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ゴーヤ栽培でよくある問題

 それは夏真っ盛りの八月初めのお昼過ぎ――、

 午前中、部活動でなにかいいことがあったのか、ホクホク顔の元春が「うーす」と、いつものように軽い感じご来店、そのまま和室に転がり込もうとしたところ、カウンターの奥に置いてあったカゴいっぱいのとある夏野菜を見つけ、聞いてくる。


「んあ、この大量のゴーヤはなんなん?」


「ああ、これね。昨日のお祭り土産のお礼になるのかな。

 余った屋台料理をマリィさんや魔王様に持って帰ってもらったでしょ。

 そのお礼にって、今朝、トワさん達が届けてくれたんだよ」


 そう、このカゴいっぱいのゴーヤはガルダシアのお城で取れたゴーヤである。

 正確には、夏の日差しを和らげる為、ガルダシア城の各所に這わせてあるグリーンカーテンの副産物なのだが、ゴーヤでグリーンカーテンを作ったことがある人ならわかるだろう。一般住宅で作る分だけでも結構な量になるというのに、それがお城単位となったらどうなるのか、その結果がこのカゴいっぱいのゴーヤなのだ。

 まあ、これも一日で収穫できる分のほんの一部なんだけどね。


 というわけで、ガルダシア城のグリーンカーテンとなっているゴーヤの収穫量は予想以上のものがあり、そのまま腐らせるのも勿体ないと、『お礼になるのかわかりませんが――』と、僕が日課の訓練を行っている時にやって来て置いていってくれたのだ。


 と、そんな事情を説明したところ、元春が『ちょ、おま、トワさんが来たなら、なんで呼んでくんなかったんだよ』と結構無茶なことを言いながらも、興奮した様子で大きなゴーヤを一本掴み取って、


「トワさんが作ったゴーヤとか、こりゃ見過ごせねーな。貰ってもいいのか」


「これだけの量だからね。このままダメにするのも勿体ないし、持って帰ってくれるならありがたいけど……、変なことには使わないでね」


 なにをどうすると特定するわけじゃないけど、せっかくガルダシア城のみなさんがくれた野菜なのだ。食用以外に使わないで欲しいと思う。

 もったいないお化けが怖いからね。


 ただ、それは元春も重々承知していることだろう。

 なにしろこのゴーヤを持ってきてくれたのはトワさんだからね。

 神妙に頷く元春に、僕が「で、どれくらいもってく?」と訊ねると、元春は「そうだな」と腕組みをして、


「つか、ゴーヤってどうやって食うんだ?

 ゴーヤって、チャンプルに使うとか、それくらいしかイメージがねーんだけどよ」


 まあ、ゴーヤと聞いて、真っ先に思い浮かべる料理はゴーヤチャンプルだろう。

 というか、普段あまり料理をしない人だと、それくらいしか思い浮かばないのが普通だと思う。

 まあ、ここで元春にこのゴーヤを持って帰ってもらっても、実際にこれを料理するのは、元春のお母さんである千代さんになるだろうから、ここであえて具体的なレシピを言わなくてもいいとは思うのだけれど、取り敢えずここは参考にと。


「トワさん達はスープにしたりお茶にして使ってるって言ってたよ」


 ちなみに、ゴーヤはガルダシア領唯一の村であるコッペ村でも作っているらしいのだが、やはりその苦味がネックになっているようで、特に子供には人気がない野菜だそうで、大人が頑張って食べてくれているそうだ。


 とはいえ、それでも味はともかく、そもそも本当にここ数年でようやく寒村と呼べる状態を脱したコッペ村にとってゴーヤは希少な緑黄色野菜。

 ゆえに村人には、放っておいてもある程度育つゴーヤはかなりありがたがられているそうなのだが、多少なりとも我慢して食べてもらうというのはちょっと申し訳ない。

 ということで、『なにかレシピを考えた方がいいよね』と思った僕は、困った時のインターネット。ゴーヤのレシピで検索を掛けてみると、種類こそあまり多くはないのだが、それなりの数のレシピが引っかかる。


