作戦終了と夏祭りのお土産
小さな水の精霊達の救出作戦の翌日も精霊の探索は続いた。
そのおかげもあってか、ニュクスさん――もとい、アウストリさんから上がってきた情報を基に、探索を続けていた範囲での精霊たちの無事がほぼ確認された。
ちなみに、その際に見つけた精霊たちのほとんどは、今の棲家が気に入っているということで、簡単に結界装置を設置して、出来るだけ人間に見つからないような処置を棲家の周囲に施しただけなのだが、中には魔獣の影響で棲家が荒れていたり、人間の進出によってそこが住みづらい土地になっていたりと日々の暮らしに困っていた精霊が数名いたりして、その精霊達には魔王様の拠点にお引越ししてもらうこととなった。
問題は今回の調査範囲から漏れている精霊なのだが、こちらはここまで調査結果をあちらの地図に反映させて、妖精飛行隊のみなさんが鋭意創作中ということで、僕達は待つしかないというのが現状だった。
さて、そんなこんなで残る精霊の捜索作業はコツコツやっていくしかないということで、ここいらで少し休憩を入れようかとしたところ、ちょうどそのタイミングなってゲートから光の柱が立ち昇る。
どうやら元春がやって来たみたいだ。
ゲートにつめるエレイン君とカリアからの報告が届いてすぐ、店のスライドドアがカラカラと開き。
「よっす。お土産持ってきたぜ」
両手いっぱいに袋を抱えた元春がお店の中に入ってくる。
「あら、今日は大荷物ですわね」
「ん、マリィちゃん虎助から聞いてないん。
今日、俺等の地元で夏祭りがあったんすよ」
そう、本日僕達の地元では夏祭りが開催されていた。
ということで、前もって元春に、もし余裕があったのならお祭りの屋台グルメを幾つか買ってきてくれとに頼んでおいたのだ。
「でも、思ったよりもこっちに来るのが早かったね。しかも一人で――」
そう、なにも元春は一人でお祭りに行っていたのではない。いつものようにいつものメンバーで古い言葉で表現するところのガールハントに繰り出していて、場合によってはこっちに来れなくなるかも、いやむしろいけなくなる可能性が高いからと、そう言っていたのだが、蓋を開けてみればこんな夕方前の時間に元春が来てくれたというワケだ。
しかし、こんなに早くにこっち来たということは――、
僕がそんな伺うような視線を、チラリと元春に向けると、元春は『皆まで言うな――』とばかりに瞳のハイライトを消して、
「いろいろあったんだよ。いろいろ――」
ああ、このリアクションからして、また向こうでなにかやらかしたんだろうなあ。
とはいえ、それがどんなやらかしにせよ、この話題を深く掘り下げるのは、また面倒なことになりそうだということで、ひよりちゃんに祭りに誘われているという正則君の話題は当然として、他の友人達はどうしたのかとか、ともすれば地雷になりそうな質問はしないようにして、
「それで、元春はなに買ってきたの?」
「ん~、定番から変わり種まで適当に買ってきたから本当にいろいろだな」
気を取り直すように聞くのは、元春が両手に抱えてきた袋の中身とマジックバッグから次々取り出すお祭りグルメ。
たこ焼きに焼きそば、たませんにじゃが丸君、焼き鳥にフランクフルト、モチモチ食感のポテトにスパゲッティの乾麺を揚げたもの、チョコバナナにあんず飴と、他にもいろいろと定番のものから、珍しいものまで買ってきたみたいだね。
「しかし、また大量に買ってきたね」
「軍資金をたっぷりもらったからな。それに余ったら余ったでクアリアにしちまえばいいだろ」
ああ、お祭り会場で義姉さんに集られたりとか、なにかあった時の為に、多めに渡しておいたお金を全部使い切っちゃったって感じかな。
でも、たこ焼きとか、お好み焼きとか、柔らかめの粉もの料理なんかは、クアリアとは相性が悪そうなんだけど、余った分は魔王様とマリィさんに持って帰ってもらってもいいだろうし、最悪バックヤードの保管庫に入れておけば大丈夫かな。
と、僕がこうしている間にも食べ物で埋まっていく和室のテーブルにそう苦笑していると、マリィさんがクイクイと僕の着る甚平の袖をひっぱって聞いてくるのは、居並ぶ屋台グルメの片隅にひっそりと置かれていた飴細工。
