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リドラvsシャイザーク

◆本年、最後の投稿になります。

 みなさま、良いお年を――、

 リドラさんがアヴァロン=エラおよび精霊の森から飛び立って三日が経った。

 リドラさんは鎧に仕込まれたマジックバッグの中の元気薬を飲み続けながら不眠不休で飛び続け、昨夜の内に、龍の谷を望む魔の森に到着していたらしい。

 ちなみに、移動の際に通り道となってしまった各国では甲冑を纏った黒龍が恐ろしいスピードで駆け抜けたことで、天変地異の前触れか、それとも龍種による集団が世界征服に動き出したのか――などと、様々な噂が飛び交っていたりするらしいのだが、それはそれぞれの国で解決してもらうとして、

 本日、ついにリドラさんが龍の谷へアタックすることになったのだが、


『虎助様、そちらにも映像は届いていますか』


「はい。大丈夫です」


 通信の向こう、そう確認してくるのはリィリィさんだ。

 今回は作戦本部を魔王様の拠点において、僕達は万屋からのサポートになっている。

 ちなみに、現地の状況はあらかじめリドラさんの鎧に仕込んでおいたカメラと、龍種達の採血をしながら谷の各所に設置したモスキートからの映像などで把握できている。


『では、マオ様。お願いいたします』


『……ん、リドラ。準備はいい』


『はい』


『……頑張って』


『承りました』


 魔王様の応援を受けて、仮宿である魔の森の中の小さな洞窟から飛び立つリドラさん。

 そして、洞窟上空でのホバリング。

 そこからのブレスによる瞬発、翼に装備した鎧の噴射口から吹き出した幾筋ものブレスの推進力で、あっという間に龍の谷の入口に辿り着き、門番の二龍が唖然とした顔をする中、龍の谷へ突入。

 谷のドラゴン達を睥睨しながら谷の奥深くまで一気に入り込んだところで――、


『シャイザァクゥゥゥゥゥゥゥゥウウッッッッ!!!!』


 わざわざ探すのも面倒だとばかりに、目的の人物(?)の名を叫ぶリドラさん。

 と、この行動はふだん寡黙なリドラさんっぽくない行動なのだが、ドラゴンとしては正しいのかな。

 そして、谷に響き渡った(リドラさん)咆哮(シャウト)によって――あと、目の前を物凄い速度で通り抜けられたということもあったのかもしれない――、程なくして隊列を作ったドラゴンの集団が、陸に空と、谷の入口方向から現れ。


「おおう、スゲー数のドラゴンだな」


「ですわね」


 その数、およそ五十。

 数だけを聞くと少ないようにも思えるが、狭い谷の中、小型のワイバーンなどではない、ドラゴンらしいドラゴンがこれだけの数集まると、なかなかに壮観な光景である。


「それでシャイザークはどこにいますの?」


『……いた。後ろの方』


 囁くような魔王様の声と共に送られてきた魔法窓(ウィンドウ)を見ると、龍の群れの最後尾、高みの見物を気取る艷やかな黄色い鱗を持ったドラゴンが一匹。


「リドラさん」


『わかっております』


 僕からの呼びかけに、羽ばたき一つでそのドラゴンの群れに突っ込むリドラさん。

 そして、龍種が持つ膨大な魔力を乗せた〈《ドラゴンボイス》〉と、鎧に仕込んであったビット剣を空中に飛ばして、周囲のドラゴンを威嚇。

 強引にシャイザークまでの道を開いて、その目の前まで飛んでいくと。


『貴様がシャイザークだな』


『まさかお前の方から来てくれるとは思わなかったぞ。黒龍リンドラーナ』


 リンドラーナっていうのはリドラさんの本名かな。


『む、貴様、なぜ我のことを知っているのだ』


『ああ、そういうことか。

 そうだな、黒龍リンドラーナ。

 お前にとって俺は塵芥に過ぎないか』


 なにか因縁がありそうな口ぶりのシャイザーク。

 しかし、リドラさんには心当たりが無いらしく。


『俺はお前に追い返された』


『追い返されただと?

