リドラ魔改造
「第一回、リドラさん強化会議」
『『『「「「わー」」」』』』
『あの、これは一体――?』
急遽始まったリモート会議に盛り上がる周囲に困惑するリドラさん。
さて、この集まりがなんなのかというと、ソニアからの報告を受けて龍の谷行きが決定したリドラさんがその準備を進める中、魔王様からこれから龍の谷に赴くリドラさんの安全の為に、なにか作りたいという相談があって、それなら皆でアイデアを出し合ってみたらどうかという話になり、その時、万屋にいたメンバーと魔王様の拠点から有志を募り、急遽この会議が開かれることになったのだ。
と、そんな会議の内容を一人旅立ちの準備に追われる中、知らされていなかったリドラさんに、僕がその内容を説明している間に、他のみなさんはシンキングタイム。
まず最初に手が上がったのが、魔王様と一緒に万屋にやってきたフルフルさん達、妖精飛行隊のみなさんだ。
「やっぱりミサイルじゃない。そのまま攻撃するもよし、ジェットを噴射して高速移動をするもよし、火力大正義だよね」
どうやら、フルフルさん達は相手が龍種だということで、火力メインに考えてくれたみたいだ。
出してもらった魔法窓にはデフォルメされたロケットのようなものが描かれており。
しかし、ミサイルに掴まって移動っていうのはどういう感じなんだ。
ミサイルの火力はともかく、ミサイルを移動に使うっていうのはどういう風に使うんだろう。
僕がいろいろ想像を膨らませていたところ、魔法窓に機械龍とか、そういう――、ゲームに出てきそうな全身鎧姿のリドラさんを上手に描いていた魔王様が、フルフルさん達のアイデアを見て、なにか閃くものがあったのだろうか、フルフルさん達をちょいちょいと手招きして、ご自分のアイデアに手を加えていくみたいなので、魔王様のイラストの完成にはまだ少し時間がかかりそうだということで、
と、そんな雰囲気を察したのか、元春がやれやれといった雰囲気を出しながら。
「ここはシンプルにドラゴン殺しでいいんじゃね」
その考えもわからなくはないけど……。
元春が出したイラストは、まんま有名な大剣をラクガキのように描いたものだった。
しかも説明はシンプルにドラゴンキラーと書いてあるだけという手の抜きようで、これでどうしてあんなに自信満々にできるのか。
ただ、元春のこのアイデアは実際の使用者であるリドラさんにはわかりやすかったご様子で、意外にもリドラさんからは高い評価を得る一方、こういう装備作りにこだわるマリィさんからすると、元春のその設計図はあまりに適当と断ずるに値するものだったらしく。
「それは手抜きが過ぎませんの」
マリィさんは呆れたようにそう言うのだが、
「だったらマリィちゃんはどんなのよ」
「私はこれですの」
元春に促され、マリィさんが見せてくれたそれは元春と同じく剣だった。
ただ、その剣はリドラさんが装備するようなものではないようで、イラストの横に添えられた説明文を読む限り、どうやらマリィさんが考えたその剣は、彼女の愛鎧〈膝丸〉の付随品である〈蜘蛛切丸〉のように、装備者の周囲を舞い、相手に攻撃を加える武器のみたいだ。
「ビット剣かよ、その発想はなかったな。
でもよ、リドラさんレベルの人(?)にそういう武器とかいるんかな」
「そこは、なにか特殊効果をつければいいんじゃないかな。蜘蛛切丸もそんな感じだし」
『それ、なんか凄そうです』
と、いまの感想はリモートで会議に参加してくれているミストさんのコメントだ。
ただ、彼女の感想である『凄そう』っていうのは、マリィさんがアイデアを出した、元春命名ビット剣に関するものなのか、それともアラクネのミストさんには天敵となり得そうな名前をしている蜘蛛切丸のことなのか、どっちなんだろう。
ちなみに、そんなミストさんが考えてくれたアイデアは、どういう構造になっているのかはわからないが、リドラさんの下半身にアラクネそのものといったナニカをつけてしまうといったものみたいだ。