「虎助、あれはなんですの?」
「ああ、それは飴細工ですね」
「これが飴ですの?」
「……飴?」
東洋の龍を形どったそれを手に聞いてくるマリィさんの質問に答えると、マリィさんがそのドラゴンをまじまじと見て驚く。
そして、これは魔王様も興味津々のご様子で、いつも眠たげにしている目をパチパチと瞬かせ、可愛らしいイルカの飴細工を見つめていた。
「あの、虎助の世界に錬金術師はいなかったのではありませんの」
と、マリィさんはこの飴細工が錬金術で作られたものと解釈したのかな。
でも――、
「これは純粋に飴を加工する技術が凄いだけですね。熱で柔らかくした飴をこねて切って形を整えていくんです。動画サイトとかにも上がっていますから見ますか」
「是非に――」
「……見たい」
ということで、僕はマリィさんの勘違いを正すべく、温かいうちにと元春が買ってきてくれた屋台料理を二人に進めながらも飴細工関係の動画を開き、それを屋台グルメ片手にみんなで鑑賞することになったのだが、その動画で紹介される職人さんの手際は、そういうものがあると知っている僕ですら感心するレベルのものであり。
「凄まじいですわね。こんな透明感のあるお魚が飴で作れるだなんて魔法のようですの」
元春に進められたチョコバナナを手にマリィさんがそう言えば、
「……綺麗」
休憩中の妖精さんとベタベタになりながら、危なっかしくもあんず飴を食べていた魔王様がうっとりと画面を見つめる。
ただ、こういう動画サイトのトップに上がってくるような職人さんは、本当のその道のトップの人達であるからして、
「さすがに、町のお祭りなんかだとこのレベルの職人さんはそうそういませんけどね」
場合によっては、細かなリクエストなんかに答えてくれたりする職人さんが来ているんだけど、こういうお祭り屋台に来てくれる職人さんは、基本的なパターンを幾つか、色のリクエストに答えながら作ってくれるくらいである。
「しかし、これを作れる職人は市井にいるということですよね」
「そうですね」
一人の職人さんがいくつもの祭りを渡り歩いているってこともあるんだろうけど、全国各地で開かれるお祭りの数を考えると、職人の総数でいえば、それなりのものになるんだと思う。
「けどよ。この動画レベルの飴になると食べるのがもったいないよな」
そう言いながらも、元春はたこ焼きの口直しにか、買ってきた飴細工の中の一つ、東洋風のドラゴンが巻き付くデザインの飴細工を口に放り込む。
すると、そんな元春の行動にマリィさんと魔王様が大きく目を見開いて、
「貴方、何をしていますの!?」
「なにって、俺、なにかしちゃったんすか」
チョコバナナを突きつけるマリィさんからの叱責じみた声に、元春がどこぞのチートキャラのように、きょとんと訊ね返すも、
「なにかしたかですって――、
貴方、自分がなにを口に入れたのかわかっていませんの。
それは私が持って帰ろうと飴細工ですの」
「あ――、そうだったんすか、すんません」
どうやら、元春が口に入れたその飴細工は、マリィさんが持って帰ろうと狙っていた飴細工だったみたいだ。
ただ、素直に謝る元春にマリィさんは怒り心頭。
そして、この飴細工に関してはひとっ走りすれば二十分とかからずに買ってこれるものだから。
「まあまあ、マリィさん。
その飴なら後で僕が買いに行ってきますから――」
地元の祭りは夜の八時頃までやっている。
なので、小腹を満たした後に向こうに戻っても十分に間に合いますからと、僕はマリィさんを宥めつつ、『とにかくマリィさんの気を紛らわせて怒りを沈めないと――』と、テーブルの上の食べ物に視線を走らせ。
「ん、これって――」
ふと見つけたのは、たしかチキンオーバーライスだったかな。ニューヨークで人気のB級グルメ。
ライスの上に咲かれたチキンとレタスなどの野菜、何故かピタパンがその上からヨーグルトソースとレッドソースをかけた屋台ご飯だ。
「今年はこんなのも売ってたんだ。
しかも、わざわざインディカ米を使ってるとか本格的だね」