 いや、しかし、貴様の正体を考えると――』


『俺の正体だと?』


 リドラさんの口から漏れ出たそのワードに敏感に反応するシャイザーク。

 そして、あからさまな威嚇の波動を出しながら。


『黒龍リンドラーナ。お前は何を知っている?』


『何をか――、そうだな、貴様の正体が蛇りゅ――』


『死ね』


 なんていうか短絡的?

 普通、こういう会話っていうのはもっと長々とするものだと思うんだけど。

 自分から質問していったシャイザークが、リドラさんの口から核心に迫る言葉が出ようとしたその瞬間、それ以上は喋らせまいと素早く雷球のようなブレスを放ったのだ。

 まあ、この行動は、周りに仲間がいる状況で、自分が蛇竜じゃないかと言われるのを嫌っていうことなんだろうけど、それにしたってこれはあからさまなんじゃないかな。

 これじゃ完全に自白しているようなものである。

 と、このシャイザークのあまりに軽率な行動に、僕はともかく、マリィさんや元春がちょっと唖然としてしまったみたいだが、現場のリドラさんは冷静で、


『ふむ、ブレスまで放つことができるのか』


 至近距離でブレスを喰らったのにも関わらず、まるで無傷なリドラさん。


『お前、どうして――』


 かたや、シャイザークは驚愕そのものといった様子なのだが、


『これは我が主から送られた鎧ぞ。貴様ごときのブレスで打ち破れるものか』


『チッ、ならば噛み殺すのみ。

 お前達、ヤツの動きを止めろ』


 ブレスが効かないのなら牙がある。

 鎧姿のリドラさんを忌々しげに睨み、叫ぶシャイザーク。

 しかし、いましがたあったやり取りで、勘のいいドラゴンはなにか思うところがあったのかもしれない。一部ドラゴンの動きが鈍くなっているのだが、それでも例の血龍印の効果なのか、シャイザークがもう一度、突撃を命じると、ドラゴン達は動き出し。


