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登校日・後編

◆長いから二分割にしたハズなのに、後半が前半の二倍くらいの分量になってしまいました……。

 さて、そんなこんなで放課後――でいいのかな。

 宿題提出に小テスト、各種連絡事項のチェックやらと、やるべきことをやり終えた僕達は、佐々木さんの案内で問題の運動部の部室に行くことに。


 ちなみに、宿題をやってなかった友達二名に関しては、もともと今日提出の宿題を学校で写させてもらおうと考えていたらしく、宿題そのものはしっかり学校に持って来ていたそうだ。

 なので、あの後、無駄に上からの態度で迫る元春の協力を得て、なんとか帰りのホームルームまでに提出する宿題も間に合い、今回の捜索に加わることが出来たようだ。


 そして、結構な大人数となった僕達は、渡り廊下を歩き、校庭のすぐ脇に建つ部室棟までの道すがら。


「で、佐々木君、詳細を伺ってもよろしいかね」


「なんでアンタが仕切ってんのよ。というか、なんなのその喋り方」


「まあまあ、ゆうちゃん落ち着いて」


 それって座ってる人がやらないと意味がないんじゃないかな。

 不自然に顔の前で両手の指を組み、無駄に威厳あるしゃべり方で、今回のあらましを再度確認する元春にツッコミを入れる佐々木さん。

 ちなみに、そんな荒ぶる佐々木さんを宥める彼女は隣のクラスの久保さんだ。

 久保さんは佐々木さんと同じテニス部に所属しており、話にあった猫の鳴き声に最初に気付いた人だという。


 さて、そんな久保さんが猫の鳴き声に気づいたのは昨日の部活終わりのことだという。

 最初は聞こえてきたその声をただ猫が部室棟のすぐ裏手で騒いでいるだけかと、特に気にも留めていなかったそうなのだが、着替えを終えて、いざ家に帰ろうと部室棟の裏の道を通った時、どうも鳴き声が部室棟の中から聞こえてるんじゃないかということに気付き、『あれ、おかしいな』とは思ったそうなのだが、ただ、その日は午後から予定があったこともあって結局そのまま帰ったのだそうだ。

 しかし、その夜、寝る前になって、聞こえてきた猫の鳴き声がどこか悲しげだったんじゃないのかと気になり出して、今朝、いつもより一時間早く登校してみたところ、その声はまだ聞こえていたそうで、

 やっぱりこれはどこかに猫が閉じ込められているのではないかと久保さんが、部室棟やその周りを探していたところ、三十分くらいして、最近テニス部の部長になった佐々木さんが部室に用事があるとやってきて、続けて顔見知りの先生が通りかかり、久保さんは二人にも手伝ってもらって声の出処を探していたそうなんだけど、それでも猫の居場所は見つからずに、最終的にそろそろホームルームが始まるという時間になったところで、先生が僕に相談することを提案、佐々木さんが僕に声をかけるに至ったという。


 ちなみに、どうしてそこで先生から僕の名前が出てきたのかというと、

 以前、元春を介した新聞部の依頼で、学校で発生した怪談の原因を配管の不備であると、僕が耳を使って発見したことを、その先生が知っていたらしく、もしかして今回のことも僕に頼めば見つけてくれるのではないかと思ったのだそうだ。


 まあ、それでも見つからなければ後は先生達がなんとかするとのことで、僕への依頼はあくまでこれで解決すればラッキーといった程度の話であるのだそうだが、ご指名を受けたからにはきっちりとその期待に応えたいものである。


