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箱の中身は?

 場所は工房にある東屋の近く、僕達の目の前には大小様々な古めかしい木箱が並んでいた。

 いわゆる宝箱とか言われるような箱である。

 さて、この宝箱がなんなのかというと、エルマさんに預けたカメ型ゴーレムであるラファがあちらの世界から持ち帰ったものである。

 今日、ラファがあちらの世界でどんな冒険をしてきたのか、向こうで撮影してきた映像をチェックしていたところ、ラファがそれなりの数の宝箱を回収してきたことが発覚。

 元春が子供みたいに回収してきた宝箱をみんなで開けたいと言い出したことで、マリィさんと魔王様もお誘いして、工房で宝箱の中身の確認をすることになったのだ。


「それで、どれから開けようか?」


「てか、こんなに数あんなら勝負にしねー?

 誰が一番スゲーお宝を引き当てるかってな感じでよ」


「面白そうですわね」


「……ん」


「お二人がそう仰るなら。

 しかし、その前に罠がないのかチェックしましょうか。

 ラファもその辺はきちんとチェックして回収してくれているとは思うんですけど」


「あ、そか」


 マジックバッグに取り込んだところで、ある程度の安全確認は済んでいるのだが、僕と元春だけならともかく、マリィさんと魔王様もやるとなるとしっかりとした安全確認が必要だと、アクアとオニキスにベル君を呼んできてもらったところで、宝箱のスキャンをしてもらうんだけど。

 特にトラップの類はなかったみたいだね。


 安全確認が終わったところで、みんなで宝箱を開けていくことになるのだが、

 宝箱そのもののチェックを終え、振り返ったそこには、いつになくワクワクした様子の魔王様が待っていて、


「魔王様から開けてみますか?」


「……いい?」


「ええ、構いませんの」


「真打ちは最後に登場するってな」


 僕の声に小首を傾げる魔王様。

 そんな魔王様を見て、マリィさんはもとより、元春も空気を読んでくれたみたいで、まずは魔王様に開ける宝箱を選んでもらったところ。


「……これ」


 魔王様が選んだ宝箱は、宝箱といって想像するような大きなものではなく、宝石箱のような手のひらサイズの箱だった。

 ちなみに、ラファが回収してきた宝箱は、いま魔王様が選んだような小さな宝石箱のようなものがほとんどのようで、ゲームなどに出てくる大きな宝箱は少数派みたいだ。


 さて、問題の魔王様が選んだ宝箱の中身なんだけど、中に入っていたのは地味なペンダント。

 見た目的にはそこまで高そうなものじゃないんだけど、丁寧な作りでしっかりしたものだった。


「これってふつうに当たりなんじゃね」


「見た目はシンプルなんだけどね」


 なにはともあれ鑑定を――と〈金龍の眼〉を通して宝箱から出てきたペンダントを見たところ、どうもこのペンダントには特別な力が宿っているらしく。


「この力は、魔王様もしかして――」


「……精霊の力」


「精霊、ということは聖剣とかそういうものですの!?」


 それが精霊の力だと聞いて聖剣を聖剣たらしめる条件を知るマリィさんが驚いたようにするんだけど。


「いえ、さすがにそこまでのものではないかと。

 どちらかというと、後付けで精霊の力が込められているといいますか――」


「……祝福?」


「そうですね。そんな感じだと思います」


 おそらく、もともとあったペンダントに精霊がなんらかの力を込めたものであると思われる。

 それは、このペンダントが精霊金などの魔法金属化していないことから見て間違いないだろう。


「どっちにしてもスゲーんじゃね。なんか特殊な能力とかあるん?」


「これを付けてると魔力の回復量が増えるみたいだよ」


 あくまで微妙にではあるのだが、例えば地球など魔素が薄い世界ならなかなかの効果なのではないのかと、そのペンダントの品評を軽くしてみたところで、次に誰が開けるかという話になるのだが。