「つか、あんだけ偉そうなこと言っといて、ソッコーで後ろに下がるとか、アイツやばくね」


「ですわね。それが私怨混じりのものであるなら先陣を切るくらいのことはして欲しいですの」


 カッコイイことを言いながら、自分は下がって仲間に相手をさせるとか。

 たしかに、これはマリィさんならずともガッカリな行動だ。

 しかし、シャイザークが使う血龍印の特殊な効果を考えると戦術的には間違っていないかな。

 とはいえ、こうなることは事前に想定されていたことであり。


「リドラさん。例のギミックを」


『承知』


 リドラさんは自分に殺到するドラゴンたちのブレスや牙、鋭い爪によるひっかき攻撃を華麗に躱しながら、自分の周囲に浮遊していた魔法(ビット)剣を飛ばす。

 すると、その剣が襲いかかってくるドラゴンの一匹一匹にまとわりつき、その攻撃を阻害して――、


 リドラさんとシャイザーク率いるドラゴン達との戦いは、ここで膠着状態に入るのだが、そんな膠着状態が数分続いたところでリィリィさんからの通信が入る。

 と、そんな通信の内容はというと――、


『虎助様、一番から十番まで目標の補足を完了したみたいです』


「リドラさん聞こえましたか?」


『はい』


「ただ、例の機能に関してはこれが初めての使用になりますので、危険があるかもしれませんが――」


『いえ、彼奴(きゃつ)らも問答無用で襲いかかってきたのです。それで倒されるのも覚悟の上でしょう』


 たしかに、敵として殺しにかかってくるなら倒されたとしても文句は言えないか。

 たとえ、それが操られた上での行為だったとしても、龍種ならそれを受け入れてしまうだろう。

 ということで、


『では、行きます』


 リィリィさんがそう言うと、


『『『射出』』』


 妖精飛行隊のみなさんの勇ましい声が通信の向こうから聞こえてきて、


『〈血呪崩壊ブラッディカースコラプス〉』


 続くリドラさんの声に合わせて、一部のドラゴンの抑えに回っていたビット剣が、それぞれ近くを飛んでいたドラゴンの首に、翼に、胸元にと突き刺さり。

 瞬間、迸る魔力の波動。

 そして、バキンと金属が破断するような音が龍の谷に鳴り響き。


「魔王様、そちらのモニターはどうなっています?」


『……ん、血のほうは平気。

 リィリィは?』


『ビット剣周辺の魔力の流れは正常です』


『……ソニア?』「オーナー(ソニア)?」


『うん。成功だね』


 さて、僕達が何をしたかというと、突き刺した剣から魔法を打ち消す波動を出す魔法を発動させただけ。

 簡単にいうと、すでに発動中であった血龍印の内側から、銀騎士が使う魔法解除のショットガンであるマスターキーをぶちかましたようなものなのだが、

 リドラさんが使った〈血呪崩壊ブラッディカースコラプス〉には、その波動を浴びた血そのものを正常に戻すという効果も付与されており。

 結果、その波動を受けたドラゴン達はそのまま撃墜されるでもなく、『戻れ』と叫ぶシャイザークの言葉を無視するように、ややふらつきながらではあるが戦線から離脱していく。

 と、そんな龍達の様子を見る限り。


『ソニア殿の予想は当たっていたということか』


『お、お前、なにをした』


『貴様が施した術を破壊しただけだ』


『なんだと、そんなことができるハズが――』


『我だけならこんな芸当不可能だっただろうが、こちらには優秀な魔女殿がついているのでな』


 ちなみに、この魔法はぶっつけ本番。

 本来ならヴェラさんに試してもらってから使用するのが確実に魔法の効果を見極められるのであるが、エルフの姿のヴェラさんにこの魔法を使うとどうなってしまうのかわからないというで、まずは敵対する龍で試してからということになったのだ。

 そして、これで何もなければヴェラさんにも、この魔法を使うことになっていて、

 ただ、ここでシャイザークを倒しても、おそらくはあの状態が解除されるというのがソニアの予想であり。


『お前、人間に頼ったのか。

 それでも誇り高い龍種なのか』


『フン、自分の力ではなく、他人の力で相手を圧倒しようとする貴様に言われたくないわ』


 これに関しては、まったくもってリドラさんの言う通り。

 仲間を――いや、魔法で多くのドラゴンを無理やり従えてブレスの乱射を浴びせたヤツが言うセリフではない。


『五月蝿い。これも俺の力だ』


「うわ。開き直ったちゃったよ」


「最悪ですわね」


 二人共――、

 そう言いたくなるのはわからなくもないんですけど、いま大事なところですから。


『全員でかかれ、ヤツを殺すのだ』


 シャイザークの号令で、いまだ血龍印の呪縛から開放されていないドラゴンが動き出す。


 しかし、すでに全員でかかっていって駄目だったものを、数が減ったと状態で同じことをしたところで結果は変わらず。

 リドラさんは全方位からの攻撃を華麗な飛行で交わしながら、時折ビット剣を飛ばしてシャイザーク率いるドラゴン達を迎撃。


 ちなみに、リドラさんがここまで回避に専念する理由はシャイザーク率いるドラゴン達のブレスを恐れているからではない。

 最初に見せたように、魔王様が企画、僕達が力を合わせて作った鎧さえあれば、たとえドラゴン達のブレスの一斉掃射を受けたとしても致命的なダメージを受けることはないのだ。


 ならば、どうしてリドラさんはシャイザーク陣営からの攻撃を避けるのか。

 それは単に魔王様が自分のために用意してくださった鎧をあまり傷つけたくないと、それに尽きると思われる。


 ちなみに、それなら最初にどうして攻撃を受けたのかというと、こっちは単なる自慢――、

 というよりも、せっかく魔王様がデザインしてくれた鎧にも活躍の場面を作ろうとしたからだと思われる。


「リドラさんってこんなに強かったん?」


「龍種として完成された体に黒い鱗、これで弱いハズがないと思うんだけど」


「そうですわね。彼は龍種として最上位に入る存在になりますの」


 龍種の強さはその姿形や鱗の色などによって判別可能だ。

 特に、火・風・水・土の四大と、光と闇に関連する純色の鱗を持つ龍が強いとされているそうで、

 中には、いまリドラさんが対峙しているシャイザークが借りている黄龍のように、鱗の色とは別の意味で特殊な力を持つドラゴンも存在するというが、基本的には純粋な自然エネルギーを多く取り込める体色のドラゴンが強く育つことは間違いないとのことで、