 ということで、気合を入れた僕達(元春達は別の意味での気合)は普段なら入れない女子の園、部室棟の二階に入ったところでまず――、


「おお、ここが乙女の花園か」


「フローラルな香りが鼻孔をくすぐるぜ」


「アナタ達、変なこと考えたら――」


「「「イエスマム。わかっております」」」


 と、そんな茶番を挟みながらも、問題となっている鳴き声の主を探していくことにするのだが、


「で、猫の声ってどんなだよ」


「ぜんぜん聞こえなくね」


「こうなったらロッカーを一つ一つ開けて調べていくしかないんじゃね」


 元春を含む友人三名は、耳を済ませるようなポーズをしたかと思いきや、妙にそわそわと、猫の鳴き声なんて聞こえないと喚きだす。

 ただ、三人の主張はあくまで別の目的に引っ張られたものであり。


「いや、耳を澄ませばきこえるからね」


 少し耳をすませば幽かにではあるが、か細い猫の鳴き声が誰にでも聞こえると、

 後はこれを辿って猫の居場所を探せばいいのではと、僕がそう指摘したところ。


「おいおい、なに言っちゃってんだよ虎助さんよ。猫の鳴き声なんてどこにも――」


「聞こえてるわよ」


「聞こえないって委員長」


「追い出すわよ」


「たしかに聞こえるな。どこからだ」


 往生際の悪い元春達がまた文句のようなことを言い出して、そこに向けられる佐々木さんと久保さんからの冷たい視線。

 と、さすがに女子二人分の極冷視線に晒されてしまっては、いくらおバカな元春達も正気を取り戻さらざるを得ない。

 まあ、正確にはただ無駄な抵抗を諦めたってだけになるんだろうけど……。

 とにかく、元春達もしっかり正気に戻ってくれたところで、ようやく本格的な捜索を開始。

 後は鳴き声の主の居場所を見つければ万事解決なのだが、


「声はこの上からだね」


「この上からって、ここ二階だろ。

 ってことは、屋根の上に登って降りられなくなってっとか」


「それはないわ。屋上ならもう調べたから、ねぇ依子」


「うん。先生が体育指導室から探してくれたの」


 どうやら屋根の上はすでに先生が調べてくれたみたいだ。


「だったら天井裏とか?」


「アンタ、この部室棟に屋根裏なんてあると思う」


 校舎の南、グラウンドに併設するこの部室棟は簡単なプレハブ作り建物である。

 天井は屋根材が剥き出しの構造になっており、屋根裏なんてものは存在していないことなど一目瞭然。

 しかし、だとしたら、この鳴き声の主はどこにいるのか。


「まさか幽霊とか」


「ば、馬鹿みたいなこと言わないでよね。

 そ、そんなこと、あるワケないじゃない」


 元春の冗談のような思いつきに、佐々木さんのこの反応。

 もしかして佐々木さんは幽霊が苦手な人なのかな。

 と、そんな佐々木さんの反応は元春も気が付いたみたいである。

 ニヤリいやらしい顔を作り、またなにか悪巧みを考えついたみたいなので、

 ここは二人がまた喧嘩になる前にと――、


「だとしたら考えられるのは雨樋の中とか、そういう場所じゃない?

 ほら、猫って狭いところが大好きだし、たしか建物の裏側にいくつか配管みたいなのがあったよね。

 ここ角部屋だし、雨水を排水口に逃がす管が近くにあるんじゃないかな」


 僕が先手を取ってそう言うと、ちょうど元春達から距離を取るように窓際にいた久保さんが、そこから軽く外を覗き込むように耳を澄ませて、


「あ、本当、声が聞こえる」


 それを追いかけるように佐々木さんが――、

 そして、元春達がわらわらと窓際に集まっていき。


「っゆうかこれビンゴじゃね。ゼッテーあのパイプの中にいんだろ」


「でも、どうやって助けたらいいのかしら」


「屋根の上から手を突っ込んで助けるとか」


「屋根の上に登るって」


「そもそも排水溝でいいんか、あのパイプの中に手が入るん?」


「屋根からぶら下がってパイプを切るとか」


「でも、あれを勝手に切っちゃうのは不味いでしょ」


「つーことはレスキュー案件か」


「その前にセンセに報告じゃね」


「いやいや、そんなの面倒だって、時間もかかるし。

 別にそんなのしねーでも虎助なら行けるだろ」


「うーん。上に行けばなんとかなるかもだけど、問題はパイプのどの辺に猫がいるかだよね」


 その猫がパイプの上の方まで登ってきていたら、手を伸ばせば届くかもしれない。

 それ以外でも、誘引の魔法や空切を使ってもいいなら、その猫がどこにいても助けるのは簡単なんだと思うけど。

 さすがにみんなの前でそんな手は使えないから。

 ただ、その猫が変なところに入っていたら、ふつうに助け出すのは難しいだろうし。

 さて、どうしようか。

 と、僕が窓の外から聞こえてくる声から、鳴き声の主がいる大体の位置を探りながらそう悩んでいると、それが伝わったのかはわからないが、なにか思いついたらしい元春が「ちょ待ってろ」と、部室を出ていって数分――、

