表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

473/849

蜜珠

 その日、僕が世界樹の袂にある農場でフレアさんから持ち込まれた虫型魔獣の解体をしていると、夕方になってお店にいたベル君にでも聞いたのだろうか、元春と正則君がやってきて、


「しっかし、毎度毎度、虫ばっか大量に買い取るけど、これって売り物になるん?」


「基本的に甲殻を加工して防具かな。

 素材そのものを加工するから修理は難しいんだけど、その分、値段は安くなるから、アヴァロン=エラに辿り着くまでに武器を壊しちゃったお客様なんかに結構人気なんだよ」


 こういう素材で作った防具は技術料はほとんど発生しない。

 なので、価格が抑えられ、主に緊急用の防具として人気があるのだ。


「それと、こっちは種類にもよるけど錬金素材や食材、肥料になるから」


 わざわざ世界樹の袂で解体をしているのは、いらない部分が肥料として使えるからである。

 あと、朝から来ていた魔王様がこっちに用事があったからって言うこともあるかな。


「肥料はともかく食材って、これ食えるのか?」


「食べようと思えはここにある半分くらいは食べられる素材だよ。

 というか、虫を食べるなんて今更でしょ」


 元春は嫌そうにちょうど僕が解体していた巨大な蜂型魔獣を見るのだが、昆虫食は母さん主催のキャンプで経験済みである。

 特にスズメバチは駆除も兼ねて相当な数、食べてきたから本当に今更なんだと思うけど……。


「サイズが違いすぎんだろ」


「スズメバチとかああいうのは一口で食べられるから食えると思うぞ」


 二人の言わんとすることもわからないでもないかな。

 たしかに、蜂なんかは一口サイズだからこそ食べられるってところはあるかもね。

 とはいえ、今回の食材の話に限っては、


万屋(ウチ)で需要のあるそういう食材はちょっと特殊なものだから」


 そう、食材といってもものはれっきとした商品だ。

 なので、なにもわざわざ見た目やらなんやらを我慢して食べるものをチョイスするのではなく、ちゃんと需要のある部分を抜き出して売りに出すってスタイルになるからと、僕が言うと、その言い方が気になったのだろう。「特殊?」と仲良く首を傾げる元春と正則君に「たとえばこれかな」と僕が見せるのは、ソフトボールサイズの大きな琥珀のような塊で、


「……綺麗」


 ちなみに、そんな琥珀色の物体をうっとりと見つめる魔王様が、今日この世界樹の袂にいる理由は、魔王様のところの地価農園では収穫できないタイプの野菜をこの世界樹農園で収穫する為だったりする。

 ただ、場所がアヴァロン=エラということで、その収穫もももの三十分ほでで終わり、その後は広い土地を利用してシュトラと、世界樹農園在住のマールさんやレファンさん達と弾幕ゲームを楽しんでいたのだが、蜜珠の甘い香りに誘われたのかな。

