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●とある旅路の乙女達・赤※

◆今回は食いしん坊女子五人組『赤い薔薇』の面々を中心とした少し長めのお話となります。

 場所は迷宮都市アムクラブに続く街道から少し外れた森の中、

 食いしん坊ばかりが揃った女性パーティ『赤い薔薇』は、依頼に向かう行き掛けにとあるフルーツを採取を目論んでいた。

 それは、巨大草の天辺になるバナナのようなフルーツ『フォセジ』。

 しかし、いざその巨大草を発見し、その実を収穫しようと、パーティの中でも身軽なセウスとポンデの二人が巨大草を登り始めたところ、熟した果実の匂いに釣られてか、小型ながらも突進力がずば抜けて高いイノシシ型の魔獣クラッシュファングの群れが巨大草の袂に襲来。


「ロッティ気をつけてください。時止めの箱はユザーン様からの預かりものなのですよ」


「わかってんだけど。こいつ等、数が、多いんだって」


 山雪崩のように突っ込んでくるクラッシュファングの群れに、赤い薔薇の前衛陣、クライとロッティが、それぞれに武器を構えて応戦する。


「セウスさん。ポンデさん。まだですか」


「あと少しよ。

 でも、せっかくの果実を傷物にするわけには行かないでしょ」


 ちなみに、そんな二人の後方では、水の魔法で防御膜を作る小柄な少女ニグレットが巨大草を見上げ、樹上――もとい、草上のセウスとポンデに緊急を伝えるのだが、二人は収穫に手こずっているようだ。

 降りてくるのには時間がかかるらしく。

 こうなってしまえばクラッシュファングの対応は残った三人でしなければならないと、

 結局、クライが自慢の鎧で壁役に徹し、ロッティが冒険者が持つには珍しい大鉈を武器に、切り込み役を担うという、いつもの役割分担でクラッシュファングの数を着実に削っていき。

 途中、少々押し込まれそうな場面はあったものの、どうにか群れの討伐に成功し。


「大変でしたね」


「二人が上に上がった途端だもんな」


「けど、成果は上々よ」


 安堵する三人の手前――、ようやく戻ってきたセウスとポンデが下ろすバックパックの中には、これでもかと甘い香りを放つ湾曲した赤い果実がぎっしりと詰まっていた。


「高く売れると良いんですけど」


「こいつの肉も売れるんじゃないか」


 さっそくとその一つ味見と皮を剥き、フォセジに齧りつくロッティ。

 そんな彼女が見下ろす先にあるのは、いま仕留めたばかりのクラッシュファング。


「そうですね。あの店にはオーク肉の買い取りもありましたし」


「この時期の魔獣はフォセジばかりを食べていて、美味しいって噂だから丁度いいんじゃない」


「そうなのか、だったら解体ついでに昼飯にしようぜ」


 セウスの情報に目を輝かせるロッティ。

 だが、そんなロッティの動きを封じるように、クライが彼女の背負う大きな木箱をガシッと掴み。


「その前に、時止めの箱に傷がついてないかを調べておきましょう」


「別に猪豚の攻撃は全部クライが受け止めてくれただろ」


「いえ、これは借り物なんですから、念には念をいれないと」


 そのまま時止めの箱に傷がついていないかをチェック。

 ロッティはそんなクライをなすがままになりながらも。


「しかし、今更だけど、何だっけ?