「マリィちゃんが先でいいぜ。レディーファーストってヤツだ」


「そうですの……、

 では、(わたくし)はこちらの箱にしますの」


 また元春の変なこだわりに先を譲られ、微妙な表情のマリィさんが選んだのは魔王様とは少し違った横長の宝箱。

 その中に入っていたのは、ぐねぐねと揺れる炎をモチーフにしたような不思議な刀身を持つ片手剣だった。


「狙い通り、剣でしたわね」


「狙い通りってマリィちゃん。中に剣が入ってることがわかってたん?」


「当然ですの――、

 と、言いたいところですが、(わたくし)にわかっていたのは長物のなにかが入っているだろうということですわね」


 現実的に考えてみるとゲームに出てくるような宝箱に武器を入れるというのは難しい。

 宝箱そのものがマジックバッグだとしたら別であるが、マリィさんはその辺りを考慮して、僕達からすると若干の違和感を感じるこの横長の宝箱を選んだみたいだ。


「んで、この剣っていいもんなん?」


「形から察するに魔法剣ではありませんの?」


「そうですね。とりあえず鑑定してみます」


 ということで、〈金龍の眼〉を発動させてみると――、


「剣の名前は炎魔剣ヒプノナイル。

 刀身に魔力を通し、振ることで、空間に炎を設置できる魔法剣みたいですね」


「ん~と、それってどういう感じなん?」


「説明だけだとイマイチわからないよね。とりあえず僕が使ってみるから」


 どうせ後で試すことになるだろうと、僕が実験台になってその魔法剣を使用してみると――、

 どうもこの剣は、魔力を込めて振った剣の軌跡にあわせて、数秒間、その場で燃え続ける魔法の炎を生み出せるようで。


「設置型の魔法のようですわね」


「能力としてはベタだけど、属性が火だけに逆に使い難そうだな」


「でも、逃げる時とかに使うと便利なんじゃない?」


「ああ――」


 マリィさんはその効果をそのままに、元春は漫画なんかにあるような特殊能力で捉え、若干使い難いのではというのだが、何事にも使い方というものがあるものだ。

 まあ、僕の出したアイデアも、あくまでぱっと考えついた使い方の一つで、いろいろと試していけば他に面白い使い方もあると思うんだけど。


「しかし、宝箱から出たものとしては悪くはないのではなくて」


「そっすか?」


「いや、ふだんマリィさんが作る装備とかと比べると微妙かもしれないけど、魔法剣としては優秀な部類だと思うよ」


 そもそも万屋で作られる武具の性能が飛び抜けているのだ。

 だから、この魔法剣が、いつの時代、どこで作られたのかにもよるだろうけど。

 この魔法剣の出自である世界からやってきたエルマさんの装備を見る限り、その世界ではかなり上位に入る武器であることは間違いないんじゃないかなと、マリィさんがさりげなく睨みを効かせる中、元春にそんな説明をしたところで、


「次は元春の番だね」


「いや、まだ虎助が選んでないだろ」


 次は元春と――、

 そう思って声をかけたんだけど、そういえば元春は最後だったね。

 ということで、次は僕が宝箱を選ぶ番となるのだけど、宝箱はいろいろな大きさの物がある。

 値打ちものを引き当てると考えるとやっぱりお金とか宝石になるのかな?

 それを考えると魔王様と同じように小箱タイプのものを選ぶのが正解だと思うんだけど。

 正直、僕としては別に勝ちにこだわっていないし、特に罰ゲームがあるとかそういうのでもないから。

 うん、これがいいかな。


 僕が選んだのは宝箱と聞いてすぐに思い浮かぶような形のベーシックな宝箱。

 ただ、それは箱の下の方にフジツボがついたやや古めかしいもので、

 さて、そんな宝箱の中に入っていたものはというと。


「瓶?」


 魔獣の一部だろうか、緩衝材のようなスポンジ状の物体の上に数本の瓶が寝かされていた。

 とりあえず、瓶の形から魔法薬の類では無さそうなんだけど……。


「中身はなんだ?」


「待って、

 ええと、これは――、ワインみたいだね」


 つけっぱなしだった〈金龍の眼〉を使って鑑定したところ、どうやらその瓶の中身は赤ワインだったらしい。


「ここでワインが来るってか、ヤベーな」


「あの、たかがワインにどうして元春は悔しそうにしていますの?」


 僕の鑑定結果に唸るようなリアクションの元春。

 しかし、マリィさんからしてみると、たかがワインと、どうして元春がちょっと悔しそうなのかがわからないようなので、ここは僕がと説明に入る。


「僕達の世界だとこういうワインが高く取引されたりするんです」


 今回の場合、沈んでる船から見つかったものでもないということで、このワインがそれに当て嵌まるのかはわからないのだが、宝箱の状態からかなり古いビンテージワインには違いない。

 ただ、それはあくまで地球における価値観であって、


「古いワインが価値がありますの?」


「マリィちゃんトコはちげーの?」


「ですわね。

 というよりも、(わたくし)達の国では作られたワインはすぐに飲んでしまわれますわよ」


 これはあくまで王侯貴族の話ではなく、市政の話であると思うのだが、そもそもワインの生産量にも限りがあり、長期保存をした場合、その保管場所によっては酢になってしまう場合があるからと、マリィさんが暮らす地域ではすぐに飲んでしまうのが普通のことのようだ。


「そんで、結局このワインはどうなん?」


「鑑定で飲用可って鑑定で出てるけど、さすがに値段はわからないね。

 ブランドワインとかじゃなかったら、古くても価値がつくとは限らないから」


「そうなん?」


「作られてから、十年、二十年のワインならわからないでもないけど、それ以上ってなるとワインとしては微妙みたいだね」


 と、今しがた鑑定の片手間で調べた情報を語ってみたりする。

 それによると、ワインの味にはピークというものがあって、赤ワインなら十五年から三十年、白ワインなら十五年から二十五年くらいのものが美味しいのだそうだ。


「でもよ。それなら、オークションでなになにの何年モノってのはなんなん?