 戻ってきた元春の肩には厳しい感じのボックスケースが担がれており、フフンと鼻を鳴らして開けたそのケースの中に入っていたものは、


「じゃーん。ファイバースコープ」


「なんでそんなものがあるのよ」


 どこかで聞いたようなだみ声でケースの中の機械を紹介する元春。

 そんな元春のおふざけに、ツッコミ気質の佐々木さんがテンポのいいツッコミを入れてくれる。


「べ、別に部活に使おうと思って買ったんじゃないんだからね」


 そして、元春のわざとらしくも気持ち悪い切り返しは無視するとして、問題のファイバースコープなんだけど……、

 これって多分、盗撮とかそういう用途に使おうと買ってみたものの、意外と使い勝手が悪くて、今まで出番がなくてホコリをかぶっていたものを持ってきたっていうのが正解なんじゃないかな。

 と、僕が元春の持ってきたその箱や、元春が属する部活の性質を考えてそう想像。

 佐々木さんも僕と同じように考えたのかはわからないけど、雨樋の中にいると思われる猫を探すのにこれが役に立つのは間違いないと、結局そんな結論に至ったのだろう。


「とりあえず、そのスコープに関しては猫ちゃんを助けてから問い詰めることにするわ」


 佐々木さんは元春が持ってきたファイバースコープについての諸問題は後回しに――、

 ただし、使った後はきっちりとその説明はしてもらうと、元春に持ってきたファイバースコープをセッティングを指示。


「じゃ、後は虎助が屋根に登って調べるだけだな」


「あ、それも僕がやるんだ」


「こういうのは俺がやるより、お前がやった方が上手くやんだろ」


 元春も写真部の活動で高いところでの作業に慣れているとはいえ、相手が生き物となるとどうなるのかわからない。

 ということで、元春からのご指名を受けた僕は、部室のすぐ外にある手すりを足場にして屋根の端っこを掴んで逆上がり。


「ちょ、ちょっ、間宮君、危ないわよ」


「平気だって委員長、虎助はこういうの慣れてっから」


 背中越しに聞こえた佐々木さんの悲鳴じみた声に、元春がフォローを入れてくれているのを耳にしながら屋根の上へ。

 そして、あくまで落下の勢いを弱らせる程度の気休めにしかならないが、登ったばかりの屋根の端に誘引の魔法を付与して、そこから繋がる魔力的なラインをベルトにつなげると、なだらかに傾斜している屋根に足を取られないように雨樋がある部室棟の裏側まで移動して、

 と、そんな僕の動きを見越していたかのように、女子テニス部の窓から顔を出していた元春が「おう、こっちこっち」と、モップの先に巻きつけたファイバースコープのカメラをこっちに寄越してくれるので、

 僕はそれを屋根から落ちないように手を伸ばして受け取ると、カメラから伸びるコードを屋根や雨樋に引っかけないように気をつけながら、屋根の端まで歩いて行くと、カメラについているライトのスイッチをオン。


「じゃあ、排水口の中にカメラ入れるよ」


 少し声を張って、部室に集まっていると思われる元春達にそう声をかけると、雨樋に溜まったに水を逃がす穴の中にカメラを挿入。

 すると、


「雨樋って思ったよりも綺麗なんな。もっと蜘蛛の巣とか張ってっと思ってたぜ」


「てか、それだと雨が降るたびに、巣壊れね」


「ああ、そっか――」


 元春達の呑気な会話はいいとして、


「あ、いた」


「かわいい子猫ね」


 意外にもすんなりと鳴き声の主は見つかったみたいだ。

 というよりも、カメラを入れた時点で光る二つのお目々が上からでも見えてたんだけどね。

 ただ、意外とカメラ越しにその光が映っていなかったのかもしれない。


「マジでこんなとこにいたんかよ」


 ふつうならこんなところに猫が入り込んでるなんてなかなか思わないもんね。

 ただ、この雨樋に入れるくらい小さな猫だから、偶然見つけが穴に潜り込んで、好奇心のままに進んでいたら、いつの間にかこんなとこまでよじ登ってしまったとか、そういうことなんじゃないかな。