 あの店で買ってきた魔法の缶詰みたいな――」


「クアリア?」


「そう、あれがあればコイツを借りてこなくてもよかったんじゃないか」


 ちなみに、いまセウスが口にしたクアリアというものは、これから五人が向かおうとしている商店において、食材の保存に使われる特殊な結界技術のことである。

 ロッティは『それがあれば自分が背負っている保存の魔法が付与された箱は必要ないのでは?』と主張するのだが、


「行ってダメでしたではいけませんから」


「まあ、そりゃそうなんだけど」


 今回、彼女たち――赤い薔薇が受けた依頼は、迷宮都市のダンジョンから転移することが可能な、その商店から新鮮かつ希少な食材を持って帰ることにある。

 故に、確実にその任務を果たす為にも、事前の準備は必要であり。

 そんなクライの説得が通じてか、まだ文句を言いたそうにしていたロッティは、結局おとなしくクライによる箱のチェックを受けて、ようやくのランチタイム。

 すると、ロッティは今の今まで浮かべていた不満そうな顔を一転、キラキラとしたものに変え。


「おっしゃ飯だ飯、さっさと食おうぜ。

 解体はアタシとポンデでやるから、クライとセウスは鉄板の準備な」


「はいはい」「任せてくれ」


 俄然やる気を見せるロッティにクライが苦笑いで用意するのは自分の盾。

 鉄板代わりに使えるそれに浄化の魔法を掛け、セウスが用意した組み立て式のかまどの上に設置、かまどの中に魔法の火を入れていく。


 と、そんな二人の一方で、クラッシュファングの解体役を買って出たロッティは、先に解体を進めていた寡黙な斥候ポンデと協力して、その内の一頭を解体し。

 まだ未解体のクラッシュファングの内、小柄な個体数匹に浄化の魔法をかけながらも、先に切り取っていた肩の塊肉を渡しておいたニグレットに声をかける。


「なあニグ。

 もっと分厚くてもいいんだぞ」


「けど、それだとロッティさんのステーキだけ火が通る時間がかわっちゃいますよ」


「浄化も掛けたし大丈夫だろ。それにレアでも問題なしって鑑定ででてるから――」


「すっかり使いこなしてるわね」


「だって、浄化とか鑑定って美味いもんを食うのに必須だろ」


 ロッティはもともと魔法の才能にあまり秀でていない。

 しかし、それが美味しい食事の為とあらば、多少の困難もなんのその。


「ってことでクライ」


「わかっています。いつも通りで良いんですね」


「頼むぜ」


 よく熱せられた鉄板のような盾に四枚のステーキが並べられる。

 じゅうと音が鳴り、熱せられた肉の表面が引きつるようにキュッと縮む。

 そして一分、片面を焦げ目がつくまで焼いたところでひっくり返し。

 ここでクライは鉄板(たて)をあおる火を弱めると。


「セウス。蓋を」


「了解」


 クライに言われ、セウスが発動させるのは風の魔法。

 本来それは周囲の空気を圧縮することで盾を作る魔法であるが、使い方によっては料理の時の蓋の代わりとなるのだ。


「味付けはどうすんだ?」


「肉本来の美味さを考えてハーブソルトとかでしょうか」


「この豚なら醤油の方が合うじゃね。ジンジャとハチミツ混ぜたやつ」


 ロッティからの提案に悩むような表情を見せるクライ。

 しかし、彼女はすぐに首を横に振り。


「今日は塩にしておきましょう。

 醤油は残り少ないですから、旅の途中での食事を考えると少しでも残しておきたいです。

 他の調味料はほぼ品切れ状態なので」


「けど、うまい肉だからこそ、ここで使っちまうってのもありじゃないか」


「それは、そうかもしれませんが――」


「悩みどころですよね」


 できることなら最高の味付けで食べたいが、残る旅の行程を考えると余力を残しておきたいのもまた然り。


「ただ、アムクラブまでの距離を考えるとクライの言うことももっともよ。醤油が使いたいなら、あっちで使えばいいじゃない」


 この発言が決め手となったか、ロッティも渋々納得。


「しょうがねぇな。絶対だぜ」


「わかりました。約束します」


 その後、彼女達は取れたての肉に舌鼓を打って、これからの旅路の英気を養うのであった。





 場所は移って、迷宮都市アムクラブ――、その中心街に建つ酒場『発見殿』。

 早い安い美味いと三拍子が揃っており、迷宮に潜る探索者が日々集う店だ。

 そんな人気酒場で赤い薔薇の面々は、希少なカレー粉をたっぷり効かせた鶏肉料理カレラワレラに舌鼓を打っていた。

 ただ、その表情は思っていたものより明るくはなく。


「はぁ、旦那のところで食べたドラゴン焼き、うまかったな」


「なんです。藪から棒に?」


「だってこれ、ほとんどそのまんまの料理だろ」


 ロッティがため息と共に口にしたのは、懇意にする貴族・ユザーンの屋敷で食べた龍種の肉を使った料理。

 それは、前回の依頼の終わりに、ねぎらいを兼ねて屋敷の料理人の手によって作られた料理であり、数々の美味な食材を口にし、舌が肥えている赤い薔薇の面々からしてみても極上の料理であった。

