさんと魔王様にそう声をかけると、
「ちょっと待て、なんかいきなり変な工程が出てきたんだけど」
ここで元春が文句というよりもツッコミを入れてくるんだけど。
「血とか油があると、あの粘りが出ないらしいから」
本来なら、水にさらして、油が多い部分とか、血合いとか取り除かないといけないらしいのだが、魔法を使えばそんな面倒な作業をする必要がないのである。
「いや、そういうことじゃなくてだな」
「でも、簡単な方がいいでしょ」
「うっ」
「道理ですね」
そう、省ける無駄は省く、それでいいじゃないか。
ということで、解体時に使う為にカスタマイズされた特殊な浄化の魔法を発動して、冊にしたサメ型魔獣の切り身をキレイにしたところで、
「次は卵白を用意します。
僕が卵を割るので魔王様とマリィさんは黄身を取り除いてくれますか」
「お任せあれ」
「……ん」
そう言って、からのペットボトルを構える魔王様とマリィさん。
これでボールに割り入れた卵の黄身を吸い取ってもらうのだ。
ちなみに、残った卵黄は醤油を入れたタッパの中に入れておいてもらっている。こうして黄身を半日ほど醤油の中につけておけば、おいしいごはんのお供になってくれるのだ。
ちなみに、これも魔王様やマリィさんのお土産として持って帰ってもらうと考えている。
ただ、そこはふだん料理をあまりしない魔王様とマリィさんである。いくつか卵黄を壊してしまうというハプニングがありながらも、なんとか卵白と黄身との分別を終え。
「で、準備ができたら、切り身と卵白、そして塩と砂糖を錬金釜の中に入れていきます」
「わかってたんだけど、こっちも魔法を使うんだな」
「錬金釜の方がフードプロセッサより使いやすいからね」
実際、錬金釜一つで出来ることを考えると、地球にあるどのフードプロセッサよりも遥かに高性能な調理器具ともいえるのだ。
と、錬金釜の便利さを軽く元春達に説明しながら、次々と材料を錬金釜の中に投入していって、錬金釜に付与されている〈微塵乱気刃〉を起動させ、後はいい感じに粘りが出るまでかき混ぜればタネの完成だ。
と、そうして作ったタネをいくつかに取り分けて、その一つに食紅で色を付け。
「このすり身を板に塗りつけて蒸してしまえば、かまぼこの完成ですね」
軽く実演と、今日のために動画なんかでイメージを固めてきた僕が見本を見せてみんなにも挑戦してもらうのだが。
「難しいですわね。形が整いませんの」
「……ピンクの塗るのが難しい」
「ちょ、俺もやっていいか」
「いいよ。そこの板使って」
「マジで難しいなこれ」
「これ専門の職人さんがいるくらいだからね。
どうしても、上手く行かないようなら、白一色にするか、こっちに用意した棒に巻き付けてもらえれば簡単に作れるよ」
やはり、みんなあまりうまくできないようなので、こんなこともあろうかと調べていた、僕達がカマボコといわれてイメージする定番のカマボコとは別に、白一色のカマボコや、実はこれが元祖とされるカマボコの作り方を教えたところ。
「つか、それって竹輪じゃね」
「いえ、それもカマボコで間違いないかと――、
たしか、もともと蒲の穂に似てるから蒲鉾になったって話だったと記憶していますね」
「マジでか」
「マジでです」
ちなみに、棒から抜くと竹輪になるのだとか。
とまあ、その辺の区別は諸説あるようで――、
正直どれが正解なのかわからないと、そんな話をしながらも量産した現代的なカマボコを蒸し器にセット。
「余ったタネは予定通り、さつま揚げにしていくんですけど、みなさん具材はどれがどれがいいですか」
言って、マジックバッグから取り出して見せるのは自宅の冷蔵庫から適当に持ってきた具材の数々だ。
と、そんな具材を前に、まず元春が迷う必要もないとばかりに手に取ったのは袋入りの紅生姜。
