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●大巨人起動

◆今回はマオの拠点が中心となるお話です。

 少し短めです。

 それは、マオ達がソニアによる調査が終わり返却されたドラゴンの遺骸の半数を埋葬し終え、次なる埋葬場所へ向かおうと移動していた時のことだった。

 ポンと目の前に表示された魔法窓(ウィンドウ)の中のリィリィがこう言った。


『マオ様、ティターンが動き出したました』


「ついに来たか」


「冗談じゃなかったのね」


 そんなリィリィからの報告に唸るように言ったのはマオではなく、ドラゴンの埋葬に帯同していた黒龍のリドラと白龍のヴェラ。

 彼等はマオを挟んで視線を交わすと酷く面倒臭そうな顔をして、


「冗談なものか。

 それよりもヴェラ、敵が動き出したとなれば前に言っていた例の件だが――」


「わかってるわよ。

 リフィオ近くの山の中に行かなきゃいけないのよね」


「無理強いはしないがな」


「いいわ。

 これからここでお世話になるんだし、私もある程度は働かないと駄目でしょ」


 ため息の音が聞こえてきそうな声でそう言うと、ヴェラは思考操作で呼び出した魔法窓(ウィンドウ)から一つの魔法を選択して発動。

 すると、ヴェラの白い巨体が光に包まれ、その場から姿が消えてなくなり。


「えっと、大丈夫? 見えてない?」


「……完璧」


 周囲で龍の埋葬を手伝っていた獣人達が驚きの声を上げる中、響くヴェラの声にマオがぐっと親指を立て応え。

 続けて大きななにかが身動ぎするような音が聞こたかと思いきや。


「この魔法、長くは持たないらしいから、行くわね」


「……頑張って」


「ありがと」


「現地の方でも姿を消すのを忘れずにな」


「わかってるわよ。

 じゃ、じゃあ、向こうについたら連絡するから……」


 マオの声援に素直に感謝したヴェラは、ドラの注意に表面上は不機嫌に返すと少し間をおいて、おずおずと――という表現でいいのだろうか、リドラに向かってそう言い残し。


「気をつけてな」


 リドラが優しげに見送りの声をかけた次の瞬間、ぶわりと風が巻き上がり、ヴェラの存在感が逃げるように遠く空の彼方へ離れていく。

 と、そんな空を見上げてしばらく、ヴェラの気配が完全に遠くに消えたところで、


「マオ様、いかがなさいますか」


「……ん、ミストと帰るから、みんなは続けて」


「承りました」


「必ずやご期待に添えてみせます」


「……じゃあ、ミスト」


「はい、お供させていただきます」


 リドラから声をかけられたマオは仰々しく頭を下げる獣人達にマジックバッグ機能を付与された金属板を受け渡し、『自分はこちらか――』とややしょんぼりしたリドラを現場に残して、ミスト達アラクネ一同とクロマル、シュトラと一緒に拠点に向けて駆け出していく。


 そうして走ること十分、拠点に戻ったマオとミストは、その足で妖精達が住まう地下庭園へと向かい、天井から明かりが落ちる洞窟内の花畑に辿り着くと、そこでは大量の魔法窓(ウィンドウ)を相手に妖精達が忙しそうに飛び回っており。

 妖精の一人が洞窟内の花畑の現れたマオの姿を見つけると、わっと声を出し。


「マオ様、来た」


「これで爆発させられる?」


「まだと言ってるでしょ。このおバカ」


 コントのようなやり取りを拳骨で締めたリィリィが、コホンと咳払いで真面目な顔を取り戻すと、用意していたいくつかの魔法窓(ウィンドウ)を引き連れて、マオとミストに飛んで近付くと。