 ちなみに、それらページを見ると、やっぱり定番はチャンプルみたいだ。

 後は苦味も抑えられる肉味噌炒めが人気になってるかな。

 それ以外はチャンプルからの派生料理とか、スープやサラダに使うのに苦味を少なくする調理法が幾つか乗っているくらいかな。

 中にはゴーヤの肉詰めなんてレシピもあるみたいだけど、やはりゴーヤそのものの苦さがちょっと気になるというコメントがちらほら見受けられるので、やっぱり、ゴーヤに慣れていない人に食べてもらうには味噌炒めが一番になるみたいだ。


 ただ、肉味噌炒めってことになると、元春やガルダシア城で消費する分はともかく、一番ゴーヤを食べて欲しいコッペ村で作るのは難しいんだよね。

 ゴーヤチャンプルにしても、鰹出汁とかカツオ節が結構重要な役割を果たしているというから悩みどころだ。


 でも、ゴーヤチャンプルに関してはふつうにダシの効いた素材を使うことが重要みたいだから、ベーコンとか干し肉でも代用できるのかな。

 本当は、マリィさんのところでも、カツオ節――は無理でも、田舎味噌とかそういうのが作れればいいんだけど。

 今の時期から味噌を仕込むのは難しいから、それはおいおいトワさんに相談するとして――、


 と、僕がアレコレ悩みながらも、とりあえず使えそうなレシピをメモに残していると、元春がまた何も考えていないような顔で聞いてくるのは、


「虎助、さっきからなにウンウン唸ってんだ?

 ちゃんとレシピは見つかったんだろ」


「ん、ああ、そうだね。ゴーヤのレシピはいろいろ見つかったんだけど、マリィさんのところだと調味料が手に入らないって思ってね」


「ああ、万屋で買い物が出来るマリィちゃんはいいけど、他の連中がな。

 でもよ。そういうのって錬金術とか使えば簡単に作れるんじゃね」


 成程、言われてみれば――、

 そう思って調べてみると、どうも錬金術にそういう魔法があるみたいだ。基本的にはちょっと特殊なワインを作るのに使う魔法みたいだが、これを応用すればわりと味噌も作れるかもしれない。


「ちょっとオーナー(ソニア)に頼んでみようかな」


「ん、ソニアっち、いま忙しいんじゃなかったん?」


 メタルカーバンクルに迷宮、空中要塞の調査にその他諸々と、ソニアはここのところ忙しくしているけど、


「別にそれにかかりっきりって訳じゃないからね」


 『息抜きがてら気が向いたら作ってよ――』くらいの軽い感じで言っておけば、モノ作りが趣味のソニアのことだ、適当に暇な時間を見つけてパパっと作ってくれると思うんだ。


「しかし、錬金術で味噌作りか――、

 つかよ、それならゴーヤそのものを錬金術でどうにかしてもいいんじゃね。

 ゴーヤってメッチャにげーし、なんかすっけーポーションとかできそうじゃね」


 いや、苦いからって魔法薬の素材にできるとか安直な……、

 でも、ゴーヤ茶なんかは健康食品の部類に入るし、そもそも乾燥ゴーヤって漢方になるんじゃなかったかな。

 最初はどうかと思ったけど、元春の意見としてはそんなに悪くないのかもしれないな。

 と、ここはソニアに任せるだけじゃなくて、こっちでもいろいろと動いてみようと、僕は元春の思いつきを採用して錬金釜を取り出すと。


「とりあえず何か作ってみる?」


「トワさんが作ってくれたゴーヤだからな。きっちりかっちり使ってやらにゃなんねーだろ」


 いや、このゴーヤ全部をトワさんが一人で作ったワケじゃないんだけど。

 とはいえ、これだけの量だ。

 元春に持って帰ってもらわないと消費しきれないから、細かい指摘はしないようにして、


「まずはやっぱり乾燥だよね」


 とりあえず、健康にいいとされるゴーヤ茶を参考にということで、適当な大きさのゴーヤをナイフでスライスして、それを錬金釜の中で乾燥させる。

 そこにディーネさんのところから引き入れている精霊水を注ぎ込み、その水をしっかりと乾燥したゴーヤに〈浸透〉させた上で〈加熱〉と〈分解〉を重ね掛け、さらに〈魔力付与〉を発動すると、完成したのはなぜかきれいな黄色をした液体だった。


