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サウナと水着

「なにを破廉恥なことをと思いましたがそういうことでしたのね」


 場所は万屋の店内、プスプスと焦げくさい臭いをを放ち倒れる元春を足元に、ホッと胸を撫で下ろしているのはマリィさんだ。


 さて、なにがどうしてこうなったのかというと、水の精霊の住居に関する会話の流れから、魔王様の拠点に新しく入浴施設を作る話が持ち上がり、その中で元春の提案から、サウナを作るかどうかという話に発展したところで、魔王様がサウナがどういうものかがわからないということが判明。

 だったら一度、体験してみたらどうかということになり、手軽にサウナテントを作って試そうという話になったのだが、ここで一応、元春にも理性というものが存在していたようだ。

 魔王様と一緒にサウナに入るなら水着が必要だと、だったらどんな水着がいいのかと――、

 まあ、こちらに関して元春はあまり理性的じゃなかったかな。

 とにかく、これこれの水着がなんだと毎度の如く、元春が過剰なこだわりをもってして熱弁を奮っていたところ。

 そこにタイミング悪くでいいのかな。マリィさんがご来店して、テンション高く際どい水着を魔王様にプレゼンする元春の姿を目撃した途端、すんと瞳のハイライトを消して無言で火弾の連打を浴びせたというのがここまでの流れである。


 というわけで、そんな茶番はあったものの、被害者は元春だけだったということで、特に問題なくマリィさんの興味はサウナそのものに移り。


「しかし、サウナ風呂ですの。それは(わたくし)も少々興味がありますわね」


「あれ、マリィさんのところにはサウナはないんですか」


 たしか、サウナの発祥はかなり古いらしく、千年以上の前の話だという話だったハズだから、マリィさんの世界にもありそうなものだけど。


「サウナ自体はあると聞いていますの。

 ですが、(わたくし)の身の回りにはありませんでしたわね」


 なんでも、マリィさんの国でも、一部地方にはサウナが存在するのだそうなのだが、マリィさん暮らしていた王宮内にはそういう施設はなかったらしく。

 ただ、マリィさんのお父さんはサウナに入ったことがあるそうで、そんなお父さんの話を聞いていたマリィさんはいつかは自分もと、そう思っていたのだそうなのだが、後にルデロックが起こした政変によってマリィさんは長年に渡り軟禁状態に置かれてしまい、ついぞその機会が得られなかったのだそうだ。


 しかし、そういうことなら――、


「では、マリィさんもサウナを試すということでよろしいですか」


「そうですわね。元春の思惑に乗るのは尺ではありますが、お父様の勧めもありましたし、マオと一緒ならば断る理由がありませんの」


 ということで、マリィさんもサウナを体験することに。

 ちなみに、それを聞いて「だらっしゃー」と元春が復活したのは言うまでもないだろう。


 さて、そんなこんなで話は戻り、マリィさんと魔王様がサウナで使う水着を選ぶことになるんだけど。


「俺のオススメはこれっすね」


 ここで元春が音符が飛びそうな声のトーンで見せてきたのは意外にも普通のビキニ。

 僕はそんな元春オススメの水着を見て、『これならと特に問題はないかな』と、そう判断したんだけど。


「こ、これでは、ただの下着ではありませんの――」


 マリィさんのジャッジではこのビキニもアウト判定になるようだ。

 超速の魔弾が元春の額にヒットして炸裂、元春の体が空中で空中で錐揉み状態になってしまうのだが、元春はそんな状態の自分の体を猫のように――っていうのは言い過ぎだね。

 なんていうか、空中で強引に体勢を立て直して、倒れることなく立ち上がると、ややフラつきながらも手を前に出し。


「ちょ、俺等ん世界じゃ普通なんですって――、なあ、虎助」


「本当ですの?」


 元春に促され、ジトッと疑わしげな目線を向けてくるマリィさん。

 僕はマリィさんの火弾を受けても倒れることなく立ち直った元春に、『実績のおかげもあると思うけどタフになったなあ』と感心しながらも、ただ元春の言ってることも別に間違いではないと。


「そうですね。このくらいのビキニなら普通に着ている人が多いですね」


「それに大胆なのなら、こういうのがあるっすよ」


 元春が僕の尻馬に乗るように見せるのは俗にマイクロビキニなんて呼ばれる水着だ。

 そして、それを見せられたマリィさんは、ゆでダコのように真っ赤な顔になって。


「ここここ、こんな服を人前で着るワケないでしょう」


 そう叫ぶのだが、それに対して元春が軽く指を振り。


「チッチッチ、マリィちゃん甘いな。俺等の世界じゃこんな水着でも着る人がいるんすよ」


 いや、『こんな水着でも』って、それは言い過ぎなんじゃ――と思わないでもないんだけど。


「常識かどうかはあえて言いませんが、着ている人はいるみたいですよ」


 ふたたび確認と疑いの眼差しを向けてくるマリィさんに、僕が軽く笑みを浮かべながらも、日本でこのビキニを着るのはグラビア関係のお仕事の人くらいだろうけど、海外のビーチなんかでは普通に見かけるものだと前に聞いたことがあると証言すると、元春がここがチャンスだとばかりに僕の証言に続けて、