 そして、いま目の前にある料理はたしかに評判になるような料理であるが、以前食べたそれに比べると、どうしても劣化版としか思えなくて……、


「たしかに、屋敷で食べたカレー粉をまぶしたドラゴン肉は美味しかったわね」


「でも、ホロロロックもカラアゲにすればぐんと美味しくなりそうですよね。

 特に皮をパリッとさせたのにカレー粉をまぶしたりすれば」


「それ、良さそうね」


「あの店に行った時に試してみます?」


 このニグレットの提案でいったんは止まるかに思えた愚痴。

 しかし、今度はそのニグレットがテーブルの上のカットフルーツに目をやり、気が抜けたような顔をして、


「私としてはデザートが不満ですね」


「こちらでは単に切り分けたフルーツがせいぜいですからね」


「せめて井戸水に浸すなりして冷えていればまた違うのですけど」


 そう言いながらニグレットがフォークに刺したダンジョン産のフルーツをパクリ。

 モムモムと微妙な顔で口を動かしているとだ。


「あいかわらずだな。小娘共」


 ここで声をかけてきたのは中年と呼ぶには年重の褐色肌の男だった。


「お、ゲーニカのおっちゃんじゃん。久しぶりだガッ――」


 年上に対するには気安いロッティの挨拶にクライの拳骨が落ちる。

 そして、「「「お久しぶりです」」」「……」とクライを含めた四人が頭を下げたところで、ロッティからゲーニカと呼ばれた褐色肌の男が「お前等は相変わらずだな」と苦笑。

 エールの入ったゴブレットを片手にテーブルの開いている席に座ると。


「で、お前等は今回もまたなんとかって盟主の依頼でここに?」


「はい。今回は量より質と依頼主からこんなものまで渡されてしまいました」


 ふだん装備している鎧を半分脱いだクライが視線を送るのは、椅子に座るクライの胸くらいまである木の箱だ。


「時止めの箱とはまた剛気なことだな」


「マジックバッグもありますよ」


「おいおい、時止めの箱だけならまだしも、んなもんこんなとこで持ち出すんじゃねぇよ」


 クライに続きニグレットが見せる肩掛けカバンにゲーニカが慌てるのは、その両方が希少で貴重なマジックアイテムだからである。

 ただ、彼女達がここでその二つを明らかにしたのには理由があって――、


「商業ギルドだけでなく国の刻印がつけられているものを奪い去るような愚か者はいませんよ」


 そう、この注目が集まる中、あえて赤い薔薇の面々が情報を晒したのは、余計な面倒事への牽制であった。

 時止めの箱にマジックバッグ、その両方にデカデカと刻印される二つのマーク。

 それは、一つは国が、そして世界的なギルドがその所有権をしっかりと保証するという印であり、たとえこれを奪い取ったとしても、売り捌くことはほぼ不可能という証明で、最悪、行き着く先が断頭台ということもありえるものだった。