 さて、問題は完成したこの液体の味と効果なんだけど……。


「じゃあ、元春、飲んでみようか」


「なんでだよ。お前が作ったんだからお前から飲めっての」


「はいはい」


 と、そんなちょっとした冗談を挟んだところで、一応、安全性を確認して、僕自らが試飲してみることにするのだが、


「ん、うっすら甘い、かな」


「おいおいマジかよ」


「飲んでみる?」


「……そうだな。トワさんが作って――(以下略)」


 正確にはトワさんは関わっている程度だと思うけど……、

 僕からそのポーションを受け取った元春はその液体を覗き込むようにして、


「なあ、コレ、本当に大丈夫なんだよな」


「大丈夫、大丈夫。鑑定もしたし、僕も飲んだでしょ」


「いや、お前の場合、前科があるからな」


 前科ってなんだったっけソレ?

 もしかして前にゲートに流れ着いたシトラスパーム(異世界の椰子の実)の時にしたイタズラのことかな。

 だけど、今回は演技なんかはしていない。


「わかったよ。トワさんが作ったもんだしな」


 うん。もう一度言うよ。このゴーヤを作ったのはトワさんだけじゃないからね。

 なんていうか、ここまでくると、ただそう信じたいだけのように聞こえてくるね。


 と、僕が心の中でそんなツッコミを入れている間にも、元春も覚悟を決めてくれたみたいだ。錬金釜からコップに注いだその液体を口に含み。


「たしかに甘い感じだな」


「でしょ」


「まあ、うまいかっていわれると微妙だけどな」


「うん……」


 この魔法薬の味はあくまで薄っすらと甘いというだけで、ちょっと変わり種のフレーバーウォーターを飲んでいるようなものなのだ。


「効果は?」


「風邪薬みたいだね」


 実験で作った魔法薬に、わざわざ〈金龍の眼〉を使う必要がないだろうと、試飲する前に使ってみた鑑定魔法によると、どうもこのゴーヤを主成分にした魔法薬は風邪によって発生する諸症状の改善に効果を見込めるようである。


「なんで、そうなったんだ」


「さあ。

 でも、ゴーヤ茶に免疫力を高めたりするらしいから、そういうのが関係してるんじゃない」


「そうなん?」


「他にも血糖値の上昇を抑えるとかあるみたいだけどね」


 錬金術の効果でそっちに特化したって感じかな。

 でも、ゴーヤ茶に血糖値を抑える作用があるのなら、加工の仕方によっては糖尿病予防の薬も作れるのかも。

 まあ、作れたからってどうだって話になるんだけど。


「後はこの薬が普通の水でも作れるのかとかの検証をすれば、マリィさんの領地でも役に立つんじゃないかな」


「ああ、そういえば、マリィちゃんの地元って冬はスゲー雪が積もるんだっけか」


「うん。冬になると病気が増えるみたいだからね。この魔法薬はかなり役に立つと思うよ」


 その後、このゴーヤで作る風邪薬は、効果は落ちるものの普通の水でも作れることがわかり、村人たちからは喜ばれ、さらに冬に訪れた商人によってその魔法薬の効果がかなりのものだと判明し、新たな村の特産品として売りに出されることになるのだが、それはまた先の話。

◆ちなみに、黄色く完熟したゴーヤを料理に使えば苦くないのですが、個人的に熟して柔なくなったゴーヤって苦手なんですよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] これ水薬ですよね 時期や輸送を考えると粉末に出来れば最高なのでしょうけど… そっちは失敗だったのかな? 虎助ならそこも試しそうな気がするけど まぁただ乾燥させれば良いってものじゃないんでしょ…
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