「それにサウナに入るんスよ。あんまり布面積が大きいと鬱陶しいことになるんじゃないんすか」


「そ、そういうものですの」


 ええと、それはどうなんだろう。

 ふつう女の人はサウナでバスタオルなんかを巻いて入るというイメージがあるから、別にワンピースの水着でも問題なさそうな気もするんだけれど、男の僕達からすると確かに鬱陶しいかもしれない。

 と、僕の考えがそこまで及んだところで、マリィさんがそんな僕の考えを読み取ったのか『ムゥ』と難しい顔をしながらも「わかりました」と頷いて、元春が「よっしゃ」とふたたびのガッツポーズ。

 しかし、元春の狙いはここで終わりではなかったようだ。


「せっかくですからトワさん達の水着も選んじゃったらどうっすか」


「トワ達の水着も選ぶ? それはどうしてですの」


 マリィさんの言う通り、ここでどうしてトワさんの水着を選ぶという発想が出てくるのかな。

 頭の上にクエスチョンマークを浮かべる僕とマリィさんに元春は――、


「いや、マリィちゃんだけがサウナを体験してもらっても、その良さは理解してくれないっしょ。やっぱりみんなにもってなるっしょ。

 ってなると、他のメイドさん達にも水着をって思うのは当然だと思うんすけど」


 パッと聞くとそれは間違ってない主張のように聞こえるけど――、


「後で試してもらうなら、別にいまエレイン君に作ってもらってるサウナテントを持っていってもらってもいいんじゃない」


 ガルダシア城は住人は女性ばかりである。

 だから、サウナテントをガルダシア城に持っていって使えば、他の人の目を気にする必要はないのでは――と僕がそう指摘したところ、元春はすかさず。


「でもよ。それでもメイドさん達がタオル姿で場内をうろつくのははしたないってヤツなんじゃねーの」


 どの口がそれを言うのかな。


「それに、初心者だけでサウナっていうのも心配だろ。そうすっと、こっちでやってもらった方がいいだろうし、だったら水着は必須じゃねーのか」


 たしかに、そう言われるとそうかもしれないけど……。


「ま、取り敢えずトワさん達の水着は後でじっくり選ぶとして、まずは二人の水着だろ」


「そうですわね」


 と、ここであえて引き下がる元春。

 僕はそんな元春の不自然な動きに、『これは後でガッツリ水着の選定に関わる気だな――』と、その魂胆を見抜きながらも。

 ただ、これ以上、ここで追求したとしてものらりくらりと躱されるだけだと、この問題を先送りにして――、

 そうこうしている間にも魔王様が元春が用意した水着のサンプルを静かに吟味していたみたいだ。


「……これがいい」


 魔王様が選んだのは白を基調としたモノトーン柄のフリル付きビキニ。

 うん。この水着なら魔王様の褐色の肌にも映えそうだ。

 そして、魔王様が決めてしまえば『自分も選ばなければ――』と、意外と気遣いなところがあるマリィさんは急かされているように思ったのかもしれない。

 魔王様から遅れること少々――、


(わたくし)はこちらのものにしますわ」


 意外と手早くマリィさんが選んだ水着は、なんていうかボディコンとかそういうイメージになるのかな。金色のモノキニタイプの水着だった。

 成程、これならビキニほど露出度は高くないけど、サウナでもさっぱり着れそうな水着になりそうだ。

 ただ、着る人を選びそうな水着なんだけど、それもマリィさんならっ似合いそうな水着で――、

 それぞれにサウナで着る水着を選んだら後はエレイン君達の仕事だ。


「よっしゃ虎助。二人の水着をさっさと作ってサウナに入ろうぜ」


「わかったよ」


 妙に張り切る元春。

 とはいえ、元春が一緒にサウナに入れるかというと、それはお二人の了承次第なんだけど。

 とまあ、それはともかくとして、僕と元春はマリィさんが水着を選んでいる間に完成したサウナテントの設置をするべく工房に向かい。

 その一方で、マリィさんと魔王様にはエレイン君達が作る水着のチェックと着替えをしてもらって、僕達のお二人の準備が整うまでにと手早くテントを設営。

 テント内部に設置したストーブで薪を()べ、その上にサウナストーンを並べたところで、マリィさんと魔王様の水着が完成、着替えも終わったみたいだ。


「お待たせしましたの」


「……ん、大丈夫?」


「似合っておられますよ」


 水着に着替えた二人がサウナテントを設置した東屋に小走りでやってきて、

 ちなみにこの時、元春は、主にマリィさんが手を振りながら走ってくる姿に、立ち姿からゆっくりと跪くようなポーズに移行。

 デデンデンデデンと未来から来た殺人アンドロイドのようなポーズで固まってしまった。