 と、そんな話が周囲の耳にも届いたのだろう。

 一部、クライ達の手荷物に向けられていたギラギラとした視線は潮が引くように消えてなくなり。

 それはゲーニカも望む展開だったようだ。

 湿熱とした視線が途切れたこのタイミングで切り出すのは、


「お前らに一つ頼みたいことがあるんだが」


「頼み事、ですか?」


「お前等これからあっちにいくんだろ。仕入れてもらいたいものがあるんだよ」


「おっちゃんが自分で行けばいいじゃん」


 詳細を省いた会話の最後、ゲーニカのお願いに対するロッティの言葉――、

 それは突き放すように聞こえるものだったが、実際は純然たる事実を告げたものだった。

 そして、ゲーニカもそんなロッティの性格は承知しているのだろう。ロッティの物言いに軽く笑みを浮かべつつ。


「もちろん俺も向こうに行くが、それでも需要が足りてなくてな。挨拶ついでにお前さん達にも頼めないかってこうして出向いたってわけだ」


 そんなゲーニカの言い分に、赤い薔薇のメンバー一同――、特にリーダーを務めるクライは納得しながらも、目の前にある料理に目を落とし。


「しかし、この物が溢れる迷宮都市で需要が足りてないものとなると、我々ではあまり協力できないものなのでは」


 今回クライたち赤い薔薇に出された依頼の中には調味料の入手も含まれている。

 もしも、ゲーニカの依頼がカレー粉などの調味料に関係するのなら、協力は不可能だとクライは言うが、それにゲーニカはひらひらと手を横に振り。


「いやいや、そっちはそっちで品薄なんだが、お前らに頼みてぇのはこっちだ」


 取り出してみせたのは青、赤、黒と手の平サイズの金属板。

 クライ達はその見せられた金属片をじっと見詰め。


「カード?」


 首をかしげる四人に「あの店に行ったってのに知らねぇのかよ」と、ゲーニカはわざとらしくため息を吐くも。


「まぁ、お前たちらしいといえばらしいんだが」


 すぐに諦めたように首を振り、このカードがなんなのかを簡潔に説明する。


「こいつは万屋で売ってる精霊と契約が出来るカードだ」


「精霊と契約ですか?」


 ここで強い興味を示したのは赤い薔薇で唯一の魔法特化型であるニグレット。

 主に防御と回復を担当する彼女にとって、場合によっては護衛的な役割も担うことが出来る精霊との契約は聴き逃がせないものだったからだ。

 一方、赤い薔薇のリーダーであるクライが気になったのはカードそのものの価値で、


「しかし、そのカード、性能もさることながらその見た目です。お高いのでは?」


 そのカードは、その色や質感から魔法金属から作られているものだと推測できる。

 ならば、『お値段もそれなりにするのでは?』というのがクライの懸念であったが、ゲーニカは、


「いや、そうでもねえ。契約できる精霊もお前らが想像しているよりも弱いだろうしな」


「弱いんなら意味なくないか」


 ゲーニカの弱いという言葉にガッカリしたというよりも、興味がないといった顔をするのはロッティだ。

 しかし、ゲーニカはそんなロッティの反応に、ニヤリと少し挑発的な笑みを口元に作ると、自分のカードを構え。


「こいつは野営の時なんかに重宝するんだよ。

 なにより精霊たちは気のいい奴らだからな。仲良くなりゃ、自分達から、俺らの為に色々してくれる。

 こんな風にな」


 カードに魔力を流して呼び出すのは氷の手。

 そして、ゲーニカが呼び出したその手に「いつもの頼むぜ」と囁きかけると、氷の手はゲーニカが持ってきたエールのゴブレットを掴み冷気の放出。


「ま、こんな感じだ」


 美味そうにエールをあおるゲーニカの姿に大きな反応を見せたのは、先ほど、(ぬる)いカットフルーツを不満げに食べていたニグレットだ。

 ニグレットは「この果実も、この果実も冷やしてください」と、さり気なく自分の要望も入れながらも。


「契約する精霊はどのように決まるのですか」


「契約の時にこっちの要望をある程度くみ取ってくれるって話だ。

 ただ、精霊だからな相性がよくなきゃ思い通りにってわけにはいかねぇみてぇだがな」


 そう、要望は要望として、あくまで選ぶ側は精霊である。

 その前提を間違えてはいけないと言うゲーニカにクライは難しい顔をしながらも。


「これは我々も手に入れるべきでしょうか」


「そっか? 力は微妙なんだろ」


「バカね。それでも私達に合わせられる人材っていうのは貴重でしょ」


「ああ――」


「それにゲーニカさんと同じような精霊さんと契約できたらアイスが作れますよ」


 と、欲望に正直なニグレットがよく冷えたフルーツを食べているのを見てしまえば、ロッティも納得せざるを得ない。


「それで、お前らにもこいつを仕入れてきて欲しいんだが、どうだ?」


「そうですね。興味がありますし、ものがものですので、多少で構わないというなら持って帰れるかと思うのですが」


 クライの了承に「おお」と喜ぶゲーニカ。

 しかし、ここでロッティがテーブルに片腕を乗せて身を乗り出し。


「けど、おっちゃん。いくら金出してくれるっても、タダ働きは嫌だぜ」


「当然だ。それでお前らの性格を考えて、先渡しでこいつを持ってきたんだが」


 ゲーニカが取り出したのはスキットルと呼ばれる金属のボトルだ。


「これって中身はなんなんだ」


「私達が喜ぶものってことはあの店の調味料とか?」


「いや、こいつの中身は酒だ」


「「「「酒?」」」」


 そのボトルの中身の正体に首をかしげる五人(・・)


「ああ、実はこの酒、あそこでは決して飲まないって約束で常連だけに出してくれる一品なんだが、料理にも使えるって話でな。肉を焼く前に揉み込んだり、焼いてる途中にぶっかけるとうまくなるって話だ」


 したり顔で聞いた話をそのまま口にするゲーニカ。

 ただ、そのすぐ後に小声で「ま、俺は勿体なくて使ってないから、それがどれ程のものかはわからないんだがな」と酒飲みらしい言葉が続くのだが、

 その時にはもう赤い薔薇の面々の視線は肉に風味を付けるという酒が入ったスキットルに釘付けで、


「それで私達はどうすればいいのです」


「とりあえず、金貨一枚で一番安い青いカードを買えるだけ買ってきてくれるか、性能は劣るが数は揃えられるからな」


「成程――」


「それでそのカードは金貨一枚でどのくらい買えるものなのですか?」


「まとめ買いで三十枚といったところだ」


「その程度なら荷物にもならないわね」


 何事にも優先事項というものがある。

 事実、ゲーニカも最優先なのは調味料の確保であって、このカードの仕入れにそこまで力を入れられないといった事情があるのだ。


 まあ、相手が貴族で、高級なカードと言うのなら、また話は変わってくるのだが、いまのところはそういった依頼は無く、こうしてゲーニカが有望な人物に声をかけているという事情があるのだが……。