 と、パイプの中にみっちり詰まった子猫に、僕がそんな推察をする中――、


「早く助けてあげて」


 階下から、そんな声を飛ばしてきたのは久保さんだ。


 うん。助けてあげたいのはやまやまなんだけど、問題はその方法だ。

 子猫がいるのは雨樋から一メートルくらいのところ。

 助けるだけなら、子猫が嵌っている雨樋から地面に繋がるパイプを切れば簡単なんだろうけど、それにはさっき誰かが言ったように学校の許可もいるだろうし、直接手を突っ込んで助け出すには雨樋の穴が小さすぎるし、なにより子猫の位置が遠すぎる。

 とはいえ、この距離なら誘引が届きそうではあるんだけど、問題はそれをどう使うかなんだよな。


 と、僕がか弱い鳴き声をあげる子猫を見ながら、どうやって助けたらいいのか、その算段を立てていたところ、どうやら元春になにか策があるようだ。


「虎助、カメラんとこにフックがあっからそれ使ってみたらどうだ?」


 と、そんな階下からの声にカメラを引き上げてみると、確かにそこには遠隔で動かせるフックが付いていて、


「ファイバースコープってこんなものまでついてるんだね」


「なんかそれ、排水口に落ちたものなんかを拾う時に使うみたいだぞ」


 成程、このスコープって、もともとそういう用途の商品なのか。

 でも、これならなんとかなるかもと、手元でフックの動きをチェックした僕は、穴の中にカメラを再挿入。

 狭い雨樋の中にカメラやら配線やらと少し見にくいが、屋根から落ちないように気をつけながら、カメラとその脇についていたフックをなんとか操り、子猫の首に巻き付いている首輪にフックの先を引っ掛ける。

 そして、一気に子猫を引き上げようとするのだが、ここで問題が発生する。


「ちょちょちょ、間宮君待って」


「猫ちゃんが苦しそう」


 どうやら救護対象の子猫ちゃんは雨樋のパイプにジャストフィットしてしまっているようだ。

 少し力を込めて引き上げようとしたところ、階下からの焦ったような佐々木さんと久保さんの声、そして、手元の雨樋の穴から少し苦しげな猫の鳴き声が聞こえてくるのだが。


「手持ちの道具で助けるならこの方法しかないよ」


 手段を選ばなければ、他にいくつか方法はあるんだけど、さすがにみんながいるここで使う手段ではないから。


「それはそうなんだけど……」


 久保さんも多分そのことはわかっているんだろうけど、それでも子猫が苦しそうにしていると口を出してしまいたくなってしまうみたいだ。


「だったら、これ使ったらどうだ」


 と、ここでまた元春がなにか取り出したみたいだ。


「何それ?」


「ローション」


「なんでそんなものを学校に持ってるのよ」


「紳士の嗜み?」


 元春のそれは絶対違うと思うんだ。

 ただ、せっかくあるんだからとの元春からの言い訳は一応まっとうなものであり?

 佐々木さんもモノはともかく、アイデアとしては悪くないと理解しているのだろう。得も言われぬ沈黙が数十秒間あったものの、最終的に部室の窓から顔を出した佐々木さんが「間宮君、お願い」と、そのローションを投げ渡してくれる。


 ちなみに、それを受け取った僕はというと、


 うん。それローション自体は、僕も話を聞いていたから特に驚きはないんだけど。

 なんでこのローション、味付きなのかな?