 まあ、僕も男だから、元春がそんな風になってしまう気持ちもわからないではないのだが、さすがにそれは反応が良すぎなんじゃないかな。

 と、元春の思春期中学生を思わせる敏感な反応に、僕は若干呆れるような視線を向けながらアクアを召喚。


「いま準備をしますから、まずお二人にはお茶を飲んでいてください」


 サウナは入る前に水分補給をするのが当たり前、

 アクアにサウナストーンにかける水を用意してもらいながらも、お二人に麦茶を用意する。

 本来なら、ここで綺麗な汗をかけるようにと体を洗ってもらうのだが、ここは手軽に浄化で済ませてもらうと、ここでマリィさんが、


「あの、虎助、アクアはなにをしているのです」


「水風呂ですよ。サウナに入った後に浸かるんです」


「水風呂ですの?

 それにはどのような意味がありますの」


「えと、僕もそこまで詳しいワケじゃないんですけど、たしか――、体を温めてから冷やすことによって血管の収縮させることで、血液循環を促して新陳代謝などを促す効果があったと思います」


 あと、自律神経の調整とかそういう効果もあったかな。

 ただ、あまりやり過ぎるとヒートショックなどを引き起こしてしまうから、そこのところは気をつけないといけないけどと、二人にサウナの使用に関する注意点を話をしながらも、サウナの温度湿度がいい感じに上がってきたので二人にサウナの中に入ってもらう。


「これは――」


「……モワっとする」


「この中で汗をかいて、外で体を冷やすんです」


「成程――」


 はじめてのサウナにやや戸惑い気味の二人。

 しかし、そこは慣れてもらうしかないということで、それぞれテント内の好きな場所に座ってもらったところで、お二人は今日サウナ初体験だからと、ここまま五分、サウナテントの中に留まってもらうことになるんだけど。


「虎助、どれくらい経ちましたの?」


 マリィさんは高地で暮らしている所為か、どうも暑さというものが苦手なようだ。

 炎の熱には強いのにサウナの熱には耐えられないっていうのはちょっと違和感を感じてしまうけど、その辺は湿度とかが関係しているのかもしれない。

 対象が湿度ともなると水属性とかにも関係ありそうだからね。


「まだ入って一分くらいですね。もう少し我慢してみましょうか」


「わかりましたの」


 ちなみに、そんなマリィさんの一方で頭にシュトラを乗せた魔王様は意外と平気みたいだ。

 単に顔に出てないだけかもしれないけれど――、

 というか、クロマルは遠慮したみたいなのに、シュトラはサウナに入って大丈夫なのだろうか――、

 とにかく、二人ともきっちり五分サウナテントの中に入ってもらったところで、


「時間です」


 僕の合図でゾンビのようにテントの外へ出ていくマリィさんと魔王様。

 この時、念の為、子猫――もとい子虎であるシュトラの体調を確かめてみたのだが、シュトラは根本が精霊である為か、普通に平気そうだった。


「アクア。温かいシャワーをお願い」


 アクアに頼んで二人にシャワーを浴びせてもらったところでメインディッシュ。


「水風呂に入ります」


「冷たい。本当にこれに入りますの?」


「そういうものですから、

 とりあえず胸に水をかけて心臓がビックリしないようにしてからの方がいいかもしれません」


 みんな若いし心臓発作とかはないと思うんだけど一応ね。

 そして、まずは僕が、続いて魔王様が、そして、少ししてからマリィさんが思い切った様子で、アクアが用意してくれたキューブ状の冷たい水の中にそのダイナマイトボディを沈め。


「あら、思い切って入ってみると意外と――」


「……気持ちいい」


 体が熱を持っていることもあって、

 ただ、あまり長く入っていると体が冷えてしまうので、一分くらい経ったところで二人に出てもらうと、東屋の下でしばらく休憩。


「あ、麦茶がありますから飲んでくださいね」


「ありがとうございます」


「……ありがと」


 軽く水分補給をしたところで二度三度とサウナに入って水風呂に入るというサイクルをゆっくりと繰り返し。


「どうですか?」


「悪くありませんわね」


「……すっきりする感じ」


「そうですか、でも、あまりやりすぎても体に負担ですから、そこのところは気をつけてくださいね」


「……ん」


「これは一度、トワ達にも指導を受けてもらった方がよさそうですわね」


「そうですね。では、それまでに資料でも用意しておきます」


「お願いしますの」


 ちなみに、元春は最後まで例のポーズで固まったままだった。

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