「わかりました。お引き受けしましょう」


「おっ、ありがてぇ。

 ちなみに買ってきたカードはギルドに渡しておいてくれ。

 ああ、探索者ギルドの方のな」


「このカードはギルドをあげて集めているのですか?」


「それだけ有用ってことだよ。

 あと、ものが精霊にまつわるものだからな。わかるだろ」


 実は以前、この迷宮都市においても精霊に見捨てられた人間が既に出ていた。

 そして、伝えられる後の影響を合わせて考えると、その取り扱いには迷宮都市の最大ギルドも気を使わなければならず。


「それよりもおっちゃん。仕事は受けんだから、早くその酒をくれよ」


「ああ、引き受けてくれたんならこいつはお前らのもんだ」


 そう言って、ゲーニカがテーブルの上に置くのはポーションなどを入れる小瓶に入った琥珀色の液体。


「って、くれるのそっちじゃないのかよ」


「あったりまえだ。この酒はかなり人気があんだよ。これでも妥協したほうなんだぞ。

 というか、お前らなら向こうで使っちまえばいくらでも買い足せるだろ。料理に使うなら向こうでも使えるからな」


「そうなんですか?」


「ああ、あっちで飲んで酔っぱらいうってのがダメってだけだからな。料理で酒精を飛ばすならエレインだって見逃してくれるって」


 そんなアヴァロン=エラにおけるアルコールのルールを聞いた赤い薔薇の面々は『これならいろいろ試せそうだ』と口元をほころばせ。


「喜んでくれてなによりだ。じゃ、こいつで頼んだぜ」


「任せてください」


 ゲーニカはカード購入資金として必要な金貨を一枚渡したところで立ち上がり、「あっ」と思い出したように声を上げ。


「ちなみに、お前らがこのカードで精霊と契約するならあっちでやった方がいいぞ。普通じゃない精霊が相棒になる可能性もあるからな」


「普通じゃないって、どういうことです?」


 ここで再びいい食いつきをするのはニグレット。

 ゲーニカはそんなニグレットの勢いに、そのガッシリとした体を仰け反らせながらも。


「ふつう精霊ってのは火や水、風みたいに基本的に使われる魔法と同じ属性のヤツだろ。

 だが、あっちで契約した精霊には――、俺の相棒もある意味じゃそうだが、吟遊詩人みたいなやつやら、魔導書そのものって感じの精霊やら、契約者に合わせて変わった相棒が選ばれることが多いんだ。

 ってことはだ。お前らなら料理人のような精霊も手に入るんじないのかって思ってな」


「おおっ、そりゃいいな」


 と、そんなロッティを始めとする赤い薔薇の面々の反応を見て、満足そうに口角を上げたゲーニカはひらひらと手を振りつつ出口へ向かって歩き出しながら。


「ま、ともかく気をつけて行って来いや、じゃあな」


「ありがとうございます」

◆赤い薔薇メンバーの設定(作者備忘録※)


 クライ……冒険者には珍しい全身鎧装備の大盾使い。

 盾内臓の片手剣をメインに火の魔法で補助も務める男爵家三女。


 ロッティ……大鉈使いの女戦士(アマゾネス)

 防具は皮や鱗を使った軽いものを好む。ちなみに大鉈は有名死にゲーのアレをイメージ。


 セウス……オールラウンダーな軽戦士。

 ショートソードを主軸に、状況に応じて風の魔法や各種マジックアイテム(魔法銃など)を使う小器用なバトルスタイル。


 ポンデ……仕事人の斥候。

 基本はナイフ二刀流で時に投擲武器としても使うスタイル。

 土の魔法に敵性があり、罠などに利用する。


 ニグレット……水属性の魔法を得意とする魔法使い。

 攻撃・防御・回復と幅広く魔法を使う。

 かつて魔法学校に通った過去があり、基本的な魔法はどの属性でも大抵扱うことが出来る。


◆ちなみに、万屋で限定的にもお酒の販売がされているのは、主にロベルトのうっかりが原因だったりします。


◆次回投稿は水曜日の予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 白に続いて赤だとワインみたいですね。 この感じだと二つのパーティーが顔合わせするのかな・・・ とにかく続きが気になる感じですね。
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