「マオ様、報告よろしいでしょうか」


「……ん」


「では、ティターンが動き出したのは十五分前、現在は待機状態のようですね」


「ええと、これ人間さん達はなにをやっているんです?」


「問題がないかチェックをしているようですね」


 ティターンは動き出したからといってすぐに移動を開始できるのではない。

 動作チェックに進軍の準備と、現在、ボロトスの手勢は出発前の準備をしているところだと、小首を傾げるミストにリィリィはそう言うと、続けて――、


「しかし、お偉方からするとすぐにでもという思いがあるようですが」


 残念そうに落とした視線の先には、金切り声で周囲に無茶苦茶なことを言う偉そうな男を映し出した魔法窓(ウィンドウ)

 マオはそんな現場の映像に軽く眉を潜めながらも。


「……虎助に連絡した?」


「はい。こちらから連絡せずともといった感じでしたが報告はしました」


 ティターンに関する情報は、各種データ収集に二重チェックと、万屋でもリアルタイムで確認できるようになっている。

 そして、その万屋では優秀なゴーレム達が常時監視にはりついており、あえてこちらから情報を伝えるまでもなく、ボロトス側の動きを把握していた。


「それで、この兵隊さんたちは、いつ頃、動きそうなんです?」


「相手方次第ですね。

 しかし、そこまで時間は必要ないと思います。

 なので、こちらとしてもすぐに動けるように準備を進めているのですが――、

 ヴェラ様はすでに?」


「さっき出発しましたよ。

 一時間もすればあっちにつくんじゃないですか」


 ちなみに、いまミストが口にしたあっちというのは、ボロトス帝国が精霊水を入手するために荒らし回っていた精霊たちが住まう山の中。

 今回、ティターンに横槍をかけることに関して、マオ達が暮らすこの拠点とその横槍が関係していると疑われないように、作戦の主軸となるヴェラに、わざわざティターンに関係してボロトス帝国との間に因縁が疑われそうな土地を選び、そこを出発点としてもらったのだ。


 ちなみに、今回の作戦の結果、ボロトス帝国の反発がそちらの土地におよばないように、そもそも精霊水の件で精霊達が完全に見捨てた土地をその出発点に選定、ヴェラには多くの目撃情報があがるように動いてもらうことになっている。

 そして、いまだその土地の近く――と言っても山一つは離れるのだが――精霊達の住処の周囲には迷いの結界など、対策を施すのも忘れない。


「成程、ヴェラ様の飛行速度なら当然でしょうね。

 しかし、こうなるりますと、ボロトスの兵達には早く動いてもらった方がいいかもしれませんね。ヴェラ様をお待たせするのも怖いですから」


「ですね~。

 でも、そんなことができるのです?」


「ええ、実はティターンの安全確認にはソニア様のお墨付きがありまして、彼等が検査に使っている魔動機に割り込みをかけてやれば」


「こっちから早めてあげることができるんですね」


 と、ミストにも納得してもらったところでリィリィはマオの方に向き直り。


「ということですが、マオ様、どういたしましょう」


「……虎助はなんて?」


 今回の作戦はマオ達が主軸となって進めている作戦だ。

 ただ、もしもなにかがあった場合、万屋のフォローがあるとないとでは、その対応に大きな差がある。

 正直、マオがそこまで考えて言ったのかはわからないが、できる妖精のリィリィは、その点をきちんと踏まえていたようだ。

 すでに虎助への確認を行っており。


「最終判断はこちらにまかせると」


「……なら、お願い」


「では、ホワホワさん」


「りょ~かい」


 マオの号令です万屋から送られたデータが、すぐにティターンの調整を行っている魔導器に割り込ませられ、三十分ほどでティターンが動き出す。


「はぁ、やっとまた動き出したね」


「ここからどれくらいかかるんです?」


「この速度だと数日は掛かるとの予測ですね」


「そんなにかかるの?」


「はい。

 しかし、監視の方は基本的にネズレム、モスキート、蒼空に任せられますので、我々はゆっくりと決戦の準備をしていればいいんじゃないですか」


「う~ん、たしかに、いきなりだったから、それもいいかも」

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