 その容器に書かれていた桃のマークと『ピーチ味』との説明文に、気分をげんなりさせられながらも、とにかく気を取り直して、


「流し込むよ」


「間宮君、猫ちゃんが溺れないように気をつけて」


「さすがにそこまで大量にはいれないから」


 久保さんの心配に若干ツッコミ気味になってしまったが、僕は排水口の縁を伝わせるようにローションを注ぎ込み。

 ローションの残りが、だいたい三分の二くらいのところまで減ったくらいのとこで、


「どう」


「おう、いい感じにぬめってるぜ」


「ぬめ猫だな」


 元春達の表現はちょっと引っかかるけど、ローションは目論見通りの役割を果たしてくれたみたいだ。


「じゃあ、今から引き上げるから」


 階下のみんなに声をかけ、


「そっとね。そっとだよ間宮君」


「わかってますから」


 久保さんのご要望に答えるように慎重に引き上げていくと。


「お、おお、ぬめってるぬめってる」


「頑張って、頑張って」


「もう出口が近いんじゃないか、明るくなってきたし」


「よっしゃ、外だ」


「虎助、滑らせて落とすなよ」


「わかってるよ」


 そんなことは元春に注意されるまでもない。

 ただ、これは猫の身体能力を考えると余計な心配かもしれないけど。

 僕は以前、テレビで見た鉄塔の上に登って降りられなくなった猫の救出劇を思い出し、救出した途端、手の中から逃げられても困るなと、子猫の頭を雨樋の穴の外へ出したタイミングで浄化ともう一つ、子猫の気を落ち着かせる魔法を発動。

 薄汚れた猫を真っ白に、そして暴れないように大人しくさせるたところで、


「じゃあ、猫を降ろすから誰か入り口の方に来てくれるかな」


「私が行くわ」


「待ってゆうちゃん。私も行く」


 と、ここで追加注文。


「あと、部室にバケツとかないかな。猫を降ろす時に使いたいんだけど、タオルかなんかあるといいかも」


「そうね。ローションが付いたままだと危なそうだしね。

 ちょっと待ってて」


 ちなみに、子猫はすでに浄化の魔法で綺麗になっているので、タオルに関しては単純にアリバイ作りでしかないのだが、何事も安全第一。

 助けた子猫を安全に下にいる佐々木さんに受け渡す為、バケツとタオルを探してもらった僕は子猫を小脇にそれを受け取ったところで、まず子猫をフローラルな香りがするタオルに包み、それをバケツの中にすっぽり入れたところで、タオルから顔を出している子猫が落ち着いていることを再確認。


「じゃあ、降ろすよ」


 そう言って、部室の入り口がある側の屋根から身を乗り出し、バケツを持った手を下げたところ。


「ゆっくりだよ。ゆっくり」


 待ち受けていた佐々木さんからの誘導があり。


「おっけ、掴んだ。委員長」


「大丈夫。バケツの中にいる」


 子猫の受け渡しが完了したところで僕も部室棟の屋根から降り、さっそく子猫を構い倒す佐々木さん達を傍に見て、


「思ったよりも大人しいなこの子猫」


「それは催眠の魔法をかけたからだね」


 僕が浄化の魔法と一緒に使ったのは催眠の魔法。

 日々、魔法銃の催眠弾を使う内、いつの間にかおぼえた魔法である。

 まあ、その威力は本当に微々たるもので、戦闘などにはまったく使えないものであるのだが、今回のような場合にはきちんと役に立ってくれるみたいだ。


 僕は子猫の元気の無さを心配しているのか――いや、元春に限ってそれはないか――そう呟く元春にその辺の事情をこっそり耳打ち。


「なんにしてもこれで爆上げだぜ」


「いや、それはどうかと思うよ」


 純粋に子猫の無事を喜ぶ佐々木さんと久保さんを横目に、そんな心の汚い発言をする元春。

 だが、君は忘れてはいないだろうか、救出に使ったファイバースコープのことで佐々木さんに目をつけられていることを――、


 ちなみに、助けた子猫は、その後、首輪に書かれていた連絡先から、無事に飼い主さんとの連絡がつき、佐々木さんと久保さんの送迎で家に帰っていったそうだ。

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