すでに魔法窓としてみんなの前に晒されているそれは、マリィさんのところのメイドさんのシェスタさんに匹敵するくらいヒド――、もといアバンギャルドなイラストとなっていた。
と、そんな風に、その後も、フルフルさん達のアイデアが加えられた魔王様のアイデアはもとより、主に魔王様の拠点から、リィリィさん達にキャサリンさん、チェトラヴカさんにブキャナンさんなどと、さまざまな――、本当にさまざまなご意見が寄せられたのだが、
なんというか、一部、倫理的に、あと解釈的に実現不可能なレベルのアイデアもあったりして、
「で、どうまとめんだよ、これ?」
「投票で決めるのはいかがです」
「いや、ここは実際に使うリドラさんに選んでもらって――」
『全部作ればいいじゃない』
元春の問いかけに自信満々なマリィさん。
そして、僕が最終的にはリドラさんに選んでもらうのがいいんじゃないかと話をまとめようとしたところで、ソニアがみんなにも見えるようにと特大のメッセージを飛ばして来て、
龍種専用の装備を作るということでちょっとテンションが上っているのかな。ちょっと強引なような気がするけど、仲間思いの魔王様もこのソニアの言い分には賛成のご様子なのだが、しかし、こういうアイデアを全部盛りにすると失敗するのが世の常だ。
しかも問題はそれだけじゃなく。
「俺等のアイデア全部盛りって金は大丈夫なん?」
みんなのアイデアを全部実現するとなると、相当な資金が必要となる。
ソニアがやるというなら万屋から資金提供もまた已む無しといったところなのだが、それをするならお客様の意思確認が必要だということで、僕が見るのは魔王様――ではなくリィリィさん。
ちなみに、どうして僕がここでリィリィさんを見たのかというと、今ここにいるメンバーの中で、魔王様の手持ちの資金を把握しているのが彼女くらいだからだ。
と、そんな僕からの視線にリィリィさんは珍しく慌てたように、わざわざソニアがでかでかと掲げた魔法窓に向かって、
「た、例えばです。マオ様の鎧を軸にみなさんのアイデアを取り込んだものを作るとなると、どのくらい予算が必要になるでしょうか」
そう質問をぶつけていくのだが、ソニアからしてみると素材うんぬんの値段というのは、バックヤードに収められた時点でほぼ無いようなもの。
だから、ここはソニアの代わりに僕がと魔法窓を開き、万屋が現在売りに出している素材の価格をチェック。
「そうですね。素材にもよりけりになりますが、アイデアを全部混ぜるということは、たぶん魔王様の鎧を中心に据えるということになるんですよね。
だとすると、最低でも金貨百枚は下りませんか」
なんにしても、リドラさんの大きな体を覆うような鎧を作るとなると、それだけで相当な量の素材が必要となる。
たとえば、オリハルコンとか高級な装備にこだわらず、日々アヴァロン=エラに流れてくる鉄を主原料に作った魔鉄鋼を使ったものであれば、そこまで高額にはならないが、そんな鎧を作るくらいなら、リドラさんの素の防御力の方が高くなるんじゃないかな。
そして、作るものが最低でもリドラさんが装備して意味のあるものを作るとなると、どれくらいの素材で作ればいいのかと、僕がみんなのアイデアを実現にかかる額を試算しようとしていたところ、ここで魔王様が仄かに赤みがかる透明な液体が入った瓶を取り出し。
「……それならこれを使えばいい」
「ん、マオっち、それなんなん?」
「……リドラのよだれ」
「へっ」
「ああ、それならいけるかもしれませんね」
「いや、なんでだよ」
僕と魔王様の会話に鋭いツッコミを入れてくる元春。
ただ、僕達はふざけているとかそういうことではなく。
「唾液は唾液でもリドラさんのの唾液だからね」
龍種の素材は超高級品。
それがたとえ涎だとしても、かなり有用な魔法触媒とすることができるのだ。
「それにこれ、ちょっと血が混ざっていますよね」
「……ん、リドラがベロ噛んだ時に取ったヤツ」
「それなら完全にではないものの、アダマンタイト系の合金も狙えますしね」
「マジでか!?」
うん。元春が驚くその気持もわからないではないのだが、龍の血というのはそれだけ強い素材なのだ。