「ああ、そりゃ島村さんの屋台だからな」
成程、島村さんならさもありなん。
「虎助、その島村さんというのは?」
ただ、この何気ない脱線が功を奏してくれたみたいだ。
飴細工から、僕が注目したチキンオーバーライスというよりも、島村さんに興味を移してくれたマリィさんに、僕は心の中でホッと息を吐きながら。
「近所のご隠居さんですよ。料理と旅行が趣味で、お祭りになると毎年ちょっと珍しい食べ物屋台を出してくれるんです」
しかも、その屋台も自腹で出すというから驚きである。
そんな道楽者のご近所さんの話をしながらも、このまま一気にマリィさんの気を逸してしまおうと、僕はそのチキンオーバーライスをマリィさんに差し出して、『味を見てみますか』と勧めながらも元春に目をやり。
「そういえば夏祭りの方はどうだった?」
「アッ、ウン、ナニモナカッタヨ」
いやいや、ここで落ち込むのはいいから――、
さっきまでの元気はなんだったのかといわんばかりに、どんよりとした空気をまとう元春に面倒臭さを感じながらも、僕は元春の為にもこの勢いを止めるワケにはいかないと。
「ほら、義姉さんもいたでしょ。なにかあったんじゃないかって思って」
「ああ、そういうことか、それならいつも通りだったから大丈夫だろ」
「いつも通りって、それはそれで問題だらけだと思うんだけど」
義姉さんのいつも通りといえばバイオレンスな騒動がついて回るのが必然だ。
もしも、お祭り会場でなにか迷惑をかけたのだとしたら、後でなにかフォローをしなければならないと、僕はそう言うのだが、実際に現場を見てきた元春は意外にも呑気なもので、
まあ、むかしから義姉さんの暴れっぷりには慣れてるってこともあるだろうけど……、
「つってもなあ。志帆姉もここでパワーアップしてっだろ。だから瞬殺だったぜ」
「それって手加減とかしたりしてたのかな」
「手加減? 志帆姉にそんなことできるわけねーだろ。ぜんぶ全力ワンパンだっての」
「いや、ぜんぶ全力ワンパンって――、それ死人とか出てないよね」
「それは――」
「あの、随分と物騒な話ですが、志帆はお祭りでいったいなにをしでかしていますの」
マリィさんも元春から聞く義姉さんの話に、さっき元春がやらかしたことはすっかり記憶の彼方か、そんな疑問符を浮かべるのだが、
「義姉さんがしでかすというよりも、義姉さんって見た目はいいですから、お祭りみたいに人の多い場所に行くと、自然とトラブルの方から寄ってくるんですよ」
「ああ、わかりますわ」
おっと、この反応はマリィさんにもそういう心当たりがあるのかな。
もしかすると、ダンスパーティのような場で似たような状況になっちゃったとかあったのかもしれない。
僕は説明に物凄く納得したようなマリィさんに、そんな想像をしながらも、ただお祭り会場での義姉さんの行動が気になると、
「それで、元春、相手は大丈夫だったの?」
「大丈夫だって、お前が作ってやったグローブ嵌めてたから」
「それなら――」
いや、それはそれでどうなんだ。
僕が作ってあげたグローブというと、正月に義父さんに作ったヘルメットと一緒に作ったグローブだよね。
たしかに、あれには安全装置をつけていたんだけど。
それでも、母さん監修の下、アヴァロン=エラで修行を積んだ義姉さんの全力ともなるとどうなるのかわからない。
「うーん。マリィさんのリクエストもあるから、ちょっとひとっ走り見に行って来たがいいかな」
「かもな。
あ、でも、どうせ向こう行くんだったら、ついでにヤキソバ追加で買ってきてくんね。
なんかマオっちが食いたそうにしてるから、俺の分を」
「はいはい、じゃあちょっと行ってくるから、店番の方を――ベル君お願い」
「俺に頼むんじゃねぇのかよ」
◆ちなみに屋台グルメの中にある『たません』というのは、名古屋の周辺(?)で食べられている、大きなえびせんべいを焼いて半分に切り、その間に目玉焼きorスクランブルエッグを乗せ、ベーコンやチーズヤキソバなどをトッピング、マヨネーズで味を整えたB級グルメとなります。
大阪のたこせんと同系統の駄菓子屋グルメになると思います。