 とまあ、それはそれとして、僕が巨大蜂型魔獣の体内から取り出したこの琥珀のような塊なんだけど。


「これは蜂とか蝶とか蜜を集める習性のある魔獣の体内から取れる高級蜜珠なんですけど、魔王様は知りませんか?」


 以前、魔王様達は森に住みついた蜂の魔獣を退治したことがあったと思うんだけど、その時に見つからなかったのだろうか。その辺りが気になって魔王様に訊ねてみたところ。

 以前退治した蜂の魔獣は巣を煙で燻して、出てきたところをリドラさんのブレスで消し飛ばしてしまったみたいで、素材はまったく回収できなかったのだそうだ。

 成程、そういうことなら知らないのも無理はないか。


「で、これ、どうやって食うんだ?」


「普通にそのまま飴みたいに舐めるのが一般的かな。

 ほら、こうやって鉤爪を取っ手にして」


 と、僕が回収した蜜珠の欠片と鉤爪に浄化をかけ、それを指輪のように組み合わせると。


「それってなんか駄菓子屋で売ってる指輪のヤツみたいじゃね」


「ああ、あっちはちゃんとしたアクセサリーになってたけどね」


 懐かしいと僕達がそんな話をしていると、魔王様がその話に興味を抱いたようで「……それ、なに?」と聞いてくるので、


「こういう駄菓子があるんですよ」


 僕がエメラルドやルビーをイメージしたキャンディの映像を見せると、魔王様がそのキャンディーをパチパチと目を瞬かせて見ていたので「また今度買って来ますよ」と約束。


「けど、こういうのって誰が買ってくんだ?」


「基本的にアムクラブからのお客様だね。

 特に最近ちょくちょく店に来てくれる赤い薔薇っていう人達が、いろいろと買っていってくれるよ。

 美食家からの依頼を受けてるってこともあるみたいだけど、その人達自身も食べるのが趣味みたいで、珍しい食材を買っていってくれるんだよ」


 主力商品であるカレー粉を買いに来て、他にも珍しい食材があることが発覚。

 量産型のマジックバッグを購入した彼女たちが、珍しい食材を求めて既に何度かお店に来てくれているのだ。


「やっぱそういうヤツ等がいるんだな」


「趣味と実益を兼ねてというやつだね」


 と、あえて赤い薔薇が女性ばかりのパーティであることを隠して話している内に、蜂の魔獣の解体が完了。とりあえず、いま解体したものの中から商品になるものをまとめていこうとしたところ、見本として作った蜜珠の指輪を魔王様が物欲しげに見ていたので、


「食べてみますか?」


「……いいの?」


「構いませんよ。蜜珠は結構な在庫がありますから」


 蜂やら蟻やらと蜜珠が採取できる魔獣は集団で出ることが多く、先日マリィさんが探索した迷宮で倒した軍隊アリの女王からも大きな蜜珠が取れたばかりなのだ。

 それに蜜珠自体が糖分の塊だけあって保存も簡単なので在庫は沢山あるのだ。

 と、魔王様に蜜珠を渡す一方でそんな話をしていると、味見をしたかったのは魔王様だけではなかったみたいだ。


「そんなにいっぱいあんなら俺も一ついいか?」


「だったら俺も」


「構わないよ」


 魔王様に続いて、自分達も味見したいと元春と正則君も手を上げたので、僕はやや大きめの蜜珠のを綺麗に浄化した解体ナイフで食べやすいサイズにカット。

 先ほど、魔王様に渡した蜜樹と同じように、鉤爪を引っ掛けたものを渡したところ、二人はそれを赤ちゃんのように口に放り込み。


「あっま」


「つか、マオっちよく平気で食べれるな」


 蜜珠とは、その名の通り、集めた蜜を宝珠の形に凝縮したものである。

 ゆえに、その甘さはかなり濃厚で、

 甘ければ甘いほどいいなんて人もいるにはいるけど、元春と正則君には少々甘さが強かったみたいだ。


 しかし、この反応を見るに、魔王様はともかく二人が蜜珠を食べきるのは難しそうだな。

 と、あまりにも甘過ぎると、すぐに蜜珠を口から放してしまった二人に、僕は自前のマジックバッグから錬金釜を取り出すと、そのヨダレまみれの蜜珠を回収。

 浄化の魔法をかけると、まずは元春の蜜珠からと、それを指で砕きながら錬金釜の中に投入。

 続けて、ちょうど手元にあった世界樹の果実の果汁を絞り入れ。


「なんかスゲー豪華じゃね」


「こっちもこっちで余ってるからね」


 実際、世界樹の果実は毎日のように取れるもの。

 長期保存は可能だが、希少素材ということで値段も高く、扱いが難しいということで、

 ソニアが魔法薬や魔法金属の生成に利用しているくらいだから、ここで一個使ってもさして問題はないと遠慮なく錬金。

 作り出したジュースをちょうど手持ちにあった空のポーション瓶に注いで元春に渡したところ。


「うまっ」


 魔王様までもがそのジュースを飲みたくなったみたいで、しゃぶっていた蜜珠に浄化の魔法をかけて、そっと差し出してきたので、僕は先に準備をしていた正則君のジュースを錬成して、魔王様から受け取った蜜珠に送られてくる男子高校生二人分の視線を感じながらも魔法様のジュースも作製。

 二人に手渡すと。


「……美味し」


「なんか効果がありそうなドリンクだな」


「錬金術で作ったものだからね」


 さすがは正則君、アスリートだけあってそういうことには敏感だね。


「ちなみに、それってどんな効果なん」


「そんなに大したものじゃないよ。

 僕の腕じゃ、世界樹の果実の力を引き出すのは無理だから、ちょっと体の調子をよくするような効果しかないかな。

 漢方系の栄養ドリンクをパワーアップさせた感じゃない」


「そんなもんなん」


「本格的に魔法薬として加工するならまだしも、単純に錬金合成しただけだから、大した効果にはならなかったんだよ」


 もともと蜂蜜だのなんだのにはそういう効果があるというからね。


「しかし、適当に作ってこれなら、本気で作ったらどんな感じになるん?」


「そうだね。これをオーナー(ソニア)が作ったら一ヶ月くらい不眠不休で動けるくらいの薬になるんじゃない」


「いや、怖ぇから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↓↓↓クリックしていただけるとありがたいです↓↓↓ 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