 あれ、スゲー高かったりすんじゃなかったっけか」


「そういうのは当たり年とかって言われるワインとか?

 美味しいって評判だから、ここぞって時に出すお酒として持っておきたいとかそういうのがあるんじゃないかな」


 後は投資目的っていうのもあるみたいだけど――と、情報を追加したところ、元春はそんな魔法窓(ウィンドウ)片手に僕が語った内容に「な~る」とニヤリ笑顔を作って。


「じゃあ、そいつは駄目ってことか?」


「さて、環境が環境だし年代判定も難しいんだよね。〈金龍の眼〉でもさすがに味の評価は難しいから、後でオーナー(ソニア)が暇な時にでも調べてもらって処分方法を決めるよ」


 その結果によっては、ディーネさんにお納めしたり、賢者様に譲ったりするなりすればいいと思う。

 ということで、このワインの価値は保留ということで、


「よっしゃ、最後は俺の番だな」


「別に宝箱はまだまだあるからそこまで気合を入れなくても」


 僕が落ち着くように言う中、元春が選んだのはラファが回収してきた中では一番大きな宝箱。

 昔話とかだと失敗のパターンだけど、その中身は何だったのかというと。


「なんだこりゃ。絨毯?」


「いや、これは魔獣の毛皮だね」


「魔獣の毛皮って、

 もしかして値打ちモンとか?」


「ちょっと待ってね。

 いろいろと種類があるみたいだから」


 その宝箱の中身は商品として運ばれていたものなのか、種類ごとに分けられて大量に入れられているみたいだった。

 ちなみに、この毛皮を入れていた箱の細工もあるとは思うけど、もともと魔力を多く有する魔獣の毛皮だけに、どれくらいあの場所に放置されていたのかはわからないけど、劣化の方も少ないようだ。

 そんな毛皮を一枚一枚調べていくと。


「ほとんどの毛皮はあんまり価値があるものじゃないみたいだね」


「マジか」


 まあ、その判断基準もあくまで万屋からするとだから、場所によってはそれなりの価値になるかもしれないけど。


「でも、一枚だけレアな毛皮があったね」


 そう言って、僕が広げて見せるのは、通常のイノシシよりもやや小さいかという茶色の毛皮。


「なんか普通の毛皮にしか見えねーけど」


 実際、その毛皮は元春がそう言いたくなるのもわからないでもないくらい平凡な見た目なんだけど。

 問題はその毛皮の見た目ではなく、この毛皮の主が備える特殊な能力だ。


「これはハーミットラビットっていうウサギの魔獣の毛皮なんだよ」


「ウサギ? この毛皮が、デカくね」


「そうですわね。ウサギにしては大きな毛皮ですわね」


「……おっきい」


 そこも驚くところなのかもしれないけど。


「まあ、ウサギにしては大きい毛皮なんですけど。価値があるのはこのウサギの能力の方で、実はこのハーミットラビットにはその名の通り、隠匿系の能力があったみたいで」


 どうもこのウサギらしからぬ大きな体を持つハーミットラビットは、ふつうのウサギと比べて逃げ足が遅いようで、その代わりにといってはなんだが、闇属性を主軸とした隠匿系の特殊能力が使えるらしいのだ。

 そして、その能力は毛皮そのものを媒体としたものらしく。


「おいおい、それってつまり――、

 くれ、虎助、この毛皮くれよ」


 さすが元春、すぐにこのハーミットラビットの毛皮の価値に気がついたみたいだ。

 目を血走らせながら迫ってくるけど。


「元春にはブラットデアがあるじゃない」


 元春のブラットデアには光学迷彩が搭載されている。

 そういう能力が欲しいなら、そっちを使えばいいじゃないかと、僕が指摘すると。


「いやいや、あんな燃費がワリー機能なんて使えっかよ。あっちだと五分ですっからかんだぞ」


 あえてそうしてるんだけどね。


「とりあえず、宝箱の中身をどうするのかは他の宝箱を見てからだね。

 あと、素材の整理もかな?」


「忘れんなよ」


 ちなみに、この後、宝箱の開封を続行したところ、成金趣味のアクセサリが大量に入った宝石箱やら、元春が好きそうな男性専用の魔法薬やらが見つかって、最終的にハーミットラビットの毛皮のことは、元春の中で忘却の彼方となってしまったみたいだ。

 うん、わざわざ僕が手を回さずとも忘れてくれるなんて、さすが元春である。

◆次回投稿は水曜日の予定です。

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