義父さんが見つけたもの
きのう義父さんは母さんと一緒にアヴァロン=エラにお泊まりだった。
なんでも、ボナコンに挑むまで強くなった義姉さんの話を聞いて、父親として危機感を抱いた義父さんが母さんに相談したことで、その日は二人で仲良く修行をと、魔王様とシュトラの為に開発をはじめた例の弾幕系魔法アプリを夜遅くまでやっていたそうな。
我が親ながら、いろんな意味で人生をエンジョイしてるなあ。
と、そんなこんなで翌朝、家族揃っての早朝訓練を終えたところで、義父さんが僕に見せたいものがあるとポケットからおもむろに取り出したのは一枚の金貨。
「虎助、ちょっとこれを見てくれるか、きのう工房の集積場で見つけたんだが」
「金貨だね」
「父さん、これがどうしたの?」
それは多くの金貨を見てきた僕からしてみても、かなり作りの粗い部類に入る金貨だった。
義姉さんも義父さんが取り出したものということで興味を持ったようだが、その作りの雑さから、そこまでの値打ちはないと思ったのかもしれない、胡散臭そうな目をその金貨に向けていたのだが。
「エレクトロン金貨と似ているんだ。
というよりも、それそのものじゃないかと思うんだが」
「ええと?」
「ああ、すまんすまん。
エレクトロン金貨ってのは、紀元前に、いまのトルコがある辺りにあったリディアって国で作られていた世界最古とされる金貨の一つなんだが」
つまり、この金貨は外国の古い金貨ってことかな。
「でも、そんな金貨がなんでここにあるのよ?」
「それがわからないから虎助に聞いてみたんだが」
と、義父さんの返事に目つきが鋭くなる義姉さんに若干の気まずさを感じながらも。
「そうだね。可能性としては地球で発生した次元の歪みに巻き込まれてって感じになるのかな。
ただ、そうなると、どうしてこんなに古い金貨がピンポイントで――っていうのが問題だね」
僕がとりあえずこの金貨がアヴァロン=エラに迷い込んできたその経緯を推測。
しかし、ものが地球の古い金貨となると少し気になるところがあると指摘したところ。
義父さんは「ふむ」と顎に手を添えて。
「いくつか思い当たることはあるが、その説明ができないってところか」
「そうだね」
「だったら年代測定をしたいから持って帰ってもいいか?」
「別に構わないよ」
ここだと、この金貨はただの金貨でしかないからね。
サイズも小さいみたいだし、自然金をそのまま使った金貨みたいだから純度もそこまででもないだろうから、それなら価値がわかる人に持ってもらった方がいいと思うんだよ。
だいたい、これがうちで使えるような金貨だったら、ふつうにエレイン君が店の方に持ってきてくれたんだと思うんだよね。
「でも、年代を調べるくらいなら、ここでも出来るけど」
「そうなのか?」
「鑑定書とかそういうものはつけられないけどね」
実際にそういう書類があるのかどうかは知らないし、もしも日本や海外でなにかするなら、また向こうでも鑑定しないといけなくなるから二度手間にはなるんだけど。
「どうせだからソニアに調べてもらう。いま手が空いていればだけどね」
「頼めるか」
ということで、その旨をソニアに伝えたところ、暇かどうかはわからなかったが、ソニアも地球から流れてきたとおぼしき古い金貨には多少興味を惹かれたみたいだ。『ちょっと面白そうな内容だね』と、その金貨を鑑定してもらうことになり、エレイン君に頼んでソニアの研究室まで届けてもらうことに。
ただ、やはり魔法を使った鑑定とはいえ、かなり古いアイテムの年代測定となると、多少の時間が必要になるようで、その結果が出るまでの間にという訳ではないのだが。
「他になにか目ぼしいものは見つかった?」
「ああ――、
でも、モノがかなり大きいものでな。
さすがにエレインにここまで運んでもらうのは忍びないから、
見たいなら集積場の方に来てくれるか」
「うん。了解」
と、義父さんが目を付けたその大きな次元の漂流物を見る為に、僕は義父さんと一緒に工房へ向かうことになるのだが、
「あれ、母さん達は行かないの?」
「ええ、私は昨日見てるから。
それに、私達は昨日の続きをやらないといけないでしょ」
ちなみに、笑顔でそんなことを言う母さんの一方で、ややファザコンの気がある義姉さんの方はというと、義父さんがいるこっちについて来たそうにしていたのだが、母さんがそれを許してくれるハズもなく。
二人とはここで別れて、僕と義父さんは工房にある集積場へ。
と、そんなこんなで移動した集積場にあったのは、何か文字がいっぱい書かれた石柱の一部らしき物体。
ギリシャの神殿なんかにある石柱に似ているかな。
