久しぶりの日常とネタ武器
龍の谷でのあれこれにも一応の決着がつき、魔王様にもようやく平穏が戻ってきたみたいだ。
まあ、リドラさんはシャイザークのことを含めて、龍の谷の後始末やら、ヴェラさんへの対応などが残っていて、まだまだお忙しいとのことであるが……。
ちなみに、シャイザークの亡骸はリドラさんを介して万屋で調べることになった。
騒動の後、どうにか知り合いの龍を見つけたリドラさんが、シャイザークの正体や、ここに至るまでの経緯を、その知龍を通じて龍の谷のドラゴン達に明かしたところ、龍達としてはそういう生物がいるのなら調べて欲しいと、快くシャイザークが入っていた黄龍の遺骸を渡してくれたみたいだ。
そして、リドラさんが集めてくれた情報によると、どうもこの黄龍は、もともと龍の谷から北の国で恐れられていた暴れ龍だったそうで、その実績を武器に龍の谷に乗り込んできて谷の支配を目論み、数匹のドラゴンとの決闘。その果てに、幾人かの子分を従えるようになったところで転生龍帝を名乗るようになったのだという。
おそらく、そのいくつかの決闘の間に、その黄龍がシャイザークに体を乗っ取られたのではないかというのが、僕も含めた大方の見方である。
あと、シャイザークが例の氷晶洞窟に集めていた龍の亡骸なんだけど、あれはシャイザークが予備の体としてストックしていたものだということが判明した。
というのも、そこに収められたドラゴンの首には未だ発動状態の血龍印がつけられていたからだ。
リドラさんとの戦いでは、あの洞窟まで逃げ込むことができず、あのような結末を迎えてしまったが、もしあの戦いが例のショーウィンドウのような洞窟の近くで行われていたら、結構厄介な事になっていたんじゃないかな。
とまあ、現地のリドラさんはいろいろと忙しそうに飛び回っているそうなんだけど、魔王様はすっかりまったりモードで、朝からずっとゲームを楽しんでいる。
とはいえ、魔王様のところには、ある意味で普遍的なエルフの問題に加えて、もう一つ、ボロトス帝国の問題が残ってはいるので、本当の意味でのまったりには、まだ少し時間がかかりそうなのだが……、
ちなみに、そのボロトス帝国の問題は、帝国側がすでに精霊水を一定量手に入れたことで、周辺での活動はひとまず鳴りを潜め、いまはただ監視しているだけの状態で、
後のことは、いざティターンが動き出す段になってから、その対応を決めるとのことである。
しかし、ティターンの復活に至る過程で魔王様の拠点や多くの精霊、そして獣人戦奴のヤンさんを始めとした各人がこうむった被害を考えると、積極的な反撃に打って出てもいいと思うのだが、そこは拠点の平穏を考えて、ティターンを壊すなら出来れば自分達の関係のないところで派手に壊した方がいいと、爆破は当面先送りとなっている。
ということで、魔王様の仕事は今のところなになく、こうして、いつものようにゲームをして過ごしていたのだが、
お昼過ぎになって光の柱が立ち上り、また騒がしい友人がやってきたみたいだ。
「うーっす。土産持ってきたぜ」
「いらっしゃい。
っていうか、お土産って、午前中どっかに行ってきたの?」
特にこれといった予定は聞いてないけど、また友人達とまたどこかナンパにでも行ったのかな。
そう思って聞いてみたんだけど、どうも違うみたいだ。
「いや、この前行った田舎の土産、渡すのを忘れててな」
と、元春から渡されたお土産は牛肉の味噌漬けみたいだ。
しかも、その味噌漬けに使われている牛肉が、またブランド牛として有名なお肉だそうで、
「これ、高かったんじゃない」
「世話になってるから奮発したんだとよ」
なんでも、ふだんから魔獣の肉をおすそ分けしてくれているからと、元春のお母さんである千代さんがこのお土産を選んでくれたのだそうだ。
正直、こちらとしては有り余っている肉をただ押し付けているだけなので、『わざわざ、こんな高級なものをいただかなくても――』と遠慮したいところなんだけど……、
元春が言うには、千代さんが万屋から出しているお肉を食べるようになって、お肌の調子がよくなったと感謝しているとのことなので、
うん、ここは遠慮なく受け取るしかないかな。
ただ、そういうことなら、またお返しにお肉を用意しようと脳内にメモ書きをしておくとして、
改めて受け取ったお土産をチェック。
すると、受け取った味噌漬け肉は、真空パックになっていてかなり日持ちもするみたいなので、これはまた常連のお客様が多い日の夕食に出そうということで、そのまま冷蔵庫の中にしまい、そのついでに元春によく冷えた麦茶を出し、魔王様にもおかわりを用意をしたところで、
「しっかし、昨日のバトルはすごかったよな。リアル弾幕ゲーって感じ」
元春がうっとり語るのは、きのう龍の谷で戦ったシャイザークと戦ったリドラさんの空中戦。
と、この昨日の戦いの余波というのは元春のみならず、魔王様も多少なりとも受けたみたいで、それは現在プレイしている名作飛行機ゲームからもそれが見て取れる。
「つかよ。あの鎧の推進装置みたいなの、俺のにもつけられたりしねーのか」
「それはちょっと難しいかな。リドラさんのあれは龍のブレスを利用したものだから」
リドラさんの鎧のジェットは、口元に取り付けられたパーツにブレスを注ぎ込むことによって推進力を得られるという仕組みになっている。
例えば高火力の魔法を推進力として背面から排出する機能をつけてやれば、似たようなことが出来なくはないんだけど、元春自身がそのダッシュに耐えられないと思うのだ。
あと、高出力の魔法を元春が操れるのかという問題があって、
そんな問題を元春にもわかりやすいように説明したところ、「たしかに、そりゃ難しいわな」と、鎧に関しては諦めてくれたみたいだけど。
「じゃあ、ビット剣とかは?