「俺はやっぱり紅生姜だな」
まあ、定番といえば定番だね。
そんな元春の一方でマリィさんが選んだのは、
「私はたまねぎですわね」
近所に有名な惣菜屋さんがあって、たまに買ってくるから、それを自分でも作ってみたいってことかな。
そして、正則君がチーズを、次郎君がゴボウと渋めのチョイス。
最後に魔王様が選んだのは、
「……カリカリベーコン」
おっと、これはちょっと斬新かも。
でも、これはどう料理しても不味いことにはならないだろうからと、特に反対の意見もなく。
それら具材を混ぜたりつつんだりして、成形したところでこれを揚げていくことになるのだが、油を使った料理は少々危険なので、マリィさんや魔王様の白い肌に油ハネがあるといけないからと、揚げの作業は僕達が担当することになり。
「じゃあ、僕はマリィさんと魔王様のを揚げていくから三人は自分達のをお願い」
「おう、任されろ」
自信満々に返事をされると不安になるのだが、三人も母さんのキャンプである程度の料理経験はあるので、大丈夫だと信じたいと、僕は僕でエレイン君に用意してもらった油を温め、さつま揚げを作っていくことにする。
そして数分、揚げ上がった一つを包丁で人数分に切り分けて味見をしてもらうのだが、マリィさんの玉ねぎ入りさつま揚げはすでにある人気商品なので評価は上々で、
「美味しいですの」
「……ん、いい」
「俺等にもくれ――」
「はいはい。アクアに持っていってもらうから、そっちのも味見させてよ」
「わかってるって」
元春達の方は、元気のいい返事をした元春ではなく、正則君が中心となって揚げているようで、
逆に元陽なんかは料理よりも味見に精を出しているらしく。
「マオっちのうめーな」
「塩気がいい感じですね」
「しかし、元春のこれは入れ過ぎではありませんの?」
「……辛い」
「だから入れ過ぎだって言ったんだよ」
どうも、元春の紅生姜入りのさつま揚げは紅生姜を入れすぎてしまったようだ。
と、そんなこんなで調理をしながらの味見を終えたところで、出来上がったさつま揚げはそれぞれが気に入ったものをお持ち帰りしてもらうこととして、最初に仕込んだカマボコの出来を確認する段になるのだが。
「出来てんのか?」
「一応、固まっているようですが」
「変化が少ないので完成しているのかがわかり難いですわね」
「とりあえず食べてみましょうか」
「……ん」
僕が作ったベーシックなカマボコを蒸し器から取り出し、それを波型包丁で切り分けて、
「俺、わさび醤油な」
「俺も同じの」
「僕はシンプルにそのままいただきます」
「私もそうしますわ」
「……ん」
それぞれがそれぞれの食べ方で味見となるんだけど……。
「普通にカマボコだな」
「温かいカマボコですわね」
「……カマボコ」
それは紛うことなくそれはカマボコだった。
「けどよ。ふつうにうめぇよな」
「え、ええ、そうですね。美味しいですよ」
うん。みんななんか奥歯にものが引っかかったような言い方であるのだが、美味しいは美味しいのである。
ただ、揚げたてのさつま揚げを食べた後だと特に感動がないだけなので、
「失敗もしていませんし、後で食べれば美味しいものなので、これもお持ち帰りでいいですか」
「ですわね」
「……ヴォダが喜びそう」
「ええ、あって困るものでもありませんし」
「だな」
最後、微妙な空気になりながらも、その後はさつま揚げをおやつ代わりにティターンの進行状況や周辺の反応をたしかめて解散となった。
ちなみに、それぞれに持って帰ってもらったカマボコにさつま揚げは、マリィさんや魔王様のところではもとより、元春に次郎君、正則君のご家族にも喜ばれたようである。
◆次回投稿は水曜日の予定となっております。