 特にリドラさんの場合、生物が根源的に恐れる闇の属性の最たる龍種にあたるので、その力は強大とされており。


「それを考えるとむしろシャイザークは頑張ってる方だと思うけど」


「つってもシャイザークの戦い方はないと思うんだが」


「むしろこれがシャイザークの本来の戦い方なのかもしれないけどね」


「ん、そりゃ、どういうこった?」


「いや、シャイザークの場合、自分の体からして操ってるだけだし」


「「ああ――」」


 と、僕達がリドラさんの龍種としての強さから、シャイザークの戦い方に話を膨らませていたところ、こちらの会話が聞こえたワケではないだろうが、多くの手下を撃墜され、さらに渓谷の中のドッグファイトでリドラさんに背後をとられたことで余裕をなくしたのかもしれない。シャイザークが『クソ、馬鹿にしやがって』と吐き捨てながら。


「きも――」


 それは、その体を無理やり操っているからこその柔軟性なのかもしれない。

 ぐにゃり首を180度反らしたシャイザークが、背後につけるリドラさんに逆さまに顔を向けると、その口からブレスを連射。

 下手な鉄砲数撃ちゃ当たるとばかりに、バチバチとやけくそ気味に雷球ブレスを乱れ撃つ。


 ただ、そんな雷球ブレスの連射もリドラさんには通じない。

 最初こそ、元春にして『気持ち悪い』と言わせる、そのあり得ない首の反らしから繰り出される雷球ブレスに、さすがのリドラさんも戸惑うような反応を見せたものの、最初の一発を軽く手を振り払うように弾き飛ばすと、その後はバレルロールを使って回避。

 そして、リドラさんは、自分の周りを守るように飛行するビット剣による解呪と、その飛行速度によって周囲のドラゴン達を突き放し、周りから邪魔者が消えたタイミングを狙って瞬発。

 谷への突入に使ったブレスを利用した超高速飛行によって一気にシャイザークに肉薄すると、首だけ海老反り状態で前方を飛ぶシャイザークの首根っこを右手で掴み、そのまま急降下して、シャイザークの体を地面に叩きつけると、その背中を左手を乗せ、ここから軽く尋問をと話しかけようとするのだが。