ああいうネタ武器とか作れねーのか」
「ネタ武器って、元春にはもう如意棒っていう立派な武器があるじゃない」
ネタ武器といえば、元春の如意棒なんてまさしくそれだと思う。
「でも、あれ意外と使い辛いんだよな。
ブラットデアがツエーから、普通に殴った方が早いし」
たしかに、実際に作ってみたのはいいものの、意外と如意棒の出番は少なかったりする。
その原因は、そもそも元春が積極的に魔獣やらディストピアに入らないっていうこともあるけど。
元春のバトルスタイルが基本、ブラットデアの性能にあかせたヒットアンドアウェイが殆どで、わざわざ如意棒を使うなら、殴って済ませるというシーンがことさら多かったりするからという原因もあったりするからだ。
しかし、それならそれでやりようはあって――、
「だったら如意棒をそのビットみたいにすればいいじゃない。フォールンシンボルであと付けパーツみたいなのを作ってやれば簡単に出来ると思うし」
元春の言うビットのような兵装なら、如意棒をそういう風に改造してしまえばいいじゃないかと提案してみるのだが、元春としてそれはご不満なようで、
「え~、それって微妙じゃね」
「そうかな」
元春が嫌がるほど悪くはないと思うんだけど。
いや、握る場所が限定される剣とかならまだしも、一見するとただの棒である如意棒を自分の周りに浮かせると、接近戦の時に奪われるという心配があるのか。
「けど、武器とか浮かんでるのとか強キャラ感はあるよな」
ゲームとかでも、そのキャラの周りに武器が浮かんでいる演出などがあると強そうに見えたりする。
というか、そういう演出でいうと、魔王様のクロマルにもそういうのがなかったっけと、魔王様に確認してみたところ、魔王様はゲームを一時中断、スルッとクロマルにもたれかかったままこっちに近づいてきて、
「……こういうの?」
展開するのはクロマルの演出機能の一つ、『千剣』と名付けられた魔法の演出。
どこぞの隊長さんのように魔王様の周りに無数の剣が浮かばせる演出を見せてくれる。
「お、おお――、これこれ、こういうのいいんだよ」
そう言われてもね。
これをそのまま実際の武器として再現するのは結構なお金が必要だと思うけど。
と、元春はそんな僕のイマイチな反応を見てか、魔王様を巻き込む作戦に出たようだ。
「ほれ、マオっちもこういうの欲しくね」
「……ん」
「えっ、魔王様も新しく装備が欲しいんですか」
「……気になる」
魔王様が武器開発に興味を示すなんて珍しい。
便利なマジックアイテムの類なら、興味を抱くのもわからないではないんだが、魔王様が人を害する武器を気にするなんて――、
と、もしかすると、これをティターンなどの対策になんてことも考えているのかな。
「なら、少し考えてみますか」
元春だけだったら断っていた話だが、『魔王様まで興味があるなら仕方がないけど――』と、重い腰を上げる僕に元春が言うのは、
「装備が壊れるようなのがいいんじゃね」
たしかに、それならティターン対策にも使えるだろうし、魔王様にぴったりだね。
しかし、それが元春の装備となると。
「元春、なにかいやらしいこと考えてない」
「あったりまえだろ」
まさかの開き直りですか。
「でもよ。マオっちとかが使うならそっちの方がいいだろ」
「……ん」
納得いかないが間違っていない。
魔王様もそれは同意しているようなので強くは言えないか。
「仕方ないね。
なら、そういう方向で考えようか」
「おっしゃ、さすこす――」
いや、さすこすって――、
「じゃ、マリィちゃんが来る前に作っちまおうぜ」
まあ、マリィさんにバレたら、また後で何をされるのか分からないけど。
そもそも僕は『そういう方向性』といっただけで別に元春の希望通りのものを作るとはいってないしね。
ちなみに、マリィさんが本日まだ顔を出していないのは、先日、建設中のトンネルが人が通れるレベルにまで出来上がった為、その視察に行っているからである。
天井から作っているから落盤もまずないからと、このタイミングでの視察となったみたいだ。
そうはいっても実際は、入り口から少し入って、トンネルがどんな出来なのかを見るくらいみたいなんだけど……。
あと、入り口の付近に管理棟と宿泊施設を作らないといけないそうなので、その測量もあるっていってたかな。
というワケで、『鬼の居ぬ間に――』というわけではないのだが、元春としてはマリィさんがいないこのチャンスにと、新しい装備を作りたいみたいなんだけど。
「操る武器があれだけの量になると制御がかなり難しくなりそうだね」
「そうなん?