それがたとえ少量だったとしても素材として提供されるとなれば、リドラさんの鎧を作る費用もかなり抑えられ、血以外にも大量の唾液も使えると慣れば――、
「これならいけそうですね」
『うん。面白いものが作れそうだ』
「「「「「私達も手伝うよ」」」」」
「……ん、ありがと」
と、ソニアからも『リドラさんの唾液が使えるなら――』とOKサインが出たところで、魔王様と一緒に万屋に来ていたフルフルさん達が手伝いを申し出て、魔王様もそれに同意。
工房に移動して、ワイワイとリドラさんにも着られるような鎧を作ることになるのだが、
作業をする為、勇ましくお店の裏口へ向かうフルフルさん達の後ろ姿に元春が腕組みで呟くのは、
「しっかし、マオっちはともかく、フルフルっちとかの手伝いって、なんか役に立ってるん?」
「いや、ありがたいよ。こういう作業は『妖精の仕事』の範疇だからね」
「そうなん?」
「ほら、絵本とかにも靴屋の話とかあるでしょ」
「あれってふつうに小人なんじゃねーの」
「カテゴリとしては同じ妖精なんだよね。とにかく急いで作っちゃおう」
ドラゴンの時間間隔、そして龍の谷の現状からしたら、そんなに急ぐ話でもないけれど、せっかくみんながやる気を出してくれているのだ。
鉄は熱いうちに打て――という表現が合っているのかは分からなけれど、今回はフルフルさん達、妖精のみんなを中心に、どこからかこの話を聞きつけやってきたサイネリアさんとアビーさんにも手伝ってもらいながら鎧本体の製造を開始。
完成したパーツからソニアの研究室に運び込んで、そこで上位魔法金属化と魔法のギミックを組み込んでもらうという流れで、細かいパーツからどんどん仕上げていって、
一方、マリィさん考案のビット剣も、蒼空などの飛行システムを元に、魔王様とマリィさんが主体となって、今回の作戦に合った挙動をする武器に仕立て上げ。
半日と待たずにリドラさんの専用装備が完成。
出来上がったばかりの装備を、あらかじめ工房の裏側にスタンバイしてもらっていたリドラさんに試着をしてもらったところ。
「……ん、かっこいい」
「ありがとうございます」
魔王様が直々に作ってくれた上に着させてもらって感激したのかな。
途中まで、ややついていけない雰囲気を醸し出していたリドラさんも、出来上がった鎧を着た今となっては感動に打ち震えているようだ。
そして、準備が整えば、後は行動に移すだけということで――、
「では、行ってまいります」
「……リドラ、頑張って」
鎧の試運転もそこそこに、すぐさま龍の谷へ向けて飛び立つリドラさん。
僕達はそんなリドラさんを見送って――、
「てか、なんか警報なってね」
「うん。なんかちょうど魔獣が転移してきたみたい」
◆本文には書かれなかったアイデア(一部抜粋)
妖精飛行隊頭脳派チーム(リィリィなど)……鎧に組み込むサポートシステム(主にフルフルチームがアイデアを出したロケットの制御)
キャサリン(バンシーの少女)……マジックバッグ(ソート機能など便利機能付き)
チェトラヴカ(中位水精霊)……背徳の黒薔薇(ミスリル製の有刺鉄線で作った拘束具。痛みを快楽に変換する機能付き。参考魔法式〈静かなる森の捕食者〉)
ブキャナン(オーガの変異種)……シールドガントレット(魔力を込める事によって円盾状の結界を発生させる。参考魔法式〈聖盾〉)
ニュクス(夜の最上位精霊)……夜の加護(鎧に精霊の卵の欠片を仕込むことでニュクスの力を分け与える)
そして、完成品がこちら。
龍精鎧……特殊合金フェロドラゴニウムで作られた龍種専用鎧。装備品としてブレスを推進力としたウィング。オールレンジ攻撃を可能とした浮遊剣。高速の茨が付随している。他にも魔法的なパワーブーストにシールド、マジックバッグなど、細々とした機能が付与されている。
※ちなみに、元春のアイデアもやや違った形で再現されていたりしますが、それは次回のお話でということで――、
◆次回は水曜日に投稿予定です。