地面に横倒しに置かれていたそれは、二メートルほどのところで折れたというよりも、砕けたようになっており、その表面には洋風の唐草模様と共に見慣れない文字がびっしりと並んでいた。
さて、このタイミングでこのような石柱がここにあるということは――、
「これって、さっきの金貨と一緒でなにか歴史的な価値があるものとか?」
この石柱の出処はさっきの金貨と同じ場所なのではないだろうかと、そんな勘ぐりをしてみたのだが、どうやらそれは考えすぎだったみたいだ。
「いや、これはたぶん地球からのものではないと思うぞ。
ほら、ここだと他の世界の文字も読めるようになってるだろ。
なんで、コイツを見つけたところで書かれている内容を読んでみたんだが、その内容が明らかに地球のそれとは違ったんでな」
義父さんによると、その石柱に書かれている文章には、明らかに魔法の存在を前提とした説明書きが見られ、かつ創作とも思えない内容だそうで、この石柱が地球外からやってきたことはほぼ間違いがないという。
ちなみに、その石柱に書かれている内容は、空を彷徨う島の航路とその詳しい解説だとのことである。
義父さんが言うには、この石柱はどこかの街の高台かなにかに設置されていたかなにかで、一種の観光スポットになっていたのではないかということだ。
例えるなら、動物園の檻の前に設置してある動物の生態なんかを説明したプレートみたいなものかな。
あと、その石柱に書かれていた説明によると、その空を彷徨う島というのが、どうも飛龍の棲家だったらしく、母さんもちょっと興味を持っていたらしい。
「しかし、いいなあ。空飛ぶ島」
ちなみに、空飛ぶ島というなら、マリィさんが所有する魔鏡を通じて行くことのできる空中要塞もその一つなんだけど、こちらは僕達が実際に行くことができないから、義父さんの希望には応えられそうにない。
まあ、マリィさんのところの金ピカゴーレム『八龍』を使えば、擬似的に行くことは出来るんだけど。
「ただ、地球でも探せばありそうなものなんだけどね。空飛ぶ島」
「そうなのか」
「向こうにも空飛ぶ箒はあるし、魔女さん達の工房なんてかなりファンタジーしてるみたいだから、そういう場所があっても不思議じゃないかなって」
僕も直接見たワケじゃないけど、魔女のみなさんの棲家は、まさに漫画や絵本に出てくるような魔女の隠れ里という風な場所らしい。
だとしたら、同じように漫画や絵本に出てくる空飛ぶ島もどこかにあるんじゃないだろうか。
例えば、かつて魔女達が使っていた秘密基地がそのまま残っているとか。
と、僕がそんな可能性を義父さんに語ってみたところ、義父さんもそういう例があるならと。
「そういうことなら、志帆にそういう場所を案内してもらうのもいいのかもな」
「とはいっても、魔女のみなさんの棲家はともかくとして、お宝探しってことになると当たりはなかなか見つからないみたいだけどね」
「まあ、そういう発見はそうそう出来るものじゃないからな。
下調べをして何十箇所も回ってようやく一つ発見があればいい方だ」
だからこそ何か発見した時の喜びが大きいのだと義父さんは笑う。
さて、そんなことをしていると、エレクトロン金貨の年代測定を頼んでいたソニアから年代測定の鑑定結果が送られてくる。
「それで、結果はどうだったんだ?」
「えと、この金貨が作られたのは三千年前ってことみたいだね」
「ふむ――」
ソニアから送られてきた鑑定結果に少し難しそうな顔をする義父さん。
そんな義父さんの反応が気になって「どうしたの?」と僕が訪ねると。
「三千年前というと、たしかにその頃、すでにリディアの国自体は誕生していたんだが、実際にエレクトロン金貨が作られるようになったのは、建国から数百年と経ってからのことなんだ」
義父さんによると、年代測定の結果が正しく出るのなら、二千五百年くらい前に作られたものという結果になるそうなのだ。
たしかに、それだとあまりに年代がかけ離れているか。
ソニアがの年代測定がどれくらいの精度のものなのかわからないが、さすがに五百年は大きなズレだ。
そもそも、ソニアがこういう鑑定をしくじることはまず無いと考えると。
「やっぱり次元を超える途中でなにかあったのかな」
「そうだな。考えられるとすればそういう可能性だよな。
しかし、さすがに魔法関係のこととなると、俺達だけじゃどうにもならないしな。
まあ、本物とわかっただけでもよしとするさ」
◆捕捉という名の蛇足。
ちなみに、今回登場したエレクトロン金貨は高いもので百万を超える価格で取引されているらしいです。
ただ、十三が手に入れたエレクトロン金貨は、地球で鑑定すると偽物と判断されるかもしれないということで、価値としては数万円程度となる可能性が高いと思われます。