リドラさんはかなり自由自在に操ってたような感じだったじゃんか」
「リドラさんの場合、もともとあの剣をどう使うのかが決まってて、抜刀した状態で設定した相手に勝手に飛んでいくようにプログラムしてたから」
あの剣は、相手を血龍印が刻まれた龍に限定、血龍印を的に飛んでいくようにセットされていたから、操るのはそんなに難しくなかったんだよね。
「それに、僕達も途中からやってたけど、いくつかの剣は妖精飛行隊のみなさんが操ってたんだよね」
「ふ~ん。
でも、五・六本くらいならなんとかなるんじゃね」
「相手を限定してないことを考えると、思考操作が難しくなると思うけど。
とりあえず試作品のようなものを作って、それで確かめようか」
と、工房にいるエレイン君に用意してもらったのは――、
「って、これ訓練で使うゴム製の武器じゃねーかよ」
それはバリアブルシステムを利用した訓練の時などに使う、強化ゴム製の各種武器。
ただ、あえてそれを用意したのには理由があって。
「試しになんだから有物で作らないと――、
それにこれならいろんな武器を用意する手間が省けるからね」
ちなみに、この武器群の中にも、さすがに魔王様のリクエストであるクロマルに似たようなものはなかったので、新しくクロマルとほぼ成分が同じ、小さなジェルボールのようなものを用意してみた。
「んで、これってどうやって動かすん」
「それなら、エレイン君達に頼んでフォールンシンボルのアクセサリを用意してもらったから、それを武器に取り付けてもらえれば操れるよ」
そう言いながらも僕が二人にパスする魔法窓には、以前、原付バイクを浮かす時にも使った、フォールンシンボルの飛行能力を制御する魔法アプリが待機状態になっていて、
「では、これで制御できるか見てみましょうか」
「……ん」
「おうっ」
魔王様には量産したクロマルもどきを、元春にはいくつかの武器を同時に動かしてもらったところ。
「やべぇ、全然ダメだ。二個が限界」
元春は浮かせている分には問題ないのだが、それを使って攻撃となると、やっぱりうまく操れないみたいで、
それに比べて魔王様はというと。
「マオっちスゲーな。コツとかあんのかよ」
元春の問いかけに小首を傾げる魔王様。
そして、少し考えてから口にしたアドバイスは――、
「……ゲームみたいにやる」
ザ・シンプル。
ただ、それはあながち間違いでもなく。
「もともとの魔法アプリがゲームなんかの操作方法を参考に作ってるからね」
「いや、お前、簡単に言うけど、ゲームとリアルは違げーんだって」
たしかに操作方法は同じといっても、こっちはほとんどが思考操作になってるからね。
「でも、それで操れないなら、制御対象をあんまり増やしても意味がないから、少なくとも数は減らした方がいいと思うよ」
使えないならむしろ如意棒と一緒で使わないってことになっちゃうからね。
「それに武器も一つ一つがそれなりにするからね。
とりあえず、如意棒を浮かせられるようにして練習して、数を増やしてく方がいいんじゃない」
「チッ、しゃーねーな。
でも、如意棒がうまく使えるようになったら他のも頼むぜ」
「はいはい」
まあ、その頃にはマリィさんに企みが知られてどうなっているかわからないけど。
僕はそんなことを心の中で呟きながらも元春から如意棒を受け取るのだった。