『かかったな。〈龍執牙(デリュゴンキリング)〉』


 ここでリドラさんの背後からシャイザークの声が――、

 どうやら、雷球の連打といまの一撃によって谷に発生した粉塵を隠れ蓑に、シャイザークは血蛇竜としての力を解禁したみたいだ。

 血液の大蛇という姿で黄龍の尻尾の傷口から顔を出したシャイザークが、鎧の隙間から覗くリドラさんの首筋に噛み付く。


 と、次の瞬間、リドラさんの首筋に赤い光が迸り。


『動くな』


 一言、命令を下すシャイザーク。

 しかし、そんなシャイザークの命令とは裏腹に、リドラさんはその黄龍がシャイザークにとって単なる操り人形と変わらないと判断したみたいだ。黄龍の首を握り潰し。


『どうして言うことを聞かない』


『逆に問う。なぜ我が貴様の言うことを聞かねばならぬのだ』


 まったくもってその通りである。

 しかし、自分の力に絶対の自信を持っているらしいシャイザークにとっては、それはあり得ないことであるらしく。


『だって、俺が噛み付いたんだぞ』


 キャラが崩壊しているような気もしないでもないのだが、もしかすると、これがシャイザークの素なのかもしれない。


『ああ、貴様の分体ならそこに捕まっているぞ』


 と、リドラさんがチロリと視線を向けた先にあるのは1.5リットルのペットボトルサイズの透明なカプセル。

 その中には大量の血液が閉じ込められており。


『貴様の正体は知れていると言ったぞ。これはその対策としてつけていた捕獲シールというものだそうだ』


 相手がなにをやってくるのさえわかっていればその対策は立てられる。

 結局のところ、シャイザークの使う特殊な血龍印は彼の血液を注入されなければそれでいい。

 なので、あえて防具に隙間を作り、そこに噛み付かせ、世界樹の樹脂を使って作った形状記憶シールによって、その血を捕獲したのだ。


 そして、リドラさんが鎧に付与されたマジックバッグから一本のナイフ――、

 人間にしたら大剣サイズのそのナイフをシャイザークが操る黄龍の心臓に突き立てると。


『アッ、ガッ、殺されて、たま、るか』


 藻掻き苦しむシャイザーク。

 しかし、リドラさんがシャイザークの胸に突き刺したこのナイフはシャイザークを殺す為のものではない。

 これは仕留めた獲物の体から血液を抜く為の解体用のナイフ。

 と、リドラさんがそのナイフをシャイザークが操る黄龍の胸に突き立てて数秒、黄龍の体が大きくのけぞり、ナイフの刀身が真っ赤に染まり。


 だが、ここでシャイザークも自分の危機に形振りを考えることをやめたみたいだ。


『……リドラ』


 魔王様が念話通信越しにそう声をかけた直後、黄龍の全身から血が吹き出し、それが一塊になって逃走を図る。


『動けない里の者に取り憑く気か』


「リドラさん炎を」


『承知』


 龍の鱗なら炎は防げる。

 しかし、血はそうも行かないだろうと、リドラさんが血の蛇となって逃げようとするシャイザークに黒い炎のブレスを浴びせかける。


「倒したのか」


「いえ、これは仕留めきれていませんの」


 いくらリドラさんのブレスでも、あれだけの量の血液を、しかも液体生物の魔獣の体を一瞬で蒸発させるのは困難だ。

 そのことは火の魔法のエキスパートであるマリィさんが一番よくわかっている。

 だから、元春のフラグのようなセリフを即否定。


 ただ、それはそれとして黄龍の体から脱出したシャイザークはどこに行ったのか。

 その半分ほどがいまの炎で蒸発してしまったのは間違いないが、残る半分の姿が見当たらない。


 元々の体に戻った。

 それはない。戻ったところで首を砕かれていては、もはや戦うことすら難しいからだ。

 そうなると、他に逃げるのなら――、


『……地面』


「そうですね。リドラさん」


 魔王様と僕の呼びかけに、リドラさんは『承知――』と、すぐさまビット剣を操って地面に穴を開けると、そこにブレスを吹き込んでゆく。


「今度こそ倒したんか」


『……倒してない』


「ん、見た感じ完全に蒸発してんじゃね?」


「うん。穴の中の血は完全に蒸発したみたいだけど、カプセルがなくなっているんだよ」


 おそらく、シャイザークはブレスを放たれるより前に体の一部を伸ばして、カプセルに攻撃を仕掛けるなりして、コアを逃したんだと思われる。


「ってことは、ふつうに逃げられた」


「いや、大丈夫」


 さすがに、こう何度も逃げようとされたら、きちんとその後を追いかけるように手を打ってある。

 というよりも、シャイザークの血龍印を防ぐために使った例のカプセル。

 あのカプセルには戦闘中に血龍印を使われたとしても、あとで回収できるようにと発振器のような魔法が付与されているのだ。

 その反応を見るに、カプセルそのものはすでに破壊されているようなのだが、その欠片の一部の反応が動いている。

 この反応を追いかければシャイザークのもとに辿り着けるだろう。

 ということで、リドラさんにはこちらのナビゲートに従ってもらって谷の奥へと入っていってもらうのだが、その反応を追いかけた先にあったのは、なにもない虚空に揺らめく波紋だけで。


「これって、次元の歪みだよな」


「そのようですわね」


「リドラさん、どうします?」


『ここで追いかけない選択はありませぬ』


「わかりました。こちらも最大のサポートをさせてもらいます」


『……ん、リドラ頑張って』

 ◆ちなみに、シャイザークの手下にはワイバーンも百匹単位でいるのですが、リドラや数話前に出てきた尾棘龍レベルのドラゴンになると、羽虫までとはいわないまでも、ただの雑魚でしかなく、攻撃手段も(リドラからすると)弱い火球ブレスでしかないということで、狭い谷の中での戦いでは、逆に邪魔になるということで出動させていないといった裏事情があったりします。

 つまり、これが平地などでの戦いだったら、リドラは数倍の戦力と戦わなくてはならなかったということになります。

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